TS転生者はレセプターチルドレン   作:くらむちゃうだあ

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レセプターチルドレン

「朝はなぜ来るのだろう……私はまだ惰眠を貪っていたいというのに」

 

「お日様が毎日上ってるからよ。シャキッとしなさい。そして、顔を洗いなさい」

 

「ふわぁ、君は毎日キリッとしてるね。私にもあったよ、そんな時が」

 

 施設に入って数年が経ち、凛々しくも美しい女性に成長したマリアは……前世で過労死しかけた反動で怠け者へと退化した私を叱咤する。

 この子はリーダーシップが取れて、年下から好かれている。

 そして、私は年下たちから――

 

「あのう。シオンさんがキリッとした顔を見せたことありましたっけ?」

「無い……。いつも眠たそうにしてるし、時々本当に寝てる……。切ちゃんはある?」

「ご飯を食べるときだけは誰よりも元気デスよー」

 

 めちゃめちゃナメられていた。マリアの妹のセレナ……そして、同じ日系人って繋がりで友人となった月読調と暁切歌。彼女らとはよく話をする間柄で、私はもっぱらイジられている。

 

 この四人には特徴ある。それは……シンフォギアという摩訶不思議な鎧の適合者としての資質が高いという点だ。

 

 特にセレナが優秀で……シンフォギアを既に纏うことが出来る。そもそも、彼女がシンフォギアの適合者になったから、私やマリアたちも適合者候補として選出された。

 歌の力で先史文明の遺物の力を解放させるって、理屈でなんやかんやするらしいが……半分以上説明を理解出来なかったのでよくわからん。

 

 他の三人も薬の力を使えば何とか纏えそうらしい。

 うーん。薬とか聞いて物騒だなとかも……思わなくなってきた。

 

 もう既に数え切れんほどの投薬実験に付き合ったからね……。

 

 まぁ、身体はビックリするほど健康だから、その辺は配慮されてると信じたい。

 

 私はというと、適合係数は四人と比べて低い。

 薬を使っても今のところ纏うのは無理みたいだ。

 

 何でもフィーネが身体中にあらゆる聖遺物の微細な欠片を癒着させているらしく……それが邪魔してシンフォギアとの適合を阻害してるらしい。

 

 ――やっぱりフィーネは怖かったということだ。

 

 その影響なのか、ここ数年で身体のあらゆるところが成長しただけでなく、身体能力が飛躍的に増幅した……。

 それはもう、スーパーマンかよってくらいに……。

 

 研究者曰く、シンフォギアの出力に匹敵するらしい。

 そして、適合係数は低くとも私の身体は全てのシンフォギアに適合する可能性を秘めているとのことだ。

 だから、私もこの四人と共にシンフォギアに関する実験には付き合わされている。

 

 歌とか下手だし、自分が身につけるイメージ沸かないんだけどなー。

 

 それにしても、私がキリッとしたところを見たことがないっていうのは――

 

「失敬だなぁ。私は大人だから人生にメリハリをつけられるようになっただけなのだ。常に気を張ってたら折れちゃうだろ? でも大丈夫、いざという時は君たちを守るよ。子供を守るのは大人の義務だからね」

 

 片目を閉じながら私はセレナたちにやる時はやると説明する。

 苦しい言い訳だが、本当に常に怠けるってつもりはないぞ。

 

 この子らが危険な目に遭いそうになったら、年長者として必ず守る覚悟くらい出来ている。

 

「……マリア姉さんも?」

 

「もちろんさ。マリアなんて一番危なっかしい。私が助けないでどうする」

 

 セレナの言葉に私は不本意に育ってしまっている胸を張って答える。

 いつも気張ってるけど、マリアとて人間だ。頼れる人が隣に居たほうがよいに決まってる。

 

「……べ、別に私は危なっかしくなんてないわ。それより早く顔を洗いなさい。セレナも、切歌も、調も……、ほらほら」

 

 無駄話をしてる私たちに顔を少しだけ赤らめたマリアが、顔を洗うように促す。

 まったく。頼ることも覚えてくれって言ってるのに……。

 

「なんていうかさ。マリアって、いい母親になりそうだよね……」

「あー、私もそう思います」

 

 とはいえ、普段からしっかりしてる彼女に……私たちはすっかりとリーダーシップを取られており、それを心地よく感じるようになっていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 いつものように訓練をする私たち。

 今日は随分とセレナが話しかけてくる……。

 

「今朝の話、マリア姉さんは照れていたけど、私は嬉しかったんです。私も姉さんを守りたいって思ってましたから」

 

 彼女は微笑みながら、私との戦闘訓練中にそんなことを口走る。

 セレナはお姉ちゃん大好きっ子だもんな……。まぁ、それ以上にマリアは彼女を溺愛してるけど。

 

「……守りたいって、そのシンフォギアでかい?」

 

「はい。――私はこの力で戦うことには正直に言って抵抗があります。でも、シオンさんの話を聞いて……守るために力を使いたいと思いました」

 

 アガートラームという聖遺物の欠片から造られたという白銀のシンフォギアを纏い、セレナは向上した身体能力で機械から放たれたレーザーを素早く躱す。

 

「シオンさんも守ってほしいですか?」

 

 跳躍から着地した彼女はクルリと私の方を振り向いた。

 銀色に輝く鎧を身に着けたセレナはまるで天使のように見える。

 

「うーん。守ってほしいというよりも――」

「し、シオンさん……?」

 

 私は不意討ちでセレナに向かって放たれたレーザーを彼女を抱きかかえながら、回避した。

 セレナは今年で13歳か。あんなに小さかったのに随分と大きくなったものだ。

 

「並んで共に守りたい。セレナが一人で背負う必要はない。こうやって抱えるくらいは眠たくても出来るからさ」

「……マリア姉さんと同じ顔をするときもあるんですね。シオンさんが……」

「ちょっとだけ、格好つけてみた。似合わないけど……本音は伝えとかなきゃと思ったからね」

「シオンさんが隣に居てくれたら嬉しいです」

 

 少しだけ頬を紅潮させたセレナを立たせて、頭を撫でる。

 ギアを纏うようになってから、彼女はやたらと考え込むようになったからな。

 

 彼女の歌は心地よい。私もマリアも……いや、切歌や調だってセレナの歌には癒やされているはずだ。

 でも、眉間に力を入れてまで私は彼女に歌って欲しくなかったのである――。

 

 

 

「セレナと何を話してたの?」

「んっ? ああ、内緒の話をちょっとね」

「また、変な悪戯教えたんじゃないでしょうね?」

「あはは、ちょっとは信用してほしいな。でも、この前のマムの顔が小麦粉で真っ白になるのはマリアも笑ってたじゃないか」

「わ、笑ってないわ! 心臓が止まりそうになったわよ!?」

 

 シンフォギアっていうのは、ノイズとかいう災害を駆逐する唯一の手段だと聞いた。

 シンフォギアは機密みたいだから知らないのは無理ないけど、ノイズはどうも違う。子供でも知っている災害として世界で認識されていた。

 

 そこから導き出される結論は一つ。

 

 ――この世界は私の知っている世界ではない。

 

 まぁ、フィーネって存在自体がSFじみていたから驚きは少なかったけどね……。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「それにしても、面倒なことになったなぁ」

 

「あなたは、こんなときも呑気なんだから!」

 

 目の前で暴れまくっているのは白い化物と呼べる存在。

 これも全っ然理解出来てないんだけど、あれはネフィリムっていう聖遺物らしい。……生き物にしか見えんけど。

 

 起動実験に失敗したとかで、暴走したんだって。失敗して、ああなるって酷いな……。

 

「グアオッ……!」

 

「とりあえず、こっちに何かされるのは嫌だね」

「ちょ、ちょっと! シオン!」

 

 私はネフィリムの腹っぽい部分をぶん殴る。ネフィリムは吹っ飛んでいって、機材を壊しながら倒れた。

 

「お、おい! あの機械が一体幾らするのか……」

 

 いや、知らんけど。

 あんたらが失敗したから悪いんだろ?

 

「ガウアッ! グルッ……! グワオッ!」

 

 ネフィリムはヨダレを垂らしながら私を見ている。……えっと、食べようとしてるのかな。

 格好つけて殴ってみたけど、めちゃめちゃ怖い。

 

「そ、そうか。ネフィリムは聖遺物を取り込む性質がある。だから、お前の体内の聖遺物の欠片を狙っているのだ」

 

「そりゃ、食欲旺盛なことで……」

「ギャアオアッ……!」

 

 牙を剥き出しにして、ネフィリムは私の両腕を掴んで押し倒そうとする。

 女の子になったけど、あんな化け物に押し倒されてベッドインは勘弁してもらいたいもんだ。

 

「ガアアアアッ」

「調子に乗んなッ……!」

 

 両足でネフィリムの顎を蹴り上げて、口を閉じさせる。

 まいったな。こりゃ、人のチカラでどうにかなるもんじゃないぞ……。

 

「シオンさん、大丈夫ですか?」

「うん。平気、平気。って、セレナ……シンフォギアを纏って何を?」

 

 ネフィリムを蹴飛ばした私の隣にギアを身に纏うセレナが立つ。

 戦いが嫌いな彼女がこっちに来るなんて、思わなかったんだけど……。

 

「絶唱を使います。……これから一緒に姉さんを守れなくて残念ですが、さっきのシオンさんを見て躊躇いが無くなりました」

「ぜ、絶唱って……使うと身体の負担が物凄いって聞いたけど」

「シオンさん……姉さんをよろしくお願いしますね……」

「セレナ……?」

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

 それは悲しくも美しい歌声だった。

 

 セレナは死ぬつもりだ。

 

 鈍い私でもその覚悟を感じ取れるくらい儚いメロディーが脳髄にガツンと響き渡る。

 あり得ないよ。こんなクソッタレな場所で君が死ぬなんて。

 でも、口から血を流すセレナを見て……私は彼女が死する運命にあると感じた――。

 

 

 

 

 ――そんな運命……私がツバを吐きかけてやる!

 

 

 

 

「うあああああッッッッ――」

「グルオラッ……!? ガアアアアッ……!」

 

 ネフィリムを一心不乱で殴りつける私。

 こいつを、こいつを早く黙らせれば。セレナが無茶しなくても……。

 

「下がりなさい! 貴重なサンプルを2つも無駄にしたら、何と言われるか!」

「無駄なことはするな! 殴ったところで何も変わらん!」

 

 うるさい! サンプルとか言うな!

 無駄なものか……。こいつはモノなんだろ? ぶっ壊せば止まるに決まってる。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

「早く離れなさい! シオンッ! 命令です!」

 

 マムの声も聞こえる。あんたはセレナを止めろよ……。

 いや、知ってんのか。セレナが止まらないことを……。  

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl……」

 

「嫌だァァァァ!!」

 

 ――そのとき、セレナの身体が輝いた。

 それと、同時に――私の右腕が銀色のヒカリを放つ。

 

『右腕にはアガートラームの微細な断片が融合させられている……』

 

 以前、メディカルチェックを受けたとき……研究者に言われた言葉を瞬間的に思い出す私。

 そうだった。フィーネは私の体内に自分が手に入れた聖遺物の断片を取り込ませたんだったな。

 

 ――セレナの絶唱のエネルギーに反応して?

 

 科学的なことなど、何一つ分からないが……この温かさに私は彼女を感じていた。

 

「君なんだろ? 分かるさ。苦しみも喜びも何もかも……。半分こだ……!」

 

 ――躊躇いなく、私はこの銀色の右腕を……拳をネフィリムに振り下ろす。

 

 後で聞いた話だが、セレナの絶唱はエネルギーのベクトル操作という性質を備えているらしい。

 彼女はネフィリムの暴走エネルギーをリセットしようと働きかけており、この拳にも鎮める力というのが宿っていたということみたいだ。

 

 ネフィリムは叩いたら……縮んで大人しくなった。

 周りがギャーギャーうるさいけど、そんなのは聞いてられない。

 

 私は目と口から血を流しているセレナを抱きかかえて、崩れ落ちそうなこの場から少しでも離れようと動く。

 

 

 ――しかし、泣きじゃくるマリアに大丈夫だと声をかけようとしたとき……私は膝から崩れ落ちてしまう。

 

 そのあとのことは覚えていない。

 

 右腕に激痛が走って……あまりに痛すぎて気を失っちゃったんだよね。我ながら情けない――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おはよ、マリア」

 

「どうして、あなたは無茶するの? 死んじゃったら、それで終わりなのよ……」

 

 ベッドで横たわる私にマリアは涙ながらに怒ってた。

 そっか。良かったよ。彼女が私を怒る余裕があるんなら。

 

「説教ならセレナにしてやってくれ。そもそも彼女が……」

「セレナにはとっくにしたわよ!」

「あら、そうですか」

「なんで笑ってるの? 私は真剣な話を……」

 

 説教受けられる程度に無事だったセレナに喜び、思わず顔が綻ぶと……マリアは口を尖らせる。

 泣いたり怒ったり、忙しい人だ……。

 

「でも、良かった。ありがとう。セレナを守ってくれて……」

「マリア……?」

 

 ギュッと彼女に抱き締められて、私は凄く顔が熱くなるのを感じた。

 いや、ここ最近マリアが女性としてやばいくらいに魅力的に成長してて……。私も女になって長いんだけど意識せずにはいられないんだよね。

 

 だからこうやってお互いの体温を感じ合う位置まで接近すると……なんかこうムズ痒くなる……。

 

 でも、私も良かったよ。みんなが守れたんだから。

 

 

 

 もちろん、私にもセレナにも代償はあった。一人だと確実に死ぬくらいのエネルギーの負荷を受けたのだから当然だ。

 

 私は一年間くらい右腕が動かなかった。リハビリでどうにか自由に動くようになるのに三年もかかってしまうくらい損傷が激しかった。

 普通なら腕が吹き飛んでたらしいから、この身体の頑丈さは異常だと言われたけど……。

 

 セレナの方はもっと深刻だ。

 彼女は13歳から身体の成長が止まってしまう。

 身長も切歌や調に追い抜かれてしまった。

 

 それでも、身体そのものは健康体らしく病気になることも無ければ、元気に活動している。

 

 だが、このままで良いのか? 私らは実験サンプルで……用が無くなったら廃棄されるくらいの存在ってことは分かってる。

 

 この状況を何とかしなきゃ、私たちは一生このまんまだし……。

 

 ネフィリムをぶん殴って六年の月日が流れた――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「シオン、あなたが言ってることは分かるわ。でも、前みたいに無茶するのは止めて」

 

「いや、分かってるって。私が暴走して、みんなに迷惑がかかるのは本意じゃないからね。だけどさ、私たちってフィーネの器候補ってなってるけど……あの人が死ぬようなことって考えられないんだよな」

 

 私は既にあの日に会ったフィーネと瓜二つの外見になった自分の手を見ながらそう呟く。

 クローン培養の影響で色素が薄くなったからなのか、肌は雪みたいに白いし髪は銀色だけど知ってる人が見れば100パーセント見紛うくらいになっていた。

 

「死ぬことが想像出来ないくらいの人なの?」

 

「うん。一度しか会ったことないけど、永遠に生きてるって豪語するだけあって、あのときのネフィリムよりも凄みを感じたよ」

 

 フィーネとは転生した日に会っただけだが、私にそれだけのインパクトを与えている。

 何かしらの目的のために動いていて、その途中でアクシデントが起きたとき用のスペアボディが私たちみたいだけど……、そもそもあの人がそんな事態に見舞われるなんて想像がつかなかった。

 

 

「マリア、シオン……あなたたち、二人だけですか? 丁度いい……少しだけ話があります」

 

 私たちの指導者で“F.I.S.”の技術者でもあるナスターシャ教授――通称マム。彼女がマリアと私に内緒話があると呼び出した。

 珍しいこともあるもんだ。最近は病気を患っていて、立って歩く姿もあまり見なくなったのに。

 

 

「フィーネが亡くなりました」

 

「「えっ……?」」

 

 開口一番に告げられた言葉に私とマリアは顔を見合わせて驚きの声を出す。

 

 フィーネが死んだ……? 信じられんなー。何か凄い執念深そうな感じがしたのに。

 うん。あれほど、殺しても死ななそうな人見たことなかったな。あれほど、自己中な人も……。

 

“酷いわ。私のこと、そんな風に思ってたなんて!”

 

「――っ!?」

 

“思ったより立派に育ったみたいね。シオンちゃん♪”

 

 頭の中でフィーネの声がする……。

 あれ……、もしかして……フィーネに身体を乗っ取られかけてる?

 

 




ということで、時系列的に言えばG編スタートです。
セレナは絶唱の後遺症で13歳の見た目のままということで……。

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