TS転生者はレセプターチルドレン   作:くらむちゃうだあ

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プロローグ

 ここ1ヶ月くらい仕事に忙殺されていて、ろくに寝ていない。その上、今日は上司にミスを押し付けられて、さらに1ヶ月はサービス残業に押しつぶされることが確定した。

 いくら若い独身男だからって、機械じゃないんだから動き続けるのは無理だ。私は既に精神的にかなりキテいたんだと思う。

 だからだろう……。ベタにトラックに轢かれちゃったのは。

 死の間際……私が考えたこと――。

 

 ――冷蔵庫の納豆、今日が賞味期限だった。

 

 

 そこから、私の意識はプツリと途切れた。

 

 私こと南條(なんじょう)シオンは短い生涯を終えたのである――。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 あれ? 「終えたのである」じゃなかったか。 ここは一体――?

 

 目覚めると私は水の中にいた。口に呼吸器を取付けられて。

 ほら、あの……SF映画とかでもよく見る治療用のカプセルみたいな。ああいう感じの装置の中に入れられていたんだ。

 

 へぇ、最近の病院は進んでるな。私はトラックにぶつかった瞬間に助からないと思ったが、最新鋭の設備のおかげで助かったみたい。

 

「目が覚めたみたいね……」

 

「――っ!?」

 

 私は思わず吹き出してしまう。

 なんだこの人。えっ? えっ……?

 

 ――目の前に金髪の女性が仁王立ちしている。なんと、全裸で……。

 

 ここ? 病院だよね? なんで痴女がここに!?

 

 つい先程まで死にかけていた私は混乱して、とにかくパニクる。

 ていうか、私も裸なんだよね。色々と見られたくないんだけど……。何気なく視線を下に向けると私はさらに驚愕した。

 

「――っ!!?」

 

 あ、あれ……? あれあれ〜〜? か、身体が縮んでる……。

 

 し、しかも……あるべきところにあれが無い。何ていうか、キノコのような、突起物というか、そういうやつがない。

 

 わ、私の愚息がどこかに飛んでいってしまった。二十余年間に渡って、共に生きた相棒が無くなってしまったのだ。

 

 ナニコレ? 交通事故に遭ったら、身体が縮んだ上に女性になるってどういう理屈だよ。

 

「心拍数が異常に上昇してるわね。覚醒状態になって興奮してるのかしら?」

 

 いやいや、「興奮してるのかしら?」じゃないから。金髪の巨乳の女が全裸で立ってて、しかも自分は子供みたいな大きさになって、その上……性別まで変わってるというトンチキな状況で冷静さを保ってたら、そいつは感情を捨ててるだろう。ていうか、情報が多い。

 

「ま、いっか。数値的には問題ないし。思った以上に上手く出来たみたい。私のスペアボディ♪」

 

 スペアボディ……? 機嫌よくそう呟いた女は機械を触って水を抜き……カプセルを開けた。

 とりあえず、この人にどういうことなのか聞かなきゃ。でも、話は通じるのか……こんな人に……。

 

「気分はどう?」

 

「いや、あなた誰ですか? どうして、私は小さな女性の身体になってしまってるのですか?」

 

「はぁ……?」

 

 私の開口一番の発言に彼女は眉をひそめ、首を傾げた。

 いやいや、「はぁ?」と言いたいのは私だよ。ていうか、私の声……この人にそっくりだな。どういうことだ……?

 

「何が起きてるか詳しく知る必要がありそうね」

 

 女はまじまじと私の顔を見つめながら、呟く。

 そして、私の手を物凄い力で引いて……変な装置がついた椅子に座らされた。

 

 ――どうでもいいけど、服を着させてくれ、そして服を着てくれ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「間違いない。あなた転生をしたのね」

 

 全裸の痴女もといフィーネさんとやらは、私が一度死んで魂が別の肉体に憑依した――つまり、転生という現象が起こったと断定した。

 

 転生って、そんな漫画じゃあるまいし。あり得ないだろう。

 

「あり得るわよ。私なんて、そうやって永遠に生きてるし。リィンカーネイションって言ってね――」

 

 そこからは、もはやSF世界の領域だった。

 フィーネとやらは、人間の遺伝子に刻印とやらを行って、死んでも他の肉体に永劫に輪廻転生出来るという。

 んなこと信じられるかって、思ったけど既に私の身に起きてることが信じられないからなー。

 

 フィーネ曰く、私の肉体は彼女のクローンなんだそうだ。色々と実験したり、いざという時に即座にリィンカーネイションを発動してスムーズに身体を交換するために創ったという。

 

 すげー、自己中じゃん。なんでも、この身体は魂を受け入れやすいように遺伝子をイジってるのだそうだ。

 

 だから、彷徨っていた私の魂の依代になったのでは……、と彼女は推測する。

 

「あのう。フィーネさんでしたっけ? そんな面倒なことをしてまで、長生きしたい理由って何ですか? 私には壮大すぎてとても理解が出来ないのですが……」

 

 この得体の知れない存在にビクビク怯えながら、私はこんなことをする理由を尋ねた。

 

 ――何故尋ねたかって? 興味本位に決まってるだろう。

 

 怖いもの見たさというか、何というか。

 基本的に私は他人と会話することが大好きなのである……。

 

「悪いけど、シオンちゃんにこれ以上は教えてあげられないの」

 

「へっ……?」

 

「その身体の廃棄を決定した。幼少期から育てて、私好みの身体にしてやろうと思ったが……こんな不純物が入った状態での実験なんてデータを取るだけ無駄だ。しかし、まぁ……いつか使えるようになるかもしれないし。念のために、()()()に送っておこう」

 

 フィーネは私の廃棄処分を口にして、あっちに送るとか言い出した。

 すこぶる嫌な予感がするし、面倒なことが起きる予感しかしない。

 

 なんだ、この冷たい目は――。

 

 琥珀色の瞳は獲物を狙う猫のように鋭くなり、口調が微妙に変化した。

 

 これがフィーネという女の本性……? この人は何を考えてるのだろうか……。それにしても――。

 

「あっ……、この紅茶美味しい」

 

「随分と呑気に茶など飲むのだな。貴様、この状況が不安ではないのか?」

 

 フィーネの出してくれた紅茶が旨くて仕方がない。

 若い身体になったからなのか、節々の痛みも無くなったし……些細なことが心地よい。

 はっきりと言ってフィーネは怖いが、死ぬ前はもっとお先真っ暗で恐怖すら感じられずに……半死人状態だった。

 

 こうして感情が戻っているということは生きてるっていうこと。ならば、どんな環境でも今度は生にしがみついてやる。

 

「状況は理解した。私は君の理想のモルモットにはなれなかったのだろう? だが、利用価値を完全に失ってはいない。だから生かしてくれる……違うか?」

 

 フィーネが途方もない化物っていうことは何となく理解できた。そして、何か壮大な計画みたいなのを立ててるってことも……。

 

 私はそのために利用するつもりだったけど、B級品に成り下がった。

 だから、手元に置くつもりはないということだろう。廃棄というのはそんな表現だと推測する。

 

 殺処分ではなく、どこかに送られるというのは、おそらく利用価値がゼロではないと見ているから……。だったら、私は生きる。どこでだって……。

 

「意外と聡いではないか。シオン……ならば歩んでみせよ。貴様の新たな人生を――私の器として相応しく成長すれば……使ってやらなくもない」

 

「うん。じゃあ、せっかく君に貰った命だし。大切に扱うとするよ。この身体を創ってくれたこと……感謝している」

 

 私の謝辞は心底本音だった。

 クソッタレみたいな人生をリセット出来たのだ。やり直せるのはありがたい。

 どうやら、魂の器として入りやすい身体を創ったフィーネのおかげで転生とやらが出来たみたいだし……。

 

 そして……私は目隠しをされて――ある組織の実験施設に案内された。

 

 後に知ったことだが……その組織の名は“F.I.S.”米国の聖遺物とやらの研究所らしい。

 そこに集められた多くの身寄りのない子供たち……通称レセプターチルドレン。フィーネが自らの器候補として集めた者たちの集団。

 彼女のクローンの失敗作である私はその一人として、送り込まれた……。

 

 研究者たちは歓喜したらしい。失敗作といえどもクローンということはフィーネと同じ遺伝子情報を持っているということ……。

 つまり、私の身体を調べれば自分たちの研究が捗るというわけだ。

 

 ここで、私の第二の人生がスタートする。

 いや、ろくでもない場所だということは何となく予想出来たけど……思った以上にここもクソッタレな場所だったなぁ……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「シオン! こんなところで油売ってたら、またマムに叱られるわよ!」

 

「マリア……、前にも言ったけど私はこんな見てくれだが大人なんだよ。自分の身の振り方くらい自分で考えるさ」

 

 集合場所から離れた場所でボーッとしていたら、レセプターチルドレンの先輩にあたるマリアという女の子が私を見つけ出す。

 子供ばかりのところに放り込まれて、しかも性別まで変わってしまっているので……どうも馴染めないでいると、彼女が勝手に私の世話を焼くようになった。

 

「前世は日本人の男性だったって話?」

 

「そうそう。だから私は君よりも成熟してるってことだ。その上、女の子の身体になっていることにも不便を感じてる。一人になりたいと思うのも無理ないだろ?」

 

「はぁ……。そういう妄想に逃げるなとは言わないけど……お願いだから協調性を持って。あなたが罰を受けるのを見るのは辛いのよ」

 

 以前……ついつい、話してしまった前世の話。

 マリアはそれを半信半疑どころか、痛い私の妄想だと捉えた。

 

 彼女は優しい子だ。人の痛みを自分のことのように感じることの出来る……。

 

「わかった……。君には負けたよ。素直に従おう」

 

「よろしい。さぁ、行くわよ。セレナも心配してるんだから」

 

 マリアは妹の名前を出して、私の手を引く。小さくて柔らかな手は温かった。

 セレナも良い子だよな。姉のことを本当に慕ってて……。

 

 彼女……マリア・カデンツァヴナ・イヴとは何故か気が合って、お互いに親友と呼べる間柄になるのにそう時間はかからなかった。

 その過程でセレナとも友人となるのだが……。

 

 

 

 そして、月日は流れる……。研究対象として、フィーネの器候補として……、特に私の身体は徹底的に弄くられた。

 

 月日というのは残酷で……南條シオンは女性としてそれなりに成長していったのである。

 これはもう、自分が女性だということを受け入れるしかないって諦めたよ……。

 

 うん。あのフィーネを見たときから予想はしてたけどね。こういうふうに成長するっていうのは……。

 

 そして、いつしか私は気付くことになる。

 この世界が元々居た世界と差異があることを……。

 ここで、関わった人たちが世界の命運を握っていることを――。

 

 

 




こんなノリで進めようと思います。
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