閃剣へ至る英雄   作:エアリック

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第Ⅱ分校ブラック過ぎる問題。
本校?教官陣は優秀だよね。


9話

 分校長との模擬戦が始まり、既に剣を合わせること数合。その得物である大剣の見た目通り、一撃一撃が重い。太刀という武器自体も頑強な作りであるとは言い難く、このままでは押しきられるだけで終わることは目に見えている。

「フフ、八葉一刀流とはそこまで剛剣といった印象はないが、なかなかに重い。だが、それだけで終わるような事はあるまいな」

 俺も分校長も戦技としての技はまだ見せていない。このまま終わってくれれば良いが、それをやったが最後、分校長は俺に失望するだろう。

 何より剣士として至高とも言える存在に対して、そんなことをするのは俺自身が剣士として認められない。

「──ええ、これからが本番です」

 上段に太刀を構え、振り下ろす体勢を作る。型の中でも最も威力がある参の型《轟雷》。学生の時は炎を纏った《業炎撃》として使っていたが、今回は直接打ち込むことが目的ではない。

「裂空閃・(つらなり)っ!!」

 その場で袈裟斬りに振り下ろした勢いを殺さず、逆方向から切り上げる。その軌道から生まれた二つの衝撃波が分校長に襲いかかるが──。

「──覇王斬っ!」

 同様に分校長も肩口から振り下ろした刃で衝撃波を発生させる。互いにぶつかり合ったそれらは空中で霧散してしまう。だが、そんなことは百も承知だ。元から当たるなど思ってない。これから行う高速移動での接近を少しでも誤魔化す為の一手だ。

「弐の型──疾風」

「──むっ!?」

 突如現れた俺からの斬撃は多少の動揺を残しつつも、あっさり避けられてしまう。本気の速度だったのだが、やはり俺では限界があるか。

「中々の速さだ。ならば今度はこちらから行くぞっ!」

 言い終わるとほぼ同時に飛び上がり、逆手に持った宝剣へ力が収束していく。あれは……アーツ属性の斬撃かっ!? 

「はあぁぁぁぁっ! 四耀剣っ!!」

 空中から地面に突き立てられた宝剣を中心に衝撃波が伝わっていく。その名の通り、四つの属性を伴ったそれらは、どれを喰らっても異常をきたしそうな気配がする。……というよりアーツ属性の技まで持っているのか、この人は。

 強化した脚力にものを言わせて技の範囲外へと距離を取れたため、ダメージは無い。技の硬直を狙ってすぐさまこちらから仕掛ける。

「無焔閃っ!」

「甘いなっ!!」

 今の俺が出せる疾風よりも速い刺突での突進技。それも見極められ宝剣の腹で受け止められてしまう。これでもダメか……。

 互いが近づいたことにより再び剣の応酬が行われるが、どうしても力で劣るため手数に頼る形になってしまう。一撃でこちらの防御を抜こうとして来る攻撃を、流すか避けることで反撃の機を作り出し剣を振るう。それでもなお、届かない。

 一度距離を取り立て直すしかないっ……。振るわれた宝剣の軌道に太刀を合わせ、敢えて大きく吹き飛ばされる。それを見た分校長も追撃してくることはなかった。

「フフ、周りも騒がしくなってきた。楽しい時間ではあるが……次で終いとするとしようか、シュバルツァー」

「……ええ、望む所です」

 息が荒くなっている俺と、まだまだ余裕な分校長。誰が見ても優勢なのは明らかだ。この後ブリーフィングもあることだし、これ以上消耗する訳にもいかない。それは分校長もわかっているため、次で終わりとしてくれるのだ。

 つまり、大技同士の打ち合い。

「耐えて見せるが良い──王技・剣乱舞踏!」

「無念無想──。絶技・刻閃刃っ!!」

 

 互いが持つ最大威力の技。それがぶつかり合った余波は、ギャラリーとなった者達へも及ぶ。

「……わわっ!?」

「ははぁ……いいねぇ……ゾクゾクしやがる」

「オルランド……自重してくれよ」

「フン、難易度を見直す必要があるか」

 教官陣は流石の落ち着き? を見せる一方、生徒達は──。

「ええええぇぇぇ!?」

「リィン教官でも届かない。……あれが《黄金の羅刹》……」

「一個人の戦闘力で済ませていいものではないかと」

「ハン、英雄様は伊達じゃねぇってか?」

「……うふふ、本当に魅力的ですね」

「……シュライデンとして、あれくらいの高みを目指さなくては……!」

「いやぁ〜、ゼシカちゃん。あれは目指すものじゃない気がする〜」

「すごい、アガットさんやお姉ちゃん達みたい……」

「いやいや、あんなのと同レベルの知り合いがいる貴女もおかしいわよ」

 Ⅶ組であるユウナ達は訓練とは違う、教官の本気の実力を改めて実感し、それすら超える分校長に一種の恐怖を覚える。

 それ以外の生徒はそれぞれで反応は違うものの、教官や分校長の実力を思い知ることとなった。

 対峙していた二人はというと、宝剣を地面に突き刺し腕を組んでいる分校長。膝をつき太刀を支えにしているリィン。対照的な二人の姿が、その結果を物語っていた。

 

 呼吸が荒れる。身体に力が入らない。太刀が無ければそのまま倒れ込むと他人事のように理解できる。

「……ぜぇっ、ぜぇっ。……ありがとう、ございました」

「フフフ、惜しかったな?」

 嫌味ではない。そんなことをする人ではないと承知している。だが、惜しいと言われることに納得は出来なかった。やっと落ち着いてきた呼吸を整え、何とか力を振り絞って立ち上がる。

「いえ、全然ですよ。……まだまだ及ばないことが多すぎます」

「いい経験になったのなら何よりだ。こちらとしても八葉の技には気付かされる事もあった」

 そう話す分校長の表情には、満足げな笑みが浮かんでいる。さらに高みを目指す貪欲な姿勢に気圧されるが、これくらいでないと二大流派の皆伝など得られないかもしれないな。

「こちらも《羅刹》の剣技、学ばせていただきました。まぁ、頻繁には勘弁していただきたいですが……」

「そう言うな。私とて良き稽古相手を探すのにはそれなりに苦労する。近くにそなたという存在がいるのに、その機会を逃す意味はあるまい?」

 勝手すぎる。が、俺にもメリットが無いわけではないのも事実。このレベルの剣士に稽古相手が必要なのかは疑問だが、ある程度であるなら受けるべきなのかもな。……自由な振る舞いも鳴りを潜めてくれるかもしれないし。

「はぁ……、わかりました。お相手を務めるには未熟ですが、月一程度であれば受けさせていただきます」

「結構。フフ、八葉の剣聖と定期的に仕合えるなど聞いたら、師やウォレスなどが羨ましがるかもしれぬな。最初から知っていたなら、この分校長という役割に希望者が殺到したであろう」

 大袈裟な。分校長が例に挙げた方々など、俺とは比べ物になら無い程の歴戦の戦士達だ。確かに帝国では珍しい八葉一刀流ということは興味を持たれやすいかもしれないが、それだけで各々の役目を放棄して分校に赴任するなど考えにくい。

「さて、ここまで観客が増えてしまった以上、収集はつけねばなるまい。そなたは疲労もあるだろうし、ここは私に任せてもらおう」

「……え?」

 待ってください。激しく不安なので、ミハイル主任を労るくらいで大丈夫です。そんな思考が浮かんだが、声に出す前に分校長は歩き出してしまう。ダメージが抜けきっていないせいで、追いかけられない。

 ギャラリーとなっていた生徒や教官陣も分校長に向かってくる分校長に気づいたのか、その発言を待つために待機してしまった。それを確認して、分校長は一つ頷き声をあげる。

「まず騒がせたことについて謝罪しよう。折角の自由行動日にすまなかったな」

 予想外の謝罪に、シュミット博士以外の全員が呆けている。謝罪しただけでその反応は……仕方ないか。だが、油断してはならない。この人がこのまま話を終わらせるわけなど有り得ないからだ。

「ご存じの通り、シュバルツァーは学院を卒業したばかり。つい先月までは諸君と同じ学生という立場であった」

「「「……?」」」

 話の意図が掴めないと困惑する生徒達。それに構わず話は続く。

「本人の天稟もあろう。英雄としての立場があやつを成長させたのも否定はせぬ。

 だが、なによりもあやつを伸ばしたのは《戦場》だ。学生には本来得られぬような経験が、否応なしに本人を成長させた。

 そして……奇しくもこの分校はそれに劣らないものを諸君にもたらすだろう。日頃から研鑽を怠らず、学生としての青春も存分に謳歌するがいい」

 ……最悪だ。俺は内戦に大きく関わった人間として知られている。つまり、分校長はそれに劣らない経験をすることになると宣言したに等しい。それを察してしまえた生徒は震えている者もいる。

 ミハイル主任の顔色が青を通り越して白くなっている様に見えた。ただでさえ入学時に"捨石"と宣言したことに対して焦っていたのに、今回のこれでは、来週末の特別演習に支障をきたしかねない。

「分校長っ!!」

「おや、アーヴィング。そなたも来ていたのか。なに、いずれ知ることになるなら今知ったところで問題はあるまい?」

 気付いていたくせに惚けるとは……だが、それよりも生徒達へのフォローが必要だ。さっきまでの休日を楽しむといった雰囲気は消えてしまっている。

「トワ先輩、ランドルフ教官。一旦生徒達を離れさせましょう。……ミハイル主任、構いませんよね?」

「…………うん。みんな、食堂で飲み物でもどうかな!? 私奢っちゃうよ!」

「ああ。……ほれ、行くぞお前ら」

「……すまんが、よろしく頼む」

 

 食堂に生徒を集めたのはいいが、その雰囲気は重く沈んでいる。レオノーラやアッシュといった気が強い面々はさして堪えてないようだが、それも一部でしかない。

「おらっ! シャキッとしろ! 分校長が言ったことは、半分脅しみてぇなもんだ。……だからあんま気にすんな」

 ランドルフ教官が声を張り上げて喝を入れる。それによって多少は空気が和らぐが、やはり簡単には切り替えられない。それは俺の近くに座っているⅦ組メンバーも同様だった。

「ランドルフ教官の言う通りだ。そもそも内戦は終わったんだし、あんなことは滅多に起こらないさ」

 明らかにきな臭いのだが、そんな事は言う必要は無い。俺が言うのもおかしいが、学生があそこまで介入したことが異常だ。

「そ、そうだよっ! だからみんなは安心して学生生活を送ってほしいなっ! それに、そんなことから守るために私達はいるんだからっ!」

 トワ先輩もここぞとアピールする。むんっと両手の拳を握ってる姿は本人の外見も相まって微笑ましい。

「いやぁ、トワちゃんは守られる方だろうよ」

「先輩は計画、立案までなら頼もしいですよ」

 ランドルフ教官が見た目の意味でからかう様に言うので、同様に軽い口調でフォローする。

「ランディさん!? リィン君まで!?」

 あわあわとしている先輩を見て、生徒達からも笑い声などが漏れてくる。アンゼリカさんが溺愛しているのも理解できてしまう光景だが、ここは生徒達の為にも犠牲になっていただこう。

「ふふっ、確かにトワ教官から守るって言われても、少し不安になりますね。もちろん、戦闘力という意味で、ですが」

「そうだねぇ……。年上には見えないくらい可愛らしいお人だよ。どう見ても庇護対象だねぇ」

 戦術科の生徒からも弄られ始めると──。

「いやいや〜、戦略的にはとっても頼りになると思いますよ〜? あ、でもでも〜。私達より前には出ないで下さいね〜」

「悪いとは思うんやけど、まだウチらの方が戦えそうやな」

 受け持ちの主計科からもフォローはされているようで、弄られてしまう。

「なんでかなっ!? わ、わたしだって内戦経験者だし、戦えるんだよ!?」

 わちゃわちゃし始めた辺りでランドルフ教官と目が合う。互いに頷いたことで、取りあえず生徒達へのフォローは一旦完了としていいだろう。

「よーし、お前ら。トワちゃんを弄るのはそこまでだ。授業内容がスパルタになっちまうぞ」

「ああ、その辺にしておかないと保護者から怒りの鉄拳が飛んでくるかもしれない」

 俺達の言葉に、ざわついていた場が静まる。そんなことしないと、むすっとしてる先輩には後で謝ろう。そろそろブリーフィングの時間だ。

「俺達はこれから来週末の特別演習のブリーフィングがあるが、それがどんな内容であっても、ミハイル主任を始めとした俺達教官陣は、君達の安全を第一に考えて予定を立てる。だから君達は、君達が今出来ることに集中してくれ。……部活動が決まらないと、あの分校長の小間使いだぞ?」

 それだけはごめんだと、集まった生徒達は一斉に動き始める。ここまで効果覿面だといっそ笑ってしまう。だが、食堂に来たときのような悲壮感は見られない。

「……守らなければなりませんね」

 それを見ていた俺がそう呟くと、トワ先輩もランドルフ教官も頷いてくれた。

「うん。特別演習は厳しいものになると思う。けど、私達がそれをどうにか抑えられる余地はあるはずだよ」

「ああ。ミハイルの旦那もわざわざ死地に送るような真似はしねぇはずだ」

 戦略会議室へ足を向けながら、来週末に行われる特別演習について話し合う。入学したばかりの生徒達だ。政府もそこまで無茶は言えないだろう。なら、そこからは俺達次第だ。

 しかし、数分後に行われたブリーフィングによって俺達は思い知ることになる。第Ⅱ分校が背負わされた"捨石"という役割の重さを。

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