2年A組のロビンフッド   作:vtuber好きの一般人

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お久しぶりです。
過去の自分をぶん殴りたくなる出来だったので書き直しました。
オリキャラの設定やストーリーの展開も変えたので、そのうち題名やあらすじの内容も変えます。
文章構成も雰囲気に合わせて変更しました。


本編
始まりの日


 また夢を見た。いつも夢を見る。一人の子供の夢だ。子供がひどく悔やんでいる夢だ。追体験のように生々しい夢だ。

 友人が言うには人間は一夜で色んな種類の夢を見るらしい。ほとんどを忘れているだけで実は多くの夢を見ているのだとか。俺も忘れていただけでもっと夢を見ていたのだろうか。きっと違う。

 そもそも俺が見ているものは夢なのだろうか。毎日同じことを繰り返して見るなんて普通じゃないはずだ。物覚えがある頃から同じ夢を見る人間なんて会ったことも聞いたこともない。

 夢じゃないなら俺が見ているものは何だろう。

 いいや、夢だろう。だって、目を覚ませばもう忘れてしまうじゃないか。体験したことのない、現実にはありもしない話。虚しく取り留めのないもの。だから忘れてしまう。だから、これは夢に違いない。

 

 「坂元。おーい、坂元。」

 友人の声が聞こえる。朝練に夢中になっていて全く気が付かなかった。すまん、聞いてなかったと詫びると呆れた声が返ってきた。

 「こんなバスケ馬鹿がどうしてモテるか、謎。」

 しつこく呼び掛けるからどんな話かと思えば、どうでもいいことだった。知るか、の一言だけ残し、目の前のゴールへ狙いを定める。

 「ちょっと、無視するなよ!」

 また騒ぎ出した。このままではシュートに集中できない。練習を中断し、うるさい友人の話を聞くことにした。

 休憩の間だけだ。ボールをボールカゴへ放り投げ、水筒を手に持ち壁に寄りかかる。

 「ンなこと言っちゃって。恥ずかしがらなくてもいいのよ。」

 お茶らけた様子で揶揄っている。やはり時間の無駄だったようだ。裏声の変な声で喋る友人をほったらかし、練習に戻ろう。

 「冗談、冗談だって!」

 俺の足を止めることに必死な友人にため息が漏れてしまう。踵を返し、早くしろと急かす。

 「今日、坂本のクラスに転校生が来るんだろ?」

 初耳だ。そういえば、昨日から一部が騒がしかった気がする。しかし、転校生はこの学校では珍しいことでもない。今更な話題に感じるが。

 「おいおい。自分のクラスだってのにビッグニュースの一つも知らないのかよ。」

 残念そうな目で俺を見た後、仕方ない奴だなーとニヤニヤし始める。

 「いいか。今度の転校生は女子!しかも噂によるとカワイイ子らしいぞ!」

 ビックリしただろ!とでも言いたげな様子で声を張る友人。溜め息が漏れる。

 結局、興味の湧かない話題だったので友人の話はもう聞かず、再びシュート練習に精を出すことにした。

 

 教室に戻ると一部の男子たちが盛り上がっていた。今日来る転校生のことだろう。

 「おはよう。今日も朝練とは流石じゃのう。」

 大阪弁の友人、トウジだ。

 「今日はえらい盛り上がっとるけどなんか知っとるか?」

 友人から聞いたことを話すと成程といった顔で何度も頷いてみせる。

 「ケンスケが大喜びするわけや。可愛い転校生と聞いて黙っている奴やないからなあ。ほんま素直な男やわ。」

 俺も同意を示し、朝会までの短い時間を雑談しながら待った。

 

 担任教師から転校生の単語が出た瞬間、教室のざわめきが始まった。委員長がなんとかクラスを落ち着かせようと注意するが収まる様子は全く見えない。老人の担任も浮つくクラスを静めることを諦めたようで淡々と話を進めるので委員長が可哀想だった。

 教室の扉を開ける音が響き、クラスは静かさを取り戻す。代わりに全員の注目が話題の転校生へと向けられた。

 転校生はこの状況に臆することなく教壇の横へ歩いていく。噂以上の容姿にクラスの一人が感嘆の声を漏らす。

 「綾波レイです。よろしくお願いします。」

 よく通る声で挨拶をし、お辞儀をする。それを見ていた男子たちが大いに興奮している中、俺は一人不思議な感覚に襲われていた。

 綾波レイ、どこかで聞いた覚えのある名前だった。初めて会ったはずなのに転校生に懐かしさを感じてしまう。何故だろうか。

 チルドレン、青の巨人、リリス。その理由を考える度に覚えのない記憶が頭の中を流れていく。唐突に湧き出た記憶は不明瞭で掴みどころがなく、加えて気味が悪い。何がそんな気持ちにさせるのかさっぱり分からないのも含めてだ。

 しかしあの転校生とこの記憶は関係ある、そう直感が俺に呼び掛けていた。

 

 綾波レイという少女は超がつくほど寡黙な生徒だった。

 休み時間に多くの生徒が彼女に質問していたがそのほとんどが素っ気ない一言で終わっていた。彼女から話すことは決してなく話しかけた彼らも困惑していた。

 よく本を読んでいることも助長して、昼休みになる頃には既に転校生に近寄りにくい雰囲気ができていた。

 「坂元~、飯食おう。」

 先に食べてくれ。クラスメイトの誘いを断り、席を立つ。ぼんやりと外を眺めている転校生の目の前に座り、声を掛ける。

 転校生は口を開くことなく目線だけを俺の方へと動かした。

 自己紹介をしてみたが転校生からの反応は全くない。

 クラスの人達が話しづらくなるわけだ。会話というより独り言を言っているのと変わらない。

 ファーストチルドレン。よく印象に残っている単語を発してみた。すると、変化は乏しいが驚いた顔でこちらを凝視した。やはり転校生に関係のある言葉のようだ。

 しかしあまりいい発言ではなかった。表情からすっかり警戒されてしまったのが読みとめる。余程他人に知られたくないものらしい。

 「なんで知ってるの。」

 偶然覚えていただけだ。そう質問をはぐらかすと転校生は僅かに眉間に皺を寄せた。

 少し待てば喋るだろうと反応を窺っていたが、口は固く閉ざされたままで睨むばかり。意地でも話すつもりがない。

 埒が明かないので今度は青の巨人を話題に出してみる。青色のボディーに赤い単眼が光る人型の生命体。名前もあったはずだ。何と呼んでいたか。

 「巨人なんて知らない。あなたの勘違いよ。」

 あの巨人の名前を思い出そうとしたところで転校生から拒否される。そしてやっと口を開いたかと思えば厚い本を閉じ、無言で教室を出て行った。

 なんだ、あの転校生。

 呆気にとられた俺は彼女が出ていった方のドアを暫く眺めるしかなかった。

 

 あれから機会があれば綾波さんに話しかけているが尽く無視されている。初日に攻めすぎたのが原因だろうな。今もそれに近いことを仄めかすと見向きもされない。

 最近は怪我をしたらしく入院して随分と学校に来ていない。あの記憶も結局ぼんやりしたままで分からず仕舞いで釈然としない。

 「坂元はよく綾波さんと話せるよな。」

 「そうやな。わしはどうも苦手や。」

 二人は感心した口ぶりで未だに話し続けることを話題にした。女子にも偶に言われることだがそろそろ耳にタコができそうだ。別に俺の勝手だろ。

 「それもそうだけどさ。勿体ないぜ、モテるのに。」

 ケンスケが羨望の眼差しを向ける。

 周囲の人間はよく異性と付き合いたいと話すが、そんなに良いことなのだろうか。異性と付き合う時間があるなら練習をしていた方がバスケ上手くなるに決まっている。

 「よう言った!わしも男がナヨナヨするのは間違っとると思う。男はどっしりと構えるべきや!」

 「日本一は考えることが違うねー。」

 なんでトウジが喜んでいるんだ。もしかしてバスケ好きだったか?

 

 その後も友人たちと中身のない話を続け次の授業を待っていた。すると突然、緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。日頃避難訓練を行っているとはいえ、初めての出来事に学校中が騒然とし始める。

 「慌てず冷静になって!ほら、訓練を思い出して!」

 委員長は大声を張り上げ、混乱する生徒を落ち着けようと懸命だ。それを聞いた彼らもなんとか指示に従っていた。

 どうしてまだ学校にいるんだ。俺がいるべきはここじゃないだろ。

 ふとそんな言葉が浮かぶ。そして反射のように神経が張り詰められ、感覚も鋭くなっていた。鼓動も早くなっている。

 何故こうも身体が興奮しているのか、理由が分からなかった。

 「坂元も緊張するか。俺達どうなるんだろうな。」

 ケンスケから心配する声を掛けられた。気付いていなかったが酷い表情をしているのかもしれない。でも今感じる緊張はケンスケが言うような類のものとは違う。

 どちらかと言えば試合に挑む前の感覚に近い。もしくは臨戦態勢とも、挑む前に自分を昂らせる感覚だ。

 「みんな集まったね。出発します。」

 号令が出されぞろぞろと歩き出す。周りの生徒を見れば恐怖におびえていた。

 一方で俺は酷く冷静でひどく熱くなっていた。

 

 「妹の無事も確認できたし後は無事に終わるだけや。」

 「さあ、どうだろうね。さっきから揺れるし、街はきっと悲惨な状況だよ。」

 トウジの妹、サクラちゃんは怪我なく避難所に来ることができたようだ。お陰で本人もすっかり安心してこの状況を楽観視できている。

 「お、坂本。どうした。」

 急に立ち上がったところを呼び止められた。少し考えて気分転換と答える。

 実際、未だに体の熱が収まらないせいで無性に苛ついていた。おまけに頭は冷めきっているから周囲の音や変化が気になってしまうのもあって、人の多い避難所をいち早く抜け出したい気分だった。

 「じゃあ、俺も一緒に行くよ。暇だし。」

 「なら、わしも。委員長!わしら、風に当たってくるわ。」

 「ちょっと三人とも!勝手に行動しないで!」

 文句を垂れる委員長にトウジが対処する。委員長が突っかかってくることはいつものことだ。彼女のことはトウジに任せ、一足先に休憩所へ行くことにした。

 「あんなこと言っていたけどさ、実は外の様子を見るための方便だろ。」

 ケンスケがニヤニヤしながらこちらの様子を窺う。

 そんなつもりはなかったが確かに外の様子が気になる。俺たちの頭上で一体何が起こっているのか。

 「だろ?そこで相談なんだけど外に出るルートを探すの、手伝ってくれないか?」

 両手を合わせ、是が非でも行きたいんだと嘆願される。

 この深さでも揺れが伝わってくるくらいだ。地上では激戦が繰り広げられているに違いない。今、外に出るのは危険だと分かるのだが。

 ケンスケの誘いをどうしたものかと案じ、天井の方を見る。

 微かに天井が揺れている。

 それに気付いた時体中を悪寒が走った。もうすぐ大変なことが起きると本能が訴えていた。

 「どうした?怖い顔して。」

 またもケンスケに心配されてしまった時、突然避難所内が激しく揺れる。揺れは短いスパンで何度も起き、たちまち所内には叫び声で溢れだす。そして一番大きな衝撃が襲ってきたのを最後に揺れはピタリと止んだ。

 嵐の前の静けさとでも言うのか。訪れた静寂を不気味に感じる。

 しかし、みんなやっと終わったと思っているのだろう。揺れが収まり、安堵の声が至る場所から聞こえる。

 杞憂なだけだろうか。でも嫌な予感は残ったままだ。

 神経を張り巡らせていると遠くでいくつもの鉄骨が衝突するような音が聞き取れる。そしてその音はこちらの方へ迫ってきていた。

 このままでは天井が崩れ、多くの被害者が出てしまうのは容易に想像できる。

 さっきの悪寒はこの事実を知らせるためだったか。

 これから起こるだろう惨劇を理解した瞬間、もう身体は勝手に動いていた。無意識だった。大声で天井の崩壊を伝え、人々にその場を立ち去るように伝える。

 避難所内での声はよく響いた。人々はすぐに不穏な音が近づいていることに気付き、その場は再び悲鳴で満たされる。他方で数人の大人達が素早く対応して逃げ惑う人々を誘導しようとしていた。彼らがいなければ事態はもっと悪化していただろう。

 それでも胸騒ぎを収まらない。まだ何かを見落としている感覚が払拭できない。

 周囲を見渡す。大人も子供も我先にと逃げようと勝手に動いている人が殆ど。短時間で周囲の状況を把握するのは困難だった。

 人々の声が掻き消されるほど鉄骨の崩れ落ちる音が大きくなっている。頭の中でも天井が崩れ落ちてしまうと警鐘が鳴っている。

 それでも血眼になって探していると視界の端で誰かが倒れているのが見えた。またも考えるよりも先に体が動いた。目の前の人々を掻き分け、その子の元へ足を動かしていた。

 「サクラ!はよ逃げんか!」

 身動きの取れないトウジが懸命に叫んでいる。倒れていた子供はサクラちゃんだった。

 頭上では天井の軋む音が無慈悲にも救いのない結末を告げようとしている。人の波を抜け出し、その場から動けなくなっているサクラちゃんを救おうと全速力で駆け出す。

 ある人は目の前で起きるだろう惨劇に耐えられず目を背け、ある人はその出来事に驚くあまり見ることしかできず、ある人は既に悲劇として嘆いている。

 照明の光が消え、周りは暗くなる。自分にもサクラちゃんにももうすぐ死が訪れるのを感じ取れた。俺に気付き、こちらを見た少女の顔は恐怖で強張っていた。

 間に合わない。そう思った俺は体を投げだすと、そのままサクラちゃんを抱き寄せ地面へと飛び込む。地面にぶつかる衝撃を上手く受け流しつつ、その子が頭を打たないようにする。

 何度も横転していると傍で瓦礫の落下音が何度も轟いた。

 寸前で下敷きになることは避けられたようだった。証拠に眼前には鉄屑の山が積み上げられていた。

 もし一歩遅かったら。あまりに恐ろしい想像に唾を飲み込まざるを得なかった。

身の危険が去ったと理解できたところでサクラちゃんの安否を確認する。

 「は、はい。大丈夫です。」

 現状を理解できておらず目をぱちくりとさせていたが怪我はしていない。それが分かると、ほっと一息つく。

 つい先程まで張り詰めていた神経もすっかり解けていた。

 次に自分で歩けるかどうか質問したところ、難しいと返される。今怖い体験をしたばかりだ。仕方ないと考え、そのまま抱いてトウジのところへ連れて行くことにする。

 「ありがとうございます。えっと」

 俺のことをどう呼べばいいか困っている様子だ。別に放っておいてもいいのだが、ずっとモジモジされるのも鬱陶しい。リョーマでいいと呟く。

 すると見ている方が驚くほど明るい表情になり、

 「リョーマさん!ほんまにありがとうございます!うちのこと助けてくれて。」

 特徴ある大阪弁で元気よくお礼を言ってきた。

 トウジの溺愛する理由が分かる気がする。ひどい目に遭ってもしっかりと感謝が言えるあたり、なかなか肝が据わっている子だ。

 そのお兄さんはと言うと号泣しながら自分の妹の名前を連呼しており、いろんな感情が入り乱れて顔もすごいことになっていた。

 結果だけ見ればこの事故で負傷した人間はいなかった。それは避難所で起こる事故を察知したからであり、もっと言えば体のギアが入りっぱなしで五感も鋭かったからだ。

 あれは一体何だったんだろう。今日の身体の変化が尚更疑わしくなる。

 今回の結果は副次的なものだろう。この大惨事を未然に防ぐためのものとは到底考えられなかった。警報が鳴った時点から反応していた理由が理解しかねるからだ。おそらく別の理由で反応しているはずだ。

 「そろそろ降ろしてください。も、もう歩けますから。」

 思考に耽っているとサクラちゃんに気遣った言葉を掛けられた。また険しい顔になっていたのかもしれない。心配するなと言い、その提案を断っておく。

 怪我しているわけでも疲れているわけでもない。気に掛ける必要もない。

 そう言うとなぜか笑われてしまった。全く面白いとは思わないのだが。

 よく分からないが笑顔のサクラちゃんを抱えながらトウジの元へ歩く。

 鈍重な金属音。鼓膜を破るような音がまた響き始める。

 何事だと思い後ろを振り向くと、映ったのは崩れ落ちる鉄骨。それは金属特有の擦れる音を鳴らしながらこちらを目掛けて落下してくる。

 瞬く間に鉄骨が迫り、二人とも助からないのは明白。一瞬で判断するしかなかった。

 咄嗟にサクラちゃんを強く抱き締め彼女を庇う。

 次の瞬間落下した鉄の塊が背後を襲った。強烈な衝撃が全身を伝わり、激痛も続けてやって来る。

 倒れた鉄骨とともに地面へ激しく打ちつけられ脳が揺さぶられる。次第に視界がぼやけ、血の温い感覚に浸る。

 果たしてこの子は大丈夫だろうか。

 腕の感覚も失い、もはやどうなったか確認する余裕すらなかった。それだけを案じながら意識は真っ黒な底へ沈んでいった。

 

 目の前にはどこまでも水平線が続く何もない空間が広がっていた。

 「ここには誰もいない。在るのは俺だけか。皮肉なもんだな。」

 そこには自嘲する少年の姿があった。ただ独り笑い続け、しかし瞬きもしない彼の瞳は事の結末を一心に捉えていた。

 もう時間の感覚を失う頃合いになってとうとう笑い声も聞こえなくなる。

 -ごめんなさい。

 少年の隣から見知った人の声が発せられる。しかし、その相手を一瞥もすることなく未だ瞳には変わらぬ景色が映っていた。

 「どうして謝る。謝るのはアイツの方だ。」

 そして眉一つ動かすことなく少年は少女の言葉を否定した。これに対し、俯いて物憂げな表情をするばかりで少女が答えることはない。

 互いの言葉を交わすことなく時間が流れていく。

 「もう一度やり直すことはできるか。」

 少年の目には再び光が宿っていた。沈んでいた表情も精悍な顔つきへと変わっており、彼の中で決意が固まっているのが読み取れるほどだった。

 ―あなたが望むなら。でも人はまた同じ運命を辿るわ。

 その一方で少女の表情は変わらず晴れないまま、彼のことを不安そうに見つめている。

 「それで十分だ。」

 少年はもう前しか見つめていない。覚悟を決めた彼と少女では映っているものが違った。

 少年の気持ちが変わらないことに気付き、観念した少女は口を開く。

 ―あなたは何を願うの?

 「アイツが全てを捨てて目的を遂げるなら、俺は全てを守り目的を遂げる。これが俺のケジメで、復讐だ。俺の願いだ。」

 少年は目の前の少女に自分の想いを語り、そして大胆不敵に笑ってみせた。

 

 また夢を見ている。最後に少年が誓う夢。

 少年はあんな場所に一人でいたのだろう。少年が見ていた景色は何だろうか。なぜ笑っていたのだろう。

 朦朧とした意識の中で疑問が浮かんでくるが答える術は持ち得ていなかった。

 「坂元!坂元!」

 俺を呼ぶ声が聞こえる。トウジやケンスケ、委員長、クラスのみんなが何度も名前を連呼している。他にも親父や先生も呼んでいる。

 自分が眠っている間に大事になっているようだ。一斉に叫んでいるものだからもう耳が痛くなってきた。

 早く起きないとな。皆が待っている。

 重たい瞼を開くとベッドの周りには大勢の人がいた。みんな、俺が目覚めるのを待ってくれたのだろう。

 まだ不安そうな視線を送られるので、意識が完全に戻ったことをアピールする。

 すると無音だった病室が歓声で耳が痛くなる場所へと早変わりだ。

 声に出し歓喜に沸く者、互いに抱き合う者、涙を流す者。それぞれの喜び方で無事を祝ってくれていた。

 自分が思っていた以上に周りの人に好かれていたと肌で感じる瞬間だった。

 場が落ち着いてきたので親父に事故の被害がどうだったのかを尋ねる。すると周りがざわつき、親父からもバカ息子がと号泣されてしまう。

 なんだ、みんな大げさすぎないか?

 「リョーマさん!無茶はだめです!」

 周りの反応に戸惑っていると今度はサクラちゃんに泣きつかれる。目が腫れ鼻水も垂らして、と顔が大変なことになっていたが、あの事故でも無事でいてくれたようだ。

 しかし、こんな小さい子を泣かせるほどかと内省しつつ、彼女の頭を優しく撫でる。

 「こら、サクラ。坂元も困っちょる。」

 トウジがベッドにしがみつくサクラちゃんを引き剝がそうとする素振りを見せたので首をゆっくり横に振る。しっかりしているとはいえまだ子供だし、たまには我儘に付き合うのも悪くない。

 「すまんのう、坂元。」

 やはり兄ということなのか、普段は調子の良いトウジが珍しく大人しい対応だった。彼のギャップが可笑しくて、つい笑い声が漏れてしまう。やり取りを見ていた周りの人間もつられて笑いだし、しまいにはトウジ本人も恥ずかしそうに笑った。

 病室はすっかり賑やかな場所だった。

 笑い合う彼らの姿を眺めているとまた口の端が緩む。ひとまず安心できた、そう表現するしかない気分になっていた。

 「嬉しそうだな、リョーマ。」

 「ずっとこんな景色を見たかったからな。」

 親父に問われると自然と言葉が出てきた。

 心のどこかで願っていたのだろうか。自分の知っている人達だけでも笑顔でいる日常を守りたいと願っていたのだろうか。

 「そういえば事故の負傷者は一人だけだそうだ。」

 親父の言葉を聞き、腑に落ちる。全部望んでいただけじゃないかって。

 あの記憶もあの反応もこの感情も俺が望んだのが原因だと考えると納得する。なぜ納得したのかと問われるとまた答えることが出来ないのだが。

 考えても答えは出てこない。多分今はまだ分からないままだ。

 




 
補足です。

青の巨人:零号機のことです。本来はまだ黄色のカラーリングをしていますが、 リョーマの認識では零号機は青色のカラーリング。エヴァンゲリヲンとも零号機とも呼称しないのはリョーマ本人が理解していないから。


リョーマの家族構成:養父、坂元リンタロウのみ。リンタロウは内閣官房長官を務める政治家である。父母ともに不明であり、兄弟がいるかも分からない。そのため、彼の見舞いに来る家族は養父だけだった。家事は雇った家政婦に任せている。


坂元リョーマ:長身の美少年。バスケ馬鹿。
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