第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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第5話 授業開始じゃ!

 織田信長には記憶がない。

 

 とは言っても、右も左もわからない訳ではない。箸の使い方や刀の使い方、そういうことで迷ったりはしない。

 失ったモノはあくまで『記憶』であって『知識』は生きている。

 だからこそ、信長は疑問に思った。

 

 なぜ、自分は刀を持っていたのだろう。

 なぜ、地獄のことが気になるのだろう。

 なぜ、なぜ、なぜ、なぜ?

 

 それ故に、自分は、死んで記憶を失ったのではなく、この世界で記憶をなくしたのではないかと。

 ならば、記憶を失う前の自分を知っている人物がいるのではないか?そう考えた。

 

 そして、学院という環境を利用して情報を集めようとした。

 だがしかし、それは始まる前に終わった。

 

 更木の想定以上の悪名高さに加え、それをバラした京楽(アホ)。そんなアホをつい抜刀して追いかけてしまった。

 そんなわけで学院内に入ると。

 

「ねぇ、あれって…」

「更木出身の織田信長…」

 

 好奇と恐怖の視線にさらされる。

 しかも、少し耳を澄ますと。

 

「初日にクラスメイトを殺そうとしたらしいぜ」

「マジかよ!?近づかないようにしよ」

 

 噂に尾ひれがついている。

 こんなことを噂しとるのは一部の生徒だけのはずだと思いたい。

 

「おはよー信長。いやー噂ってすぐに広まるもんだね。もう上級生にも知れ渡ってるよ」

 

 思いたかった。

 …少しぐらいわしに希望を抱かせても良くない?

 

「はぁ…貴様のせいじゃろ京楽」

「ハハハ、謝ったんだから許してよ」

「嫌じゃ」

「えー」

 

 この態度が軽い男は京楽春水。

 わしがこんな状況になった原因のひとつ、というか原因そのものこいつとなぜ気軽に話してるかというと。

 

 山じいに叱られた後、罰として正座させられている時になんとなく京楽と話していると、ふと気づいた。

 『あれ?コイツ女の話ばっかしてるぞ』と。

 暇だったのでなんとなく聞いてみると、どうやらこの男、日常的に女子にセクハラまがいのことをし、その度に山じいに怒られているようじゃ。

 

 事実だけを聞くと最低野郎だが、誰でもいいというわけでもないらしい。それに、話してわかるがコイツは意外と思慮深く、周りの人間からも慕われているらしい。

 

 尚、わしにもセクハラするか?と、聞いたところ。

 『なんとなくそういう気分になれないから無理』だそうだ。というか気分で決めてるのか。

 

「しかしあれじゃな。更木の悪名というのが、ここまで酷いものじゃったとは……」

「まぁ、言った本人が言うのもなんだけど、あそこまでとはね。となると、あの噂が信じられているってことなのかね」

 

 京楽は不思議そうに呟いた。

 

「あの噂?」

「うん。その昔、護邸十三隊の隊長が更木の子供に傷を負わされたっていう噂」

 

 なんじゃそりゃ。いくら更木が10割狂人みたいな地区でもさすがににそれはないじゃろ。

 

「更木を何だと思っとるんじゃか……」

「ハハハ、信長にとってはいい迷惑だね」

 

 コイツ……他人事だと思って笑いおって、鞘でつついてやろうかな。

 そう思い京楽の顔を見ると、目が笑っていなかった。つまり、ある程度の確証があって儂に問いを投げたということだった。

 まぁ、悪意があるわけでもないし、放っておくか。

 面倒じゃし。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「──である故に、ここ真央霊術院は作られたのである」

 

 教壇には山本源柳斎が立ち、授業を行っていた。

 最も、今教えていることは、ほとんどの死神候補生が知っていることなので目新しさはなく、ほとんどの生徒はつまらなそうにしている。

 

 浮竹は真面目に聞いていた。

 信長も興味深そうに聞いていた。

 彼女にとっては未知の知識であり、あって困るようなものでもないので、楽しんで聞いていた。

 

 この学院には大きく分けて三つの科目がある。

 尸魂界の歴史、虚圏界や地獄、また現世についての基礎的な知識を得る座学。

 鬼道と呼ばれる自身の霊力や霊圧を使い発動する呪術を学ぶ、鬼道学。

 斬術や白打、歩方といった鬼道以外の戦闘技術を学び、訓練をする始道学。

 また、専門的な分野は卒業後にそれぞれの隊で学ぶことができる。

 

 信長と浮竹以外退屈そうにしているのに気づいた源柳斎は、次に話そうとしていたことをやめ、別のことを話すことにした。

 

「では、次は地獄について話そうかのう」

 

 地獄。その単語を聞き、クラス内の弛緩した空気が引き締まる。

 信長もことさら真剣に話しを聞く姿勢をとる。

 

「皆も知っての通り地獄とは、死神が監視をしているが、管理下には置かれていない特殊な世界じゃ。従って、死神は地獄への干渉を厳しく禁じられており、詳細を知っている者はほとんどおらぬ」

 

 干渉を禁じられておるのか。困ったのう。なんとなく手掛かりがありそうじゃし、地獄に行ってみるのも良いかと考えたんじゃがな。

 しかし、なぜ干渉を禁じられておるのじゃ?

 

「なぜ管理下に置かれていないのか、それは地獄のシステムが無差別であるからじゃ」

 

 無差別?どういうことじゃろ。

 

「あの世界には、クシャナーダと言われる地獄の番人が存在する。その者たちに殺されれば、地獄という世界に縫い止められ、二度と抜け出すことができなくなるのじゃ」

 

 二度と抜け出せないか……。一瞬、儂は地獄出身ではないか思っておったが、杞憂じゃったな。

 

 そんなことを考えていると、何かに疑問を持った浮竹が手を挙げ、山じいに質問をしていた。

 

「山本先生、質問があります」

「浮竹か、申してみよ」

「はい。先ほど、山本先生は『地獄に縫い止められる』とおっしゃっていましたが、具体的にはどういうことなのでしょうか?」

 

 言われてみればそうじゃな。縫い止める、と言っても色々と方法があるしのう。

 

「良い質問じゃ。現世で非道を行っていた人間は死した後、地獄に行き着く。故に、彼らは咎人と呼ばれる。咎人の肉体には、地獄に縛り付けるための鎖があり、その鎖は業の深い者ほど数も大きくなり、強く固く永遠に地獄に縫い止られる」

 

 地獄に囚われる鎖……ということは、もし儂の身体にその鎖があったら、わしが地獄から来たということになるのか。

 

 そう思い、何気なく自身の腕を見ると、

 

 それがあった。

 

 手首には黒く鈍い色の枷があり、そこから凍えるような黒さの鎖が伸び、先になるにつれ透明になっている。

 腕を振ると、ジャラリという鎖の音が聞こえる。だが、周りには聞こえてないらしく、気にする者はいない。

 触れてみると異常に冷たいが、手首に枷がついているという感覚がない。

 

 とりあえず、枷がある腕を挙げてみる。

 

「どうしたんじゃ、織田」

「…いや、何でもない。身体を伸ばしたくなっただけじゃ」

「それは授業が終わった後にやれ」

 

 なるほど。

 どうやら、この鎖はわし以外には見えていないらしい。

 

「話に戻るが、罪人以外でも地獄で命を落とした場合、咎人となってしまう。死神であろうと、人間であろうと、例外なく。そして、二度と抜け出すことはできない。咎人は何度も生き返ることができるが、次第に記憶が薄れ、最後には砂となってしまう。それが、地獄に干渉してはいけない理由じゃ」

 

 しかし、なぜいきなり鎖が出現したんじゃ?

 …いや、違うな。

 これは最初からあった。

 地獄という存在を再確認したことで見えるようになった。いや、鎖の存在を思い出したというべきか。

 

 しかし、ますますわしの過去が気になってくるのう。

 地獄に縫い止めるための鎖、それがありながら抜け出したと思われるわし。

 やれやれ、謎が増える一方じゃな。

 




【織田信長】
 とりあえず暇な時間に鎖で遊んでいると、何度か他の生徒に当たってしまった。結果、彼女の近くにいると急に身体の何処かが痛み出すという噂が流れる。
 そして、信長の評判はまた落ちた。
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