「はぁ、教室までの道のりが辛い……」
敬のクラスである1-Aは何故か校舎の三階にある。他の一学年は全て一階なのにも関わらず、だ。
別に階段を登るのが辛いのではない。
「おいアイツって……」
「やばいやばい、粗相したら殺されるぞ」
「ねぇ、他の階段通りましょう?」
敬が階段を登ると登校する生徒達が彼を避けるように動いていく。同級生だけではない、先輩方や一部の先生までもがこうなのだ。
敬の元々の目つきの悪さも相まって、一層圧力が増しているのだろう。
(お代官様のお通りだ、控えよ控えよ!なんつって)
そんな冗談を考えながらも重い足取りで教室に辿り着く。しかし苦難はまだ終わらない。
ドアを開けるとクラスメイト達が敬を見て、
「やべ」
と言ってサッと顔を伏せるか友達との会話を再開する。実はこれが一番心にグサっとくる。
敬は誰にも挨拶する事なく自分の席へ向かう。救いなのは場所が窓際の後ろから二番目である事、そしてもう一つは……
「ほんっと、相変わらずの大不人気ですわね」
唯一敬に話しかけてくれる者がいる事だ。
敬の後ろの席に座る天使族のパーフィルである。
金髪ショートヘアの先端を指で回しながら天使族の象徴ともいえる純白の羽をパタパタと動かしている。
まだ天使としては未熟であるため、羽は肩幅に収まるくらいの小ささである。ついでに胸は控えめである。
「別に望んだわけじゃねぇよ」
「自業自得、ですわ」
「辛辣だなぁ。ほんとどうすりゃ良いんだ……」
「自らの過ちを認めた上で、自ら努力して信用を勝ち取らなければなりませんの。神頼みばかりでは救われないですわよ?」
「天使がそれを言いますか」
「天は自ら助くる者を助けるのですわ」
信者に諭すように自信満々に胸を張るパーフィル。無い胸張っても意味がn
「敬?今失礼な事考えましたわよね?」
パーフィルは天使の弓を召喚し、矢を番え敬に向ける。
「考えてない考えてない!その弓仕舞え!」
「本当ですの?」
「本当本当」
「……まぁ、どうせ大した事では無いでしょうから良いですわ」
パーフィルはやれやれと弓を下ろす。
どうやら天使族は相手の感情が読み取れるらしく、特に悪しき心には敏感に反応する。
「というか今更だが、パーフィルは俺が怖くないのか?」
「寧ろどうして皆が敬を怖がるのか理解に苦しみますわ。クラスメイトに無視されるだけで意気消沈するガラスハートの持ち主ですのに」
「それに」とパーフィル。
「私(わたくし)は在学中に貴方を倒すつもりですのよ、獅子堂敬」
ビシッと敬を指差してそう言い放った。
「は?俺を?」
「そうですわ!貴方には大天使に昇格するという私の最終目標の踏み台になってもらうんですの!」
その瞬間、教室の空気が凍りついた。
他のクラスメイトが「こいつ、終わったわ」と青ざめていく。
「ええと、俺を倒すとどんな因果でパーフィルが大天使になるんだ?」
「貴方は劫魔界最強のソフィアに匹敵する実力の持ち主。RPGで言えばラスボス……いえ、裏ボスですわ。そんな貴方を倒せば大量の経験値が手に入りレベルアップして昇格できますの!貴方に勝つ事が大天使昇格への近道なのですわ!」
今度は自分の席に立ち上がって演説し出した。
「んな訳あるかよ!もっと別にあるだろ?ほら、信仰を集めるとかさ」
「信仰を集めるより経験値を集めた方が効率がいいですの」
「効率の問題!?え、天界ってそういうシステムなのか!?」
「だってクラスレベルがMAXになるとクラスチェンジできるでしょう?」
「どこの次元の話をしてるんだお前は」
「どこも何もこの次元ですわ」
この時点で敬は何となく察しがついていた。
「おいパーフィル」
「何ですの?」
「趣味は?」
「ゲームですの」
「家帰ったらまず何をする?」
「ゲームですの」
「休日の過ごし方は?」
「ゲームしてますの」
「なるほど、やっぱりか……」
敬は頭を抱えた。
この天使はゲームのやり過ぎで、ゲームと現実の境目が無くなっているのだ。
敬を倒せば経験値がゲットできると本気で思ってるならもう末期である。
「いきなり何ですの?趣味だの休日の過ごし方だの、お見合いじゃ無いんですわよ?」
「お前だけはまともだと思ったのに……」
「貴方だけには言われたくありませんわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「敬!早速勝負ですわよ!」
昼休み、今日も寂しく一人屋上飯に向かう敬をパーフィルが呼び止める。
「勝負?昼休みにドンパチやる馬鹿がどこにいるんだよ」
「頭が硬いですわね獅子堂敬。拳を交える事だけが勝負ではありませんのよ?」
「と言うと?」
「いいから、私について来てくださいまし」
パーフィルが敬を連れた先は学生食堂であった。
「へぇ、食堂ってこんな感じなのか」
「まさか貴方、一度も食堂に来たことがありませんの!?」
「来る訳無いだろ。居心地が悪すぎる」
敬とパーフィルが並んで歩くとモーセの如く人混みが割れていく。
「人混みが勝手に捌けるから逆に歩きやすいですわ。さて敬、これを買いなさいな」
パーフィルが指差したのは食券機の『鍋焼きうどん』。
「学食の鍋焼きうどんは出来立てが熱々で、鍋が冷えにくいため最後まで熱々で食べられますの!そして育ち盛りの男子学生が満腹になる程のボリューム!ここまで言えばわかりますわよね?」
「まさか早食いか?」
「その通り!どちらが先に熱々うどんを完食するか勝負ですの!」
敬は膝から崩れ落ちそうになった。
「あら、何か不満ですの?」
「拍子抜けしただけだ……」
「失礼な。早食いでも勝負は勝負。小さな勝負の小さな勝利が大天使への確かな一歩なのですわ」
「わかったよ、買えばいいんだろ買えば」
早食い勝負は置いておくとしても腹は減っていた敬は、パーフィルに従って鍋焼きうどんを頼む。
席にについた二人の出来立てホヤホヤうどんからは、視界を塞ぐ程の湯気が立ち上っていた。
「始めますわよ?準備はよろしくて?」
「いいからはよ食わせろ」
二人同時に手を合わせ、
「「いただきます」ですわ」
敬は取り敢えずうどんを一口。
「………うまい!これは、ずずっ、中々悪くないな。ずずっ」
鍋焼きうどんの味を気に入った敬は熱さなど関係なく箸を進める。
「熱々のうどんをそのスピードで食べるとはやりますわね。それでは私も一口……うわっち!!」
パーフィルは「あち、あちち、ふーっ、ふーっ」
と苦労しながらも一本一本うどんを口に入れていく。
「熱い、熱いですわ。あちっ!でも、こんな事で挫けるパーフィルではありませんの。敬に、獅子堂敬に勝つために!あちちっ!」
「おいおい、そんな無理しなくても……ずずっ」
「無理なんてしてませんわ。これは、ずずっ、あちっ!私に課せられた試練ですの!」
そう言いながらうどんを頬張るパーフィルはちょっと涙目であった。
そして周りから生徒達の冷ややかな会話が聞こえて来る。
「おい見ろよ獅子堂ってやつ、女の子泣かせてるぞ」
「無理矢理天使の子に熱々うどん食べさせてるのね?流石鬼畜だわ」
「マグニチュード8は伊達じゃ無いな……」
どうやら周りからは敬がパーフィルを虐めてるように見えるらしい。
「パーフィル、食べるのはいいが苦しそうにするのはやめてくれ。周りから勘違いされちまう」
「けほっけほっ。そんなこと言って貴方、私に構ってる暇なんてありますの?って嘘、もう半分無いじゃないですの!?」
「ん?あぁ、旨いからな。ずずっ、もうそろそろ食べ終わりそうだ」
「あ、ありえませんわ!幾ら熱さに強いと言っても限度があるでしょう!」
敬は能力のおかげで熱量を適度に制御し、どんな熱々でも適温で食べられるのだ。
彼の力をろくに調べず挑んだパーフィルに勝ち目など存在しなかった。
「それでも挑んで勝たなきゃいけないんだろ?ほれ、後はスープだけだ、ずずずっ」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
敬はスープを飲むため持ち上げた熱々鍋をゴトン、とテーブルに乗せる。
「ご馳走様。俺の勝ちだな」
「こんな事って……」
あからさまに肩を落とすパーフィルには、未だ湯気を出し続ける熱々鍋焼きうどんが半分以上残っている。
「負けてしまいましたわ……しかし正義を貫く天使として、料理を残すなど言語道断!最後まで戦って見せますわ!」
「戦いの趣旨変わったけど最後まで見守ってやるよ。ガンバレ」
「ふーっ、ふーっ、ずずっ、あひゃい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「痛い、舌が痛いですわ」
「ナイスファイトだパーフィル」
なんとかうどんを完食して帰還したパーフィルは教室の机に突っ伏していた。かと思えばガバッと顔を上げ、
「あの熱さで平然と食べるなんてどうかしてますわ。貴方、能力を使いましたわね?」
「ギク」
「図星ですわね。でも例の事件の際ソフィアが物理反射と言ってましたわね。辻褄が合いませんの」
「能力を使ったのは正解だ。実は俺の能力は物理エネルギーだけじゃなく、熱エネルギーも操作できるんだ」
「そんな事ができますの?情報不足でしたわ」
「能力使わない方が良かったか?」
「いえ、これは戦い方が悪かっただけの事。貴方の能力が及ばない範囲の戦いをすれば良いのですわ」
「まだやる気なのか」
「当たり前ですわ。次は何にいたしましょうか」
しばらく考えた後「そうですの!」と立ち上がるパーフィル。
「今日の放課後、私の部屋に来なさいな。私の得意分野でボッコボコにしてやりますわ」
ソフィア「敬ってネオスS級1位なのよね?じゃあ2位は誰なのかしら?」
メロウ「私がいくら調べても情報は出てきませんでした。S級リストも匿名です。獅子堂敬、貴方なら何か知ってるでしょう?吐きなさい」
敬「………やめとけ、知らん方がいい」