人類最強は楽じゃない!   作:@ジョージ

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話なかなか進まない………
誤字ってたらすみません。


第九話:中庭会談

【ソフィアside】

 

 メレクが教育実習生として国際学園にに赴任した当日、ソフィアは校舎の中庭で彼と向かい合っていた。

 

「約束通り来てくれてありがとう、ソフィ」

「前置きは要らないわ。早く要件を話しなさい」

 

 机にはメロウが淹れた紅茶が湯気を立てているが、二人は一向に手をつけようとしない。中庭には婚約者同士の話合いとはとても思えない緊張感が漂っていた。

 

「要件は無論、先日手紙で送った内容に関してだ。読んでくれたかい?」

「ええ、読んだわ。送られてきたタイミングは最悪だったけれど」

 

 青い便箋がソフィアに届いたのはクラス対抗戦の終了直後。

 お友達の敬とたっぷり遊んでホクホクしていた彼女を不快感のドン底に叩き落としたのである。

 

「お陰様で次の日は事実関係の確認のために学園を休む事になったわ」

「それはすまなかった。何せ、こうでもしないと君と直接話す事は叶わなかったものでね。劫魔界の現状は手紙に書いていた通りだ。ロイセス家が政権を得て以降、新魔王派と旧魔王派では未だ争いが絶えない。もはや予算案すらまともに通らない始末さ」

 

 劫魔界の統治機関である最高議会では、たった一つの政策を決めるだけでも『派閥が違うから』という理由で新旧魔王派で反発し合い、国政がまともに機能しなくなっているのだ。

 

「だからこそ、ロイセス家とユースティ家の不仲を私達の代で終わりにしたい。前魔王ギルヴァスの娘である君と、現魔王の息子である私が手を取り合う事で友好の証としたいんだ。どうか、婚約を受けてくれないだろうか?」

 

 二人の間に暫しの静寂が訪れる。ソフィアはゆっくりと目の前のカップに手を伸ばし、そのまま紅茶を一気に飲み干した。

 

「友好の証ですって?笑わせないで。嫁を寄越すぐらいで仲直りする間柄なら、派閥を作って何百年も争ってないわよ」

 

 ソフィアはわざとらしく『カタン』と音を立ててカップを戻す。

 

「彼らは私に従っているのではなくて、貴方達が政権を握っているのが気に食わないだけよ。私を次期魔王にと祭り上げるのも単にパパの代わりが欲しいだけ。私がロイセス家に貰われるくらいで埋まる溝では無いわ」

「それでも旧魔王派の象徴となっている事に変わりはない。ギルヴァスが政権を完全に放棄した今、派閥を大きく動かす力を持っているのは君だけなんだ。友好の証だけで足りないのなら、各貴族を一つずつ説得していくしか無い。たがそれは私や父上の力では足りない。君の力が必要なんだ」

 

 五界大戦が終わって以降、ギルヴァスは政治の表舞台に立つ事は無くなってしまった。

 実質的に派閥のトップが娘のソフィアにすり替わってしまった以上、有力貴族に意見してコントロール出来るのは彼女だけになってしまい、ロイセス家はそれに頼るしか無い状態なのである。

 

 劫魔界の安定の為に、とソフィアに協力を仰ぐメレクであったが、返ってきたのは冷たい言葉であった。

 

「争いたいなら、勝手に争っていればいいじゃない。面倒臭くなったのよ。期待されるのも、期待に応えるのも。私は私の思う様に楽しく生きたかっただけ。でも今の劫魔界には障害が多すぎるのよ。大体、どうして私があの時配下に反発したか解ってるの?」

「旧魔王派の有力貴族が君に期待と責任を押し付け、次期魔王となる為の教育をし続けた事に対してだろう?しかし、もう君がギルヴァスの代わりになって全てを背負う必要は無いんだ」

「少し違うわね。私は政治の道具として扱われている自分が気に食わなかったのよ。教育を受け続けた事だけじゃ無い、貴方と無理矢理婚約を結ばされそうになった事も含めてね」

「道具だなどと、そんな事は考えていない!」

 

メレクは机を叩き、椅子から立ち上がる。

そんな彼に対しソフィアは冷ややかな視線を向け続けるだけだった。

 

「じゃあ何?貴方私の事が好きなの?」

「勿論だとも。ひと目見た時から君に惚れていた。美しさだけではない、何者にも犯されない強さにも!君は道具ではない!」

「そう思っているのは貴方だけよ。更に言わせて貰えば、婚約の理由として最初に『協力してくれ』なんて言っている時点で貴方も同じよ」

 

 派閥同士の友好の証として、息子や娘を他派閥の者と結婚させる。

 それは劫魔界に限らず全ての世界の歴史において、政治的な意図をもって数多く行われてきた事である。

 

 そう、それはソフィアが最も嫌う政治の道具、操り人形として。

 

「それに、私は当分劫魔界に帰るつもりはないのよね」

「何を言ってるんだ?少なくともガイア界に追放されたのは、君にとっては不本意な事だった筈だ。ギルヴァスの事なら私と父上が説得すればどうにでもなる。この世界で3年間、無駄に時間を浪費するつもりなのか?」

「確かに初めはすぐにでも劫魔界に帰りたいと思っていたわ。でも、今は帰りたくない理由が出来てしまったの」

 

 

ーー帰りたくない理由。

 

 

 それは彼女に畏怖する事も、利用しようともしない、政治的な立場関係も無い、純粋な『力』でも大きな差が無い、そしてある世界において『最強』であると言うソフィアとの共通点を持つ存在。

 

 彼女がこれまでで初めて出会った、真の意味で対等に接する事ができる男、獅子堂敬である。

 

 自分と少し似た境遇を持つ彼に対し、親近感に加えて『この男の事をもっと知りたい』という興味が湧いてしまったのだ。

 

 

「ふふふっ、他の世界なんてつまらないと思ってたけれど、案外楽しめそうなのよね」

 

 獅子堂の事を頭に思い浮かべるだけで、自然とソフィアの顔に笑みが浮かぶ。

 

「まさかこの世界に君をそこまで惹きつけるものが………それは一体何だい?」

「さぁ?すぐに解るんじゃないかしら?とにかく私の気持ちは伝えたわ。これで十分でしょう?」

 

 

 ソフィアはそう言うと席を立った。

 

 

「それでも尚私の力が欲しいと言うのなら、文字通り『力づくで』従わせてみせなさい。出来るのなら、ね?」

 

 

 時刻は既に昼休み終了10分前。

 教育実習生としてこの学園に赴任したメレクは急ぎ職員室へ戻らねばならない時間帯である。

 

「分かった、今日はここまでとしておこう。だけど、決して諦めた訳ではない。それだけはわかって欲しい。失礼する」

 

 メレクはソフィア達を置いて職員室へと向かっていった。

 するとメレクとソフィアの会話中ずっと口を閉じていたメロウがソフィアの元へ歩み寄る。

 

「………姫」

「何かしら、メロウ」

 

 メロウの体は小さく震え、腕に血管が浮き出る程に強く両の拳を握りしめていた。

 

「私、何も解っておりませんでした。あの時姫が御乱心召され、心身共に傷ついておりましたのに。私は相も変わらず『姫は魔王になるべき存在だ』と言い続けました。それが今の姫にとって枷(かせ)になる言葉であるとも考えずに…………!」

 

 メロウの拳からポタリ、ポタリと赤い液体が滴り始める。

 

「いいのよ、メロウ」

 

 ソフィアはそんなメロウの手を取り、手拭いでそれを拭き取っていく。そして治癒魔法で傷を治してしまった。

 

「お、おやめください姫!姫の所有物を私の血で汚す訳には!」

「あのね、私は別に魔王になる気が無い訳じゃないの」

「え………」

「色々疲れたから、今はちょっと休もうと思っただけ。かれこれ九年間縛られ続けたのよ?ちょっと長すぎるかもしれないけど、休暇が欲しいわ。だけどこれまで通り帝王学等の勉強は続けるつもりよ。だからこれからもよろしくね?メロウ、チコ」

「はい!私はいつまでも姫について参ります!」

「チコもがんばるー」

 

 そしてメロウとチコは机とティーセットを片付け、ソフィアの作り出した異空間に収納する。

 

「しかし、いつの間にこんなに人が集まったのかしら」

「どうやらかなり注目を集めていた様ですね。いい時間ですし、教室へ戻りましょう」

「そうね………あら?あそこに敬がいるわ?」

 

 ソフィアの視線の先には敬と、その周りを取り囲んで楽しそうに話す四人の少女がいた。

 

「丁度いいわ。メロウ、『あれ』をやるわよ」

「ええ!?本当にやるんですか!?」

「当たり前じゃない。口実作りには最高のタイミングよ。これに成功すれば、婚約破棄という目標に一歩近づくわ。準備はできてるわよね?」

「は、はい、一応………」

 

 

 気乗りのしないメロウを他所に、目薬をスカートのポケットから取り出したソフィアは意気揚々と敬の元へ向かうのであった。

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