Over and over again. 作:AMATERA
──あり得ない。オレはまだ夢の中なのか?
飛び起きるとママがいて、ソファの上じゃなくて今度はベッドの上だったけど、テレビはつけっぱなしだった。
頭をハッキリさせたくて顔を洗いに洗面台に行って鏡を見ると、カジュアルな服装に小綺麗な格好のオレが映る。
「具合でも悪いの?」
同じ。
「べ、別に、悪くないよ。多分」
リビングに入り、窓から見える陽が落ちかけた外の様子を伺う。平和だ。
次にテーブルを見れば、祖父母から贈られたメッセージカード入りの封筒が。部屋の隅には引っ越してきたばかりのそのままのダンボールがある。
「ねえママ、どうして此処にいるの? サンディエゴだろ?」
「やだ忘れちゃったの? あなたが電話で頼んだのよ、『部屋が片付かないから手伝いに来て』って」
また同じ。
「テレビも付けたまま寝ちゃうなんて。ちゃんと消さなきゃ駄目よ」
ベッドで寝てたから台詞が少し違うけど、だいたいは同じ。
「あら、マギーだわ」
ママがテレビを消そうとして止まる。
「……ママ、好きなんだっけ?」
「ええ。小さな頃は凄く可愛かったんだけど、今は美人になったわよねぇ」
──これは。
この後にママが昔の話を持ち出すんだ。
「ねえ、あなたが高校生の時の──」
「あそうだママ、お腹空いてない?」
やっぱり。オレは勿論話を逸らす。ていうか、ここまで同じだと気味が悪い。いくらなんでも現実で起こる事が夢と同じってありえるのだろうか。
──予知夢?
オレには予知夢の能力が備わってたのか。いや、これはただの予知夢とは違う気がした。よくわからないけど、まだ当てはまるものが何かわからない。
「レイモンド、私行きたいお店があるのよ」
アパートメントを出て直ぐ、ママがこう言った。
──きた。
オレは緊張した。と同時に、また怒りがふつふつと湧いてくる。この流れならきっとあのダイナーに連れてかれて、あのおっさんを紹介しようとするんだ。それは阻止したい。
「ご、ごめんママ、ちょっと気分が悪い……」
体の不調を訴えてみた。嘘だけど。
「え、大変、食事はやめてアパートに戻りましょう」
ママはオレを心配してアパートメントまで一緒に引き返す。よし、これならダイナーに行かなくて済む。
「大丈夫? 気分はどう? 熱は無さそうだけど」
アパートメントに戻ると、オレはベッドに寝かされた。体調が悪いフリをするのは得意だ。自慢じゃないけど。何かから逸らしたり、人の気を引く手段の一つでもあるし。これは手っ取り早い。
「少しだけ、マシになったかな。ごめん、折角ママと久しぶりに食事でもって思ってたのに。……後、どうしよう。ママにはこのベッドを使ってもらって、自分はソファで寝るべきなんだけど」
「そんな事気にしないの。あなたにもしもの事があったらママはどうにかなっちゃうわ。それと寝る場所はどこでも良いのよ、ママがソファでも良いんだし」
「ありがとう、ママ」
オレだけを心配してくれるママに対して罪悪感なんて無い。こっちに集中してくれれば、あのおっさんを紹介なんて話にはならない筈だろうし。上手くいった。オレは心の中でほくそ笑んだ。
「仕事で疲れてたのかもしれない」
「お薬飲む?」
「ううん、寝れば元気になるよ。だからもう心配しないで」
「そう? じゃあ、何か欲しかったりしたら言ってね。ママ買ってくるから」
ママはオレの肩に手を一度置くと、『リビングにいるから』と言って寝室から出て行った。
暫くしていると、ママが誰かと電話している声がした。聞き耳を立てれば、どうやら相手はあのおっさんらしい。『ジェームズ』とママが呼んだからだ。内容はきっと、オレに会わせる食事会とやらが出来なくなったっていう連絡だろう。
──ふん、会ってやるもんか。
まあもし、このまま夢と同じ流れなら会う事もねぇけどな。オレは鼻で笑いながら別の事に意識を変えていた。次はママを飛行機に乗せない為に何をしたら良いか、だ。朝、飛行機でサンディエゴに帰ったせいで連絡が取れなくなってしまうのを避けたい。夢の中じゃ、あれから死ぬまで二度と連絡も取れなかったから。
また仮病でも使って……。ベッドの上でごろりと身体の向きを変える。寝たフリをして起きてはいたけど眠気が来た。仕事でつかれていたのは嘘じゃないし、少し、寝るか。オレが起きるまでママは部屋いるだろうし。さて、起きれば忙しいな。
襲ってくる睡魔と共にオレは眠った。
「ヤバイ!」
馬鹿だろ。少しだけ寝る予定だったのに、オレは寝過ごしてしまった。しかも昼過ぎ。
「ママ?」
ママの姿は無かった。代わりにあったのは、テーブルの上に置かれた一枚のメモ。──夢と少し違う。
【顔色も良さそうだったから帰るわ。起こさないでごめんね。また日を改めて来るけど、少しだけ片付けておいたから。ママより】
帰ったって……。確かに部屋は少し綺麗になっていた。
──まさか。
オレは慌ててスマートフォンを探した。
「あった!」
ベッドの傍に落ちてたスマートフォンを取って画面を見る。着信の代わりにメールが1件のみ。
【もう起きた? 今からサンディエゴ行きの飛行機に乗るわ。急に帰ってごめんなさい。実は言うと今回、あなたに大事な話があったの。でも、あなたが元気な時に話すわね。体に気を付けて仕事頑張ってね。ママはいつも応援してるから。それじゃあ、家に着いたら連絡するわ。レイモンド、愛してる】
……そんな。呆然となりながらテレビの電源を入れる。流れるのはニュース、報せるのは飛行機事故だ。オレは腰が抜けた様にソファにもたれて座った。
そこから流れは一緒。パンデミックが起き始める。オレは夢に逆らわず、部屋からほぼ出ないで日を過ごす。合間、騒動になる前に忘れちゃいけないと思って祖父母に電話をかけると、普通に出てくれた。訊けばデンバーは大丈夫とかって言ってたけど、デンバーもそのうちに壊滅するんだよ。
「お願いだからさ、デンバーからオレゴンへ避難してくれよ。おじいちゃんとおばあちゃんが心配なんだ」
オレが半泣きで頼むもんだから信じてくれたのか、祖父母は『直ぐに準備してデンバーから離れる』って言ってくれた。確証は無いけど、多分デンバーよりオレゴンの方が助かってくれる可能性はある筈だ。
「飛行機は危ないから、車でだよ」
念押し。道が混雑する前ならギリギリなんとか行けるだろう。
電話を切って直ぐ、深く深呼吸してリュックに荷物をつめる作業。逃げる時用の準備だ。夢では慌てて手にしたのが祖父母のメッセージカードだけだったから、せめて懐中電灯とかママが置いて行った護身用の催涙スプレーとか、携帯非常食なんかを中に入れた。メッセージカードは迷ったけど、一応は持っていく事にした。
──嫌だな。
これから先の出来事を思って嫌になる。混乱の中、またオレはあの恐怖を体験しなければならない。つめ終わったリュックを窓の近くに置き、オレはベッドに身を投げ出した。
《……アメリカ国民の皆さん、そして世界中の人々へ、無事と幸運を祈ります》
大統領の声明、カオス状態の街、無くなる食料。夢と同じ流れ。オレは意を決して外へ出る。
──嫌だ。
何度も居ませんようにと願ったけど、角を曲がれば凶暴化した感染者とご対面。やっぱりかよ。全力で自分の部屋に逃げようと階段を駆け上がる。足は震えたけど、知ってたってこともあってか、なんとか真っ直ぐに走れた。
途中躓きそうになって感染者に掴まれそうになるけど、うん、わかる。抵抗して相手の腹を蹴れば、感染者の二人は一緒に転げ落ちて行った。
──急げ!
部屋へと走る、走る。鍵はちゃんとある。デニムパンツの右ポケットの中に。
「よし! よし!」
下の階の住人の悲鳴がした。よし、自分を落ち着かせて鍵を開けようとする。
「まだ来んなよ!」
階段を上って来た感染者がこっちの階に現れ、オレを発見して奇声を発した。
「よし!」
扉を開けて中に入り、急いで鍵を閉める。とほぼ同時、扉の向こうで感染者が身体をぶつけた音がした。
──っぶね!
何度も身体をぶつける音が響く。流れは同じ。いつまでもこの扉はもたない筈だ。オレは部屋の奥へ走り、リュックを背をって窓を開ける。それは、この窓から外へ出なければならないからだった。3階だけど真下に車があるから、その上に飛び降りれば下に降りられるんだ。
「くそ!」
高さは恐いけど、感染者に喰われて死ぬのは勘弁。息を飲んで躊躇しつつ飛び降りれば、車が自分の重みでへこんだ音と、自分の部屋の扉が壊れる様な音が重なった。
──入りやがった。
車の上から地面へと降りたオレは、後ろを振り返らずにそこから無我夢中で駆け出した。
「きゃあああ!」
「たすけてくれええ!」
誰かの悲鳴が耳に入る。炎上する車の横を通り、倒れて動かない人を跨ぎ、強盗団によって壊されるショーウインドーのガラスの破片が、オレの頬をかすめた。痛みなんて気にしてる余裕はゼロだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
どこまで走ったのか。くそ、息切れだ。もう走れない。気付いたらオレは、まだ一度も来たことが無いホームセンターの前に立っていた。
「……あ?」
来たことが無いけれど、この場所も知っている。夢と同じ。
此処だ、この店だ。最終的にオレがその
──アイツらが、来る?
また夢と違う事をすれば、次は本当に死ぬかもしれない。入りたくないと思いながらも、オレの足は店に向かっていた。
「あぁ、くそ……」
駐車場は炎上して真っ黒になった車が一台、それ以外はカートが乱雑に放置され、店の中は既に荒れている。中に人が居る気配はないけど、もう直ぐしたら従業員専用の裏の出入り口から誰かが入って来ると思う。
──夢と違ったらどうしよう。
人間じゃなく感染者だったら。考えれば考える程、今にも頭がおかしくなりそうだった。
取り敢えず武器になる物をと、その辺に落ちていたバールのようなものを手にして店内を歩く。キャンプ道具等の商品棚はほぼ無くなっていたけど、意外にも食品は残されていた。……何故か。
──は、そうだった。
残されていたというか此処は、このホームセンターは、もうアイツらの
「だ、誰かいる?」
従業員用裏口の方から女の声が響く。オレは多少ビクつきながらその方へと向かった。ゆっくりと警戒して商品棚から顔を覗かせて見れば、白人の女1人と黒人とアジア系の男2人がそれぞれに拳銃、金属製の野球バット、ゴルフのアイアンを持って立っていた。
──同じ。
一見どこかの会社員らしきスーツを着た3人は、オレに気付いて武器を向ける。
「ちょ、待ってくれ! オレは無害だ! 感染もしてないし、この店に逃げて来ただけなんだ!」
両手を上げて3人の前へ。オレは本当に
「あたし達は隣町から逃げて来たの。サリーよ」
「僕はリー」
「ジョーイだ」
簡単な自己紹介をされ、オレも3人に倣って『レイモンド』と名乗る。
「俺達はこの店で色々調達した後、オレゴンにあるNEROの避難所を目指そうと思ってるんだ」
そうだ、コイツらからオレゴンに幾つか設置された避難所の事を聞いて、オレはオレゴンを目指したんだっけ。
「アンタも一緒に行くか?」
誘われて戸惑いがちに『行く』と答えたけど、残念だ。コイツら3人とは一緒には行かない。ううん、行けないんだ。ほら、店の外で車やバイクの停まる音がした。
「誰か来た!」
全員で警戒する。陳列棚にそれぞれが隠れ、店の出入り口から入って来る者達を覗き見る。
──来た。アイツらが、ギャングが。
息を飲む。全部で10人、明らかガラが悪い。銃器を手に店の中を歩く奴等は、商品棚から食料を取って食べ始めた。
「オイ、なんか食い物減ってねぇか?」
「あ? 誰か盗っていったのか?」
「だから言っただろーが! 戸締りはしとけって!」
奴等の怒号が店内に響く。オレ達は一気に緊張が高まった。
「ん? そこにいるのは誰だ?」
ジョーイの姿が奴等の一人の男に見つかった。
「う、撃たないでくれ!」
ジョーイは武器を床に置き、両手を頭の上に上げて前に出る。
「お前か? 盗んだのは」
「違う! 俺じゃない。今さっきこの店に着たばかりだ!」
「お前だけか?」
ジョーイはあたふたとなりながらも首を縦に振った。仲間を裏切らない勇気ある奴だ。
「……そうか。なら行け」
顎で出口を指されたジョーイはオレ達を気にしながらも『ありがとう』と外へ走り出そうとした。
「なぁーんてな」
ジョーイが男に背を向けた瞬間、男は舌を出して小銃を向けると、ジョーイの頭を背後から撃ち抜きやがった。
「きゃあああ!」
驚いたサリーが悲鳴をあげ、オレとリーもその流れで隠れているのがバレる。
「オイオイオイ、他にも隠れてやがった!」
「お願い殺さないで!」
「僕達は何も盗ってない!」
オレとリー、サリーは武器を床に放り投げ、オレ達を取り囲む様に立つギャング共の前で膝を折って希う。
「出て行くから、だから頼む!」
「死にたくない!」
うつ伏せに倒れて動かないジョーイを横目に、オレはなるべくギャング共と目を合わさないようにした。
「黙れ! この店に来ちまったのが悪いんだよ」
銃口をリーの頭に押し付けるジョーイを撃った男は、オレとサリーを睨んだ。
「オイ待て」
リーダー格の一際体がデカい奴がゆっくりと前に出れば、他の奴等が顔色を伺う様にその男を見つめる。
「女は殺すな。俺の相手をしてもらう」
「デミアン、残りは?」
「感染者から逃げる時の囮りにしたら良い」
「それまでは?」
「見張ってろ」
デミアンと呼ばれた男から命令を受けた奴は『オーケーオーケー』と応えながら、オレとリーに小銃を向けて立ち上がらせた。
「お前はこっちだ」
「いやあ!」
デミアンがサリーの腕を引っ張る。
「やめて!」
サリーはリーに助けを求める目を向けたけど、リーは死にたくなくて目を逸らした。わかる。銃を向けられてんだもんな、死にたくねぇし、オレだって目を背けるさ。
「いやああ!」
「黙ってろ!」
絶望のサリーはデミアンに引きずられながら従業員専用のバックルームへ連れて行かれた。何の為にか。そりゃあ、される事といったら一つしかない。
「お前、リュックの中身は何だ?」
店内の出入り口付近に移動させられて直ぐ、オレ達を見張る2人組の内のハゲがオレのリュックを奪い取った。
「期待する物なんて無いよ」
「ハ、確かになんもねぇー」
中を漁ったって服とか携帯非常食が何個かしか入ってない。コイツらが来るほんの少し前に、催涙スプレーと祖父母からのメッセージカードをデニムパンツのポケットに入れておいて正解だった。
ハゲはリュックをその辺の床に放り、舌打ちをしてレジカウンターの上に腰を下ろす。オレとリーは暫く、デミアンが戻って来るまでこの場で放置プレイだ。
「どうだった?」
下品な笑いを浮かべて、髭面のタトゥーだらけの男が戻って来たデミアンに訊く。
「締まりは最高だったな」
「ガハハ、そりゃあ羨ましいぜ。なぁ、オイ?」
リーの頭に銃口を押し当てて下品に笑う様は、流石に胸糞悪さがある。リー本人は半泣きで頷くしかなかった。
それから少し時間は経つ。いつまでもオレとリーはハゲの奴に見張られて、合間に犬の餌入れに入れられたコーンフレークを与えられる。サリーの姿は見えないが、どうせ裏でデミアンに何度も犯されてるだろうよ。
リーは寝そべり、オレも何もする事が出来ないから暇潰しにこのギャングの奴等を観察する。コイツらの会話からわかる事は、それぞれ何人かが違うギャングの集まりだとか。ある奴はロサンゼルスから。ある奴はサクラメント、フレズノ。デミアンはカリフォルニアとオレゴンで銃やドラッグの密売をしてたらしい。どういう流れで一緒になったかは知らないけど、見た目も強そうなデミアンに他の奴等が屈したってとこか。
コイツらの喋り方、動き、見た目。夢と同じなら、いずれ行くだろうロストレイク・キャンプでのオレが、ここから作られていくんだ。
──ふん、生きる為だ。
一週間後。店の外の様子はあれからどうなっているのかわからない。多分もう、コイツらギャングやら暴徒のせいでもっと荒れ放題だと思う。オレ達は未だ見張りを付けられてるけど、何もしない出来ないオレ達を完全に見くびってか、『ここでおとなしくしとけ』ってハゲやもう1人が見張りを緩めていた。理由は、街の様子を見に行くついでに何かを盗んできたり、どっかから拉致してきた女共を犯すのに忙しいんだとか。初めは泣き喚いたり暴れたりしてた女共も、命を惜しんで今では素直に股を開いてる。何故わかるのかって? 奴等はオレとリーの前で平気て犯しやがるからな。
──あー! ちくしょう!
見張りが緩められたお陰もあってか、リーと会話をする事も可能になってきた。辺りを警戒し、リーが静かに声を落としてオレに話しかけてくる。
「なぁ、レイモンド」
「……何だ?」
「隙を狙って此処から逃げないか?」
ああ、そうか、きたな。オレは夢を思い出す。
「はあ? どうやって? バレたら殺されるぞ」
「勿論バレたらお終いだよ。でも成功したらオレゴンへ行ける」
「だからどうやって?」
「先ずはマリーナ・ディストリクトへ行くぞ」
「マリーナ・ディストリクト? 観光地だぞ?」
「行く価値はある」
リーはヨットが写ってる一枚の写真をオレに見せる。大型の豪華な遊行船だ。特徴的なオリジナルのマークが船の端にあって、これが目印なのだそうだ。
「僕のなんだ」
叔父から譲り受けたヨットを所有しているリーは、マリーナ・ディストリクトのヨット港からポートランドを目指す気だった。
「鍵は持ってる。操縦も出来る。本当は3人で逃げる約束だったけど、ジョーイは死んだし、サリーはデミアンが離さないし、救うにはリスクがある。自分が生きる為には置いていくしかないんだ」
生きる為。仕方ない。仕方ないんだよな。俯くリーの肩に手を置いたのは、『わかってる』という意味で、だ。
「なあ、リー、何でそんな大事な事をオレに話したんだよ?」
「それは……、初めは一人で逃げようと思った。だけど、キミは素性を隠さず見知らずの僕に話してくれた。大変だろうに、こんな辛い時に僕を励ましてもくれたし、信用に値するよ」
「今はお互い様だ。リー、信用してくれて、ありがとう」
「こちらこそ」
呆れて笑いそうになる。2人だけでこっそり話をした日から、オレは自分の事について全てリーにさらけ出していた。両親の事とか祖父母の事、嘘も交えて。例えば親父の会社が倒産して大変だ、とか。病気がちの母親の世話と借金の返済で苦しいとか、実はこの店に来る前に母親が暴徒に殺されたとかってな。
日も暮れ始め、奴等は外からもう戻って来る。デミアンがサリーのもとへと向かうと、それを合図とばかりに酒を呑んで酔っ払い、薬や酒でラリってる女共を犯しに店の奥に消える。店の外で見張りをしてる他の奴等も同様に隙はある。コイツらも余裕ぶっこいて女を輪姦してるし、逃げるタイミングはその時くらいか。
リーが目で合図する。『奴等が奥に行ったら逃げよう』って。オレは黙って頷いた。
デミアンが酒を煽りながらサリーのもとへとこの場から消えると、残りの奴等が酒を呑もうとする。緊張の一瞬だ。
「……なあ、ちょっと聞いてくれないか?」
オレは、レジカウンターに座って酒を呑むハゲともう1人に声をかけた。
「あ? メシはそこのフレークでも食ってろ」
「違う、その話じゃない」
「ああ? じゃあなんだよ?」
2人はオレに苛立ちながら注目する。
「頼む。聞いてくれ。コイツが、アンタらの目を盗んで逃げようとしてるんだ」
それを伝えると、リーは驚きと焦りの表情をオレに向けた。
「ちょ、ちょっとレイモンド! 急に、何を……!」
「オイ! お前逃げようとしたのか?」
ハゲがリーの胸ぐらを掴む。
「し、して、ないよ! レイモンドが、彼が嘘を!」
「嘘じゃない! 信じてくれ!」
オレはリーから目を逸らし、悲願して訴える。
「コイツは1人でマリーナ・ディストリクトに行ってヨットで逃げる気なんだ!」
「レイモンド! 何で!?」
「ヨットで逃げるだと? てめぇ!」
「ひ、1人で逃げる気じゃなくてレイモンドも──」
「嘘だ! コイツはオレを騙して囮りにし、その隙を突いて逃げようとしてたんだ!」
ハゲともう1人はオレとリーを交互に見て小銃を向ける。
「ぼ、僕を殺したら誰が操縦を? 鍵の場所も知らないだろうし、それにどのヨットかわからないだろ? な、なあ、案内するよ。一緒にのってポートランドに行こう!」
奴等はお互いを見合うと、オレへと銃を向けてきた。
「鍵はコイツが持ってる。後、ヨットの写真も。目印に特徴的なマークがあるんだ。それでわかる」
そう言えば少しの間が空いた。オレは緊張していたが、これは夢と同じ行動なんだ。
「鍵と写真、出せ」
リーは一瞬躊躇っていたけど、震える手でポケットから鍵と写真を取り出した。
「みんなで逃げよう。広いし、快適だ」
ハゲは写真を手に取って見る。
「でも1人で逃げようとしたんだろ?」
「違う!」
「コイツが俺達に教えてくれなきゃそうしたんだろ?」
「ま、待ってくれ! 殺すのはやめてくれ! 操縦は誰がするんだよ!」
「ハハ、丁度イイ。デミアンが操縦出来る」
2人は下品に笑った。リーは顔を青ざめ、オレに目を向ける。
「残念だったな」
ハゲがそう告げて引き金を引くと、リーの全身は蜂の巣の様になった。
──悪ィな、リー。
でもよ、あんなんで簡単に人を信用するお前も悪いんだ。こればっかりは仕方ない、仕方ないよな。隙を見て逃げるなんて無理だろ。運良く逃げてもヨットでポートランドは向かえない。
これまで夢と同じなんだ。だから、生きる為にオレは同じ事をしただけ。
死にたくない──。
床に仰向けに倒れて動かなくなったリーから、オレは目を逸らさずにいた。
Continued....?