第六天魔王の死神生活   作:七瀬一五

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 雀部副隊長の話し方が全然わからん…
 


第9話 異物扱いとか失礼じゃろ!

 

 雲ひとつない透明感すら感じる青空。それが、わしの視界に広がっていた。この世界に来て初めて見る現世の空。

 下を向けば、青々とした木々が目に入り、清々しい気分になれる気さえする。

 

「落ちている最中じゃなければな!」

 

 信長は今、落ちていた。

 隕石のように重力に引かれ、数秒後には地面に激突するであろうことが予想ができる。

 

「……とりあえず叫んでみたんじゃが、別に平気なのでは?」

 

 とはいっても基本的に死神、というか霊体である尸魂界の人間は現世の物質で怪我をするということはまずないだろう。

 そのことを思い出した信長は冷静に今の状況を分析する。

 

 (おかしいのぅ。ちょっと前までわしは学友たちと楽しく会話してたはずなんじゃがな…)

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し前。

 諸々の準備を終えた四人は、穿開門の中に入っていった。

 

「なんとも変な感じじゃなぁ」

 

 門の中にあったのは不可解極まる道であった。まるで蝋燭が溶けている途中で止まってしまったかのような壁。床は人骨のようなもので出来ており、通路というよりは廃棄場に近い印象を受けた。

 

「確かに、僕も初めて来たけどなんとも言えない雰囲気だね」

「そうだな。俺もこの空間に何かを感じるぞ」

 

 貴族である京楽と浮竹も、この道についてはあまり知らない。というか、この通路がどのような原理で形作っているのかもわかっていない。

 

「それは当然と言えるでしょう。断界というものは現世と尸魂界の狭間にあるもの。文字通り世界が違うのですから、死神の誰もがこの空間に何かを感じるのです」

 

 慣れたように説明をする雀部副隊長。彼にとってこの説明は、新人の死神を引率する度に繰り返した日常的なものである。

 

「なるほどのう……」

 

 それを踏まえた上で周りを見渡すと、ある種の法則がこの空間にあることが理解できる。

 形が定まっていない流れ落ちる蝋が尸魂界。地面を構成している形ある人の骨が現世。なるほど、確かにしっくりとくる。

 

 信長がそんなことを考えている時、視界の端に何かが映った。

 

「あれは…何じゃ?」

 

 最初は何かの見間違いだと彼女は考えた。けれどその考えは即座に否定した。

 あんなものを見間違えるはずがない、と。

 

 そいつは、まるで毛糸の化け物のような外見で、真ん中より少し上のあたりには発光する丸い眼があった。更に恐ろしいことに、信長はそいつからの視線を感じていた。

 

「っ!全員走れ!」

 

 その瞬間、彼女は叫んだ。

 自身の直感、あるいは前世の経験からか、どちらにしろその判断は正しかった。

 

「いきなり何を…!あれは『拘突(こうとつ)』!?7日に一度しか現れない掃除屋が何故ここに…」

「あれが…京楽!」

「…わかってるよ!」

 

 副隊長である雀部ですら、突然の事態に困惑と驚きを隠せなかった。逆に、浮竹と京楽はそんな副隊長の姿で冷静になり、信長の意図を理解し、逃走を開始した。

 

拘突(こうとつ)

 穿開門の番人と言われる存在であり、その体は拘流(こうりゅう)と言われる霊体を絡め取る物質で構成されている。それだけでも厄介だというのに、こいつは恐ろしく速い。通常、地獄蝶を持つ死神には襲いかかることはない。

 

 だがしかし、ここに例外が存在する。

 織田信長。咎の鎖を操るおぞましい気配をした異質な存在。その気配は、拘突にとって恐ろしく不愉快であり、排除すべき害虫である。

 

「ちっ!遺書でも書いとくべきじゃったわい!」

 

 全身に霊力を巡らせ、地面を踏み込む。

 限りなく姿勢を低くし、空気抵抗を極限まで減らし、弾丸のようなスピードで駆ける。

 前方には浮竹と京楽、その後ろに雀部副隊長が付き、更に後ろに信長がいる。

 そして後方には、壁がそのまま迫ってくるかのような巨体をした化け物が追従していた。

 

 ぶっちゃけて言うと、この状況はかなりまずい。わしはあの二人ほど霊力の扱いが上手いわけじゃないし、速いわけでもない。いやまあ、霊力が少なくて下手なわけじゃないんじゃがな。例えるなら、水の量に対して蛇口が小さ過ぎる的なあれじゃ。

 

 (……『咎』を使うか?いや、危険過ぎる。こんな状況で使ったら、あ奴らにいらぬ動揺が生まれ)

 

「ありゃ?」

 

 踏み込んだはずの地面が消え、困惑の声がもれる。

 思考していた信長は気づいていなかった。

 なぜ拘突が追いかけてきているのかを、そいつにとってこの空間は手足のようなものであることも。

 

「ちょ待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 地面がなくなったことによる衝撃で咄嗟の判断が遅れ、前方に体勢を崩れる。その隙を拘突が見逃すはずもなく、現世へと信長は落とされてしまった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 回想終了。

 改めて考えると段々と腹が立ってきたわい。というか拘突とかいうあの毛玉野郎、わしのことばっかり狙ってきた気がするんじゃが……気のせいじゃよな?

 

「……ここどこじゃ?」

 

 信長が落ちた場所は寂れた農村だった。ほとんどの家は原型を保っているが、人の気配が全くしておらず、馬や牛なども見当たらない。略奪を受けた様子は見られなかったが、それ故に生き物がいないこの状況が、どこか奇妙だった。

 

「飢饉でも起きたか?いや、それよりもまずは副隊長殿に連絡をしなければ……」

 

 そう考えた信長は、一旦この場所に対する思考を止め、地獄蝶と使い捨て緊急連絡符を懐から取り出し、自身の無事を伝えようとした。

 

『ギィギィ♪』

 

 彼女の懐の居心地が良かったのか、地獄蝶は上機嫌だった。 

 

「ホントは伝令神機が良かったんじゃが、あれは高いしデカいからのう」

 

 余談だが地獄蝶は一方通行の連絡しかできず、こちらからは連絡することはできない。今より約九百年後に開発される小型化した伝令神機が開発されるまでは、死神は大変苦労をしていた。ちなみに、現在の伝令神機の大きさは信長と同じくらいである。デカいね。

 

「あ~あ~、こちら真央霊術学院三回生の織田信長じゃ。現在、予期せぬ事態により実習班とはぐれてしまった。解決策を求める」

『……………』

 

 連絡符に霊力を流し、自身の状況を伝えるが応答がない。

 

「不良品じゃったかこれ?」

 

 流す霊力を強めてみるが応答は変わらない。

 

「これだから安物は『ギィ!ギィ!』

 

 突然、地獄蝶が鳴き始めた。この蝶が鳴くことはほとんどない。逆に、鳴いたということはそれだけ危険が迫っているということである。

 

「……これはまずいな」

 

 周囲の霊圧を探ってみると、虚の気配があった。しかも、一体ではない。こちらが霊圧を感知したことを理解したのか、隠すことをやめ、次々と気配が浮かび上がる。

 

 日本には、『百足退治伝説』というものがある。そのお話は、俵藤太と言われる人間が山よりも大きな百足を『弓矢』で退治したと言われるお話だ。

 大昔、現在よりも幽霊が見える人間は多かった。そして、強大な虚も多かった。故に、この時代の滅却師(クインシー)は多くの人々に見られ、後の世界で英雄と呼ばれる存在となっている。源頼光(みなもとのらいこう)坂田金時(さかたきんとき)渡辺綱(わたなべのつな)などの英雄と呼ばれる存在の多くは滅却師であった。

 表の歴史に残ってしまうほと虚が強大だったこの時代。信長が現世に降り立った年は、西暦1180年。源平合戦により多くの人間が死に、大量の虚が生まれてしまった時代である。

 

 さて、そんな所に強力な霊力を持つ死神がいたならばどうなるだろうか?

 

「なるほど、副隊長クラスが引率するわけじゃな」

 

 信長の周囲を囲むように立つ虚。

 その数、数百以上。小型虚に通常虚、果てには巨大虚(ヒュージ・ホロウ)の混成集団が目の前を埋め尽くしていた。

 しかし、そんな絶望的な状況にも関わらず、信長は獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「初めての実戦がこれとはな…面白い」

 

 斬魄刀の柄に手をかけ、虚を睨み付ける。

 

「いかな神仏仮生たりとて、この儂を阻むことは叶わぬ」

 

 刀を抜き、構える。

 

「さあ、信長の戦、その目に焼き付けるがよい!」

 

 




 捕捉説明
 信長と地獄蝶の気配が同じなのに、なぜ信長だけが襲われるかというと。信長が濃厚な地獄の気配を纏い、なおかつ咎人と同じ気配がするからです。
 そのため、人間にとってのゴキブリレベルで信長に不快感と嫌悪感を感じています。
 その気配を隠せていれば、拘突は何もしてきません。

小説のキャラ出す?

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  • 砕蜂はかわいいですね
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