TS転生者はレセプターチルドレン   作:くらむちゃうだあ

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潜伏先は廃病院

「あんなの使うなんて聞いてないんだけど。マム……」

 

 突如、分裂型の巨大ノイズを繰り出したマムはマリアに命じてアームドギアによって、それを粉々にさせた。

 そして、私たちに退却を命じたのである。

 

「あなたこそ命令違反に加えて、正体をバラす愚行……その上、敵と手を取り合おうとするなど言語道断です」

 

 あちゃー、やっぱり怒られたか。

 だけど、私の勘が言っているんだよね。

 

 ――立花響と手を取り合えって。それが最善手だと。

 

 まぁ、マムっていうか……誰もが今日会ったばかりの人間を信じて仲間にしようなんて酔狂な考えを許してくれるはずないのは分かっていた。

 

 うーん。それでも、惜しいことをしたと思ってしまう……。

 

「誰でもすぐに信じようとするのはシオンの悪い癖。そんなんじゃ…いつか、悪い人に騙される」

 

「そうだね。調……。ごめんな。どうも、焦ってしまってさ。強い味方が欲しかったんだ」

 

 ジィーっと視線を送りながら苦言を呈す調の頭を撫でながら、私は素直に彼女に謝る。

 

 私たちはみんなそれなりに過酷な環境でクソッタレな大人たちの元で過ごしてきた。

 お互いに痛みを分け合いながら生活してきたから絆は強いが、外の人間に対する警戒心は強い。

 

 それを考えると……話し合おうという発言は軽率だったかもしれない。

 

「そんなにも強い味方が欲しいのデスか? だって、さっきの戦いはあたしたちの方が――」

 

「フォニックゲイン……。マリア姉さんたちのライブや、私たちの戦いでは足りなかったにも関わらず……彼女たちは3人の絶唱を一つに束ねて簡単にネフィリムを起動させる程の量を放出しました」

 

「つまり、彼女たちが本気を出せば私たちの出力を完全に上回るということ。セレナはそう言いたいのでしょう?」

 

 切歌は先程の戦いは我々の勝利だと言いたかったみたいだが、そうでもない。

 奥の手の分裂型ノイズを出したのは、フォニックゲイン……つまり歌のエネルギーが足りなかったからだ。

 

 かつて、月の欠片を吹き飛ばした絶唱三人分の力を合わせるという奇跡の技――そんな芸当を先程の彼女たちは奇跡ではなく、狙って再現してみせたのだ。

 

 おかげでネフィリムは起動したが、日本の装者の力を思い知った。

 

「敵の脅威を無くす一番楽な方法は、倒すことじゃない。味方にすることだからねぇ。それに、今回は万全の状態で戦えたが……ここからは逃亡戦。手の内を知れば、対策もしてくるだろうし……」

 

「弱気は困りますね。将来の英雄の態度ではありません。フィーネの依代が早くも日和っているのですか?」

 

 マイナス発言をすると、嫌な声が聞こえた。

 あー、そういやコイツとも合流したんだったな。

 英雄バカドクターこと、Dr.ウェル。

 

 マリアたちのLiNKERを作ったり、体調の悪いマムを診てもらったり、色々とこの男にしか出来ないことがあるから、私をエサに付いてきてもらった。

 

 この男を動かすのは実に簡単だ――。

 

「僕が英雄になる道を作るのに、フィーネの力は必要。器として不甲斐ない態度を見せないで頂きたいものです」

 

 ――英雄になれる。

 

 ドクターの行動原理はそれだけだ。

 

 だからこそ、扱いやすいが……。

 だからこそ、制御できない怖さがある。

 

「弱気とは心外だな。慎重と言ってもらいたいね。君の大好きな英雄にだって、軽薄な者は少ないだろう?」

 

「はい。仰せのとおりです。ですから、敵と話し合おうとかいう軽薄な行動も控えて欲しいものですね」

 

「うるさいな。君のことは嫌いだ……。バーカ」

 

「シオン、低次元な喧嘩は止めなさい」

 

 いちいち態度がムカつくから、ドクターに喧嘩腰になっていると……マリアに私を咎める。

 いや、失敬。私としたことがムキになってしまった。

 

 さて、しばらくは身を隠すことになるが……。

 廃病院に潜伏することになるとはな……。

 

 金は出来る限り日本円にしておいたから、金銭的にはまだ余裕があるが……そう長くは保たない。

 

 ネフィリムを成長させ……フロンティアを起動させる準備しなきゃならないんだよね。

 

 見つからずに計画を進められるかどうか……不安でならない。

 それに、私はともかくマリアたちにあんなところで生活を強いるのはなぁ。不憫でしかないよね……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「は、廃病院っていうのは聞いてましたが……夜になるとそれなりにホラーな感じデスね」

 

「切ちゃん、怖がってるの?」

 

「こ、怖くなんてないデスよ」

 

「ごめんね。二人とも……。さすがにホテルを取るわけにはいかなくてさ」

 

 さっそく廃病院に引いてる切歌たちに謝罪する私。

 まだ15歳の少女たちに病院暮らしを強いるのは申し訳ない。

 私やマリアは成人してるし、セレナだって見た目は13歳のままだけど――。

 

「シオンさん、私の顔を見てどうされました? 私は平気ですよ。皆さんと一緒なら何処にいても幸せですから」

 

「セレナはいつも大人だな。不満くらい言っても良いんだぞ。バチなんか当たらないだから」

 

「本当に不満なんて無いんです。あの日、私は死ぬ覚悟でした。姉さんたちと生きる未来を捨てていたんです。でも、シオンさんのおかげで生き延びることが出来て――皆さんとずっと一緒にいるって夢が叶いました。そう思えば、私にとってここは天国です」

 

 いつになく意志のこもった声でセレナは私たちと同じ時を同じ場所で過ごしていることを幸せだと主張する。

 私はセレナに随分と不便を感じさせてしまったと思っているが、彼女はそうは思っていないらしい。

 

「マリア姉さんも、皆さんも……私が小さいままで落ち込んでるって思っていることは知ってます。でも、それでも、私は自分が不幸だと思った日は一日だってないんです。それも知っておいて欲しいと思っています」

 

 セレナは笑みを浮かべながら、そんなことを私たちに伝えた。

 そっか。私たちは勝手にセレナのことを哀れんで……随分と傲慢なことをしていたんだ。

 幸福なのか不幸なのか決めるのは他人じゃなくて自分自身なのに……。   

 

「ありがとう。セレナ……。助けられてばかりで、お姉さんらしいこと出来なくてごめんね。あなたが生きていてくれて、私も幸せよ」

 

「マリア姉さん……」

 

 堪らずマリアはセレナを抱き締める。

 今のでマリアの胸の支えもかなり楽になったんだろう。

 あのとき、セレナが死ぬようなことがあればマリアは立ち直れなかったかもしれない。

 

 私は二人の姿を見て、姉妹の絆を実感していた――。

 

 

「とにかく、必要なものはそれなりに揃えた。私たちは出来るだけ体力の温存をして、刺客の潜入に警戒しつつ身を潜める。日本政府も黙って潜伏を許すとは思えないからね」

 

「見つかる可能性もあるの?」

 

「どうしても、生活や治療をするのに必要なものを手に入れるからね。細工はしたけど、痕跡を完全に消すのは不可能だし。相手の有能さによるけど、ずっと同じところに居続けるのは無理かな」

 

 次に戦うのは恐らくこの場所が割れたとき。

 願わくば、ネフィリムが十分に成長してからが良いけど……そんなに上手くいかないだろう。

 

 こうして、私たちの潜伏生活がスタートした――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「そういえば。あのとき、シオンさんは何をされていたのですか?」

 

 調とセレナに夕食の支度を手伝ってもらっていたら、セレナは突然……私に質問をした。

 あのとき? あのときって何の時かな?

 

「ほら、ガングニールとの融合症例第一号……立花さんに手を握れるか、とかそういう質問をされた時ですよ。あのとき、私の角度からだと一瞬……シオンさんがポケットに手を入れたように見えました」

 

「ポケット? 私からは全然見えなかった」

 

「多分、気付いたのは私だけだと思います。マリア姉さんやマムも何も言わなかったので」

 

 あー、あれに気付いてたのか。

 調は首を傾げているけど、無理もない。

 私はみんなから見えないように気を付けて、手早く動いたんだから。

 

「別に大したことはしてないさ。“私たちは世界のために動いてる。信じられるのなら、月の軌道計算をしてみてくれ”とだけ書かれたメモを握手した時に手渡したんだ」

 

「「――っ!?」」

 

 そう。私は試した。

 立花響たち、日本のシンフォギア装者たちを……。

 そして、彼女らが所属する特異災害対策機動部二課を。

 

 響が手を取り合う気概があるような子なら、私からのメッセージを無碍にはしないはず。

 そうなれば、誰かしらに月の軌道計算をさせて……ルナアタック以上の危機が迫っていることを知ることになるだろう。

 

「何故、シオンはそんなことを? あの人たちを本当に仲間にしたいの? 私たちだけじゃ不安?」

 

 調は悲しそうな顔をして、私に訴える。

 自分たちの力が信じられないから、そんなことをしたのだと思ったからのだろう。

 

「調たちのことを信じてないはずがないだろ? 誰よりも信じてるさ。でも、だからこそ……失いたくないんだよ」

 

 彼女たちは苦難を乗り越えた仲間。

 それ以上に信頼出来る人なんているはずがない。

 

 でも、そんな信頼のおける仲間だからこそ……私は居なくなることが怖かった。

 

「つまり、保険が欲しかったということですか?」

 

「保険ってわけじゃないけど。この計画はかなり無理をするからね。危険から身を守る布石を出来るだけ用意しておきたいんだ。全人類と天秤にかけても私は君たちを失いたくないからさ」

 

 既に世界中を敵に回してる。

 米国政府は私たちを許さないだろう。

 こんな廃病院に潜伏を余儀なくされる状況で計画が全て上手くいくって保証はない。

 

 それならば、望みは薄くとも対抗策を取っておくことは生き残るために重要だと考えたのである。

 

「シオンは世界を救うために動いてるんじゃないの?」

 

「もちろん、世界は救いたいよ。でも、そこに君たちが居ないのならやる意味はないとも思ってる。偽善者なんだ……私は。自分の大切な人のことを優先順位の一番に置いてるからね」

 

 私は世界を救うために動いてるのではない。

 救わなくては、マリアたちとの未来が失われるから動いてるのだ。

 そういう面で見れば、米国の権力者らとそれほど精神的には大差ないだろう。

 

「調、セレナ……、この話は内緒にしてほしい。マリアや切歌にも、ね。――マムに聞かれたら怒られるし、ドクターは最悪だ。あいつは裏切るかもしれない。手柄を横取りさせるつもりかって」

 

「う、うん。シオンがみんなを大切にしてるってことは分かった。私はシオンが偽善者だとは思わないけど……」

「気になったので聞いてみただけですが……、守りたいという気持ちは私も同じです。シオンさん、もっと私を頼ってください。私は日本の装者さんたちの手を取り合うという考えは好きですよ」

 

 調とセレナは性格上、誰かに告げ口をすることはないだろう。

 ごめん。本当は一枚岩になって足並みを揃えるべきなのかもしれないが、独断で動いてしまって。

 

 セレナは日本の装者と手を組むことには賛成か……。

 もしかしたら、彼女の手を借りることもあるかもしれないな。

 LiNKER無しでギアを纏えるのは彼女だけ――つまりセレナが四人の装者の中で唯一、時間制限を気にせずに動ける。

 だからこそ、日本の装者たちと唯一対等な存在になり得るのだ。

 

 そんなことを考えてると、今度は調が私のエプロンをクイっと引っ張った――。

 いや、普通に声かけてくれ……。

 

「私も気になってたことがある。フィーネの魂は大丈夫なの?」

 

「ああ、フィーネの魂? そういや、何かあったら起こせって言われたっきりだな」

 

「そ、そんなノリなんですか? フィーネさんって」

 

 マムにマリアと共に呼び出された日から、フィーネは眠り続けてる。

 そもそも、起こせって意味がわからん。どうやって魂なんか起こせば良いんだよ……。

 

「じゃあ、今は特にフィーネに浸食されてるとかそういうのは無いんだね?」

 

「そうだね。特に違和感は感じないから大丈夫だ」

 

 フィーネみたいな化物。本気を出したら、私など簡単に支配下に置けるだろう。

 そうしないのは、本当に乗っ取るつもりが無いのか……それとも。

 

 どっちにせよ、あんなの人類のために永眠してもらった方が――。

 

“酷いこと言うわね〜〜。それじゃ、私がまるで人類の敵みたいじゃない!”

 

 ――で、出たー! フィーネの奴が唐突に話しかけてきやがった!

 ていうか、あなたは人類の敵みたいじゃなくて、そのものだってば。

 

“こりゃまた、無茶な計画を進めてるみたいね。月の落下を防ぐ……か。大変じゃない”

 

“その原因のくせに、その言い草……。何で起きてるの?”

 

“何かあったら起こせって言ったのに、起こさないからよ。面白そうな展開になってるのに”

 

 うわぁ。面倒な人が起きちゃった。

 やっぱり怖いよ、フィーネは……。

 

 何考えてるか分からないもん……。

 

“そうそう、あのときに眠たくて教えて上げられなかった……シオンちゃんの身体のこと。そろそろ教えてあげちゃおうかしら”

 

 楽しげに私の身体のことを話すフィーネ。

 この身体……まだ、何かあるの? すごく不安なんだけど――。

 

 

 

 




フィーネ目覚める。
ここから、彼女も色々と活躍します。
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