第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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【信長の鬼道】
 家で試しに発動してみたら庭の木がちょっと燃えた。
 普通に怒られた。


第8話 現世で実習じゃ!

 

 刃禅というものがある。

 

 日に数刻、座禅を組み、集中力を高め、斬魄刀にいる本体と対話するためにそれは行われる。

 本体と会話することにより、死神は『始解』というものを習得することができる。『始解』とは斬魄刀の名前を呼ぶことで発動する最初の形態である。

 故に、自らの刀との対話は必要不可欠なものである。

 

 とはいっても、大体の場合は会った瞬間に教えてくれるもので、心象世界に入れるならば『この戦い…我々の勝利だ』ぐらいは言ってもいいだろう。

 

 けれどここに──例外が存在した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 破滅的に刹那的に燃え続ける暴力的な炎。

 床や天井が焼け落ちる崩壊の音。

 死体の焼ける嗅ぎ慣れた匂い。

 

 それがわしの心象風景の全てであった。

 生者と呼ばれる者は誰ひとりとして見当たらず、刻一刻と変化しながらも燃え続ける■■■。

 

 初めて刃禅をした時からわしの記憶は不完全ながらも断片的に思い出していった。

 わしのために謀反を起こした弟。

 色々と拗らせてわしを討った■■■■。

 サル。

 名前は思い出せぬが、一癖どころか三癖ぐらいある部下ばかりじゃった。

 

 それだけならば記憶が戻ってきた、と喜ぶことができるのじゃが、残念ながらそうではなかった。

 それらと一緒に、矛盾している記憶も思い出してしまった。

 わしのために謀反を起こさなかった弟。

 色々と拗らせてもわしを討たなかった■■■■。

 サル。

 と言った感じで、明らかに整合性が取れていないおかしな記憶がある。

 

 しかも()()()()()()()()

 山じいは、心象世界に入ればすぐに現れる、と言っていたが、いつまで経っても現れない。

 声すらも聞いたことがない。

 

 (はぁ…今日はここまでかのう。また変な記憶も思い出したしのう)

 

 今日の記憶の内容は、■■■■が女になっているというものであった。男の時よりも色々と重たくなっており、面倒くさくなっていた。まぁ、男の時も十分重かったんじゃがな。

 

 深く沈ませていた心を、水中から地上へと浮かび上がるイメージでゆっくりと覚醒させる。

 

「お、今日の刃禅は終わったか?」

 

 目を開けると、浮竹の顔があった。

 

「なんか近いんじゃが…」

「おっと、すまん」

「別に良い。それより、お主はもう帰ったと思っておったが何故ここに居るのじゃ?」

 

 既に学院での授業は終わり、残っている者は信長のように刃禅をするか、素振りをしている。

 浮竹は下級とはいえ貴族のため、放課後はその勉強をするために早めに帰ることが多くなってきた。京楽の場合は兄がいるので、貴族の勉強は必要最低限のものしか受けていないらしい。

 

「明日は何があるか信長は覚えてるか?」

「そりゃ忘れるわけないじゃろ。魂葬の訓練のため『現世』での現地実習であろう?」

 

 魂葬。

 死神の仕事のひとつで、現世で未練のある霊を尸魂界に送ること。通常、死んだ人間はこちら側に来るが、未練などがある場合は現世に留まり、いつかは虚となってしまう。

 そのため、魂葬が必要になる。

 

「覚えてたか…」

「当たり前じゃ。そんな大事なことを忘れるわけがないじゃろ。んで、何か用か?」

「おぉ、そうだった。これを渡しに来た」

 

 そう言って、一羽の蝶を懐から取り出した。それは、墨汁のような黒さを持つ、どこか儚げな雰囲気を感じさせる揚羽蝶であった。

 

「…何じゃこれ?」

「地獄蝶だ。授業で説明されただろ?尸魂界から現世への道を通るための許可証みたいなもので、伝令にも使える」

「へーこれが……何で今なんじゃ?現世に行くのは明日のはずじゃろ」

「地獄蝶も生き物でな、初対面の者には警戒心を抱くらしい。なので、慣れさせるために前日に渡す決まりになっている」

「警戒心のう……」

 

 ダメ元で指先を蝶に向けてみると、浮竹の手のひらから抜け出し、わしの指にとまった。警戒している様子もなく、親元にいるかのような穏やかな雰囲気すら感じる。

 

「珍しいな。地獄蝶がこんなに早く懐くなんて。ノッブ、蝶の世話をしてみないか?報酬は弾むぞ」

 

 ちなみに、蝶の世話は下級貴族が行っているらしい。

 

 (()()()、か)

 

 なるほど、微かだがわしの鎖と同じ気配がする。こやつらも元は地獄にいたようじゃな。

 しかし、蝶の世話か。やってみたいとは思うのじゃが、この懐きようだと絶対に面倒なことが起こる気がする。指にとまった蝶の眼を見れば、絶対に離れないという強い意志が、ひしひしと伝わってくるしのう。

 

「いや、金には困っとらんしやめておく」

「そうか…気が変わったらいつでも声をかけてくれ」

「わかった。じゃあ、わしはそろそろ帰ることにする。明日は早いしな」

「またなノッブ。遅れるなよ?」

「遅れぬわ!浮竹も気を付けるんじゃぞ」

「あぁ!」

 

 そう言って、訓練場の前で二人は別れた。

 沈みゆく太陽を眺めながら、信長は感慨に耽るように呟いた。

 

「ついに現世に行くことになったか。時間が過ぎるのはまっこと早いのう」

 

 織田信長が尸魂界に来てから既に三年の月日が過ぎていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 この三年間でわしは大きく成長した。まずは鬼道、三十番台の破道と縛道は、無詠唱で発動できるようになった。じゃが、回道の方は才能がないらしく、せいぜいが細い血管を繋げて死ぬまでの時間を延ばす程度が限界。

 

「信長、醤油を取ってください」

 

 斬術の方は、京楽と同じくらいの腕前。

 

「ん、はい」

 

 一番成長したのはやっぱり咎の鎖じゃな。

 ある日、鎖の操作技術を高めるためにいつものように練習をしておったら、いつの間にか鎖が増えていた。

 

「ありがとう。今日の夕食はどうですか?」

 

 というか、鎖が何もない場所から出現した。

 当初は戸惑ったが特に支障はなかったので、操作技術と並行して、鎖の射出・発動も訓練を行った。

 

「旨い!特にサツマイモの天麩羅(てんぷら)が最高じゃ!」

 

 その結果、現在は肉体のものとは別に、数十本の鎖の展開と操作が可能となった。

 二つになると区別するのが面倒じゃったため、肉体の鎖は『咎』それ以外は『獄』と名付けた。

 

「ふふ、それは良かった。明日は初めての現世実習ですからね。腕によりをかけて作ったんですよ」

 

 この前、更木に里帰り(?)した時に何人か襲いかかってきおったので、『獄』だけを使って応戦。結果は攻撃にも使えるし、防御にも使えるというビックリの性能じゃった。

 『獄』は『咎』とは違い、血のように赤黒く錆びついた冒涜的な外見をしている。そのためか少し脆く、わしの刀で切断することができた。

 

「いやー、しかしこんなに豪華じゃと最後の晩餐みたいじゃなぁ」

 

 まぁ『咎』の強度がおかし過ぎるだけかもしれんがな。

 

「ふふ、縁起でもないことは言わないでください。昨年よりも安全に配慮しているとはいえ、危険なことには変わりないのですから」

 

 現世への実習は、三人一組に引率の副隊長一人という構成になっている。いささか厳重な気もしないでもないが、ほとんどが貴族の特進学級ならば妥当と言えよう。

 

「そうじゃな…前の実習では死人が出たらしいしのう」

 

 それに加え、実習中に虚に襲われ、生徒七名が亡くなっている。厳重なのも当たり前じゃな。

 

 信長がそんなことを考えていると、卯ノ花がふと思い出したように呟いた。

 

「そういえば信長。草履の鼻緒が切れていましたよ」

「ありゃ?この前、買い替えたばっかりなんじゃが……不良品じゃったか…」

「そういうこともありますよ。気を落とさないでください」

「気に入っていたんじゃがな……」

 

 余談だが、彼女の草履は髑髏を模したもので卯ノ花以外にはすこぶる評判が悪かった。

 

「それはそうと信長、野良猫やカラスなどに餌をやっていませんか?」

「……何のことじゃ?」

「違いましたか。実は……」

 

 烈さんが言うには、今日はやけにカラスが屋根の上で鳴いていたり、黒猫が家の前を横切ることが多かったらしい。

 

「不思議なこともあるもんじゃな」

「別に害はないので問題はないのですが、少し気になりましてね」

 

 まぁ、確かにわしの記憶からも不幸な出来事の直前の多くは動物の不可解な行動があったことを覚えておる。

 何かが起こるとすれば明日の現世での実習じゃが、山じいがよく話している雀部副隊長殿が儂らを引率してくれるらしいしのう。よっぽどの例外がない限り大丈夫じゃろ。

 それに、

 

「わし、この実習が終わったら新しい草履を買いに行くと決めておるんじゃ」

 

 着々と死亡フラグを建築しているが、そんなことには全く気がついていない信長。

 そして、自身がその『例外』であるということは、すっかり頭から抜け落ちているのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 翌朝。

 学園のある教室の前で三人の生徒が談笑をしながら、引率の死神を待っていた。

 

「…でな、わしのカッコいい草履の鼻緒が切れていたのじゃよ。いやーこんなことが起こるとは思わなかったわい。うっはっはっは!」

 

 ひときわ愉快そうに話しているのは、異国風の帽子を被った小柄な少女。三年前と全く身長は変わっていないが、その身に満ちる霊力は彼女が実力者であることを主張している。

 

「そういうことがあるものなのだな。しかし、随分と早かったな。あれは、一月ほど前に俺たちと一緒に買ったものだろう?よほど無茶な使い方をしない限りは、五年くらいは保つはずなんだが……」

 

 疑問の声をあげているのは、白い短髪に優しげながらも強い意志を放つ目を持つ浮竹十四郎。三人の中では最も回道が得意であり、それ以外に破道や縛道の使い方も上手い男。

 

「いやー信長のことだから、変な使い方をしたんじゃないかな。この前だって、雑草を斬魄刀で刈ってたし」

 

 うろんげな目を信長に向けている無精髭を生やした年若い男。こう見えて彼らと同級生である京楽春水。この三人の中では最も斬術に秀でている。

 

 自身が変なことをする者だと京楽に思われていると感じた信長は反論を試みる。

 

「いや、あれはしょうがないじゃろ。持ってる刃物がそれしかなかったんじゃから」

「だからってやらないよ普通は……なぁ、浮竹」

 

 呆れた顔をした京楽は浮竹に同意を求めるが、当の本人は天恵を得たような顔をしていた。

 

「なるほど……その手があったか!」

「浮竹!?」

 

 どうやら味方はいなかったようだ。

 くだらない話で時間をつぶしていると、待ち人が現れた。

 

「既に揃っているとは……皆さん優秀ですね」

 

 銀髪に紳士風の髭をたくわえ、洋風の白いマントを羽織っている男。一番隊副隊長でありながら、隊長に匹敵する実力者とも噂されている雀部長次郎である。

 

「いえいえ、時間に余裕を持つことは学生として当然のことです」

「じゃな」

「だね」

 

 長次郎からの褒め言葉に謙遜して答える浮竹。それに便乗する信長と京楽。それを見て、自然と笑みがこぼれる。

 

「まだ予定の時刻まで少しありますが、既に揃っていることですし、出発しましょう」

 

 そう言うと、懐から白い鍵を取り出した。質素な作りだが、所々に意匠が施されているそれを、目の前の扉の鍵穴に差し込んだ。ギシリという音を立てながらゆっくりと開いていく。

 開ききったその扉の中には、ある門があった。

 

「ほう…これが…」

 

 それは、両端に太い柱が備えられ、その中央に屋根のような物を挟み込むように鎮座している巨大な門。

 そして、これは信長にとっては馴染み深い形であり、因縁のある物であった。

 

「よく似ているな……」

 

 その門の名は『穿世門(せんかいもん)』。

 現世と尸魂界を繋ぐ扉であり、かつて織田信長が焼き尽くした神を信仰するための建物。

 そこに通じる門に、それはよく似ていた。

 

 (いや、むしろこちらが先なのかもしれんな……)

 

 儂は『死神』を目指しているのじゃからな。

 

 




【穿開門】
 鳥居に似ている。 
 現世の人間がこれをを真似たのかは不明。

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