小要塞での実施テストは道中でARCUSⅡの機能についての詳しい内容、各々の武装による連携、放たれた魔獣に対する対処方法。一通りのものはこなしながら順当に進んでいった。
「クラウ=ソラスッ!吸引フィールド展開!」
アルティナの戦術殻によって発生させられた特殊なフィールドに、多数の魔獣が引き寄せられる。
「そこっ!!ガンナーモード!」
それを逃さずユウナの連続射撃で、まとめてダメージを与えていく。仕上げに待つのは――。
「もらったっ!はあぁぁぁぁっ!!」
クルトの双剣による薙ぎ払い。充分な鋭さを持つ斬擊を受けた魔獣の群れは、ろくな抵抗もできないまま、その存在を消失させる。
「みんな、いい練度だな。この程度では相手にならないか。」
素直に賞賛を送る。俺がしたことは戦闘開始時のちょっとした指示と、隙ができた際にこっそりサポートしたくらい。
「ふふんっ!まぁこんなもんですよ!」
「思っていたほど、強い魔獣もいないようです。この程度でしたら問題ありませんね。」
ユウナもクルトも俺の言葉に気を良くしている。先ほどティータから半ばまで来ているとアナウンスもあり、この先も進める手応えを掴んでいる様子だ。
「……ふむ。」
唯一アルティナだけは何か納得のいかない感じだが、それに対する答えを見つけられないのか、考え込む姿勢をとり続けている。
俺は既にこの先にいる大型の魔獣の存在に気付いているが、その事は告げずに先を進むように促す。
「頼もしいことだ。博士といえども君達の戦力を把握しきれていなかったようだな。まぁ危険が少ないにこしたことはない。このまま先へ進もう。」
大型の魔獣も含めた気配から、戦術リンクを使えば苦戦する可能性があるのは次の大型だけだろう。そこでは流石にもう少し戦闘に参加する必要がありそうだ。
突如現れた大型魔獣の存在に警戒心を強めた生徒達だったが、これまでの連携やARCUSⅡの機能を使えば、決して倒せない敵でないことを説明し、戦闘を開始する。
植物性の個体は複数の触手を鞭のように操り、近接武器による攻撃を防いでいく。その防御は一見強固であるが、複数のパターンで綻びが生まれるのが確認できた。
ユウナもガンナーモードを使って牽制を入れているが、それでは突破力が足らない。近接武器での大ダメージがなければ、この手の魔獣には時間がかかる。
「くっ!?間合いが掴みにくいっ……!」
クルトはまだ防御を突破する隙を見いだせておらず、回避に集中するようになっている。
まぁ、今はこんなところか……。
「緋空斬!」
複数の触手が前衛であるクルトに襲いかかろうとしたタイミングで、それらを弾き返すように衝撃波を放つ。それにより行動を妨害された相手が体勢を崩したことで、こちらに追撃のチャンスが生まれる。
「アルティナッ!」
「……ッ。追撃しますっ!!」
戦術リンクによって俺の攻撃を予見できていた彼女は、こちらの期待通りすでに距離を詰めており、大きな隙を晒している敵へ戦術殻での重い一撃を加えた。
「魔獣の防御が崩れたっ!!みんなっ!この機を逃すなっ!!」
先ほどの一撃でダウンした敵は、その防御性能が完全に停止させており、これまで行えていなかった近接武器でのダメージを与える絶好の機会となっている。
「…っ!言われなくてもっ!!」
「行くわよっ!ストライカーッ!!」
「クラウ=ソラス、ザンバーモード起動……。」
これまでの鬱憤を晴らすかのように攻撃を加えていく。足りていなかった攻撃が届いたことで、魔獣はその体力を大きく減らし、遂には全く動かなくなる。
「……ふぅ。」
「た、倒せた…。」
それを見たことで警戒を解いてしまったのか、武器を納め背後のこちらへと振り向く二人であったが――。
「警戒を緩めるなっ!!」
その瞬間、魔獣は意識を覚まし無防備な二人に向けて触手を振りかざす。
「……え?」
「しまっ……!?」
「クラウ=ソラスッ!!」
とっさに振り向く二人だったが、既にその身は迎撃できる状態ではない。アルティナの命令でクラウ=ソラスが二人の前に防御フィールドを展開させることで、なんとか最悪の事態は防げたようだ。
「リィン教官っ!」
ならば、後は俺の仕事だ。葉が落ちる一瞬に無数の斬擊を加え、納刀と同時に生まれる衝撃波が敵をさらに斬り刻む、七の型奥義の一。
「――七の太刀、刻葉!!」
最後の力を振り絞った攻撃を防がれた魔獣が、その攻撃に耐えきれるはずもなく、衝撃波が止むと同時にその姿も消失する。その一部始終を見つめていた二人からは、先ほどまで浮かべていた余裕の表情が無くなっていた。
「――敵性反応の消失を確認。」
アルティナの発言によって警戒を解く。自身でも気配を感じないことは確認できていたが、体勢が整っている状況での彼女の探査能力は高い。二人で確認できたならば間違いはないだろう。
「お疲れ様だ。アルティナは最後よく反応してくれた。クルトとユウナは警戒を緩めてしまったのは失態だったな。」
教官として言うべきことは言わなくてはならない。俺自身油断していた訳ではなかったが、少し手を抜きすぎていた自覚もあるので、あまり強くは言えないが……。
「……うっ…はい、すみませんでした。」
「無様な姿をお見せしました。恥ずべき失態です。」
二人とも自分のミスは自覚しているようなので、これ以上は言う必要もないだろう。
「いや、俺ももう少し戦闘に参加するべきだった。そういった判断の拙さは教官としてはやはりまだまだ未熟だ。」
こういったことは経験がものを言う。士官学院を卒業したばかりの俺ではサラ教官のようにはできないということだな。……見習ってはいけない部分が多い気もするが。
「だから君達にも見極めてほしい。俺という人間が教官として君達を導けるような存在なのかを。
このテストは俺の教官適正を見るためでもあるからな。俺に不安を感じるなら転科の許可も出ている。上からの指示だと言って無理に従う必要はないし、その事で君達が不利益を受けることがないことはここに誓おう。」
こちらの言葉を受けてそれぞれが真剣な表情で考え込んでいる。実際、全員に転科されてしまうと、分校長と博士によるブラック労働が始まってしまうので、なんとか残ってほしいのが本音だが。アルティナ、俺は君を信じているぞ。
『何をのんびりとしている――。このままでは基準値を下回る結果となるぞ。問題ないのなら、さっさと進むがいい。』
「――失礼しましたっ!すぐに移動します。
………さて、ちょっと長く話しすぎてしまったな。先に進もう。」
「了解しました。」
先に向けて歩き出す俺にそのまま付いてくるアルティナ。クルトとユウナはまだその場で立ち止まっている。
整理する時間もいるだろうし、歩くペースを落とすか。
博士はああいったが、ペース的には序盤がスムーズに行ったこともあって、そこまで酷い結果にはなっていないはずだし、そのくらいなら問題ないだろう。
「……助けられた…よね。」
「ああ、それにアルティナといったか。……彼女にもな。」
「あんな小さいのに…あの子、情報局にいたって。」
「戦闘経験では僕らとは比べ物にならない程度にはこなしているみたいだな……。」
それなりに自信はあった。手応えも感じた。だが、結果だけ見れば足を引っ張っただけ。
「……また…あの人に…」
「また?」
以前にも会ったことでもあるのだろうか。英雄として飛び回っていたらしいから、その事に不思議はないが。
先ほどの戦闘も彼は手を抜いていた。いや、正しくは僕達が戦いやすいように立ち回っていた、と言うべきか。最後に放った技なんてこれまでの戦いの動きではなかったし、途中何をしていたか、目で追うことすらできなかった。
「所詮は騎神頼みの英雄、と思った僕が未熟だったか…。」
認めよう。父や兄ほどではないとは言え、彼は自分よりも遥かに格上の剣士だ。
「ああ!もう!……とにかく、もうこれ以上の迷惑はかけられないわっ!」
「そうだな。それにアルティナにも負けたままではいられない。」
明らかに普通ではないクラスメート。訳のわからない機械人形を使うが、本人自身の戦闘力はそこまでではない。となると経験による差さえ埋められれば、負けない自信はある。
「そうね!……まぁ教官も俺を見極めろー、とか偉そうに言ってたし、こんなとこで立ち止まっている場合じゃないわ!!…行こう、クルト君!」
「ああっ……!!」
そうだ、まだテストは続いている。差を少しでも埋めていくためにも、戦闘できる機会は多い方がいい。なら早く追い付かなくては!!
ペースを落として進んでいると、少ししてから二人が小走りで合流してきた。その顔に不安の色はない。いい感じで気持ちを切り替えられたみたいだ。
それ以降魔獣との戦闘でもこれまで通り…いや、それ以上の集中力を見せる二人。それに負けじとアルティナも積極的に動く。連携もとれており、正直俺は要らないくらいだ。
「……と、思った矢先にこれか。」
ユウナが突出してしまい、敵に囲まれそうになるのを事前に防ぐように薙ぎ払う。既にクルトがフォローに向かってきているから、挟み撃ちの形に持っていけるだろう。
「……っ!すみません!」
「気にするな。だが、少し力が入りすぎている。君の実力ならそう難しい相手じゃないし、そう気負いすぎるな。」
「はいっ!!」
なんだか棘が取れたような気もするが、戦闘中だからかな。クルトとも折り合いがついたのか前半よりもスムーズに連携がとれている。クルトもより自然に動けているようだし、それぞれの役割みたいなものも見えてくる。
近距離のスペシャリストとしてクルト。ヴァンダール流は剛剣術による一撃の重さというイメージだが、彼の双剣術は手数で押していくタイプ。相手の攻撃は受け止めるのではなく回避することで、攻撃機会を増やすこともできている。ただ、手数にこだわるが故に一撃が軽いのが課題か。
ユウナは武装の切り替えによる制圧型。中距離から牽制をかけ、隙を見て近距離の打撃で相手を無力化する。突破力に劣るのがネックだが、そこはこれから考えていけばいい。
アルティナに関しては言うまでもなく、クラウ=ソラスが反則級に万能なため、近中遠どこでも対応できるだろう。本人自体はアーツの適正が高く、また、体力面に不安があるため、基本は遠距離での立ち回りが求められそうだ。
いいチームだな。スリーマンセルとなっても問題なく動けるだろう。流石にまだ許可は出せないが、将来的にそうなれるだけの可能性は秘めている。
『みなさん、お疲れさまでした!後はその先にある広場から地上に出られます!』
魔獣を倒しつつ進んでいると、ティータからアナウンスが入る。視界にも見える階段の先に扉があり、そこから光が漏れていた。あれが今回のテストのゴールなのだろう。
「はぁぁぁ、やっと終わりね…。」
「ああ、こんな施設をよく作ったと思うが、いい鍛練になったと思えば、悪くない。」
「少し、疲れました…。」
三人がそれぞれ感想を口に出しているが、あの博士が、こんなすんなりと終わらせてくれるだろうか。嫌な予感しかしない。
『……え?これって……!?みなさんっ!逃げてくださいっ!!』
慌てた様子のティータによる注意が飛ぶと、広場中央に内戦で経験した覚えのある気配が強くなる。
「総員、戦闘体勢っ!!」
俺の号令に慌てて三人は武装を展開する。
「これは……霊子反応増大!」
「え……?」
「それは……一体?」
何もないはずの空間から、突如現れた機甲兵に似た巨大な物体。
「これって、機甲兵っ!?」
「いや……それにしては作りが違うような…。」
武器を構えながら、現れたそれを推測する二人。正体を知るこちらとしては信じられない気持ちが強い。
「《魔煌兵》。暗黒時代に作られたと言われる魔導ゴーレムだ!――博士!?これも貴方が!?」
『ああ、そうだ。内戦の折にサンプルとして手に入れた。単体としての強度に不満はあるが、自律行動が可能であるのは悪くない。
――これを撃破することで此度のⅦ組のテストは終了とする。』
何てことを考えるんだ、あの人はっ!!新入生を試すにしても、このレベルの敵を相手にさせるなど判断基準がおかしすぎる!
なら、こちらも遠慮なく使わせてもらうぞ。
「来い。灰の騎神――!」
『騎神の使用は認めない――。このレベルの相手に騎神の介入は想定していない。それではテストにならぬだろう?』
「なっ!?」
こちらがそう動くことを読んでいたように、先んじてヴァリマールの使用を制限してくる。
『無事に切り抜けたければ、貴様の《切り札》を使うか、ARCUSⅡの新機能を使うのだな。』
言うべきことは言ったとばかりに、アナウンスは切られる。ARCUSⅡの新機能、《ブレイブオーダー》は強力な一手だが、ぶっつけで試すには相手が悪い。――ならば、ここは。
「教官!何か手があるなら指示してくださいっ!!」
「確かに尋常ならざる相手のようですが、自分も手を尽くしますっ!」
諦めたくないという思いを込めて、こちらからの指示を待つ姿勢を見せる二人。アルティナも同意見なのか、声には出さずともこちらを見つめている。
「っ……はは、そうか。そうだな。俺一人で切り抜けても意味はない……か。」
老師との試しで得た境地だというのに、いざという時は昔からの悪癖たる思考が横切ってしまう。こうして生徒に気付かされるようじゃ、やっぱり、俺には皆伝は早かったですよ、老師。
「ARCUSⅡの《ブレイブオーダー》を使って、目標を撃破する!Ⅶ組総員、戦闘準備!」
「「「了解!!」」」
さぁ、ここで一つ壁を乗り越えるとしよう。