TS転生者はレセプターチルドレン 作:くらむちゃうだあ
何ということだ。こんな展開って予想が付く方がおかしい。
風鳴翼と雪音クリスのギアの出力が「抜剣」の掛け声と共に爆発的に上昇する。
黒いシンフォギアの力は既存のシンフォギアのパワーを遥かに凌駕して……数の不利やコンビネーションによる攻撃をひっくり返すに至った。
「お前たちにフロンティアを起動させる訳にはいかない!」
「大人しくお縄につきやがれ!」
しかも、何故か私たちがフロンティアを起動させることまで知っている。
ドクターの残した痕跡を辿ってここに来たことは分かるが、どうしてそのことを知ったのか謎である。
私は月の軌道計算を見直せとは響に伝えたけど、そこからフロンティアまで辿り着くのは無理だと思うし……。
「シオンさん! 月が落ちるのを阻止しようとするのは分かりましたが、何故……フロンティアというものを起動させて世界を壊すことに協力をしているのですか!?」
「世界を壊すだって? フロンティアは月の軌道を回復させるための手段だ。そんなことはしない!」
「それなら、投降してください! そして事情を説明してくれれば、きっと信じてもらえます!」
「ごめん。それはまだ出来ないよ。リスクが高すぎる……!」
謎の武術を使う響の攻撃は、イグナイトとやらを使ってる翼とクリス程の火力は無いが……十分に鋭くて強力だった。
拳と拳がぶつかり合い、轟音が鳴り響き……衝撃波により突風が吹き荒れる。
嵐のような拳の弾幕を私は何とか受け止めていた。
パワーは互角みたいだけど……。困ったな……。
こんなことをしてるうちに、マリアたちは追い詰められていっているし……。
“イグナイトモジュールとやらは、恐らくシンフォギアの暴走のパワーを出力に変えてるのね”
仲間を助けようと動こうとするも、今回はきっちりと響に足止めされてしまってる私の脳裏にフィーネの声が響く。
シンフォギアの暴走? それは一体何のことだ?
ギアにはそんな機能が付いているっていうのか……。
“知らないのは無理ないわ。響ちゃんを観測した結果知り得たメカニズムだから。しかし、やるわね。暴走っていうのは、出力を上げる代わりに理性を失うんだけど……それを完全に制御して戦闘力を跳ね上げるなんて――”
なんだその、野生の力みたいなのは……。
とにかく、向こうは新しいシンフォギアで挑んできて、我々とは比べ物にならない戦闘力を発揮してるのはわかる。
フィーネはシンフォギアの開発者なんだから、何か対策とかないのかよ……。
“あるっちゃ、あるわよ。あの出力の反動は絶唱程ではないにしろ大きい。制限時間があるはず。だから、逃げに徹しれば時間切れになり――”
“セレナ以外はLiNKER使ってるんだぞ。こっちも時限式なんだ。保たないよ”
“そうだったっけ? じゃあ勝てないわ。私がギアペンダントを作り変えでもしない限り……。奇跡でも願うしかないんじゃないかしら”
んな、投げやりな……。
でも、打つ手が無いのはマジなんだろう。
フィーネは一瞥しただけでイグナイトとかいうのの本質を看破した。
そして、目の前では同じシンフォギアだと思えないほどのパワーを発揮してる二人。
――このままだと、私たちは負けてしまう。
逃げるなど、夢のそのまた夢である……。
「降参して下さい。シオンさんの言ってること本当でした。月がこのままだと地球に落ちてしまう……。でも、エルフナインちゃんは……フロンティアを起動させたら、世界が壊れるきっかけになるって」
「エルフナイン? フロンティアが起動したら世界が壊れる? 言ってる意味が分からないな。私たちは月の落下を防ぐために動きを――。――っ!?」
響の言ってることがよく分からなかったので、自分たちの目的をもう一度……彼女に説明しようとした時……大きな爆発が次々と起こり翼やクリスが吹き飛ぶ。
さらに響も爆発に巻き込まれそうになったので、私は彼女を抱えながら回避した。
「シオンさん……。あ、ありがとうございます」
「怪我は無さそうだね。良かった」
「やっぱり、変です。もしかしたら私は――」
この爆発のおかげで、マリアたちは翼とクリスから距離を取ることが出来たみたい。
ならば、これはチャンスだ。今のうちに彼女らの下へ――。
“あなたも随分とお人好しなんだから”
“なんか、つい……。放っておけなくて……”
爆風に巻き込まれてる仲間たちの下に向かう私たち。
マムたちは逃げる準備をしてるはず。ヘリコプターに乗れれば、
「みんな! 無事か!?」
「はぁ、はぁ……。まさか、あんな切り札があったなんて」
「前回の戦闘とは比べ物になりませんでした……」
「撤退も止む無しデス……」
「でも、この爆発は何……?」
装者たちは無事みたいだが、LiNKERの制限時間もそろそろのはず。
この爆発は撤退の好機だが、調の言うとおり爆発の正体は何なんだ……?
「パヴァリアから依頼があって救援に来てみれば……思った以上に貧弱な歌しか持たぬ連中であったな。まぁいい。足手まといになる前に立ち去れ!」
そんなとき、妙に上から目線の声が上空から聞こえる。
な、なんだ。あの金髪の少女は……。
「何をグズグズしている! ここはオレが引き受ける。お前たちは先にアジトに行け!」
彼女が怒鳴った瞬間に、人形……、そう2体の人形が凄まじいスピードで翼とクリスの下に向かって行ったのだ。
あ、あの人形……シンフォギアの出力を超えてる? いや、翼たちの動きも鈍ってはいるが、こちらの装者よりも強いかもしれない。
「こんなものか。まぁいい……」
少女は憮然とした表情で戦闘を眺めていた。
この子は一体何者……。
いや、そんなことより早く逃げねば……。
「くそっ! 逃がすかよ!」
“シオンちゃん、手をクリスの方に――”
フィーネに言われるがままに手をクリスの方に向ける私。
彼女は特大のミサイルをこちらに向けて発射しようとしていた。
あんなの撃たれたら、この辺一体が消し飛ぶんじゃ……。
「「――っ!?」」
蜂の巣状のバリアが何重にも展開され、クリスのミサイルを防ぎきる。
こ、こんなの私の力じゃない。ま、まさかフィーネの――。
“シオンちゃんもやろうと思えばこれくらい簡単に出来るわよ。やり方は今度教えてあげる♪”
簡単に出来るかよ。
超能力なの? 何なんだよ……。あの力……。
「シオン、早く行くわよ。マムがヘリを出せるって」
「う、うん。悔しいけど、今日は完敗だね……」
私たちはヘリに乗り込み、この場から脱出する。
このヘリに搭載されている「ウィザードリィステルス」はあらゆる索敵から逃れることが出来る異端技術だ。
二課の索敵から確実に逃れることが出来るだろう。
僅かに我々が優位な点があるとすれば、これくらいなんだろうな……。
◆ ◆ ◆
「いい加減にしろよ。君のせいで危うく全滅するところだったじゃないか」
「いやはや、驚きました。まさか、あそこまで手も足も出ないとは。未来の英雄が情けない」
「……本当に殴られたいみたいだね」
「シオンさん、止めてください。そんなことをしても意味がありません」
ドクターの挑発にキレた私は拳を握りしめると、セレナが右腕にしがみついてそれを止める。
まぁ、そうなんだけど。こいつ、本当に腹立つんだよな。
「新たな敵のシンフォギアの性能を知ることができ、約束どおりパヴァリアが救援を寄越したのです。結果的には問題ありません。あとは、あのレディと新たなアジトで合流するだけ」
あー、あの女の子もだけど人形も気になったな。
アホみたいに強かったけど……。何者なんだろう……。
「錬金術師……みたいですよ。自分の研究を進めるためにフロンティアを使って解析したいことがあるのだとか。我々が失敗すると不都合らしいので救援を了承したとのことです」
錬金術師……? なんだそれ……。
フロンティアを使って解析ねぇ。研究熱心なことで……。
「救援は嬉しいけど、私たちもこのままじゃいられない。何とか強くならないと」
「あのドーンと強くなる機能……あたしたちのギアにも付けることが出来ないものデスかね?」
調と切歌のコンビネーションは強いが、今回は雪音クリスにパワーで完全に押し切られている。
うーん。あれと同じことが出来れば、か。
対抗するにはそうするしかないんだろうけど……。
「そもそも、どうやってあの力を手に入れたか分からない以上は難しいですよね」
「ええ。セレナの言うとおり、簡単じゃないと思う。同じ方法で無くても良いからパワーアップは必須だけど。もう今回みたいな屈辱は御免だもの」
そうだな。パワーアップは必要かもしれないね。
あの感じだと、彼女らは月が落ちてくることを知ってもなお……どういう訳か私たちが世界を滅ぼそうと考えてるみたいだもんな。
その誤解を解くにはあまりにも時間が無さすぎる。
立花響――人と人が分かり合うって難しいものだな。
たとえ、どちら共がそれを望んでいたとしても――。
◆ ◆ ◆
「狭いところだが、好きに使ってくれて良い。さすがにオレの根城に案内するわけにもいかんのでな」
パヴァリアが用意したという新たな拠点は、古びた洋館みたいなところだった。
その言い回し……この少女には他にも拠点があるということか。
「救援、感謝する。私は新たなフィーネの器となった南條シオンだ。君の名前を聞かせてもらえるかい?」
「キャロル・マールス・ディーンハイム――錬金術師だ。フロンティアにはオレも用事がある。お前たちが敗北するのはこちらにとっても不利益なんでな。手を貸してやる」
キャロルと名乗った少女はやはりフロンティアに用事があるみたいだった。
この子は見た目は幼い子供に見えるけど、セレナのように成長が止まってしまったのだろうか……。
「ああ、よろしく頼むよ。キャロル」
「…………」
私が手を差し出すと無言で握手をしてくれる彼女。
よく分からないが、フィーネに近いくらいの凄みを感じる子だな。
さっきの戦闘からも底知れない力を感じたし……。
「この成りを見ても油断はせぬか。愚図では無いようだ」
「見た目よりもずっと長生きしてそうに見えただけだよ。そういう人の魂が入ってるからね」
キャロルの言葉に私はそう返す。
フィーネはリィンカーネイションによって永遠に近い寿命を持っており、実際に気が遠くなる程の年月を歩んでいたけど、キャロルはどうなんだろう。
「なるほど。フィーネの魂の器というのはブラフでは無いということか。……で、フロンティアの起動にはどれくらい掛かりそうだ?」
「フロンティアの起動ね。……ええーっと、ね。どうだったかな……。マリア、覚えてる?」
「この前、話したばかりなのにもう忘れたの!? 仕方ない子ね!」
「…………」
フロンティアの起動についてキャロルに問われた瞬間、私はその話を全然聞いてなかったことを思い出し……マリアにいつものように叱られる。
そんな様子をキャロルは唖然として見ていた。
この人……手を組んで損したとか思ってないよね……。
「フロンティアを起動させるために必要な
「その
キャロルは思った以上に我々について調べてるし、フロンティアについても知っているみたいだ。
「実際に不安要素ではあります。しかし、そう簡単にシンフォギア装者など見つからないものですから。唯一、シオンだけが適合の可能性を見せていますが、適合率が低く何とも……」
そうそうマムの言うとおり、私はフィーネから聖遺物を埋め込まれたせいで、ギアの適合率が低いんだよね。
“でも、まぁ……。フロンティアを起動させるくらいなら、何とかなるかもしれないわね。一瞬だけ
突然、フィーネが低い声を頭に響かせながら、怖いことを言ってきた。
いやいや、何かフィーネの無理やりって人道的な香りがしなくてやばい気しかしないんだけど。
私がシンフォギアを纏うなんて……そんなこと可能なの? 嫌な予感がするな……。
それにしても、キャロルという強力な味方が出来たことは歓迎すべきだけど、響が言ったことも気になる。
もしかしたら、そのキャロルの研究とやらが世界の崩壊に繋がる……とか。そんなことにはならないだろうか……。
とはいえ、フロンティアを起動させて月の軌道修正を行わないと、それ以前に地球が滅ぶので彼女には協力してもらわないと……なんだけど。
とりあえず、キャロルには注意を払いつつ……月の落下の阻止に集中しようっと――。
キャロルが一時的に仲間になりました。
色々と順番が原作とかけ離れていきそうです。
特に神獣鏡はラスボスが絡んでくるので、扱いがデリケート。
どうなるのか、見守ってあげてください。