ソフィア=ユースティと獅子堂敬の死闘は、お友達になってめでたしめでたし、とは行かなかった。
・問題その1……入学式の延期
二人が暴れ回ることで生じた巨大地震等の衝撃のせいで、校舎全ての窓ガラスが粉砕。一部の校舎が崩壊及び半壊したため、生徒が登校不能となった。
五界全ての力を借り、修復を急いでも2日かかるため入学式も等しく延期となった。
もちろん校舎だけでなく人工島の殆どの建物が影響を受けており、大掛かりな修復作業が必要となった。
民間人に怪我人が少し出たものの軽傷で、人工島役員の的確な避難誘導のおかげで死者が出なかったのが幸いである。
・問題その2……人工島北部の完全崩壊
戦闘の舞台となった未開発のサン・ヴァレロン北部は、数回に及ぶ巨大エネルギーの発生により幾つものクレーターが出来上がった。
また、ザルツエインと核融合エネルギーが衝突した場所は時空が少し歪んでしまい、調査のため近づいた無人機が異次元に取り込まれる事故が起きた。
元々テーマパークを建設する予定だったが、地形を平すために大幅延期となった。なお、クレーター群は一部残されて観光名所とする事が決定したらしい。
・問題その3……劫魔界と人間界の国際問題
実はこれが一番大きな問題だった。ソフィアは劫魔界の姫であり、敬は(戸籍上)一般人。そのため彼は理由はどうあれ他界の要人を傷つけた事となった。
本来であれば両界政府で協議した後敬に然るべき罰が与えられる。しかし事情を聞いたソフィアの父・元劫魔界魔王が、全面的にソフィアに非があるとして謝罪。両界政府は敬を無罪とし、劫魔界側がサン・ヴァレロンの修復費用の8割を支払う事で合意した。
あわや両界の戦争が起きるのかと誰もがヒヤヒヤしていたが、なんとか争いは回避できたようだ。
・問題その4……敬の能力使用制限
敬の能力は一方通行『アクセラレータ』と呼ばれ、運動量・熱量・光量・電気量・魔力量など、体に触れたエネルギーの向き(ベクトル)を任意に反射・操作する能力である。
この世のあらゆる物理現象を容易に掌握でき、学問上起こり得ない化学反応も無理矢理引き起こす事ができる。
その能力があまりにも強力であるため、ガイア政府から使用制限を掛けられていたのだ。敬にとっては邪魔な鎖でしかないが、「従わない=政府を敵に回す」なので渋々従っていた。
そして今回ソフィアとの戦いで制限を無視して能力を完全開放したため、敬は一部高官から批判を浴びる事となった。
しかし、相手が劫魔界最強のソフィアであった事、あくまで正当防衛であった事、人工島修復に助力する事などからこの件に関してはお咎めなしとなった。
……というのは建前で、一番の理由は別にあった。それは敬が人間界ガイア最高議会で、
「人間界住みにくいんだよ。お前ら政府は俺に死んで欲しかったのか?不可抗力なのに罰せられるなら人間辞めてソフィアのコネ使って劫魔界に住んでやる」
と脅して全議員、全高官を黙らせたからである。人間界の最高戦力が劫魔界に流れ、五界のパワーバランスが崩れる事を危惧した人間界大統領は、苦い顔で追及を取り下げたのだ。
そして今回の一件を受け五界統合政府も併せて協議した結果、ソフィアを牽制するため在学中に限り能力の使用制限を完全撤廃することが決定した。
最後に、二次災害を含めた被害総額は日本円にして500億円にも登った。
結果的にいろいろ丸く治ったとはいえ、敬とソフィアに対し多くの学園生と人工島住民は畏怖する事となり、まるで腫れ物のような扱いを受ける事となったのだ。
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そして現在に至る。
登校中ソフィアは敬の隣にぴったりと張り付き、ニコニコ笑顔で歩いている。どうやらあの一件で敬はソフィアに相当気に入られてしまったようだ。
ソフィアの反対側につく伊織は「フーッ!キシャー!」と猫のように警戒している。二人が仲良くなる事は難しいだろう。
「どうしたの敬、顔色がくるくる変わっているけれど」
「丁度一ヶ月前のことを思い出してな」
「入学式の日の事?私も何度もフラッシュバックするの。あの興奮、多分一生忘れないわ♫」
「俺も別の意味で忘れられないよ」
「あら?敬も結構楽しそうだったじゃない」
「………」
敬は否定できなかった。
人間界政府の鎖で繋がれている敬は、能力を全解放した事が殆ど無かったのだ。
あの時核融合なんて危険な事をしたのも、これまでのフラストレーションを発散するためだったのかもしれない。
「ねぇ、今度劫魔界に遊びに来ない?人間界とは違って幾ら『運動』しても大丈夫な場所があるの」
「色々面倒臭い事になりそうなんで遠慮するわ……」
そして校舎に入り、ソフィア一行、伊織と別れる。
実はソフィア一行と伊織は同じクラスなのだ。そのため学園では伊織の気が安まる時がない。
「ねえ伊織?私は貴方とも仲良くなりたいの。一緒に教室までいきましょう?」
「結構です!一人で行きますから!」
「連れないわねぇ」
「貴方達と仲良くしたら私まで化け物と思われるじゃない!」
「あら、人間基準なら貴方も十分化け物だと思うけど?」
ソフィアがじっと伊織を見つめる。
伊織が持つ力を何となく感じ取っているようだ。
「………何の事だか」
伊織はムスッとした顔で一人教室へ向かった。
「気に障ったかしら」
「ソフィア、お前は人を怒らせる天才だ」
「そんな才能欲しくないわよ」
〜人間界ガイア政府での一幕〜
敬「在学中のみ?お前らはそうまでして俺を鎖で繋ぎ止めたいか」
人間界大統領「五界統合政府も併せて協議した結果だ。すまないが、これで妥協して欲しい」
敬「議会で真っ青になってた奴の言葉じゃないな。ソフィアはどうした。あいつは何にも縛られてないぞ」
人間界大統領「その件に関しての言及は差し控えさせてもらいたい」
敬「五界統合政府の後ろ盾があるからって強気に出やがって。言っとくがな、別にこの世界を壊す気なんてないんだよ。穏便に暮らせればそれでいい。そんでもし世界に危機が訪れれば幾らでも力を貸してやる。それでいいだろ?」
人間界大統領「………」
敬「はぁ、埒が明かない。失礼する」
人間界大統領「……力には責任が伴うのだよ、青二才が」