第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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【地下監獄】
 懲役刑が確定した罪人が送られる牢獄。
 上から、等活、黒縄、衆合、叫喚、大叫喚、焦熱、炎熱、無間の八つに分かれている。




第14話 処刑前日じゃ!

 鉄格子から見る空はいつもより青かった。自由という翼をもがれ、鎖に繋がれる鳥。わしという存在が鳥かごに囚われた哀れな虫かと錯覚するぐらいの悲しい現実。

 それは…

 

「ノーブノーブ!」

「…」

 

 それは世界が自身の敵かと思ってしうまほどの残酷な…

 

「ノブノッブ!」

「……」

 

 残酷な今。そんな状況を打破するため…

 

「ノブブノブ!」

「………」

 

 世界という檻に反逆を…

 

「ノッブー!ノッブー!」

 

 ………ふぅ。

 

「さっきからうるさいんじゃ!わしがモノローグを語ってる時ぐらい静かにせんか!」

「ノブー!」

 

 遺憾の意を声で示すちびノブ。

 

「つーかなんでこいつと同室なんじゃ!」

「ノッブノブ!」

 

 先に居たのは自分だと主張するちびノブ。

 

「知るか!わし罪人じゃぞ。最期の晩餐的な感じで、部屋とかを豪華にしてくれるもんじゃろ。配慮が足りんわい配慮が」

 

 死神とナマモノ一匹がいるのは懺罪宮(せんざいきゅう)の最上階。眺めだけは良いと罪人(処刑済み)からは好評であった一室だ。

 

「ノブブノブ、ノッブブノブ!」

「あ?処刑前日なんじゃからモノローグくらい考えるじゃろ。わし、(はた)から見れば悲劇の美少女じゃしな」

 

 部屋の内装は布団が二つと机が1つだけの質素なものとなっており、壁には血痕のような模様がある。恐らく本物の血痕ではあるが、信長は特に気にしていない。

 

「ノブー…ノブノーブ」

「まぁ、モノローグの内容が少し清楚すぎじゃったのは認める。流石にわしには似合わんからな」

 

 それよりも考えることが彼女には山積みだからだ。ちなみに、モノローグのことではない。あれは思考の気分転換に考えた茶番のようなものである。

 

「(処刑まで半日程度。それまでに策を考えなければならんのじゃが…)」

「ノッブ。遺書は書かなくていいんですか?」

 

 牢屋の外から信長に話しかけてきたのは、彼女の見張りをしている卯ノ花烈だ。なぜ隊長である彼女がここにいるかは謎だが、そのせいで信長の脱獄計画は実行不能となってしまったのである。

 

「書かぬよ。わしは死なぬからな」

「そうですか…なら、どのような戦いをしたのかを書くのはどうでしょうか」

「いや、書かぬて。それ烈さんが見たいだけじゃろ」

「ふふふ」

 

 三年ほど一緒に過ごした相手が明日処刑されるというのに、卯ノ花の感情は一切揺れ動いていない。もしも信長が脱獄しようとしたのならば、普通に阻止するし、なんなら殺すだろうという嫌な信頼を彼女は感じていた。

 そのため、信長は別の策を考えるために友人を呼ぶことにした。

 

「しかし、遅いな。ここそんなに手続きとか必要じゃったかのう」

「ノブノブー」

「…お主が外で暴れとるせいか」

「ノブー?」

「こやつめ…」

 

 憎たらしい顔に思わず刀を抜きそうになるが、こいつを斬った所で何も変わらないので気を鎮める。デフォルメされているとはいえ、自分の顔に似ている生物に八つ当たりしても虚しいだけだ。

 

 仕方ないので、待っている間にちびノブについて思いだしたことや分かっていることを整理することにした。遺書を書くための紙を、メモ用紙として信長は情報を書き込でいく。

 

「身長は…」

 

 チラリとちびノブに目を向ける。帽子を被っているため正確な数値がわからないので、外そうと手を伸ばした。

 

「ノブッ!」

「痛ぁ!?」

 

 すると、すごい勢いで信長がはたかれた。しかも、思わず彼女が声を出してしまうぐらい容赦ない一撃。

 

「(一応わし主人みたいなもんなんじゃが…)」

 

 ちびノブは織田信長から生まれた。

 だが、別に彼女に対して畏敬とか服従とかそういった感情はない。雑に扱っているとサラッと裏切るし、サラッと下克上を仕掛ける。

 

「(そういや、主人じゃったけど給金とか休みとか与えておらんかったのう。まぁ、タダで働くんじゃから是非もないよね!)」

 

 なお、原因の八割は信長にある。

 

「ノブノーブ」

「(しかしあれじゃな。ちびノブの言葉をなぜわしは理解しとるんじゃ)」

 

 彼女の思い出した記憶では、ちびノブとは意思疎通があまり出来ていなかった気がしたのだ。

 

「性質が変わっておるのか…それも()()じゃな」

「ノブノブ」

 

 信長がメモをしているのを横でジッと見ながら相槌を打つちびノブ。そして、そんなちびノブを見たことによる記憶の解放は、彼女の喋る言語にも影響を与えていた。

 

「てことは、わしは狂戦士(バーサーカー)のクラスになったのでは?」

「ノブ?」

「奴…名前は思い出せぬが、人斬りサークルの狂った沢庵好きの男はお主の言葉を理解していたはずじゃ」

 

 また、彼女が天文台で過ごした記憶も少しではあるが甦っている。ただし、それがカルデアでのモノとはまだ理解しておらず、英霊(サーヴァント)という概念もまだわかっていない。

 

「クラスチェンジという奴…ん?というかクラスってなんじゃ?」

 

 従って、信長にとっては新たな謎が増えただけである。

 

「なんか知っとるのに知らない感覚がして気持ち悪いのう」

「ノブブ?」

「いや、わしのクラスはなんか三つくらいある気がするんじゃがわからんのよ。その三つがなんなのかも不明じゃしな」

 

 そんな事を呟きながら自身の情報を含めて紙に書き込んでいくと、あっという間に用紙は埋まってしまった。人斬りサークルの吐血女のことも少し記しておいたが、多分必要ない。

 

「烈さん。メモ用紙が足りんので、あと五枚くらいくれ」

「…めも用紙?紙の事ですか?」

 

 信長の発した言葉に疑問符を浮かべる卯ノ花。

 メモという単語はまだ日本には到来しておらず、当然なからあの世の住人にその言葉の意味がわかるわけがない。

 

「あー…そうじゃ紙をくれ」

「わかりましたノッブ。それと、あなたの友人がそろそろ来るようです」

「了解じゃ」

 

 紙を五枚ほど卯ノ花から貰い、使いきった頃。信長の元に京楽たちが到着した。

 

「遅くなってすまないなノッブ」

「久しぶりだね信長」

 

 鉄格子ごしに見る友人の顔は、見る限り普通に見える。だが、確かな不安が浮かんでいた。当然と言えば当然。明日には処刑されるのが自分たちの学友なのだから、動揺しない方がおかしいのだ。

 

「遅かったではないか二人共。待ちくたびれていたぞ」

「ノブ!」

 

 それに信長は気づいているが、指摘することはしない。そんな事をしてるほど暇ではないので、助かった後にからかおうと思っている。

 

「そこにいる謎生物の対処が手間取ってね。というか牢屋一緒なんだ」

「大丈夫かノッブ。襲われたりしてないか?」

「面は憎たらしいが特にそういったことはないのう。同室というのは最悪じゃがな」

 

 この世界において、ちびノブは信長に敵意など持っていない。彼女から何かをしない限りは信長に対しては無害な生物のままだ。

 

「ノブ!ノッブ!」

「うお、ビックリした。急にデカい鳴き声を出すでないわ」

「へーホントに大人しいんだね。やっぱ、君の姉妹が何かじゃないの?」

「ふざけた事を抜かすでないわ。というか、これで大人しい判定なのコイツ?」

 

 織田信長は外の状況は知らない。死神たちに面倒だと思われるくらい暴れているのは知っているが、どれほどの被害を出しているかは分かっていないのだ。

 

「もちろん。死神、というか動いてる物にはとりあえず鉄筒から火花を出して威嚇するね」

「鉄筒…あぁ、火縄銃の事か」

「あれの名称は火縄銃というのか。ノッブ、やっぱお前の遠い親戚か何かじゃないのか?」

「わしには親戚どころか親もおらんわい」

 

 ま、この世界においてはという枕言葉がつくがのう。

 しかし、ちびノブが威嚇行動をするとはな。わしの思い出せる限りでは警告なしに撃ち込んできた気がするんじゃが。

 

「だが、威嚇だけなら死神にとって問題ないはずじゃ。火縄の音がうるさいだけなら鳥みたいな物じゃからな」

「その通り。コイツらが真に厄介なのは謎の統率力と倒してもキリがない繁殖力、そして目的が不明な点だ」

「そうそう。おまけに、食べられる物なら何でも食べる性質もあるみたいでね。瀞霊廷内の食糧事情が悲鳴を上げてるってわけさ」

「…ほうほう」

 

 え?アイツらってそんな生態じゃったっけ?

 確かに飯は食っておったが、それは嗜好品みたいな扱いだったはずじゃ。沢庵をバリバリ食ったり茶をすすってはいたが、ちびノブにそこまでの食欲はない。

 

 世界が変われば法則も変わるということか?

 だが、それにしては些か違和感がある。

 

「そのせいで昼夜問わずに駆除作業が行われてるよ。倒されれば光の粒子になって消えるのはいいんだが、とにかく数が多い。死神だけでは手が足りず、俺たち学生まで使う始末だ」

「あと、貴族街の方にも被害が出てる。けど、最低でも破道の四くらいの威力じゃないと倒せないのが地味に面倒だね」

「なるほどのう…」

 

 あれ?思ったよりマズイぞ。

 というか普通に瀞霊廷存亡の危機では?

 思ってたより状況が悪いし、わしの処刑も妥当じゃね?

 原因はどう見てもわしじゃしなのう。あと、ビックリするくらい被害が出てるせいでちびノブが蝗害みたいになっとる。

 

「(ウーム…話を聞けば解決策が出てくると思ったんじゃが、無理そうな気がしてきたぞ)」

 

 恐らくは魔力が足りずに軽い暴走状態になっておるのじゃろう。この世界には霊力という似た力はあるが、それでは代用できなかったようじゃ。

 

 しかし、そう考えるとここにいるちびノブはなぜ暴走してないかが分からぬ。この牢屋が高い場所にあるおかげか、この個体が特殊なだけか。あるいは、わしが近くにおるおかげかもしれぬ。

 …実験してみるか。

 

「京楽、ちょっと顔を近づけろ」

「え?何?ちょっと怖いんだけど」

「喧しいわ。(恐らく)何も起きんからそこに立ってくれ」

「はいはい」

 

 京楽が牢に顔を近づけると、信長はそこにいたちびノブの腕を掴んだ。

 

「ノブ?」

 

 疑問符を浮かべられるが、気にせずズルズルと引きずっていく。段々と彼に近づいていくが、何か行動を起こそうという動きは見られない。

 

「あのー信長?それが大人しいのはわかるんだけど、近づけるのはちょっと…」

 

 京楽は知っている。ちびノブはふざけた外見をしているが普通に危険な生物であると。ここにいる個体は大人しいとしても、自分から触りにいくのは勇気がいるものだ。

 例えるのなら、動物園にいる人に慣れているライオンであっても触れるのは怖いということである。

 

「静かにせい。顔も遠ざけるな」

 

 が、そんな事を気にする信長ではない。

 ついには顔がつきそうなほどの距離まで近づいたが、ちびノブは依然として動きを見せない。そこから20秒ほど両者を見つめ合わせたが、特に何も起こらなかった。

 

「もうよいぞ」

「終わりかい?慣れてきたからもうちょっとぐらいならやろうと思ったのに」

「知りたい事は分かった。それ以上は無駄じゃ」

 

 どうやら、このちびノブは本当に敵意がないらしい。わしに対してだけではなく、京楽にも特に何かをするような動きはなかった。

 

「京楽、浮竹。今からわしはかなり危険な事をする。今の包帯だらけの身体じゃと全身から血を噴き出して死ぬじゃろう」

「…はい?」

「ノッブ…何をする気だ?」

 

 知りたい事はわかった。ならば、次はその情報に従って行動するのみである。

 

「烈さん。今から大変な事が起きると思うが、暫し動かないで欲しい」

「牢から出ない限り、私からノッブに干渉することはありませんよ」

「助かる」

 

 ちびノブは魔力のないこの世界で飢餓状態になっている。何とか物質を自らの身体で霊力から魔力に変換しているが、効率はすこぶる悪い。どんぐらい悪いかというとユーカリの葉っぱぐらいカスである。

 

 だが、この生物は本来あらゆる場所に適応可能な生物である。現に、信長の近くにいる個体は霊力をエネルギー源とすることができた。恐らく段々とその個体は増えていくだろうが、その前に信長は処刑されてしまう。

 

 先ほどの彼女の行動は京楽の霊圧にちびノブが反応するかの実験だ。結果は反応なし。つまり、この個体が特異であるという結果に他ならない。

 

「(であるならば、こやつを元にして()()())」

 

 瀞霊廷内にいる全てのちびノブは、この個体を除いてほぼ半端に現界した幽霊みたいな物じゃ。不完全であるというと事は、この世界の法則にまだ馴染んでいないという事である。

 

 そして、こやつらはわしの潜在意識が具現化した存在じゃ。つまり、この特殊個体を起点として『元が適応してるのにコピー?が適応していないのはおかしい』という事実から逆説的に全ちびノブを変える事ができるのである。

 

「(完璧な作戦じゃ)」

 

 強いて欠点を言うなら、この身体だと負荷に耐えきれず絶対に死にかけるという事だけじゃな。まぁ、烈さんが近くにいるから大丈夫じゃろ!

 

「よーし痛くしないから大人しくしとるんじゃぞ」

「ノブァ!?」

 

 まず接続のため、信長はちびノブの頭を無理やり掴んだ。

 

「ノブ!ノブ!」

 

 当然のごとく抵抗されてバシバシ叩かれるが、そんな痛みなど誤差なので続行。

 霊力を流し込み、自らとちびノブを同化してゆく。表面上の変化はほぼないが、段々と目から光が消えてきた。

 

「ノブ…ノブ…」

 

 それと同時に、信長の腕から血が垂れはじめる。

 無限の霊力を持ってたとしても回道すら録に使えない今の彼女では、単純な術であったとしても肉体への負荷は大きい。

 

「信長?大丈夫か?」

「(よし。ちびノブに接続完了じゃ)」

 

 現に彼女の顔は、病人を通り越して死人ような肌になっている。しかし、京楽の心配の声は聞こえない。

 彼女は魔術など使った事はない。しかも、別世界で初めて行使しているのだ。極限の集中状態である信長にとって、目の前のこと以外は頭から抜け落ちている。

 もちろん自らの肉体のことも。

 

「(第一段階クリア。『咎の鎖』よ)」

 

 今の信長はちびノブであり、今のちびノブは信長である。その状態になると、今度は自らの鎖をゆっくりと地面に沈ませてゆく。全てのちびノブを元に戻すには、彼らの飢餓を一旦解消する必要がある。

 故に、『咎の鎖』からのエネルギーをちびノブ経由で送る。それもゆっくりではなく、できる限り早くしなければならない。時間を掛ければ確実だろうが、残念ながら余裕も体力もないのである。

 

 一匹一匹に信長が触れて霊力を与えるのが一番早いが、時間がないので『咎の鎖』で無理やり瀞霊廷中のちびノブへと流し込む。だが、それをやるには全てのちびノブを把握しなければならないのだ。

 

「(な、何匹いるんじゃ…もう千は越えとるんじゃが…)」

「おいノッブ!眼と耳から血が出てるぞ!」

 

 しかし、数が多い。

 範囲も広い。彼女の(まなこ)に映るのは瀞霊廷に散らばる無数のちびノブ。様々な場所に隠れ潜む姿に、死神が苦労するのは然もあらん。

 やっとこさ数え終わったが、信長の予想以上に時間を食ってしまった。

 

「(ちびノブ1534匹捕捉完了。接続開始じゃ!)」

 

 だが、そこからは速かった。

 捕捉と同時に作り上げた霊子で編まれた鎖を、全ちびノブへ向けて射出した。ちびノブ以外のあらゆる物質を通り抜け、見えず触れず死神にも何の影響もない特殊な鎖。

 殺傷力はまるでないが、この場において必要な一回限りの道具。その1534本の鎖がちびノブへ接続された。

 

「(接続完了。同調開始じゃ)」

 

 そして、全てのちびノブに霊力が送り込まれた。

 各地のちびノブは動きが止まり、流れ込む霊力と共に構造が世界に適応してゆく。ものの二十秒ほどで変化は完了し、信長はちびノブから手を放した。

 

「ノブ…?ノブ!?ノブー!」

 

 霊子で編まれた鎖は消え、掴まれていたちびノブも元に戻った。今はいつの間にか自分の帽子が血にまみれている事に気付き、必死でゴシゴシと拭っている。

 

「ゲホッ…思ったより軽傷で済んだのう」

 

 一方の信長も白かった包帯が真っ赤になっているとはいえ、巨虚と戦った時よりは全然マシである。視界も少し赤いが、骨は折れていないし筋肉も断裂していない。

 

「(まぁ、初めてにしては上手くやった方じゃろ)」

 

 彼女の策は成功したと言えるだろう。

 信長の計算通りなら各地のちびノブは沈静化し、被害が出る事はなくなるはずだ。今までの被害がなくなったわけではないが、少なくとも処刑は免れるであろう。

 

「おっと…」

 

 ただ、普通に血の流しすぎなので信長はゆっくりと後ろに倒れていく。じきに来る痛みに備え、意識を飛ばそうと目を閉じる。だが、その前に彼女は抱き止められた。

 

「大丈夫ですかノッブ?私の声は聞こえますか?」

 

 受け止めたのは卯ノ花烈。

 眼と耳から血が出たあたりで牢には入っていたが、信長は気づいていなかったようである。

 

「…何言っとるかわからん」

「喋れるなら軽傷ですね。治すのでじっとしてください」

 

 彼女は的確に信長の状態を確認すると、回道をかけはじめた。一見すると彼女は血だらけで重傷に見えるが、傷口がちょと開いただけである。この程度であれば医務室に運ぶ必要はない。彼女の回道をもってすれば5分程度で元の状態に戻るだろう。

 

「お、聞こえはじめた」

 

 聴覚と同時に視覚も回復すると、ジトッとした目をしている京楽と浮竹がいた。

 

「信長?どういう事か説明してくれるかい?」

「いや、さっき言ったじゃろ」

「…言葉が足りなすぎだ。おかげでビックリしたよ」

「そうだぞ。急に変な事を言って血を流しはじめたから俺も驚いた」

 

 説明…説明どうしようかのう。

 自分で言うのもなんじゃが、すんごいフワフワな理論で無理やり成立させたからのう。ぶっちゃけ説明は無理じゃな。

 

「(何か良い言い訳はないかのう…)」

 

 そう信長が考えていると何か地響きのような音が聞こえて来た。次いで死神達の怒号やら悲鳴やらが彼女の耳に届く。最初は反乱でも起こしたアホがいたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「ノブ…ノブ…ノブ!?」

 

 さっきまで落ち込んでいたちびノブが急に元気になったのだ。まるで自分のはぐれた群れを見つけた野生動物のようである。おまけに、耳をすますと何かの鳴き声も聞こえてきた。

 凄く聞き覚えのある鳴き声だ。

 

「…何だか嫌な予感がしてきたぞ」

「奇遇だね浮竹。僕もだ」

 

 それの正体を察してか京楽と浮竹は冷や汗をかき始めた。織田信長の説明を聞く必要はない。

 なぜなら答えが向かって来たからだ。

 

「ノブ!」「ノブブ!」「ノブノーブ!」「ノッブノブ!」「ノブブノブ!」「ノブノーブ!」「ノッブ!」「ノブノブ!」「ノッブ!ノッブ!」「ノブブノブノーブ!」「ノブ!」「ノーブ!」「ノッブブ!「ノーブノーブ!」「ノブノブノブノブノブ」「ノッブッブッブ!」「ノブ!」「ノ!ブ!ノ!ブ!」「ノブノーブ!」「ノブノブ」「ノーブ!」「ノブブ!」「ノーブノブ!」「ノブノーブノブノーブ!」「ノブ!」「ノブノブ!」「ノッブ!」「ノッブ!ノブ!」「ノブ!」「ノノブノブ」「ノブノッブ!」「ノブノブ!」「ノーブ!ノーブ!」

 

 懺罪宮(せんざいきゅう)という高き塔。その周囲を大量のちびノブが囲んでいた。

 何かを呼んでいるわけではなく、ただ己を産み出した存在を知覚した故にここに集結した。そして、自らの命を文字通り繋げてくれた者への恩返しのために。

 

「あらあら。どうしましょうか」

 

 しかし、とてもうるさい。

 夏場のセミの百倍くらい騒々しい。しかも信長以外は言葉が分からないのでマジの騒音である。

 

「ノッブ!さっきのアレのせいかこれ!」

「そうじゃ!何か暴走してたみたいじゃから元に戻してやったんじゃ!」

「そうか!じゃあ静かにさせてくれ!」

「無理じゃ!」

「何でだ!」

「わし一応罪人なんじゃ!外に出て鎮める事ができんのじゃ!」

「…そうか!すまん!」

 

 うるさすぎて喋るのも一苦労である。

 感謝の声というのは心地よいが、こうも多すぎて雑音にしかならない。これで個々の声を聞き取るのは、聖徳太子でも無理だろう。

 

「信長!窓の外!外見て!」

「なんじゃ!って、チビノブじゃと!?」

「どうやら他のチビノブを土台にしたみたいだ!」

「スゴいなチビノブ!というか何か持っとるな!」

 

 窓嵌められた鉄格子の外。

 そこには何故かノコギリを持ったチビノブがいた。恐らく、要るかもしれないと何処からかパクったであろう。また、信長達からは見えないが他にもタライやタワシを持っている個体がいた。

 そして、ノコギリの使い道は一つである。

 

「ノッブ!ノッブ!ノッブ!」

 

 ギコギコと掛け声に合わせて切断される鉄格子。

 しかも、後ろから別の工具を持った個体が現れた。どうやら、鉄格子を破っただけでは助け出すのに時間がかかると判断したらしい。金槌やノミ、更にはバールのような物で壁を破壊しようと画策していた。

 

「ストップ!ストップじゃ!」

「…ノブ?」

 

 が、鉄格子と壁を半分ほど解体し終えたあたりで信長が止めに入った。彼女は別に脱走したい訳ではない。どうにか自身の無実を晴らすために、ちびノブを制御する方法を実行したのだ。

 

「ワシの罪が加算されるじゃろ!静かにせい!」

「ノブ!」

「危なぁ!?こやつノコギリ投げおった…」

「ノブノブーノブー」

「いや、来てくれたのは感謝してるんじゃよ?ただ、諸事情というか現実的な問題として逃げるのは無理じゃ」

 

 もちろん信長は一瞬だけ脱走も考えた。

 だがしかし、チラリと後ろと見た時。卯ノ花烈が刀の柄に手をかけていたのだ。あまりにも自然な動作すぎて殺気すら感じないが、もし彼女が外に出れば一切の躊躇なく斬り捨てるだろう。

 

「(ちびノブじゃ盾にもならんしのう)」

 

 というか、わしの言葉をちびノブが聞くなら処刑する必要ないじゃろ。どうやら瀞霊廷中から集まったようじゃし、これは裁判の結果も変わるな。死にかけたが結果オーライじゃ。

 

「ノッブ」

「なんじゃ?」

「今から四十六室に呼ばれると思いますので牢から出します」

 

 そう信長が考えていると、卯ノ花は勝手に許可を出した。

 彼女は戦いに狂ってはいるが、同居人に対しての情は一応ある。故に、ここからの行動は早かった。

 

「…あの、監視役は?」

「じきに裁判が始まると思うので着いて来てくださいね」

「いや、わし罪人」

「あ、ちびノブも一緒ですよ」

 

 ただ、有無を言わさず矢継ぎ早に指示を出されたので、流石の信長も少し困惑した。何せ短時間で色々な事が起こったというのに、卯ノ花の表情は1ミリも変わっていない。

 

「(まぁ、悪い方向には行かなそうじゃし良いか)」

 

 しかし…どうしようかのう。

 わし普通に重体じゃから歩くのキツいんじゃよね。いや、頑張れば歩けるんだけど、この痛みに慣れるのはマズイじゃろ。

 あ、そうじゃ烈さんにおぶってもらう。

 

「おーい烈さ…どこ行った烈さん」

「卯ノ花隊長なら先に下行ったよ」

「えぇ…いや待てよ」

 

 ここに頼れる友人がいるではないか。

 ちょうど近くにいるし、わしの肩でも持って運んでもらおう。

 

「京楽、浮竹、頼みがあるんじゃが…」

「あ、それ無理だよ」

「何でじゃ!まだ何も言ってないじゃろ!」

「いやだって、今の信長の事を手伝ったら脱走の手助けになっちゃうじゃないか」

 

 そう。牢獄から出す許可は、卯ノ花が勝手に決めた事なのだ。法的な手続きも安全だという根拠も一切ない。とりあえず解決の目処が立ち、明日に処刑されるので早めに行動した。

 本当にそれだけなので、信長はバッチリ今も罪人である。

 

「すまんなノッブ」

「浮竹?」

「いや、うち下級貴族だから些細な罪でお家が潰されかねんのだ。俺の下に兄弟たちが沢山いるしな」

「…京楽?」

「いやー僕も兄貴が嫁さんもらったばっかりなんだよ。ごめんね信長」

「こ、こやつら…友人を何だと思っとるんじゃ」

 

 実際問題、彼女は処刑されるほどの罪人だ。

 彼らの判断は間違っていないし、それは信長も理解している。が、それはそれとして一発くらい殴りたいと思った。

 

「というか信長さ。僕らよりも運ぶの得意そうな生物がいるじゃないか」

「そんな都合の良い奴おるか?」

「ほら。そこにいっぱい」

 

 京楽が指差したのは、壊れた壁からこちらを覗いているちびノブ達。今も信長が見ていない隙に壁を壊そうと画策している知恵あるナマモノである。

 

「…確かに」

 

 わしの指示に従う姿を見れば、四十六室はちびノブが制御されている事を理解するであろう。であれば、こやつらに運ばせるのが最善という事か。

 …ちと心配だが頼んでみるか。

 

「あーちびノブ達」

「ノブ?」

「わしを中央四十六室に運んでくれんか?」

「ノブ!」

「返事早いなこやつら…」

 

 主である織田信長からの命令は、瞬時にちびノブ達へ共有された。彼らの頭脳はニューロンネットワークに似たノーブンネットワークで繋がっている。故に、全てのちびノブが一斉に行動を始めた。

 

「ノブー!」

「お?って、なんじゃぁ!?」

 

 まず始めに、壁やら鉄格子を破壊していた個体達によって信長は外へ放り出された。そして、そのまま重力に従って落下。そこそこの滞空時間を経て、彼女は下で待機していたちびノブ達に受け止められた。

 

「ぐえっ」

「ノブブノッブ!ノブー!」

「わしは米俵じゃないんじゃから慎重に…って、あだだだ!」

 

 腐っても死神なので、こんな高所から落とされても平気ではある。ただ、平気なだけで大丈夫というわけではない。今の衝撃で、信長は重傷からそこそこの重傷へとランクダウンした。

 ついでに、彼女は担架なしで運ばれている。

 

「うわー凄いねアレ。一斉行動が波みたいに見えるよ」

「地獄蝶の集団行動を思い出す動きだな。ノッブは川に流される枯れ葉のようだ」

 

 道幅に対してちびノブの数が多すぎるので、半分くらいは他のちびノブの上に乗ってしまっている。しかも、崩れながらも気にせず走っているせいで、遠目から見ると信長が何度か宙に放り出されていた。

 

「やっぱり少し手伝った方が良かったかな?」

「…かもしれん。思ったより雑に運ばれてるようだし…あっまた浮いた」

 

 そんなわけで、面白がってちびノブに任せたはいいが何だか信長が不憫に思えてきた2人であった。

 

「…とりあえず、無罪になったら何かしら奢った方が良さそうだね」

「そうだな。…あっ今度は空中で回転してるぞ」

 

 その後、目的地でも雑に下ろされた信長はちびノブを追いかけ回したそうな。とても怪我人とは思えない動きで、卯ノ花が感心するほどの刀捌きだったらしい。

 ただ、最終的に傷口が開いてぶっ倒れたので、卯ノ花が付き添ったまま裁判は行われた。

 

 そして、裁判の結果。

 信長は無間にて100年の投獄刑を言い渡された。

 当初は500年だったが、彼女の口先八丁で何とか減刑させる事に成功。虎の威を借る狐のように、付き添っていた卯ノ花を全力で利用した結果である。

 

「いやー暗いのう」

「ノブー」

 

 そんなわけで、織田信長はちびノブ1534匹と共に暫しの休息を与えられた。

 

「拘束されとらんが何もないのう」

「ノブー」

「…そんで何でこやつら全員と一緒なんじゃ!せめて別にせんか!」

「ノブ!?」

 

 ただし、夏場のセミぐらいうるさいちびノブ達がいるので、住み心地は懺罪宮以下であった。

 




【ちびノブによって解放された記憶】
・ちびノブの基本情報
・沢庵好きの頭新選組狂化男
・人斬りサークルの吐血女
・カタカナ系の横文字
・めっちゃ半端な魔術知識
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