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第一話:人類最強の苦悩
魔族の住む世界、『劫魔界ヘルメリウル』
機械生命体の住む世界、『機械帝国マキナインスーラ』
神、天使が住む世界、『天楽園ルイトゥセル』
獣人が住む世界、『大自然郷アシリ・ヤ・ワンヤーマ』
そして、人類が暮らす『人間界ガイア』
5つの世界が前触れもなく統合した『変革の日』からおよそ20年――。
世界は統一され、五界統合政府の下、平和を手にしていた。
人間界のとある特区に設けられた人工島『新生五界都市サン・ヴァレロン』。
その中央には、五界に住まうあらゆる種族が通う『ヴァレロン国際学園』がある。
ここではちょっと特殊な出来事が日常茶飯事のように巻き起こる。
これはそんな学園に通うこととなった人類最強の能力者である獅子堂敬と、彼を取り巻く少女達のドタバタ劇である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ジリリリリリリ!ジリリリリリリ!』
「うーん、むにゃ」
『ジリリリリリリ!ジリリリリリリ!』
「あと五分……」
「兄さん?いつまで寝てる気?」
「………」
「顔を背けない!ほら、お・き・る!!!」
ドスン!!!!
「グハァ!」
腹部に凄まじい衝撃を感じゆっくりと目を開くと、敬に馬乗りになった双子の妹の制服姿があった。
「い、伊織」
獅子堂伊織(ししどういおり)。
肩まで伸びた黒髪ロング、横方向パッツンの前髪。身長は150あるか無いかの小柄な体格。容姿端麗で優秀な妹なのだが、兄である敬には非常に厳しい。
「はぁ、やっと目を覚ました」
「だからこの起こし方はやめろって言っただろ……普通の人なら臓物ぶちまけて死んでるぞ」
「どーせ兄さんは能力で衝撃を分散させるから大丈夫でしょ?」
「寝起きだと制御が狂うんだよ!」
「とにかく!早く起きてくれないと朝食に間に合わないの!今何時だと思ってるの!?」
部屋の時計を確認すると時刻は7:30であった。
「わかった、わかったからそこどいてくれ!着替えるから!」
「もう、早くしてよね。あと寝癖もしっかり治して。隣にいるの恥ずかしくなるから」
伊織はそう言うと敬の腹から降りる。
敬が今いる場所は『ヴァレロン国際学園』の学生寮である。男女で階層が分かれているのだが、起きるのが遅いと伊織は律儀にも起こしに来るのだ。
「それ、着替えるから部屋から出た出た」
「はーいはい」
伊織をあまり待たせないよう急いで準備を済ませ、食堂へと向かう。
食堂はすでに多くの生徒でごった返しており、レーンには長蛇の列が出来ていた。
「もうっ!兄さんが起きないせいでこんなに混んでるじゃない!」
「はいはい、悪ぅごさんした」
「何その反抗的な目、文句でもあるの?」
伊織がジト目で見つめてくる。
「別にないけどさ、なんか最近俺への当たりキツくね?」
「兄さん目を離すとすぐにトラブルを起こすから、私がしっかり真人間に育て上げるの」
「俺ってそんなダメ人間か?」
「もはや同じ人間かも怪しいレベル」
伊織が哀愁漂う表情で呟く。
痛い。胸が痛い。
「と、とにかく飯だ飯。早く並ぼう」
トレーを持ってしばらく並び、たまたま空いていた席に向かい合って座る。
「「いただきます」」
朝食の鯖の味噌煮を箸でつついていると、
「で?兄さん、入学して一ヶ月経つけど友達とか出来たの?」
「酷な事聞いてくるな……まぁ、ご覧の通りだよ」
敬が周囲を見渡すと、彼を怪訝な表情で見つめていた多くの生徒がサッと目を逸らす。
「まあ、入学式であんな事やらかしたからな。怖がられても仕方ないか」
「ただでさえ強力な能力をフル稼働するからでしょ?人工島崩壊するんじゃないかと思ったわよ」
敬のこの『能力』は望んで身につけたものではない。
20年前の『変革の日』以降、敬や伊織のように特殊な能力を持って生まれる人間が現れ始めた。
『ネオス(Neo's)』と称された新人類は、この学園都市で等しく教育を受けながら研究対象として調査されているのだ。
能力者の中には素質はあるものの未発現の人や、生まれた瞬間から能力が発現している人など様々。
そして敬のように、生物の垣根すら超えかねない化け物が稀に存在したりするのだ。
「そういう伊織はどうなんだよ」
「私?私は昨日四人ぐらいで女子会したもん。兄さんとは違って」
「伊織が羨ましいわ。俺と同じ化け物S級のくせに」
「シッ!変なこと言わないでよ!せっかく隠してるのに!!!」
伊織は必死な顔で唇に人差し指を当てる。
「はぁ。デリカシーも足りないときたら、これはイメージアップが難しそうね」
「俺は半分諦めてるよ……」
周りからの痛い視線に晒されながらの朝食を済ませ、寮を出て学園へと向おうとしたその時、
「あら、私を置いて登校するなんて寂しいわ」
「………っ!!!」
突然後ろから寒気と針で刺す様な視線を感じた。
「おはよう、そんなに驚かなくていいじゃない」
「お、おはよう。ソフィア」
ソフィア=ユースティ。
前劫魔界大統領を父に持つ、正真正銘のお姫様。
真紅の長髪と深い蒼の瞳。魔族特有である先端が三角形の尻尾と、頭の二本のツノが特徴的である。
劫魔界最強の血を色濃く受け継ぎ、チートクラスの魔力量とそれを自由自在にコントロールする天性の才能。
生まれるのが少し早ければ五界全てを彼女一人で征服したかもしれないと言われるほどの実力者だ。
今は敬や伊織と同じ学園一年生である。
「なぁに?剣のある目でじろじろ見て。何か気に障ったかしら」
「そういう訳じゃないが……」
「良かったぁ。そうね、私達はお友達ですもの。昨日の夜から貴方とするお話の内容を考えていたのよ?」
「さ、さいですか」
「メロウに聞いたのだけど、貴方の様な年頃の男子は、私に見つめられるだけでも幸せと聞いたわ。どう?」
ソフィアの視線が瞬きすることなく、敬を覗き続ける。顔も近い。
(どう、と言われてもな。内面はともかく、みてくれはめちゃくちゃ可愛いんだが……)
「ねえメロウ?敬の反応が鈍いのだけど、満足してるのかしら?」
ソフィアがちょっと不快な顔をすると、
「獅子堂敬?姫様を不安にさせるんじゃ無いわよ!見つめられるだけでも有り難いと思いなさい!ぶっ飛ばすわよ?」
いきなり噛み付いてきたのは従者のメロウ。
水色の髪と尖った耳。種族はセイレーン。
水を操る能力に長けており、ソフィアによれば500mmペットポトルに純水を入れて常に携帯してるらしい。
口癖は『乾くわー』である。
やはり無理して地上にいるのだろうか。
「その無礼、許される物ではないわ。姫にキチンとご挨拶なさい?」
「おはようって言っただろ?」
「乾くわー。『おはよう御座います。ソフィア様』でしょうこの駄犬」
「おはよう御座います。ソフィア様」
メロウは下手に刺激すると死ぬ程面倒くさいので、適当に従っておく。
「そんな他人行儀な挨拶嫌よ?普通に『おはよう』でいいわ」
「姫が不快になってるじゃない!どう責任を取るつもりよ!」
「どうって、お前がそう言えって」
「悲しいわ、敬の心が少しずつ離れていく気がするの」
「姫を悲しませるだなんて万死に値するわ!姫の言う通りにしなさいよ!」
「どうしろと言うんだ……」
もう付き合ってられないと踵を返そうとすると、メロウの後ろに隠れていたもう一人の従者が『ビクッ』と跳ねる。
「学校に行こうとしただけだ、いちいちビビるなよ……」
「チコ、お前、怖い……」
そんなか弱い声で震えるのはチコ。
伊織と同じくらいの体格で、銀髪の少女である。
種族は伝説の魔獣であるケルベロスらしいが、姫に使える為に擬人化してるらしい。
「ごめんなさい。チコはまだ貴方の事が苦手みたい」
「流石にちょっと傷つくなぁ」
「まあ、責任はこちら側にも少なからずあるのだけどね……」
チコの怯える目を見て、敬はつい一ヶ月前の入学式の日の事を思い出していた。