ソフィアに戦いを止める気が無い以上、彼女を沈める以外敬には選択肢はない。
ただ気がかりなのは、火炎球や氷塊で膨大なエネルギーを消費しているにも関わらず表情一つ変えていないことだ。
故に彼女が本気を出していないことは明白。
敬も十分に余裕はあるが、このまま全力で戦えば人工島がどうなるかわからない。
(だったら短期決戦だ。周りに被害が『出来るだけ』少ない攻撃で一発でケリをつける)
「脳内作戦会議は終わったかしら?」
「0.5秒も待てないのか。せっかちだな」
「早く遊びたくて仕方ないのよ。私を待たせないで頂戴?」
「わかったよ。とりあえず、『堕ちろ』」
「あら?」
上空を飛んでいたソフィアが高度を下げて地面に降り立つ。
敬とソフィアの周囲の地面が少しずつ窪んでいき、岩などの固形物が塵と化していく。
「これは……重力を操作したの?」
「今からやる事には強力な重力が必要なんでね」
敬は能力で自身に干渉するあらゆる力を操作できる。それにはもちろん重力も含まれる。
さらに自身だけでなく周囲にかかる重力にも干渉し、一定の範囲内なら0Gから数千Gまで制御できる。
「今は約1000G、地球の重力の1000倍だ。気分はどうだ?」
「ちょっと動きづらいし飛べないけど、問題ないわ」
「問題ないのかよ。チートかよ」
「1000Gかけてる貴方も大概よ?」
「そりゃ違いない。ところでお前、『核融合反応』って知ってるか?」
「名前だけは聞いたことがあるけど、それがどうしたのかしら?」
「今からそれを見せてやる」
空気中に存在する水(H2O)を水素と酸素に電気分解。
さらに生成した水素に適当な気体原子から拝借した中性子を加えて原子核が陽子+中性子の重水素を合成。
その間核分裂も同時に起きるため、そのエネルギーを別個に保存。
さらに重水素の一部に中性子を加え、原子が陽子+中性子2つの三重水素を合成。
敬の掌で行われる高次元の物理現象を前に、
「このエネルギー量は、なるほど……」
核融合を知らないソフィアもちょっと苦い顔。
「さて、最後の工程だ」
貯蔵した核分裂エネルギーを使って重水素と三重水素をさらに合成する。
最終的に生まれるのはヘリウム原子と、核爆発が可愛く見えるほどの莫大なエネルギー。
そのエネルギーは敬の掌で球状に押し込められ、今にも解き放たんと光り輝いている。
「こいつを耐え切ったら褒めてやるよ!」
その瞬間敬は周囲の重力を一気に0Gに変更。
瞬時にソフィアの近くに移動して彼女の腹部を蹴り上げる。その際核融合によって得たエネルギーを少し拝借した。
「グフッ!!!」
姫様らしくない声を上げたと思えば、ソフィアの体は一気に上空1000メートルまで上昇した。
もちろん蹴り上げた方の衝撃も凄まじく、地面には巨大な地割れとクレーターが出来上がり、マグニチュード8の地震がサン・ヴァレロンを襲った。
「見つけたぜ」
そんな中敬はソフィアに狙いを定め、核融合エネルギーを閉じ込めた球体にヒビを入れる。
「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
そのヒビから一気に吹き出したエネルギーの本流が、ソフィア目掛けて天に登る。
「っ!『ザルツエイン』!!!」
とっさにソフィアが召喚したのは真紅の大鎌。
魔王の血筋に受け継がれし、全てを無に帰す劫魔界最凶の刃『ザルツエイン』。
これを取り出したとなれば流石のソフィアも本気だ。
そして3秒後、ザルツエインと核融合エネルギーが衝突する。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!!』
言葉では表現しきれない爆音とともに、彼女の周囲の雲がすべて吹き飛んだ。
ソフィアが展開した全力の魔力障壁と核融合エネルギーの輝きが、まるで太陽のようにサン・ヴァレロンを照す。
そして光は少しずつ収束し、最後に残ったのは、
「Oh、マジかよ……」
真紅に輝くソフィアの魔法陣であった。
彼女は見事耐え切って見せたのである。
その魔法陣が消滅すると、ザルツエインも消滅してソフィアが落下する。
「はぁ、はぁっ、流石にっ、俺も、キツいな……立ってるのが、精一杯、だっ……」
鬼神の如き演算能力をフルに使ったため、敬の脳はショート寸前であった。
「ま、予想はしてたけど、防がれるのはちょっと悔しいな……待てよ?あいつ、もしかして自由落下してないか!?」
ソフィアは障壁の維持で力尽きたのか、重力に任せて1000メートルを落下していた。
敬は残った演算能力で落下地点を割り出し、周囲の気流を操作してその場所に急行する。
ソフィアの対空時間は26.022秒、終点での速度は156.919km/hと算出した。
「よし、間に合った!」
敬は落下するソフィアをなんとか受け止めることに成功した。
ソフィアは予想通り気絶していたのだが、制服がボロボロになっており、肌や下着が露出していた。
敬はこれでも年頃の男子。
露わになったソフィアの抜群のボディを直視できず、上を向く。
「ん、うぅ、あら?」
ソフィアが目を覚ました。
「お、おう、目を覚ましたか」
「……どうして私は貴方にお姫様抱っこされているのかしら?」
「それはお前が気絶して落下してたから」
「どうして上を向いてるの?」
「いや、それはその、制服が」
「制服?」
「………」
「………」
「見たの?」
「ミテマセン」
「見てなきゃ受け止められないわよね?」
「ミテマセン」
「見てなきゃ制服が破れてるの、わからないわよね?」
「ミ、ミテマセン……」
「み・た・の?」
両手から感じる、女の圧。
「すみません。受け止めたときに、見てしまいました……」
「ふふっ。ごめんなさい、からかってみただけよ。制服は直したからおろして頂戴?」
ソフィアを再度見ると、ボロボロになっていた制服は新品同様に綺麗になっていた。ソフィアを下ろすと「ついでに貴方の制服も」と敬の制服も触れるだけで直した。
「本当に驚いたわ。まさかこの私が気絶するなんて。全力を出したのなんてパパと喧嘩した時以来よ?」
「俺も全力出したのは久しぶりだよ」
「ネオスとしては間違いなく最上級のS級よね?序列は何位?」
「……1位だ」
「まぁ♪貴方は人類最強ということね!」
「よしてくれ、俺はただの一般人だ」
「無理がありすぎるわよ。私にこれだけのことをしておいて」
「最初に手を出したのはそっち側だろうに」
「それに関しては謝るわ。不本意な転入でイライラしてたの。もう決して、貴方の気に触るようなことはしないわ」
(イライラしてたから獣人を血祭りにあげたのか……いまいち彼女の価値観が理解できんな)
「あと、貴方の名前を聞いてなかったわね」
「敬、獅子堂敬だ」
「私の自己紹介は必要かしら?」
「ソフィア=ユースティ。劫魔界の姫君だよな」
「大正解。私たち、お友達になりましょう?『一般人』の獅子堂敬くん」
こうして、劫魔界最強の姫と、人間界最強の男は友達になった。
これが五界にとって吉と出るか凶と出るか、それは神のみぞ知ることである。
「それと敬」
「ん?」
「私に言い忘れてること、ないかしら」
「言い忘れ?……あっ」
ソフィアが期待に満ちた目で敬を見つめる。
「よく俺の攻撃を耐えたな。すごいよ、ソフィアは」
「ふふっ、ありがとう♫」
敬「後処理が面倒だ……」
ソフィア「私、疲れたからやっぱり寝るわ」
敬「おい!ちょ、まて!」
人工島警察「そこのお前達!獅子堂敬とソフィア=ユースティだな?署まで同行願おう」
敬「不幸だー!」