人類最強は楽じゃない!   作:@ジョージ

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第二話:入学式

「ちょっと!これは一体どう言う事なのよ!」

 

ヴァレロン国際学園入学式直前。

多くの新入生が新たな学び舎に向かう中、その校舎前で伊織は叫んでいた。

 

そこにはソフィアとその従者のメロウとチコ、伊織、そしてソフィアの足元で血塗れになって倒れた獣人の新入生が一人。

 

「どうって、彼が私の邪魔をしたの。だからお仕置きしたのよ?」

 

「お仕置きって……少しぶつかっただけでここまでする事ないじゃない!」

 

「姫の登校を阻害した上、ろくな謝罪も無し。ここまで無礼を重ねた罪は重いわよ」

 

そう言い放ったのはメロウ。

 

「そうね、致命傷だろうけど死罪にならないだけ感謝してほしいわ。あら、制服に血がついてるわ?」

 

「姫様のお召し物を、あまつさえ血で汚すとは!!!死んで償いなさいこの駄犬!!!」

 

「ガッ!!!」

 

メロウが既にボロボロの獣人の頭を思い切り踏みつける。

 

「やめて!!!本当に死んじゃうわよ!!!」

 

伊織は獣人とメロウの間に割って入り、彼女を制する。

 

「なによ。文句でもあるの?」

 

「大有りよ!どんな神経したらこんな酷い事出来るの!今すぐやめなさい!!!」

 

「酷いこと?違うわ、これは『教育』。支配者のみに許された特権なの」

 

ソフィアはこれを教育と呼ぶ。

もちろん伊織にはその概念が理解できなかった。

 

「貴方達、頭おかしいんじゃないの?」

 

「そう思うのは勝手だけど、ちょっとお口が悪いわね。チコ」

 

「ガゥッ!」

 

ソフィアが目配せすると、チコが伊織に襲いかかる。

 

「……使うしか、ないか」

 

伊織が覚悟を決めて呟いた瞬間、

 

「お口が悪いのはお互い様だ」

 

「ガゥッ!?!?」

「兄さん!?」

 

現れたのは伊織の双子の兄である敬。

擬人化前のパワーをそのまま乗せたチコの拳を片手で受け止めていた。

 

「兄さん、どうして……」

「バレたくないんだろ?」

「……!」

「ここは俺に任せて、下がってくれ」

 

伊織は敬に従い、その場から少し離れる。

 

「あら。彼、チコのパンチを無傷で受け止めたわ?なんの変哲もない人間に見えるのだけど」

 

「チコ!手加減してんじゃ無いわよ!その男諸共ぶっ飛ばしなさい!」

 

「ガゥ!」

 

チコは体勢を整えて再度敬に殴りかかる。

その拳を彼は避ける事なく、鳩尾にクリーンヒット。しかし、

 

「ガ、ガァァァァァァ!!!」

 

突然チコが地面に倒れ伏し悶え始めた。

敬に触れた右手の指と腕の関節があらぬ方向に折れ曲がり、骨折により赤く腫れ上がっていた。

 

「あ、ヤベェ。全反射しちまった」

 

「チコ!?い、一体どうなって……」

 

突然の出来事にうろたえるメロウであったが、ソフィアは「フフッ」と笑みを浮かべ、

 

「チコにここまでの傷を負わせるだなんて。そんな事が出来る存在はこの世に何人いるかしら?」

 

そう言いながら、ソフィアはゆっくりと敬に近づいてくる。

少しずつ、でも確かに彼女の力が膨れ上がっていくのを敬は感じた。

 

「面白いわ、貴方」

 

「っ!!!いけません!姫!」

 

何かを察したメロウがソフィアを制しようとするも、時既に遅し。

 

「貴方、ダンスはお好き?」

 

敬の視界からソフィアの姿が消え、目の前に現れたかと思えばそれはソフィアの足だった。

 

 

ドカァァァァァァン!!!

 

 

およそただの蹴りとは思えない音と衝撃があたり一面に広がり、砂埃が舞い上がる。

 

「初撃が顔面蹴りかよ。姫って言われている割には荒々しい攻撃だな」

 

砂埃が消えたそこには、またしても無傷の敬と、少し後ろに下がったソフィアの姿があった。

 

「あら、おかしいわ?蹴りを入れただけなのに、反動があまりにも大きいわね」

 

ソフィアは少し考えるそぶりをした後、

 

「なるほど。貴方の能力、物理反射ね。どう?正解かしら」

 

(気付くのが早いな。物理反射は能力の一部に過ぎないが、今の蹴りが本気じゃないなら相当の実力者だ。ここで戦うのは、あまりにも危険だな)

 

「まぁ三割正解、ってとこかな」

 

「あら残念。でも、逆に言えば後七割の力を貴方は隠しているって事になるわね」

 

ソフィアの口角が少しずつ上がっていく。

 

「なぁ、流石にこの場で戦うのはやめにしないか?周りへの被害が大きすぎるんだよ。お互い引くとしようじゃないか。な?」

 

敬はソフィアを宥めようとしたが、それは叶わなかった。

 

「こんな面白そうな事、やめる訳ないじゃない」

 

またしてもソフィアが敬の胴に蹴りを入れる。

全反射でダメージはないが、威力はさっきの倍だ。当然反射により周囲に凄まじい衝撃が走る。

 

「フフフッ、物理反射なら反射できる威力の限界点がどこかにある筈。貴方はどれだけ耐えられるかしら」

 

尚もソフィアの猛攻は続く。

一撃一撃ごとに威力が上がっていき、その尽くを敬は反射していく。

 

「おいおいやめろって!校舎壊す気かよ!」

 

「姫!初日から殺めるのはやりすぎです!!!」

 

流石のメロウも制止に入ったが、それで止まるソフィアではなかった。

 

「まだやれるわよね?いい加減貴方にも踊って欲しいの」

 

「……多少手荒だが仕方ない」

 

敬は能力の上限を一部解放。

ソフィアから受けた蹴りの全衝撃を何倍にも増幅させ、エネルギーのベクトルを開発中の人工島北部へ向けて自身の体をその衝撃に乗せる。

 

「あら?」

 

蹴りを入れたソフィアが予想しなかった方角へ向かって、敬は凄まじい速度で空に吹っ飛んでいった。

 

「鬼ごっこかしら。その遊び嫌いじゃないわよ?」

 

ソフィアは体の周りに魔法陣を展開し、空に飛び上がって敬を追う。

 

半径7キロは何もない場所を狙って敬が着地すると、それに続いてソフィアがふわりと降り立つ。

 

「私と二人きりになりたかったの?意外とロマンチストなのね」

 

「馬鹿言え。こんな何もない場所、ムードの欠片もないだろ」

 

「ふふっ、それもそうね。それでは、続きを始めるとしましょう?」

 

間髪入れずにまた襲いかかるソフィア。

 

(多分彼女は人の話を聞かないタイプだ。会話で戦いを回避するのは厳しいな)

 

しかし敬の目に映ったのは、半径十数メートルはあろうかという火炎球。真っ赤に染まったそれはまさに地獄の業火と言うべきか。

 

「貴方、夏はお好き?」

 

いつの間にか空中にいたソフィアがそれを片手で支えていた。

 

「流石に物理反射でこれは防げないでしょう?熱で焼け焦げるか、酸素不足で窒息するか、どちらか選んで?」

 

ソフィアは火炎球を敬に投げつけるが、迫りくる赤一色の球体を前に彼は冷静であった。

 

「エネルギーはTNT11.8t分ってとこか。MOABミサイルクラスの破壊力を易々と使うなよ……」

 

火炎球が近づき、周囲の温度が急激に上昇する。

ただし敬の前では無意味。敬に降りかかる熱エネルギーを全て反射し、彼の周囲の空間だけを20℃前後に保つ。さらに窒息回避のために大きく息を吸い込む。

 

大気温度は摂氏2000℃以上。

敬はその莫大な熱エネルギーに触れ、制御する。

 

「そら、返すぜ」

 

そう言ったと同時に火炎球は形を変え、一本の極太レーザーのように収束してソフィアに襲いかかった。

 

「あら、熱量も操作できるの?」

 

ソフィアは正面に魔法陣を展開し、レーザーに対して斜めに当てて軌道をずらす。当たり所を失ったエネルギーはそのまま宇宙空間に消えてしまった。

 

「面白い、ほんっとうに面白いわ貴方。もっともっと貴方の力を見せて頂戴?」

 

そう言って今度は青色の魔法陣を両手に展開すると、それと同じ色の半径10メートルの魔法陣が敬を中心に現れた。

 

「夏がダメなら今度は冬ね。私はあまり好きじゃないのだけど」

 

魔法陣内の気温が急激に低下していく。

そして気温が−200℃に達しようとしたその時。

 

「氷獄なんてロマンがあっていいわよね。氷に閉じ込められる経験なんてなかなかできないわよ?」

 

魔法陣の色が明るくなったと思えば、敬の周囲から巨大な氷塊が現れ彼に襲いかかった。

それはあっという間に敬を飲み込み、巨大な氷山と化した。

 

「絶対零度(アブソルート・ゼロ)。正確にはさらに50K(ケルビン)ぐらい低いのだけど、そう呼ぶには相応しいんじゃないかしら。どう?冬は好きになった?」

 

ソフィアが氷山の中の敬に問いかけると、それに応えるようにヒビが入り始める。

 

そのヒビが全体に回り、ついに砕けた。

 

「冬は別に好きじゃない。ついでに夏も」

 

「あらそう。じゃあ何が好きなの?」

 

「俺にとってはどの季節も変わらない。肌で感じる温度は常に一定だからな」

 

するとソフィアは少し驚いた表情をした。

 

「まさか貴方、季節の違いを気温だけで考えてるの?」

 

「景色とか風情とか、興味ないんでね」

 

「可哀想。絶対人生損してるわよ、貴方」

 

「なんとでも言え。というか正直さ、やられっぱなしは性に合わないわけよ」

 

「それで?」

 

「戦いを止めるよう勧めた俺が言えた事じゃないが、いい加減ターンをもらうぜ」

 

 

反撃、開始だ。

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