「確か、家で寝てたはずなんですが、どこなんですか?ここは?」
ヨレヨレの背広を着た無精ひげを生やした中肉中背のアラフォーのオッサンが真っ白な空間で訳がわからないという様子で立っていた。
確かにオッサンは自宅のアパートで寝ていた。
ただし、独り暮らしのオッサンは日頃の不摂生がたたり、睡眠中に心臓が止まっただけである。
「訳がわからんな?もしかして、夢か?」
「違いますよ。貴方は死にました」
「へっ、て、うぁ~~~~~~~~~~~~~~!」
突然、後ろから声をかけられたオッサンは悲鳴をあげるながら後ろへ振り返った。
するとそこには優しげな笑みを浮かべた青年が立っていた。
「すまない、驚かせてしまったようだね」
「あ、あんた、何もんだ?ちょっとまて、死んだってどういう事だ!」
「落ち着きなさい、椅子に座って話をしましょう」
「はぁ~?い、椅子なんてどこのもないだろう!て、なんで椅子があるんだ!」
オッサンが青年に言われ、辺りを見回すと隣に椅子が現れていた。
そして、何もなかったはずの青年の横にも椅子が現れていた。
椅子に青年が座るとオッサンも恐る恐る椅子に座った。
もっとも、オッサンは落ち着きなく、辺りをキョロキョロ見回していたが。
「私自身は貴方に直接危害を加える事は考えていません。それどころか新しい人生を送れるように別の世界に転生してもらおうと考えています」
その言葉に更にオッサンの警戒心は上昇する。
オッサンも伊達に人生の荒波に揉まれていない。
旨い話には裏があるのが常識だとオッサンは常々考えていた。
だいたい、オッサンは自身が死んだなど思っていなかった。
「ヤレヤレ信じていただけないようですね。ですが、貴方が死んだことは事実です。ですが、信じていただけないのは仕方ありません。ならば、夢の中の話だと思い気楽に考えて下さい」
青年にそのように言われるとオッサンは自分の生存に自信が持てなくなった。
「本当に気楽に考えて下さい。悪い話ではないのですから」
そう言って人畜無害の笑顔を青年はオッサンにむけた。
オッサンは顔に出さないように気をつけながら警戒心を高めた。
オッサンの人生の中でこのような人畜無害を装った人間に騙されてひどい目に遭ったことが両手では数えることが出来ないほどあったからだ。
もっとも、如何に警戒しても最終的には騙されてしまうのが、このオッサンの悲しい習性だったが。
青年はオッサンの様子を見て如何にして
青年は人間の立場から見れば、神と言われる存在だ。
もっとも、世界に不都合な事態が起きないように世界環境を整える事しか出来ない管理職でしかないのが。
そんな青年にもささやかな楽しみがあった。
それが輪廻の輪から弾き出された魂に能力を与え、別の世界に転生させろ事だ。
管理者として如何なものかと思われるが、元々、輪廻の輪から弾き出された魂は元の輪廻の輪に戻すことは出来ず、未来というモノは無数にあり、全体から見れば誤差にもならないからだ。
そのために、青年が自由に干渉する事が出来る数少ない存在になる。
もっとも、本人の同意が必要になるのだが、青年が今まで唆していた者達は全てニートの引きこもりか、夢見がちな思春期の者達ばかりだった。
結果的に転生出来ると聞いただけで喜んで転生して逝った。
思った通りの人生が送れるとは限らないのにこんなはずではなかったと右往左往する転生者達の姿は大いに青年を愉しませたが、オッサンのように疑いを持たれたことは初めてだった。
どうしたものかとオッサンの人生を閲覧しながら
青年が突破口はここだと思い話しかけようと口を開けようとする前にオッサンが声をかけた。
「仮に死んでいたとしてなんで転生させようとしてるんだ、アンタは」
「簡単に言ってしまえば輪廻の輪から弾き出されてしまった、貴方を別の輪廻の輪に入れることが私の仕事だからです」
「弾き出されたて、よくあるのかそんなことが?」
「輪廻の輪から魂が弾き出されることは頻繁に起きることではありませんが、稀に起きてしまいます。その際、同じ輪廻の輪には戻すことが出来ないので別の世界に転生して頂いているだけなので深い意味はありません」
「それなら勝手に転生させればいいだろう」
「こちらが迷惑をかけてしまったのに説明もせずに転生させるなど私の良心が痛みます」
「迷惑も何もミスをしたわけでもないんだから気にしなくてもいいだろう?」
今まで転生させてきた者達にはなかった指摘に内心冷や汗を流しながら青年は切り返した。
「その様な失礼なことはできません。このよう事態になり説明を怠るなど私にはできません。私にとって最低限度の誠意なのですから」
オッサンはそんなものかと納得したことにより青年は胸を撫で下ろす。
「ところで説明することが最低限度の誠意なら何か他にも優遇してくれるのか?」
どのように話を転生得点に持っていこうかと思案していた青年にとって願ってもない言葉に内心小躍りしながら、その様なことを微塵も感じさせない爽やかな笑顔をオッサンに向けながら応えた。
「迷惑をかけたのですから優遇処置として特別な能力をつけさせて頂きます」
青年に特別な能力をつけてもらえると聞いた瞬間、オッサンの顔が歪んだ。
「いや、特別な能力なんて要らないからとっとと転生させろ」
この応えに青年は焦りを感じた。
それでは数少ない直接干渉する機会が失われてしまうと。
「それではこちらも心苦しい。なぜ要らないのでしょうか?」
「はっきりと言わせてもらうが、特別な能力なんて厄介な事を呼びかねん。別に刺激的な人生を求めていない普通が一番だ」
「確かに同じような世界ならそれも良いのですが、治安が良い世界に転生出来ると保証できません。保険として持っていかれたらどうでしょうか?」
そのように青年に言われ、オッサンは考えた。
確かに安全神話が壊れたと言っても日本の治安の良さは世界有数だった。
そんな日本で暮らし、外国へ行った事のないオッサンには治安が良い事が当たり前になっていたためか、転生した世界の治安が悪いかもしれないなど想像することさえ出来なかった。
安全を考慮すれば、何らかの能力を得る必要があるのかもしれないが、娯楽で楽しんでいた様々な映像作品、書物から貰った能力により安全が逆に脅かされる可能性もあると考えに至ったオッサンは額にしわを作り悩んでいた。
「何かお悩みになられているようですが、何をお悩みになられているのですか?話していただければ、配慮いたします」
その言葉で能力を貰う最低限度の条件としてオッサンは能力を完全にコントロールする事が出来る事にした。
どんなに強力な力でも暴走しかねない力など害悪でしかないとオッサンは考えたたからだ。
「能力を貰うかどうかはその能力を完全にコントロールする事が出来るか、出来ないかで決めたい」
青年はここで思考力をフル回転させ始めた。
オッサンが能力を受け取る最低限度の条件として能力の完全なコントロールを条件としてきた為に今までの様に転生者が能力に振り回されて右往左往する光景を眺めること出来なくなる。
それでは青年は楽しくないが、今までの転生者とは違い如何にして此方の思うように思考を誘導する為のオッサンとの会話は新鮮な刺激となった。
だから、次に与える選択次第でオッサンの望み通りにしても良いかと青年は考えた。
「それでは能力を完全にコントロールする事が出来る様にする事が出来る能力の選択方法があるのですが、その方法で決定しても良いですか?」
「そんな方法があるのなら是非に」
もっとも、いつも詰めが甘いオッサンが正しい選択を選ぶ事が出来るはずもなく、青年に都合の良い選択を選んだ。
「言質は取ったぜ、オッサン!ちなみにクーリングオフは受け付けない事にしているからh返品不可だ!」
青年の笑顔がとてもイイ笑顔になり、不吉な言葉を投げかけられてオッサンはこの状況が不味いことに気がつき言葉を発しようとしたが口が全く開かなかった。
「安心しろ、能力がコントロール出来るようにしてやる!ただし!どんな能力か、選ぶことは出来ねえがな!」
そうオッサンに言い放ち、青年は指をパチンと鳴らすと何もない空間にデカイスロットマシンが現れた。
スロットマシンには6つリールがあり、それぞれのリールに名称が書かれていた。
オッサンには理解する事が出来ない名称もあったが、理解する事が出来る名称には明らかにコントロール出来るとしてもデメリットにしかならない能力であろう名称が書かれていた。
おかげでオッサンの顔は真っ青になり、声を出そうとしたが口が開くことはなく、それどころか金縛りにあった様に体のどの部分も動く事はなかった。
「無駄なことはやめろ。もう、オッサンは動く事も声をあげる事も出来ねぇ。大人しくスロットでいい能力が当たるのを祈れ」
ちなみにオッサンは自分の運が悪い事を知っているのでギャンブルをした事がない。
故にオッサンは顔を真っ赤にして怒っていた。
「一応、説明はしてやる。このスロットの1つ目が転生する世界の平行世界になる。ああ、安心していいぞ。未来は決まっていないからどう行動しても自由だ。もっとも、オッサンが行動しなくてもオッサンの知っている通りの未来にはならんがな」
その点はオッサンも納得した。
決められた人生など真っ平ごめんだった。
「そのあとの5つは転生特典になる。良かったな。スロットじゃあ納得なければ、2つしかなかったぞ。もっとも、当たり外れがあるがな」
オッサンは外れが能力なしであることをいのったが、当然の話だがそんな祈りは届かなかった。
「ああ、安心しろ、何らかの能力で有ることは確かだ。もっとも、外れは何らかの不利益があるかもしれんがな」
オッサンは心の中でフザケルナと叫んだ。
その様子に青年はニヤニヤしていた。
「どうした。そうか、嬉しくて声も出せんか。わかってる皆まで言うな。それじゃ、逝ってみようか」
オッサンは「テメェが喋らなくしてんだろうが!」という心の中で叫んでいたが、そんなオッサンには目もくれず、青年はスロットのレバーを握りしめた。
「さあ!オッサンの運命を決める!スロットを始めるぜ!スロットスタート!」
体を動かすことの出来ないオッサンは青年が言った様に祈ることしか出来ないので、必死に平穏な世界であることを祈った。
そんなオッサンの祈りは届く事はなく、命の軽い世界が当たってしまった。
止まったリールにはダイの大冒険という文字がデカデカと書かれていた。
オッサンにとっては最悪だった。
物語として楽しむのならいいが、オッサンは英雄願望など持ち合わせてなどいない。
「良かったな。英雄になれるかもしれないぞ」
オッサンの内心を知っている青年は心底楽しそうに言った。
そんな事を言っている青年を睨み付けるオッサンだったが、視線をスロットに戻すとリールが止まった。
「ロトの紋章の全アイテムか、中々いいのを引いたな」
オッサンはこの特典には安心したが、次の特典の意味が解らなかった。
モンスターマスターいうモノに心当たりが無かったからだ。
「クソ!何でハズレが出ないんだ!」
青年の様子にオッサンは安堵する事が出来た。
もっとも、オッサンにはどんな能力かわからないが。
「ハズレ出ろ!ハズレ出ろ!ハズレ出ろ!ハズレ出ろ!あっ、クソ!複合能力なんか出んな!」
思いっきり、悔しそうにしている青年を視界に納めながら、止まったリールに書かれていたケンオウと言う意味をオッサンは必死に考えていたが、情報が少なくどのような能力か思い浮かぶ事はなかった。
「今度こそハズレろ!ハズレろ!ハズレろ!!!!」
青年の鬼気迫る様子にオッサンは呆れと怒りを半々に感じながら、スロットに祈った。
オッサンは自分の不幸を願う青年を見て神は敵だと認識したからだ。
そんなオッサンの祈りがスロットに届いたのか、4つ目も悪い目ではなかった。
「本人の願望に沿った拠点だと!何でハズレねぇんだ!ふざけんな!!!!」
青年の嘆く様子にオッサンはざまぁみろと思いながら落ち着いた様子でスロットを見ていたオッサンだが、最後の目で遂にハズレを引いてしまった。
なんと最後の目は異魔神と書かれていた。
「良かったな、オッサン。強キャラだ」
そう、青年に言われたオッサンは理解する事が出来なかった。
いや、オッサンは理解することを拒んでいた。
もっとも、いくら拒んだとしても事実は変わることはないのだが・・・。
「もっとも、結婚は出来ないだろうがな」
その言葉に青い顔になったオッサンをとても楽しそうに青年は眺めていた。
「俺が干渉する事が出来るのは此処までだ。だから、安心しろ。これからの人生、幸あらんこと」
そう言って、指をパチンと鳴らすとまったく動くことなく固まっていたオッサンは床に開いた穴中に吸い込まれていった。
なんの反応もする事もなく落ちて行くオッサンに青年は多少気の毒に思いつつ、オッサンの最後の様子を思い出しながら青年はスキップしながらこの場を離れていった。
見て頂いてありがとうございました。