冥人、古き異国の刺客と雪原にて邂逅す 作:片栗粉
風が雪を舞い上げる。斬りつけるような冷たさが頬を容赦なく凍てつかせ、知らずのうちに眉間に皺が寄る。
上県の気候は相変わらず厳しい。ここまで来る間にも、飢えから凍え死んだと思われる骸だらけの流民の野営をいくつも通り過ぎた。
(蒙古が去ろうとも、民の暮らしは楽にはならぬか)
自ら選んだ修羅道とは言え、暗澹たる想いが胸の内に広がる。その心境を映し出したかのような鉛色の空からは、ひらりひらりと、風花がとめどなく降り注いでいた。
ふと、愛馬が足を止め、遠くを見つめた。
「どうした。風」
同じように耳をすませる。遠くで、剣戟の音が聞こえた。
「ゆくぞ!」
馬腹を蹴ると、愛馬は我が意を得たりと雪を蹴立てて駆け始める。
立ち枯れた真白い木々を縫い、小高い山を駆け上がり辺りを見回すと、海辺のひらけた街道で、幾人かの蒙古兵が、円陣となり何かを囲んでいた。
円の中心には、見た事のない装束に身を包んだ一人の男。雪で染めたような真っ白な装束に、血を流したような赤い腰帯。その顔は白い頭巾に覆われて伺うことはできない。
「風! 行け!」
愛馬は一声嘶き、猛烈な勢いで山を駆け下りる。刀を抜き、そのまま蒙古の円陣に突っ込む。
駆け抜け様、馬上から双剣を持った兵士を一刀のもとに斬り伏せる。思わぬ闖入者に、兵共が浮足立った。
円陣を切り裂くように駆け抜けると馬首を巡らせもう一度駆ける。
槍を持った兵が右前から穂先を勢いよく突き出した。間髪でかわし、馬上から跳ぶ。そのまま槍兵の懐へと飛び込み、首の横から胴を上段から斬り下ろし断ち裂く。悍ましい絶叫が響き、熱い飛沫が顔と胸を濡らす。
次の敵に備えようと呼吸を整えようとしたが、首筋から胴の半ばまで斬り込んだ刃が抜けない。後ろから雄叫びを上げ重装兵が迫っていた。
斬られる。と全身を強張らせたその時であった。
大柄な蒙古兵がびくりと身体を震わせ、口からごぼりと赤い血を吐き出した。
どう、と重い音を立てて巨体が斃れ伏す。
その後ろに、真白い異装の男が幽鬼の如く佇んでいた。蒙古の首辺りに添えられていた左手首からは、刃が突き出しており、赤く濡れていた。
暫し茫然と、その男を見つめていた。相変わらずその面は伺い知れぬ。剽悍そうな口の端には古い傷跡が見えた。
己の荒い呼気だけが、紅く彩られた雪原に響いている。呼吸を整え、男に問うた。
「おぬし、蒙古ではないな」
男が薄く笑った。白装束の異装の兵と、漆黒の鎧を血に濡らした冥人が雪のちらつく雪原で対峙する。
『こいつらはリンゴを持っていないか……お前、テンプル騎士ではないようだな』
そして、運命が交錯する。