第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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第6話 咎の鎖。儂の鎖。

 広大な面積を誇る靜霊庭。

 代わり映えのしない景色の中、織田信長は難しい顔をしながら歩いていた。

 

「…問題が解決すると新しい謎が出てくる。怪奇小説か何かか?」

 

 彼女の両手首からは鎖が垂れ下がっており、金属のこすれる音が周囲に響いていた。最も、鎖の音は彼女にしか聞こえていないため、響くというのは些か語弊がある。

 

「大体、わしが尸魂界に来てから20日ばかりしか経っとらんのに原因不明の事象が多すぎるじゃろ」

 

 彼女が今抱えている問題は、記憶喪失に咎人の鎖。

 そして、腹が減らないこと。

 

 (別に腹が減らないこと自体はわしの害にはならないんじゃが……バレたら面倒じゃしのう)

 

 通常、霊力がある者は他の魂魄と違い、エネルギーを消費するため空腹になる。だが、信長は腹が減ることもなく、飢餓で倒れることもなかった。

 バレることは恐らくないが、念のため。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか我が家に着いていた。

 

「ただいまじゃー」

 

 玄関を開けると聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「お帰りなさいノッブ」

 

 今、信長が住んでいるのは卯ノ花烈の屋敷。

 身寄りもなく記憶もない。おまけに、色々と不可解な存在のため、監視という意味も含めて彼女の屋敷に住んでいる。

 

「烈さん、今日の夕食は何じゃ?」

 

 そんなわけで、ここが信長の家となっていた。

 

「今日は肉じゃがですよ」

 

 卯ノ花自身もこの生活を楽しんでいるようで、料理のレパートリーが少し増えた。

 

「肉多めでよろしく!」

 

 信長自身は食べる必要性はないが、ご飯を食べる喜びというのは唯一無二である。故に、日々の食事を楽しみにしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 夕食が終わり自室に戻った信長は、鎖についての検証を始めた。

 まずは、この鎖が自分の意志で動かせるかどうか試した。普通なら動かなそうだが前例がない。試してみる価値ぐらいはあるだろう。

 

「とはいってもどうやって動かせばいいんじゃ?これ」

 

 とりあえず、もう一本の腕があると仮定し、それを動かす感覚で試した。

 

「おおー」

 

 意外と簡単にできた。

 動いている姿は金属で作られたの蛇のようで、若干不気味ではあったが、成功と言えるだろう。

 

 そこからは簡単だった。

 全身に絡み付く鎖を把握するように操作を開始する。動かすことで、鎖の全体像が見えてくる。

 自身の肉体には、両腕と両足に三本づつ、そして胸の中心に一本の、合計十三もの鎖があった。

 

「鎖の数が業の深さと言うならば、わしは随分と罪深い人間だったようじゃな」

 

 そう呟く信長だが、自分の業というものにあまり興味を持っていない。例え自分が世界中の人間を全て滅ぼしたような罪を背負っていたとしても、彼女は後悔しない。

 

 それが、織田信長という存在だ。

 

 鎖が自在に動くと確認した彼女だが、あるひとつの問題があった。

 それは、この鎖を他人が触ることができるのかという点だ。

 壁や天井はすり抜けなかったが、生物ならどうなのだろうか。いや、厳密に言うと尸魂界には生物はいないのだが……。

 

 そんなわけで、信長は卯ノ花で試すことにした。

 ちょうど風呂に入っているらしいので、洗面所の近くで来るのを待つことにした。

 

 (じゃがなぁ、なんか嫌な予感がするんじゃよなぁ)

 

 やろうと決めたものの、なんとなく気が乗らない。

 今の信長にとって、卯ノ花烈は保護者のような存在ではあるが、少し苦手であった。時折、殺意のような何かを向けられている気がしたからである。

 実際は、信長を見定めようとしているだけなのだが、視線の度合いは変わらないため、あながち間違いでもなかった。

 

 そんなことを考えているうちに、風呂を終えて出てきてしまった。

 

「ふぅ、さっぱりしました」

 

 いつもは結んでいる髪をほどき、軽く後ろで留めていて、普段とはまた違った美しさがあった。だが、風呂上がりだというのに帯刀していた。

 

 (えぇ……)

 

 正直、刀を持っている時点で嫌な予感しかないが、目の前にいるのだからやるしかないだろう。

 

 自室に向かう卯ノ花。

 彼女の首筋に狙いを定め、鎖を動かす。

 煙のように、シュルリシュルリと目標に近づいていく。

 影もなく、音もなく、鎖自体に意志があるかのように、動いていく。

 

 鎖が首筋に触れる。

 

 その瞬間、卯ノ花の身体が一瞬ブレた。

 

「がっ!?」

 

 全身に強烈な痛みと圧力を感じ、信長は意識を失いかけた。

 無理やり意識を覚醒させると目の前に床があった。

 

 (一体…何が?)

 

 困惑、そして理解する。

 あの時、卯ノ花は咎の鎖を正体不明の何かだと認識し、鎖を掴み、本体ごと投げ飛ばしたのだと。

 恐らく、当人にとっては虫を払う程度の感覚でやったのだろうが、やられた本人は、はたいたどころのダメージではない。

 

 とはいっても、咎の鎖を知られるのは信長にとって面倒ことこの上ない。幸い、今は鎖を掴まれているような感覚はしない。

 鎖を自身の身体に絡みつけ、平静を装いながら話しかける。

 

「のうのう、これはどういう状況なんじゃ?」

「あら?どうしたんですかノッブ。天井に埋まったりなんかして、お風呂の時間ですよ」

 

 卯ノ花の言葉から察するに先の動きは、ほぼ無意識に行ったらしい。恐ろしや。

 

「わからぬ。(嫌な予感はしていたけど好奇心に負けて実験を行った結果)気づいたらこうなっておった」

 

 嘘は言っていない。若干言葉を省略しただけである。

 

「まぁ、それは大変ですね。抜け出せますか?」

「いや、無理そうじゃ。すまんが、手を貸してくれぬか?」

「どうぞ」

「かたじけない」

 

 卯ノ花に引っ張られ、天井から抜け出す。

 床に立ち天井に目を向けると、人を形をした穴が空いていた。思ったよりも形が綺麗だったので少し感心をしてしまった。

 

「これ、どうしましょうか」

「特に困らなそうじゃし、このままで良いじゃろ」

「それもそうですね」

 

 二人の会話は何かがズレている気がしたが、あいにく突っ込む人間はここにはいない。

 

 その後、烈さん相手に試すことは絶対にしない、と信長は誓うのだった。

 

 




 信長の鎖。
 通常の咎の鎖と違い、錆びておらず、黒色。
 信長は気付いていないが、非常におぞましい気配をしており、大体の死神は生存本能から無意識に反撃を行う。
 卯ノ花の場合、あらゆる流派・あらゆる刃の流れを自身の力を手にした故の自動防御に近い。
 
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