人類最強は楽じゃない!   作:@ジョージ

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遅くなりました


第三話:決勝戦・前編

『進行は引き続き私、ミリエルが務めます。只今コートの整備が終わりました。これより決勝戦、Aクラス対Cクラスの試合を開始します。それぞれのクラスはコートに集合し、ジャンパーを指定してください。なお、ボールは非常に高い耐久性能を持っておりますが、限界もあります。先程までの試合では警告しませんでしたが、ボールは一つしか用意していないので、破壊されると試合が強制終了となります。誰とは言いませんが、気をつけてください』

 

 人類最強率いるAクラスと、劫魔界最強率いるCクラスの決勝戦が始まる。運動場の騒ぎを聞きつけてか、二・三学年の生徒や先生も授業を中断して観戦しに来ていた。

 

 Aクラスのジャンパーは前回に続き敬が務める事となった。彼が中央線へ向かうと、それに応える様にソフィアが前に出る。

 

「やっとこの時が来たわね。待ちくたびれたわ」

「悪いが、お前の好きにはさせないからな」

「そうこなくてはね。精々私の邪魔をして頂戴?」

 

 ソフィアの体を深紅のオーラが纏う。劫魔界という一つの世界を統べた前魔王と同等か、それ以上と言われるソフィアの膨大な魔力が溢れ出し、凝縮され、可視化しているのである。

 対する敬はその魔力の奔流を前にしても涼しい顔を貫いている。

 

『準備は宜しいでしょうか?それでは決勝戦、開始!』

 

ブザーの音と共にボールが高く打ち上げられた。

 

敬とソフィアは地面から弾かれる様に飛び上がり、空中のボールを挟んで睨み合う。

 

「まずは力比べね」

 

お互いの右の掌がボールを捕らえる。

ソフィアは魔力によって超強化された身体能力で自陣へ押し込み、敬は『一方通行』で運動ベクトルを反転させる。

 

ソフィアが自身を纏う魔力を増大させると、敬が反射の倍率を引き上げる。それに対抗するようにソフィアが反射された以上のパワーで押し返す。

設計時の想定を超える応力に晒されたボールは、今にも破裂しそうな程に潰れていた。

際限なく跳ね上がっていくエネルギーのぶつかり合いにより、二人の間にスパークが迸る。

 

「このままだとボールが壊れる。引いてくれないか?」

「それはこっちの台詞よ。敬が引いたらどうかしら?」

 

ボールからミシミシという音が上がる。

限界が近い。

 

「俺としてはこのままボールを壊してゲームを終わらせても良いんだけどな」

「………仕方ないわね」

 

ソフィアは観念してボールを手放した。

敬はボールを自陣に軽く放り投げ、Aクラスの生徒に渡す。

 

試合序盤は両クラス拮抗した状態であった。

Cクラスは魔族が8割という強力な魔法使い集団だったものの、AクラスのネオスA.B級の能力者や身体能力の高い獣人がなんとか魔族の猛攻を押さえていた。

 

そしてソフィアにボールが渡れば、

 

「さあ敬、受け止めてくれるわよね?」

 

と言って確実に敬だけを狙ってくる。

澄ました顔から放たれる凄まじい威力のボールを、敬は他の生徒へ被害が出ないように補球しながら慎重に立ち回っていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

(試合時間あと5分、長いなぁ……)

 

 

そんな激戦の最中、Cクラスの伊織は常にコートの端に寄ってじっとしていた。狙われてしまったら魔族の後ろに隠れてやり過ごし、同じ場所に居続ける事でヘイトを溜めないように数十秒毎に左右の端を行き来していた。

そしてクラスの勝利に貢献していない事を後ろめたく思いながら、必死にボールを投げ合う同級生達の姿をじっと眺めていた。

 

(これ、逆に適当な所で当たった方がいいかも……主に私の精神的に)

 

外野に出れば狙われる必要は無く、ボールを受け取っても投げるのが得意な人に渡せばいい。罪悪感も少しはマシになる。

内野の数が減ってくると逆に目立つと判断した伊織は、わざとボールに当たるために歩き出した。

 

「ちょっと!獅子堂伊織!!!」

 

コートの中央に向かって2.3歩進んだ所で怒気を含んだ声に引き止められる。振り返れば、声の主はメロウであった。

 

「あんたさっきから何やってんのよ!」

「何って、私も動こうかなって」

「その前よ。試合が始まってから隅っこでじっとしてばかり、少しは試合に貢献する気はないの!?」

 

自分の事など誰も気にしていないと伊織は思っていたが、何故かメロウに目をつけられていた。

 

「今朝言ったでしょ、私運動嫌いなの」

「知ってるわよ。なら得意な奴の壁になりなさいよ」

「それも嫌だって言わなかったっけ?」

「我儘言ってんじゃないわよ。Cクラスは全員、姫様の勝利に貢献する義務があるのよ?壁でもなんでも馬車馬の様に働きなさいな」

「訳分かんない義務を押し付けないで。私は貴方の奴隷じゃないの」

「この、獅子堂敬の妹だからって調子に乗って……!」

「兄さんは関係ないでしょ!貴方こそソフィアさんの従者だからって調子に乗ってるんじゃないの?」

「はぁ!?い、言ってくれるじゃない!ここまで躾のし甲斐がある人間は初めてよ!」

「それはどーも。お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないわよ!」

 

二人の口論は激化していき、次第に両クラスの注目を集めていく。それに目をつけたAクラスの外野にいる獣人が、「隙あり」と二人に狙いを定める。

 

「どうやら姫様への忠誠心と根性を一から叩き直す必要があるみたいね」

「余計なお世話です!ほっといてよ!」

「あんたのその態度が気に食わないのよ!今まで兄に甘やかされて育ってきたんでしょうね?入学式の時のように!」

「………」

 

メロウがそう言い放つと、伊織が急に黙り込む。

 

「どうなのよ!」

「だから………」

 

獣人が伊織目掛けてボールを全力投球する。

狙いは完璧。当たれば病院送り必至の豪速球が彼女に直撃したと誰もが思った、その時。

 

「ほっといてって言ってるでしょ!!!!!!!」

 

伊織は反射的に左手を振り上げ、そして迫るボールをノールックではたき落とした。

 

瞬間、大きな破砕音がコートを襲う。

突然の衝撃にメロウは魔導障壁を展開してなんとか持ち堪えた。

 

「ケホッケホッ。一体、何が……」

 

視界がはっきりした後視線を伊織に戻すと、彼女の足元にボールがしっかりとめり込んでいた。

 

伊織はしばらくその場で呆けていたが、「ハッ!」と目を見開き、見る見るうちに顔が青褪めていく。そしてメロウに辛うじて聞こえる程度の音量で呟いた。

 

「やっちゃった、最悪。ほんっとに、サイアク」

 

驚きで硬直するメロウには目もくれず、伊織はそそくさとコートを後にした。外野にたどり着くと顔を伏せ、膝を抱えて丸まってしまった。

 

『えーと、何が起きたのかよくわかりませんが、審判の情報によると彼女の左手がボールに当たっていたそうです。Cクラス1アウトです』

 

「うふふ、私の予想通りね」

 

騒然とする両クラスの生徒を他所に、ソフィアが地面に埋まったボールを取り出す。

 

「手加減しないとボールが運動場から出ていくからどうしようかと思っていたのだけど、丁度いいキャッチャーがいるじゃない」

 

ソフィアがボールを構える。

狙いは敬でもAクラスの他の生徒でもない。

 

「私の相方に相応しいか、見極めてあげる」

 

踏み込んだ左足が地面を抉り、魔力が込められたボールがソフィアの手から放たれた。しかし、

 

「悪いな、こればっかりは邪魔させてもらう」

 

伊織を狙ったボールは、突如射線に現れた敬に遮られた。彼は能力でボールの運動エネルギーを0にし、周りへの衝撃を最小限に抑えた。

 

「釣れないわね。過保護は良くないわよ」

「今のは人に向ける威力じゃないだろ」

「あら?私の見立てでは十分補球できると思ったのだけど、見当違いだったかしら」

「………見当違いだ」

「はぁ、仕方ないわね。そう言うことにしておいてあげる」

 

ソフィアは心底つまらないという表情をしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『試合時間残り3分です。アウト数はイーブンです』

 

両クラスの残り人数は5人まで減っており、Cクラス側はメロウとチコも残っていた。試合の行方は10人の精鋭達に託された。

 

………なんて事はなく、もはや試合は最強同士の独壇場と化していた。

 

「うふふ、私のボールから他の生徒を守れるかしら?」

 

ソフィアは他のAクラスの生徒を狙うと敬が間に入るのをいい事に、ボールの威力を釣り上げながら攻め続けていた。

 

(ソフィアの奴、痛いところ突いてくるな。ボールが直撃すれば他の生徒じゃアウトで済まないし、かと言って外野が受けとれる威力じゃない)

 

ソフィアはAクラスの内野とCクラスの外野を人質に取る事で敬に勝負を強制していたのだ。

もう仕方がないと思った敬は、Aクラス他の4人に棄権するよう申し出た。

少しは反発が出ると思ったが、自分達が足手纏いだと気づいていたのかあっさりと引き下がった。

 

「面白いじゃない。一対一、頂上決戦といきましょう?」

 

その様子を見たソフィアも他の味方全員を棄権させる。

 

『棄権を認めます。試合時間残り2分、両クラス残り人数は1人です』

 

コートに残るのは敬とソフィアの二人だけ。

ボールはソフィアの手にある状態である。

 

「残り2分、敬なら力尽きずに楽しませてくれるわよね?」

「安心しろ、そんなに長く戦うつもりはないさ」

 

敬は「ふぅ」と一息つき、小声で呟いた。

 

 

「頼む遥、やってくれ」

 

 

その瞬間、運動場のコート全体を半透明の直方体が包み込み、敬とソフィアを外界から隔離した。

 

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