第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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第3話 死神とは何じゃ?

 

 目が覚めた時、真っ先に感じたのは体の痛みだった。視界に広がるのは、縁側から入る日光により、ほんのりと明るい畳の部屋だった。

 

 なぜわしはここに?と一瞬考えて、すぐにあばら家でのことを思い出す。確か、力の制御に失敗して死にかけていた時、山本元柳斎という死神の爺さんに見つけられたのじゃった。死神の養成学校があるという瀞霊廷(せいれいてい)に来ないか、と誘いを受けたのはいいものの、傷の具合が思ったよりも酷く、そのまま気絶、爺さんにここに連れてこられたらしい。

 

 自身の体を見ると、包帯がくまなく巻かれており、その上から白装束を着せられている。枕の横には、自身の軍服が丁寧に畳まれており、その上に刀が置いてあった。

 その服を着るために布団から起き上がろうとするが、針で刺されたかのような痛みが全身を駆け巡った。

 

「がっ……ぐっ……」

 

 思わず苦悶の声が洩れる。どうやら塞がっているだけで、内部まではまだ完治していないようじゃ。無理に動かすと傷口が開きそうなので、そのままグッタリしていることに決めた。

 

 

 しばらくすると、襖が開いて誰かが入ってきた。三つ編みの妙齢の女性でニコニコと優しそうな笑顔を浮かべている。

 じゃが、なーんか嫌な感じがするのう。なんというか、虎が無理やり猫を被っているような、そんな感じじゃのう。

 

「…どうかされましたか?」

 

 おっと、少し見すぎてしまったようじゃな。

 

「いや、何でもない。まだ少し疲れているようで、視界がぼやけるだけじゃ。して、おぬしは?」

「卯ノ花烈と申します。総隊長からあなたのことは聞いていますよ、織田信長さん」

 

 卯ノ花……そういえば、わしが倒れた時に山本殿が言っていた気がするのう。

 

「ひょっとして、わしを治療してくれた人間か?」

「はい。ここに運びこまれた時、あなたの身体は酷いことになっていましたからね。主要な内臓の八割が損傷し、ほとんどの血管は破裂、骨にも多数のヒビが入っており、予断を許さない状況でした」

 

 ・・・わし、よく死ななかったな。というか、そんなに重傷じゃったのか儂。やっぱ独学はダメじゃな。

 

「さいわい、治療は成功しました。が、あなたの体力の消耗が激しく、十日前からずっと眠り続けていましたよ」

「十日か……」

 

 かなり眠っていたようじゃな。いや、むしろその程度で済んでいて良かったと言うべきか。

 

「ちなみに、好奇心でお聞きするのですが……」

「ん?なんじゃ?」

「どうしてあのような怪我を?」

 

 そりゃ気になるよね。しかし、どう話すべきかのう。……正直でよいか!

 

「わしは死神になろうと思ってな」

「総隊長から聞いております」

「なりかたがわからんから、とりあえず儂の内なる力を鍛えようと思い、やった結果がこれじゃ」

「……内なる力とは『霊力』のことでしょうか?」

 

 あの力は、そういう名前なのか。『霊力』、霊が使う力か。まんまじゃな。

 

「そうじゃ」

「……どうやって鍛えようとしたのですか?」

「いや、鍛え方がわからんので、体内を循環させた。そしたらこうなった」

「……?」

 

 説明したらすごい不思議そうな顔をされた。

 なぜじゃ。

 

「ひとつ、お聞きしたいのですが」

「なんじゃ?」

「あなたは、死神というものについてどこまで知っていますか?」

「馬鹿強い戦闘集団ということだけしか知らぬ」

「・・・これは、一から説明しなければなりませんね」

 

 質問に答えたら呆れた顔をさせてしまった。

 というか、説明してくれるようじゃ。

 申し訳ない。

 

「死神のことを説明するため、この世界の構造を説明しましょう」

「この世界は、人間が住む『現世』、死神と死後の霊魂が住む『尸魂界(ソウルソサエティ)』、悪人が死後に行く『地獄』そして(ホロウ)という悪霊が暮らす『虚圏(ウェコムンド)』の四つに分けられます」

 

 地獄はあるんじゃな。悪人の定義にもよるが、記憶から察するにわしは地獄行きの気がするのう。

 

「私たち死神の仕事は、現世では(プラス)と呼ばれる善なる霊をここに送ること、(ホロウ)となった霊を滅すること。尸魂界(ソウルソサエティ)、主に瀞霊廷(せいれいてい)(ホロウ)を始めとする様々な脅威から守ることを業務としています。なので、戦闘集団というのはあながち間違いでもないのです」

 

 そうじゃったのか。なんとなく、そんな感じはしておったが、化け物退治まで仕事とはな。

 というか、卯ノ花殿も死神じゃったか。

 

「最後に、死神のなりかたですが、一般的に真央霊術院を卒業した者が死神になることができます」

「え?学院を卒業するだけで死神になれるの?」

「はい。それだけです」

「命を捧げる感じの儀式が必要だと思っておったんじゃが……」

「ないです。ですが、死神になるには斬魄刀という虚を浄化する能力を持つ特別な刀が必須となります」

 

 特別な刀………

 

「持ち主の霊力でできており、形状・能力は千差万別ですが、通常は浅打と呼ばれる刀の形をしています」

 

 持ち主の霊力……生前とは違う刀……目覚め時には既に持っていた……ん?

 

「え、じゃあわしのこの刀ってもしや…」

「ええ。斬魄刀ですよ」

 

 マジか。なんかテンション上がるのう。しかし、わしはこの刀を一体どこで手にいれたんじゃろうな。

 まぁ、記憶ないし、考えても仕方ないか。

 

「それから、あなたの霊力についてですが、初めて力を使うと稀にそういうことが起こります。ですが、もう起こらないので安心して使ってください」

 

 それは良かった。霊力を使うたびに血だらけになってたら是非もなしじゃ済まさんれんしな。

 早速、試してみるかのう。と、その前にわしが学院とやらに入るにはどうすればいいんじゃろか。

 金なんぞ持っとらんしなぁ。

 

「心配しなくとも、既に総隊長から学院に対して推薦がされているので大丈夫ですよ」

 

 それなら安心じゃな。

 ………ん?わし、いま声に出してしゃべったか?

 

「十日後に始まりますので、それまで身体を休めるように。では……」

 

 そんなこんなで卯ノ花殿は部屋から退出していった。

 

 わかったことも多いが、わからないことも増えてしまった。それに、わしの勘が正しければあやつは儂に対してなんらかの嘘をついておった。わしのことを案じてかは知らぬが、警戒しておくに越したことはない。

 やれやれ、前世でもこんなことがあった気さえするのう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 織田信長に会った後、卯ノ花烈はある場所へと向かった。

 

「失礼します」

 

 その場所は一番隊隊長にして総隊長である山本元柳斎の私室であった。

 質素ながらもどこか気品を感じられる部屋。その奥、床の間からゆったりと歩いてきた。

 そして、会話が始まる。

 

「織田信長の全治療が完了いたしました。それと、()()()()()()()()、霊力の暴走でそういった怪我は稀に起こると説明いたしました」

 

 卯ノ花がここに来たのは、信長の治療が完了したことを伝えるため、ではない。もちろんそれもあるが、実際は織田に嘘の情報を教えたことについて一抹の疑問を感じていたからである。

 その疑問を卯ノ花が抱くことを、山本源柳斎は理解していた。少し目を細め、問いかける。

 

「おぬしの目から見て、あの娘をどう思う?」

 

 "嘘偽りなくに答えよ"そういう目をしていた。

 

「正直に言いますと全くわかりません。自分の霊力で自身の肉体を傷つけるなんて聞いたことがありません。それに……」

「奇妙な霊圧か……」

「はい」

 

 山本源柳斎が織田信長に出会ったのは偶然ではない。

 

()()()()()()()()()()()()()()。そんな事例は見たことがありません」

「うむ。一瞬、虚の集団かと思っておったが、見た目と中身が一致していない少女がおった」

 

 死神は瀞霊廷を護るためにある。

 従って、不穏な事柄があれば即座に向かう。

 今回、源流斎が事に当たったのは最も近くにいたからである。

 

「傷が治ったと思ったら、きちんと霊力も循環していましたね。謎ですね」

「うむ。悪意があるわけでもないが、存在自体が怪しすぎるのでな。事実は少し伏せておいた方が得策じゃろう」

「…そうですね。総隊長がそうおっしゃるのであれば、私としても異論はありません」

 

 それに加え、彼女を殺すとしても不確定要素が多すぎるため、この場ではひとまず軽い監視を続けるという結論になった。

 

「それに、浮竹と京楽の良い刺激になるじゃろう」

「競争相手は多いに越したことはないでしょうしね」

 

 そんな感じで会話は終了した。

 ちなみに、山本元柳斎が更木周辺を散歩していた理由は、昔卯ノ花が戦ったという少年を見に行ったからである。

 尚、それがバレて卯ノ花に怒られた模様。

 

 




【織田信長】
 色んな霊圧を持っているが、本人に自覚はない。
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