人類最強は楽じゃない!   作:@ジョージ

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第九話:変革の日

水瀬が敬を案内した先は研究所の地下施設であった。

 

「何度見ても物騒ですね……」

 

二人の歩く通路の脇には、謎の生物が格納されたガラス製の円筒がずらりと並べられている。

 

「前来た時より増えてません?」

「最近大自然郷の地脈エネルギーが荒れていてな。今まで確認されていなかった異形の生物が増え始めたのだよ。お陰で研究所はサンプルだらけだ」

 

この研究施設ではNeo’sの研究だけでなく、地脈エネルギーなどの影響で突然変異を起こした動物の研究も行なっている。

五界のあらゆる場所で発生する危険性の高い生物は国際機関が駆除チームを派遣して討伐し、遺体もしくは無力化した個体が研究所に送られてくるのだ。

そうして突然変異個体を分析する事で発生の原因の究明、解決の役に立っているのだそうだ。

 

「キメラなんて作ってないですよね」

「そんな訳無いだろう。それは生命に対する最大の侮辱であり、倫理違反だ。第一そんな事をすれば研究所諸共私はこうだ」

 

水瀬は指を伸ばした手を首元に添える。

 

「ははは、すんません。物語とかでよくあるじゃ無いですか、マッドサイエンティストがツギハギのキメラ作るやつ」

「風評被害も甚だしい。私は世の為人の為に研究し、結果も出しているというのに、それを上層部はなかなか理解してくれなくてね」

「歳だけ重ねた頭硬い奴らばっかですからね」

「全くだ」

 

そんな軽口を叩き合いながら目的の部屋へと辿り着く。銀行の巨大金庫の様な重々しい扉が二人を出迎えた。

 

「第二位はこの先だ。私が扉をあげるから、君一人で入ると良い」

「水瀬さんは?」

「私は第二位にあまり好かれていなくてね。部屋に入った瞬間扉の外に飛ばされる」

「強制転移ですか……わかりました。扉を開けてください」

 

水瀬がカードキーで開けた扉を抜け、敬は金属のみで構成された無機質な部屋を進む。

 

薄暗い部屋を照らす青白い光に導かれた先には、先の化け物入りより一回り大きな円筒の水槽が置かれている。

 

中には一糸纏わぬ少女が一人。見た目は13〜4歳程度。その首元には幾つもの管が繋がれ、足元まで長く伸びた黒髪が水中を揺らめいている。

 

「久しぶりだな、遥」

 

水槽の手前で敬がそう言うと、少女は目を開け、ゆっくりと下降し敬の前へ移動する。

 

 

 

「待ちくたびれたよ、敬」

 

 

 

ネオスS級第二位、星間遥(ほしまはるか)。

『変革の日』以降人類最初の能力者にして、敬を軽々と超える人類最高の演算能力を持っている。

その能力の全貌は把握されておらず、汎用性は多岐に渡り、次元移動や時間移動すら理論上可能と言われている。

 

「ごめんな、入学してから顔を出せなくてさ」

「ホントだよ。ボクはこんな檻に閉じ込められて動けないのに、キミは学生生活を謳歌なんて羨ましいね」

 

遥はぷくぅっと頬を膨らませる。

 

「悪かったって。それに残念ながら謳歌なんて出来てないよ。それより、体の調子はどうだ?」

「調子?20年前から変わってないよ。強いて言うなら、前の大規模衝撃の所為でちょっと気分悪くなったぐらいかなぁ」

「うっ、マジすんませんでした……」

「ハハハ!大丈夫大丈夫!島が揺れたぐらいなんて事ないさ!ボクの命に別状はなかったよ、安心して?」

 

遥は見た目が中学生並みであるが、実年齢はすでに30歳を超えている。しかし体がそれに追いついていないのは、とある理由があるのだ。

 

 

 

 

20年前、遥は元々病弱体質で病院生活を余儀なくされ、余命幾許もなかったそうだ。

 

その時『変革の日』が訪れ、異なる世界の扉が開かれた。人類の叡智では測り切れない存在や力が流れ込み、人間界は混乱の渦に巻き込まれた。

 

そんな中遥は能力に目覚めた。最初はベッドの周りにある小物を浮かせる程度であったが、その力は次第に大きくなっていった。

 

触れずに物を動かし、掌から炎が上がり、触れた物を氷付かせ、終いには人の心まで読めるようになってしまった。

 

それに興味を持ったのが世界中の研究者達だ。

遥を研究し、利用しようと競って手に入れようとした。

 

だが残念ながら遥には時間が無かった。

持病の癌は身体中に転移し悪性化、もう半年持つかどうかであった。

 

そこで日本政府が秘密裏にとあるプロジェクトを立ち上げた。各国政府と手を取り合い、遥を延命させて超能力研究を行う事にしたのだ。

元々国際的な研究施設として用いられていた日本近海の小さな人工島「サン・ヴァレロン」に彼女を移し、世界最高峰の医療技術と研究者達を結集させる計画であった。

 

その事を病室で聞かされた遥は、人工呼吸器を無理やり外し、掠れた声でこう言い放ったそうだ。

 

 

『ベッドの上で天井を眺め続けるだけの人生はもう懲り懲り。でも生きたい。生きた証が欲しい。たとえボクの見る景色が何も変わらなくても、どうせなら何かの役に立ちたい』

 

 

この言葉が皮切りとなり、プロジェクトが本格的に開始された。

 

人工島の研究施設に大規模な地下施設を作り、医療スペースと研究スペースを確保。

 

遥を戸籍上故人とみなし、彼女に関するあらゆる情報を公から消し去り隠蔽した。幸か不幸か彼女の両親は数年前に亡くなり天涯孤独であった。

 

準備ができたら遥を人工島に輸送した。彼女が死ぬ前に水槽型の最新生命維持装置を取り付け、癌の進行を抑える事に成功した。

 

それと同時に人工島周囲をさらに埋め立て大幅に拡大。研究職員のための居住スペースやスーパー、娯楽施設などが建設され、まるで一つの町のようになった。

 

もちろん能力研究もトントン拍子で進み、Neo’s研究の礎となる学術理論が誕生した。遥以外の人類からも能力者が生まれ始めたこともあって、研究はさらに加速した。

 

その間も遥の能力は覚醒を続け、外に出なくても施設外部の状況を視認できるようになり(千里眼と呼ばれた)、生命維持装置を通じてネットワークに侵入し始めたりした。

 

そして能力の覚醒は衰えを知らず、遥自身が演算装置となりコンピュータと一体化。人工島の制御や近海の地脈エネルギーなどの観測、分析、制御を行うようになった。

 

最終的に人工島「サン・ヴァレロン」は、遥の脳となり、手足となり、遥そのものとなったのだ。

 

その後人工島の成り立ちを知らない一般人がカモフラージュとして住むようになり、能力研究の一環としてヴァレロン国際学園が建てられたのだ。

 

この一連の歴史を知るのは各界政府や五界統合政府の上層部と数少ない研究者や関係者、そして敬のみである。

 

敬が遥に出会ったのは彼がS級第二位認定されてすぐの事だった。当時敬は事情を知った時あまりの生々しさに酷く混乱したものの、遥が宥めて落ち着かせた。それ以来時々人工島に来ては話をするようになったのだ。

 

序列に関しては元々遥が一位だったが、表立って動ける敬が一位である方が都合がいいという事で勝手に昇格させられた。

遥の能力はあくまで人工島の設備によって初めて活かされるという事もあり、純粋な個人としての能力の価値は敬の方が高いという考え方もある。

純粋な戦闘力はもちろん敬が上なので、「人類最強」のレッテルも間違いではない。

 

 

そして件の遥は現在敬との久しぶりの会話を堪能していた。

 

 

「ていうかさ、敬はボクのこの姿を見ても何も思わないわけ?」

「どういう事だ?」

「どういう事だ?じゃないよ!色々丸見えなのにキミってば全く反応ないんだもん!」

「色々って……てか逆に聞きたいけど、なんで男の俺の前でそんな堂々としてんの?」

「ええええええええええ!?それを聞く!?それ聞いちゃう!?乙女心わかってない!サイテー!とーへんぼく!」

「そ、そこまで言わなくてもいいだろ」

「言うよ!言いたくもなっちゃうよ!で?理由は?」

「体がストライクゾーン外だから」

「…………………………………………………」

 

遥はガックリと肩を落とした。

 

「あのさ、その言い方さ、同じような質問をボク以外の女の子にされた時絶対言わないでね。いかに敬と言えど死ぬよ?ってかボクの知覚範囲内で誰かにそれ言ったらボクがキミを殺す」

「怖!わかった!誰にも言わない!約束する!」

「忠告したからね?はぁ、どーせならもっと成長してボインボインになってから成長止めたかったなぁ」

 

遥の体は癌の進行を抑える副作用で成長自体が止まってしまっている。

側から見れば老化を防ぐ夢のような技術だが、凄まじい規模の実験施設とエネルギーを消費する上に、生命維持装置を外した瞬間死んでしまうため実用化には程遠いのだ。

 

「でも今日は珍しいね、敬一人でここまで来たの?」

「いや、水瀬さんに付き添ってもらった」

「あのおじさんかぁ。あの人嫌いなんだよなー。第二位第二位って、ボクの事ぜんぜん名前で呼んでくれないんだもん」

「多分研究者として遥に情が湧かないようにしてんだよ。わかってやれ」

「えぇ!?あの人ボクみたいなのが趣味なの!?やだー!」

「ちがうちがう、可哀想とか思わないようにってことだよ」

「なーんだ。でもそれも酷くない?」

「そうでもしないと人の体使って研究なんて出来ないよ。心の安定を保つためにも重要なんだ」

「ふーん。でも納得できないなぁ」

「納得する必要はないさ。理解すれば良い」

 

そんな話を小一時間続けていたら、敬の滞在可能時間があと僅かになってしまった。

 

「悪い、もう戻らなきゃだ」

「そうなの?寂しいなぁ、またすぐに遊びに来てね?」

「人工島に住んでるし、すぐに来れるさ」

「やったぁ!約束だよ?あ、最後に敬に一つ言っておかなきゃいけない事があったんだ」

「何だ?」

「ほら、敬の学園ってもうそろそろ生徒会選挙が始まる頃でしょ?実は選挙活動の一環として毎年大自然郷でレクリエーションをするんだよ」

「へぇ、そうなのか。初めて知ったよ。でも、それがどうしたんだ?」

「実は最近大自然郷のあちこちで地脈エネルギーの暴走が確認できてるんだよ。キミは大丈夫かもしれないけど、何が起きるか分からないから気をつけてね」

「水瀬さんも同じこと言ってたな。ありがとう。それじゃあもう時間だから俺はいくよ。また今度な!」

「うん!またね!」

 

そうして敬は遥と別れ水瀬の元へ向かった。

 

「どうだった?第二位の様子は」

「相変わらず元気で安心しましたよ」

「そうかそうか。では地上に戻るとしよう」

 

敬と水瀬は地上へのエレベーターに乗り込んだ。

 

「あと水瀬さん、遥が『第二位』呼びはやめて欲しいって言ってましたよ?」

 

そんな敬の忠告に水瀬は、

 

「そうか」

 

と一言返すだけだった。

 

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