2年A組のロビンフッド   作:vtuber好きの一般人

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登場人物

碇シンジ…内気な主人公。第壱中学校へ転校するも未だにクラスに馴染めず浮いた存在である。

坂元リョーマ…実はインテリなバスケ馬鹿。入院中に知り合った職員にしれっとバスケを布教していた。

綾波レイ…無口な美少女。興味もないのに誰かさんのせいでバスケに詳しくなっている。

葛城ミサト…シンジとレイの上司。朗らかな性格でシンジに理解を示す。

赤木リツコ…ネルフの科学者。最近嬉しいことがあったようで、上機嫌なことが多いらしい。

鈴原トウジ…妹想いなクラスメイト。リョーマを尊敬しており、直情的な行動が玉に瑕。


消えない記憶

 今日もシンジは一人コッソリと教室へと入る。数人の生徒が彼の存在に気付いたが、彼らからの挨拶はない。

 「今日退院だって。」

 「やっとかー。長かったね。」

 みんな、ソワソワしている。今日は何かあるのかな。

 朝からクラス全体が落ち着かない雰囲気だった。男子も女子も同じ話題について話している。会話に混じっていないシンジでも何か嬉しいことがあるのだと感じ取れた。

 教室のドアが開く音がすると、その場が一段と騒がしくなる。

 誰かを待ってたんだ。

 気になったシンジも他の生徒が向ける視線の先へ顔を動かす。そこにいたのは群を抜けて体の大きい少年だった。

 既に数人の生徒が少年の周りを取り囲み、質問攻めにしている。遠くに座っている生徒も聞き耳を立て注目していた。

 あの人、人気者なんだ。皆から認められて、愛されている。

 嫉妬と羨望がシンジの中で湧きあがる。

 正体も分からない敵と戦わせられて、誰も味方のいない場所で生活している自分。それでも変われない自分。

 彼は嫌な自分とは正反対な人物だった。

 卑屈な気持ちで見ていると、少年は誰かを探すように目線を移し始める。シンジも一体どうしたのだろうと様子を窺っていると、彼と視線が合ってしまう。すると彼は再び笑顔になった。

 えっ、こっちに向かってきた?

 まさか自分を探していたと考えていなかったシンジは慌てて顔を背ける。

 「最近このクラスに来た転校生だって?」

 しかし少年はまわり込み、シンジの目の前に姿を現す。

 「俺は坂元リョーマ。よろしく。」

 「碇シンジ、です。えっと、よ、よろしく。」

 リョーマの突然の来訪に驚いたシンジはうまく舌が回らずどもってしまう。恥ずかしさで顔を赤らめるとリョーマの笑い声が聞こえてくる。

 「そんな顔するなって。シンジを笑いに来たんじゃないんだ。」

 睨みつけるシンジにリョーマはなおも笑いながら片手で謝る仕草をする。

 「サードチルドレン、そう呼ばれているだろ?」

 リョーマがシンジの耳元で小さく呟く。

 彼の口から発せられた言葉はネルフ職員が使っていたものだった。一般人の彼が知るはずもない。シンジは驚きのあまり、咄嗟に言い返すことができなかった。

 「反応を見るに勘は合っているみたいだな。じゃ、紫の巨人、皆はロボットだって言うんだが、それも知っているのか?」

 さらに衝撃の言葉が続く。誰も知らないと思っていた秘密が当然のように話題に上がり、既にシンジの頭の中は真っ白だった。

 「みんな、エヴァのこと知っているの?」

 口を滑らしネルフの機密事項を漏らしてしまう。慌てて自分の口を防ぐが、今となっては後の祭りだ。僅かに罪悪感を抱きながら、恐る恐るリョーマの様子を窺う。

 しかし、リョーマは真剣な顔つきで考え事をしているようだった。質問攻めにあうものかと心構えていたシンジはその反応に拍子抜けする。

 「エヴァンゲリオンだったな。」

 「えっ?なんて?」

 妙な言葉を呟き、一人で納得している。彼の突然の発言をシンジはうまく聞き取れなかった。

 「口に出ていたか。」

 素っ頓狂な様子のシンジに気付き、照れ隠しのように笑いだす。

 「独り言みたいなもんだ。恥ずかしい。」

 「そ、そうなんだ。でも大丈夫だよ。あんまり聞こえなかったし。」

 ならいいんだとリョーマが誤魔化していると、朝のホームルームを知らせる予鈴が鳴る。

 「もうこんな時間か。」

 「本当だ。今日はありがとう。話しかけてくれて嬉しかった。」

 ほんのり頬を染めるシンジにリョーマは大袈裟だなと笑い飛ばす。

 「また後でな。ああ、それと。発言には注意したほうがいいと思うぜ。初号機パイロット、碇シンジ。」

 不敵な笑みを残し、シンジの元を去っていく。

 初号機パイロット。クラスではそんなことまで知れ渡っているのかな。

 シンジは若干の恐怖心を抱きながら、彼の大きな後ろ姿を追った。

 

 シンジの日常はクラスにリョーマが戻ったこと以外に特に変わることはなかった。リョーマが挨拶に来てくれたくらいで、クラスの誰にも話しかけられず一人で過ごす一日だった。

 今日も老教師の長話に退屈していると、パソコンの画面に誰かのメッセージが届いた知らせが来る。

 メッセージを開くとシンジが例のロボットのパイロットであるかを尋ねる内容が書かれていた。

 坂元君が言っていたことは本当だったんだ。

 シンジはあっさりと受け入れることができた。むしろ、リョーマが全く話を広めていないことに感心するくらいだった。

 みんな知っているなら隠す必要ないよな。

 抵抗もなくYESと書かれた箇所をクリックする。次の瞬間、クラス中が驚きの声で埋まり、多くの視線がシンジへと注がれる。そして、授業そっちのけでシンジの席へ生徒が殺到した。

 何人かの生徒は自分の席に留まり、その様子を眺めていた。特にトウジはシンジに敵意のこもった目を向けている。

 「なんや、あの転校生。いい気になりおって。」

 「あれくらいの権利はあるでしょ。俺達の街を守ってくれたんだ。」

 腕を組み、輪の中心にいるシンジを睨む。トウジは不機嫌そうな様子を一切隠すつもりがない。ケンスケが宥める言葉を掛けるが、効果があるようには見えなかった。

 「せや。でも守ったのは街だけや。ワシらやない。」

 「確かにそれに関しては俺も同意見だな。」

 多くの生徒に囲まれ、次々と来る質問に答えているシンジを二人は冷めた目で見ていた。

 

 騒ぎも一通り収まり、やっと一息を入れたシンジの元へ険しい顔をしたトウジが訪れる。

 「転校生、ちょっといいか。」

 「うん、いいけど。」

 「すまんが、ここで話すのはあれや。場所を変えるで。」

 今度は何を訊かれるんだろう。

 他の生徒と同じだと思ったシンジは何の疑いもなく、トウジの後に続く。

 ところが校舎を出ても足が止まることはなく、中庭まで歩いたところで彼はやっと止まった。

 「転校生。坂元がなんで昨日まで学校にいなかったか知っとるか?」

 「いいや、知らないけど。」

 「ワシの妹庇って怪我したからや。ビルの破片が落ちてきて、その下敷きになりそうなところを救ってくれたんや。でも、そのせいで入院して、退院した今も部活は禁止されとる。」

 「それは気の毒だね。」

 ミサトやリツコ、ましてやクラスの生徒の誰もシンジにそんな話を振ることはなかった。初耳の情報に目を大きく見開いたシンジの様子にトウジは軽く舌打ちする。

 「幾つものビルの破片が避難所の天井を突き破って、ワシらの頭上を襲ってきた。なんでか分かるか?」

 「ごめんだけど分からない。」

 質問の意図も理解できず、シンジは正直に答える。するとトウジのかめこみに血管が浮かび上がり、目を血走らせる。

 「オマエがあのロボットに乗って無茶苦茶に暴れたからや!ビルを壊したせいであんな事故が起きた!」

 「そうだったんだ。ごめん。」

 使徒と戦う、あんな怖い思いをしたのになぜ自分が非難されなければいけないのか。

 シンジはそんな気持ちを秘め、無難に謝る。しかし、トウジにはシンジが生意気な態度を取っているようにしか映らなかった。

 シンジの襟元を乱暴に掴み、怒りの感情をむき出しにする。

 「オマエは坂元からバスケを奪っとるんやぞ。分かっていたら、そんな態度取れんはずや。」

 トウジの怒号がシンジの耳の中でガンガンと響く。

 理不尽に感じた。何も悪いことをしていないのに、他人のことで怒られる理由はないはずだ。

 「なんだよそれ。僕に分かるはずないだろ。」

 中庭で鈍い音が鳴る。

 シンジは地面に腰をぶつけ、口の中でじんわりと血の味が広がっていた。

 「せやな。オマエは何も知らん。坂元がどんな想いでバスケしとるか。それを捨ててワシらを救ってくれたのがどんなに凄いのか。何も分かっとらんのや!」 

 「トウジ、もう止めとけって。」

 これ以上は不味いと傍で見ていたケンスケがトウジを抑える。

 「止めるな、ケンスケ。ワシはコイツに教えなあかんのや!」

 トウジの怒号がシンジの耳の中でガンガンと響く。

 どうして自分だけが今も惨めな気持ちになっているのだろうか。

 揉める二人を前にシンジは立ち上がることもせず項垂れている。

 「羨ましいよ。坂元君には君達みたいに味方になってくれる人がたくさんいるんだ。僕とは全然違う。」

 もはや独り言のようだった。

 二人はシンジの吐いた言葉を聞き、ピタリと動きを止める。

 「ワシの言ったこと、何も理解してないみたいやな。」

 ケンスケを振りほどき、歯軋りしながらシンジへ向けて拳を溜める。

 また殴られると思ったシンジは目を瞑る。

 何も見えない真っ黒な視界の中、あの痛みが来るのを怯えながら待っていた。しかし、いつまで経っても殴られる気配すらしない。何かあったのだろうかとゆっくりと瞼を開ける。

 「もう十分だろ。」

 「でも坂元。ワシはやり切れんで。」

 リョーマが殴りかかるトウジを制しているところだった。

 「だからって人を傷付ける理由にはならないだろ。」

 その一言で途端に場が静まり返る。威圧感の声だった。ぼんやり聞いていたシンジでさえも背筋が凍った。

 リョーマの覇気に圧倒され、三人は暫く声を出すこともままならなかった。

 そして、リョーマもまた口を閉ざしていた。シンジに何か話そうとしてその顔を見た瞬間、酷く衝撃を受けたように瞳を開き、声を失った様子だった。

 誰も言葉を発しない異様な時間が続く。

 一人の少女の登場によって、ようやくその空間から解放される。

 「緊急招集。先、行ってるから。」

 いつの間にか現れたレイはシンジに声をかけるなり、踵を返し駆け出していく。

 何が起きたのか分からず、三人はその後ろ姿を呆けたまま眺めていた。

 「ま、待って。僕も行くよ。」

 我に返ったシンジはその場から逃げ出すように遠いレイの姿を追いかける。

 ふと気になり後ろを振り返ってみると、二人は相変わらず口を開けたままで目だけがこちらを追っていた。

 リョーマの表情は分からない。こちらを振り向くことなく、背を向けていた。

 どうして黙ったままなんだろう。

 彼のことが気になり、足が止まりかける。

 でも、今更話しかけてどうするのか。シンジはリョーマのことを頭の中から振り払い、ネルフへ走った。

 

 二度目の使徒戦。ようやく操作に慣れたシンジに対し、相手は容赦なかった。鞭のような腕がシンジを襲う。

 やっぱり無理だったんだ。僕がエヴァに乗るなんて。

 敵の攻撃を受け、シンジは早くも戦意喪失していた。余裕のない彼にミサトの指示が届くことはなく、必死に逃げることしか出来なかった。

 しかし無慈悲な攻撃がシンジの逃げの選択すら与えない。

 「アンビリカルケーブル断線!」

 内部電源に切り替わった音が鳴り、活動限界の残り時間を刻み始める。

 痛い。怖い。苦しい。エヴァにいいことなんてないのに、また乗っている。

 刻々と悪化する状況が彼の思考を奪う。目の前に敵が迫っているというのにシンジは慄くことしかない。

 抵抗する術すらなく、使徒に掴まった初号機は大きく宙へ放り投げられる。

 僕は戦いたくないのに。

 地面に叩きつけられた感覚に苦しみながら、シンジは何とか上半身を起き上がらせる。

 あれは坂元君と放課後の二人!?

 ふと手元に目をやるとリョーマが二人を庇うようにして避けている姿があった。

 不測の事態に驚いていると急に視界が暗くなる。

 今度は何事だと振り返ってみるも時はすでに遅し。眼前に広がる景色には敵が不気味に浮かんでいた。

 不味い。このままじゃ三人が。

 敵の振るった腕を掴み、真正面から攻撃を受ける。

 自由に動けないシンジは耐え続けるしかなく、凄まじい光と音を発しながら初号機の特殊装甲が融解していく。

 どうするか決断もつかず、無情に時間だけが過ぎていく。

 「シンジ!俺達を乗せろ!」

 リョーマの精一杯振り絞った声がシンジの耳に届く。

 「ミサトさん!三人をこの中に乗せてください!」

 「ダメよ、ミサト!許可のない民間人をエントリープラグに乗せられないわ!」

 シンジの判断にリツコは反対の声を上げる。

 「いいえ、民間人の保護が最優先よ。」

 しかしミサトはリツコの意見を押しのけ、シンジの判断に賛成の意を見せる。

 ミサトの指示により初号機の頸椎部からエントリープラグが排出される。

 「そこの三人!時間がないわ!早く乗って!」

 トウジとケンスケの二人は戸惑っていたが、リョーマに促されるようにしてプラグの中へ急いだ。

 「ああ!カメラが!」

 「なんや!?み、水か!」

 エントリープラグを満たすLCCに驚き、二人は慌てている。リョーマも一瞬意表を突かれた顔をするが、すぐに冷静さを取り戻していた。

 三人が乗ったことを確認したシンジは攻勢に出る。使徒をビル群の方へ思い切り投げつけ、ゆっくりと立ち上がる。

 「回収ルートは34番、山の東側に後退して。」

 ミサトから撤退指示が出される。

 また戦うのか、アレと。また逃げて。また痛い思いをするのか。

 周囲の声を彼は拒む。迫りくる恐怖と自己嫌悪の連続から心を塞ぐ、彼の防衛反応だった。

 「落ち着け。シンジは一人で戦っているんじゃない。」

 その瞬間、殻に籠った彼の意識は外界のもとへ引き摺り出される。

 気が付けば、シンジが握る操縦桿にリョーマの手が重なっていた。その手はシンジの手がすっぽり収まってしまうほど大きかった。

 「坂元君。」

 自分の背中を押してくれる存在を間近に感じる。手から伝わる温もりがシンジの心を少しだけ軽くしてくれる。

 「どうしたい。俺はシンジについていく。」

 リョーマの一言が怯えるシンジを勇気付ける。深呼吸し、自分の気持ちを確かめる。

 いつも逃げてきた。怖いことから、辛いことから逃げてきた。自分が傷付くことが嫌で人と触れ合うことにも逃げていた。今日だってあの場から逃げ出した。

 でも逃げていいことはないんだ。逃げる自分から変わりたい。だから、逃げることはやめるって決めたんだ。

 「僕はもう逃げたくない!逃げちゃダメなんだ!」

 雄叫びを上げると、勢いよく飛び出す。

 プログレッシブナイフを装備した初号機が山の斜面を駆け降りる。起き上がった敵は特攻を仕掛ける初号機へ躊躇なく攻撃を振るう。

 超高温を放つ腕は装甲を容易く溶かし、初号機の胴体を貫通する。

 しかしシンジが足を止めることはない。その痛みを我慢し、身動きの取れない敵へ肉薄する。

 剝き出しの赤いコアにナイフを突き立てる。高振動で削るような甲高い音を鳴らし、敵の硬いコアを貫いていく。

 使徒の沈黙が先か、それとも初号機の活動限界が先か。この戦闘を見守る者全てがどんな結末を迎えるか予想できなかった。

 両者共に引かず、時間だけが流れていく。ただし、シンジに許された時間は有限である。初号機の活動限界までの時間は残り少ない。

 ネルフ職員によるカウントが始まる。秒刻みに数字が小さくなるごとに緊張は高まり、シンジの額から汗が流れる。

 もう片手で数えるほどしか残っていない秒数の中、シンジがナイフをコアの奥深くへ差し込むと、コアにできた亀裂は徐々に大きく、深くなっていく。

 まだだ!まだ終わってない!

 シンジは最後の力を振り絞り、ナイフを一押しする。その執念により、遂に使徒の コアが割れ、乾いた音が鳴るとともに敵の動きが止まる。

 零。そして、終わりを表す数字が職員の口から告げられる。

 「エヴァ初号機活動停止!」

 「目標は完全に沈黙しました。」

 初号機も力を出し切り、立ったまま完全に停止した。

 使徒を倒したんだ。今度は僕自身の手で。

 シンジは掴み取った勝利に興奮する。初めて自分の意思で使徒を殲滅できたことが嬉しかった。

 「ナイスファイト。」

 戦闘が終わり、息を荒げるシンジへ労いの言葉を掛ける。

 リョーマが軽く拳を立てるのを見て、シンジも拳を立て、コツンと合わせる。

 前回の戦闘と違って、今回は爽やかな気分を感じていた。リョーマが傍にいてくれたからなのは明白だ。

 「ありがとう、リョーマ君。」

 「礼をしたいのはこっちさ。俺達を守ってくれてありがとう。」

 リョーマは目尻を下げ、穏やかに笑う。

 シンジはその表情に寂しさを感じた。人に面と向かって感謝されるのは初めてだから嬉しいのに、誰かにそんな顔をしてほしかったと心のどこかで思った。

 いや、僕は知っている。父さんに笑って欲しんだ。笑顔の父さんに話しかけてほしかった。

 電源が切れたことにより、プラグ内の温度がゆっくりと下がっていく。体中が冷え、肌寒くなる。でも両手だけはまだ温かい気がした。周囲も自分も冷めていくのに脳裏に刻まれるのは人が握ってくれた感触だった。

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