第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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【魔王信長】
 信長の斬魄刀の本体。
 信長は自分にそっくりだと思っているが、他者からすると言われれば気づくレベルである。あとモデル体型。


第12話 新たな力じゃ!

 第六天魔王。

 仏教において仏への修行を妨げる『魔』のことをさし、天魔、天子魔、他化自在天(たけじざいてん)などとも呼称される悪魔。

 

「魔王…?いや、そういうことか──」

 

 その名前を聞いた瞬間、信長は自身にまつわる記憶の一部がよみがえった。

 かつて、魔王と名乗った人間がいた。

 神仏を恐れず寺を焼き、降伏した民衆を虐殺。けれど身内には優しく、敵には苛烈。天下統一まであと一歩の所で部下に謀反され本能寺にて散った人間。

 

【ふむ。我の言の葉によって、記憶の一部が解けだしたか。どうじゃ?この世界でこれを知ってるのは織田信長以外おるまい】

 

 この世界において織田信長という存在は彼女だけであり、その逸話を知るものは信長に縁深い者だけである。そして、魔王という固有名称は、この時代の現世において既にある。

 また、この日ノ本で織田信長が誕生するのは遥か未来の話であった。

 

「確かにそうじゃな。で、お主は誰じゃ?」

【んー?我の説明はさっきしたじゃろう。もう一回口上からやれば良いか?我の名は…】

「違うわい!わしの記憶がお主の言葉によって思い出されたことには感謝しておる。じゃが、それとこれは別じゃ」

 

 自身と同じだと言われても、彼女にとって魔王信長は謎だらけの存在だ。自分に似ているとは感じているが、大前提として二人いるのはおかしくないか?と思っている。

 

【ふむ。じゃが、我ばかり説明するのは不公平ではないか?ここにどうやって来たかぐらい教えても良いではないか】

「そう言われてものぅ…」

 

 わしにはてんで心当たりがなかった。魔王によると条件を満たしたらしいんじゃが、特に何かした覚えはないしのう。

 

【何かの扉を開いたような感覚が貴様にあったはずじゃ】

 

 ──そういえば、巨虚(メノス・グランデ)に腹を貫かれて死にかけた時にそんな感覚があったような気が…。いや、まさかそれか?

 

「のう」

【なんじゃ】

「条件のひとつに、瀕死の重傷を負うというものはあるか?」

【あぁ、確かにそれも条件のひとつじゃ。……まさか貴様、わしの癖にそんな傷を負ったのか?】

「いやーなんというか不可抗力なんじゃがなぁ」

【──最悪じゃ】

 

 その言葉を聞いた魔王は吐き捨てるようにそう呟いた。

 

「…最悪とはどういうことじゃ?」

 

 明確に魔王の雰囲気が変わり、信長は何か地雷を踏んだような気分になった。

 

【理解しておると思うが、我という本体に会うということは斬魄刀の本来の名を知り、新たな力を引き出せるようになれるということじゃ】

「あぁ『始解』という奴じゃな」

 

 斬魄刀は本来持ち主の霊力に応じた大きさになる。しかし、その場合隊長格の刀はビルや列車くらいのサイズになり、それを引きずり回すことになる。

 そうなっていないのは、通常時は普通の日本刀の姿をした封印形態になっているからである。

 そして、その封印の第一段階を解放するために斬魄刀の解号と仮の名前を呼ぶことを『始解』と言う。

 

【そうじゃ。普通の死神であれば『始解』とは通過点であり、最初に目指すべき目標である。だが、()()()()という存在の場合は別じゃ】

「別?一体どういう…」

【そもそも貴様の持っている刀は斬魄刀ではない。それは貴様が■■■■であるが故に存在する斬魄刀とは似て非なる武器である】

「何を言って…。いやだが、確かに納得はできる」

 

 魔王から語られることは信長が驚くに値する事実ではあるが、それと同時に彼女はそれについて冷静に判断していた。刀は生前にも持っていたため特に疑問には感じてはいなかったが、よくよく考えてみれば死神でもないのに斬魄刀が手元にあるのはおかしい。

 

「(それに、途中の言葉が雑音まみれで聞き取ることが出来なかった。まだ、わしには全てを知ることは早いということか…)」

 

 雑音については、例え彼女が魔王に聞いたとしても答えは得られなかったため、その判断は正しいものであった。魔王は信長が一部の言葉が雑音にしか聞こえないと知っていたが、自分ならば理解する考えたため、特に説明はしない。

 

【あの刀は貴様の『咎の鎖』と同じ物で出来ておる】

「つまり…あれもまたわしを縛る物の一つということか」

【その通りじゃ。貴様にとっての『始解』は織田信長本来の力の一端を解放することに他ならぬ。故に、今の肉体ではそれに耐えきることは無理じゃ】

「何故じゃ?わし本来の力ならば問題なさそうに思えるが…」

【貴様の魂が貧弱過ぎるからじゃ】

「…流石に魂の鍛え方は知らぬのじゃが」

【そうではない。ここに来る方法は瀕死以外にも2つ存在する】

「ほう」

【一つは、三千世界全ての織田信長の記憶の獲得。もう一つは、貴様が天正10年まで生存すること】

 

 天正10年…わしには覚えがないはずじゃが、なぜか炎の情景が浮かぶ。わしの死んだ年じゃったりして。

 

【尤も、これら2つは貴様が『卍解』を会得するための条件でもあるがな。そして、貴様の魂は三千世界の記憶を経験することによって本来の力に耐えられるようになる予定、だったんじゃがのう】

「じゃったら、その三千世界の記憶を今経験すればいいのでは?」

【出来るが意味はない。それに、ここに来た時点で我は貴様に『解号』を教えなければならぬ】

「…そうか」

 

 記憶というのは蓄積する事に意味がある。

 過去の経験により人は未知の出来事に対応するを(すべ)を知り、そして成長する。記憶の閲覧はいわばそれの擬似体験。

 一気に見たとしても、覚えていなければ意味がない。

 

【貴様が思っている通り、記憶を一気に獲得したとして魂の強度が上がるわけではない】

 

 斬魄刀を解放すれば耐えきれずに死ぬ。記憶は閲覧できたとしても、それを耐えきる力は得られない。

 

「では、詰みというわけか?」

【いいや、まだ手はある。酷い賭けではあるがのう】

 

 魔王は愉快そうな笑みを浮かべながらそう言った。 

 

【貴様、痛みには慣れておるか?】

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 巨虚(メノス・グランデ)は歓喜していた。

 信長という上質な餌を、自身の肉体の極一部の欠損のみで手に入れられたことを。弱点である仮面に亀裂を入れられたが、この餌を考えればどうでもよかった。

 化け物は餓えている。

 どうしようもなく何が欠けている。だが、それがわからない。故に喰らう。例えそれが同族だろうと構うことなく。

 

 それを補おうとするために巨虚は信長を今喰おうとしていた。口をあんぐりと開け、彼女を飴でも放り込むかのように落とそうとする。

 

 その瞬間、信長を持っていた化け物の指に亀裂が入った。突然の痛みによって巨虚は彼女は指から離れ、地面へと落下する。困惑、そして餌を落としたことによる焦燥。化け物は地面へと眼を向ける。だが、信長はいなかった。

 

「──巨虚(メノス・グランデ)よ」

 

 声がする方へと虚の眼が向く。

 さっきまで死体同然だった餌が、空中に地面があるかのように立っている。

 

「わしにとって初めての強敵よ」

 

 赤黒い鎖は巨虚の眼に映るほどくっきりと現れ、大小様々な傷が崩壊と再生を繰り返している。空間が歪んで見えるほどの霊力が肉体から漏れだし、瞳は血によって真っ赤に染まっていた。

 

「魔王の門出を祝ってもらおうか」

 

 刀がこちらに向けられ、化け物の本能が危険を訴える。

 

「──擊鉄を下ろせ」

 

 こいつは餌ではない。

 

「──三千世界に屍を晒せ」

 

 こいつが餌のわけがない。

 

「──顕現せよ『波旬(はじゅん)』」

 

 奴は敵だ!

 そう認識した巨虚は虚閃(セロ)を溜め始めた。自身の脅威である眼前の敵を完全消滅させるため、全力を持って殺そうとしている。

 

 対する信長は、ただ一言こう呟いた。

 

「構え」

 

 その瞬間、化け物を囲むように無数の火縄銃が出現した。この時代にはない単純化された兵器。巨虚はそれも脅威だと判断し、虚閃でまとめて消滅させようとするが遅かった。

 

「放て!」

 

 信長の号令によって銃から放たれたそれは、霊力で形作られたドリルのような形状をした奇妙な物体であった。その攻撃は巨虚の皮膚を容易く貫き、一瞬にして化け物を蜂の巣状態へと変えた。

 

「───────!?」

 

 自身の理解できない攻撃によって頑丈である肉体が破壊され、声にならない叫び声を上げる巨虚。

 火縄銃は後生において織田信長と共に語られる武器だ。発射するのは霊力で強固に作られた弾丸であり、戦国時代の物と違い、一直線に標的へと向かう。

 

「ふははははは!全弾命中!」

 

 笑う信長。

 だが、優勢に見える彼女の肉体は地獄のような状態になっていた。『始解』によって本来の力を解放したことにより、一時的に彼女の霊力は暴走状態になっている。大きすぎる力によって崩れる身体は、回道を使い治している。

 

「まだ動くか!」

 

 信長の回道は血管を繋げるだけが限界だが、暴走する霊力を無理やり治癒の鬼道に組み込み、何度も発動させ驚異的な修復速度を生み出しているのだ。魔王の考えた策によって、彼女の肉体は常に破壊と再生の強烈な痛みを味わい続けている。

 しかし、そんな苦痛は織田信長には関係ない。痛いし苦しいが、死なないのだから問題はない。彼女はそう考えているからだ。

 

「ならばもう一度!」

 

 彼女の攻撃によって呻いている巨虚。

 だが、今度は出現した火縄銃を虚閃(セロ)によって破壊し、信長を狙ってきた。

 

「対応してきたか!じゃが、痛みで逆に頭が冴えてきたところじゃ!」

 

 彼女はそれを軽く避け、片腕で火縄銃を持ち発射。その反動によって巨虚へと近づこうとする。当然化け物は阻止しようとするが、信長は移動と同時に全方位から弾丸を発射し、翻弄。そして、その隙をついて仮面へと降り立った。

 

「零距離で弾丸を撃ち込んでやろう!」

 

 火縄銃から放たれる弾丸は信長の霊力によって強化と最適化を施され、鋭く速く獲物を貫く形状へと改造されている。広域破壊能力はないが、仮面を破壊するには十分過ぎる威力だ。

 

「食らえい!」

 

 信長の声に合わせて三十ほどの火縄銃が出現し、一斉に射撃を開始した。一発撃つと銃は消え、また新たな火縄銃が弾丸を発射する。

 

「アァァァ……ガァァァ……」

 

 それは巨虚の叫び声が消えるまで続けられ、信長が声がしなくなったことに気づいた時には、化け物の顔面にはポッカリと大きな穴が空いていた。

 

「ふははははは…やっと逝ったか──」

 

 信長は勝利の雄叫びを上げようとしたが、糸の切れた人形のように倒れた。それと同時に始解が解け、霊力の過剰放出も停止。それにより回道も切れ、咎の鎖も元の状態へと戻った。

 

「まぁ、わしも逝きそうじゃがな…ゲホッ」

 

 口から血を流しながら倒れている信長の言う通り、彼女の肉体はぐちゃぐちゃになっている。質の低い治癒を短時間に何千回もしたせいで、血管は静脈と動脈が半分合体。骨は一本が二本になっていたり、三本が一本になっている部分が多数。筋肉は筋が縦横バラバラになり、血管を巻き込み、骨も曲げている。

 

「…血は…暖かいな…」

 

 身体の至るところから出血し、意識が急速に遠のいてゆく。

 

「(もう眼が…)」

 

 喋る力さえなくなり、視界も暗闇に覆われた。

 

「…隊長いました!」

 

 終いには幻聴まで聞こえ始めた。

 

「…ノッブ!気をしっかり持て!」

「…信長!大丈夫だ!」 

 

「(友の声まで聞こえるとは…そろそろ…死…)」

 

 そして、わしの意識はそこで途切れた。

 




波旬(はじゅん)
 信長の斬魄刀の銘。
 能力は三千世界に存在する『織田信長の火縄銃』の顕現とそれを操作する能力である。三千世界とは十億の世界の総称。つまり、その気になれば信長は十億丁の火縄銃を使うことができる。ちなみに一丁につき一発である。
 火縄銃とその弾丸自体も異常なまでに霊力で強化されており、並みの虚なら一発で粉々にできる。
 ただし、今の信長が使うと良くて瀕死、悪くて死ぬ。
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