運命を変える為に
私は1人
山を抜けて、私はラブーンと出逢い、クロッカスさんと交流してから先へと進んだ。いや、進もうとして船を動かして、少しした所で巨大な船に出会ってしまったと言うべきだろうか。
思わずその船を呆然と見上げていたら、幸せの青い鳥が私の船に飛んで来てその姿をパイナップルへと変貌させた。それに言葉を失っている私に、パイナップルは言う。
「子供が1人で、
「……しろひげ、海賊団、が、どうして……こんな、パラダイスの外れに?新世界の海賊でしょ」
声が、上手く言葉にならない。それ以前に、言葉を声に出してるつもりなんて無かったんだけど。
それにしても、この髪型のせいで年齢不詳過ぎるわ。なんなのこの髪型。
思考が定まらない。つまり私は混乱している。
「……はじめまして、俺はマルコ。名前を聞いても良いかよぃ?」
「私、は……ネム。はじめまして、白髭海賊団1番隊隊長〝不死鳥〟マルコさん」
「……ネムか、少し話がしたい。船まで来てくれないか?」
疑問符を付けていても、決定だとその眼差しで言われてしまえば逆らうなんてできる筈もない。……会う事なんて想像もして無かった人達に、私はこうして出会う事となった。
船を救命ボートのように船の横に取り付けてもらい、助かったと思う反面逃げられなくなったなと思う。まぁ、どう考えても逃げられないんだけどさ。
案内されるままに進めば、甲板に腰を下ろしている船長さんが居て、その大きさに1瞬圧倒される。そして、読んでいた為に知っている最期を思い出してしまえば、この場にいる人達のその後を思えば、瞬きさえ出来なくなってしまう。
「……ネム?」
横から声をかけられて、ハッとする。その時には頬を雫が伝っていて、何が起きているのだろうかと自分に驚いてしまう。
「お嬢ちゃん、俺が……怖ェか?」
問いかけられたそれに、私は即座に首を横に振る。不思議だけど、怖くないから。
気遣うように掛けられた声が、けれども少し傷付いた様子であるのが伝わる。悲しませるつもりなんて無かったのに……。
「ごめんなさい。少し、混乱して取り乱しました」
「……そうか。マルコ!」
「名前はネム。他はまだ聞いてねェよぃ」
凄いな。名前呼んだり呼ばれたりするだけで、言いたい事通じるんだ。
ふと見れば点滴が入っていて、その点滴のマークに心臓が嫌な音をたてる。スマイルが、描かれてるから。
「JOKERの、マーク?」
思わず呟いた瞬間、殺気を向けられたのか分かった。どうして私は、こう思った事を口にしてしまうのか。
その上更に、戦っても無駄だと考えるまでも無く分かっているのに、私は咄嗟に鞭へと手を伸ばしていた。直後に放たれた銃弾に私はその場を飛び退いてそれを躱したけど、その銃弾と私の間にパイナップルならぬ、不死鳥が入り込み庇ってくれていたと気付く。
「何、してんだよぃ」
低く、不死鳥が問えば船長たる白髭もまた、その身に怒りを滾らせたのが分かる。恐らく、2人からしたら想定外だったのだろうと分かるけど、私躱したし、気にしなくていいのに。
それにしても、銃弾躱せるようになってたのね、私。年齢考えたらまだまだ伸び代はある筈だし、ナミやベルメールさんをちゃんと守れるようになるかも知れない。
「〝親父の客〟に銃を向けるとは、どう言う了見なんだよぃ?」
「た、いちょ……う、これは、その……」
私が喜んでる間に何か不穏な空気になっていて、でも正直ここで覇気の応酬とかされると嫌なのよね。未経験だし、この人達強いから意識を保てるとは思えないもの。
「……不死鳥マルコさん、白髭の船長さん、お辞め下さい。私は無傷です。余計な言葉を口にして、不快な思いをさせた私の落ち度。気になさらないでくださいませ」
震える名も知らない男の人が、何だか可哀想に思えて来たのもあって言葉を口にすると、その場にいた全員の視線が突き刺さった気がした。これは、ある程度場馴れしてなければこの視線だけで震えてしまうのが普通だろうなと思えば、人前で歌ったりする事の多い自分に感謝したくなる。
……ここは、舞台だと思えばいい。そうすれば、視線が集まっていても気にならないわ。
「お話があると伺って参りました。どうぞ、ご要件を」
これ以上巻き込まれたくない。下手に巻き込まれたら、ナミやノジコ、ベルメールさんにどんな被害が出るか分かったもんじゃないわ。
そう思って言葉を続けたら、白髭さんと不死鳥さんが私をじっと見て、疲れた様子で溜息を落とした。そして、血は繋がらなくても親子なんだなと思わされるくらいにそっくりな、微苦笑を浮かべられてしまう。
「悪かったねぃ。もう、こんな事は起こさせねェから、その無表情辞めてくれないかぃ?」
「……これが、通常運行なのですが、どうしたら宜しいでしょうか」
私の笑顔は、家族と客にしか向けられないので、村の人達からもあの子は……と良く言われてる。直せるとは思えないし、別段困らないから直さなくても良いかなと思ってるけど。
「お嬢ちゃん……ネムだったな?」
「はい」
「詫びに何かさせてくれねェか。それと、良ければ1人で旅をしている理由も聞かせて欲しい」
私は少し考えてから、ゆっくりと言葉を口にした。旅をする理由は、見聞を広げる為であり、家族を養う為だと話始めれば白髭さんは成程と納得した様子を見せてくれる。
それから問われるままにベルメールさんやノジコ、ナミの事について話せば、話し始めた直後位から白髭さんを含めた多くの人顔に驚きの感情が浮かび上がった。けれど私の脳内は、可愛い妹と美しい姉と尊い母が微笑んでる姿しか無かった。
「……そうか、そんなに家族が好きか」
肩を震わせながら白髭さんがそう言ったのは、私が話し始めて小一時間程が過ぎた頃だった。それに私は首を横に振り、そんな事ないですよと言えば怪訝そうな顔をされてしまったけど、そんな勘違いされたくない。
「家族を好きなんかじゃありません。愛してます。世界滅ぼすのも厭わないくらい、家族しか見えません。……その為に、旅をしているのです。ご理解頂けましたなら、帰っても宜しいですか?」
もう二度と私とこの人達が会う事は無いだろう。私は、家族の為にお金を稼いで、家族の安全を買ったら蜜柑農家として平和に生きて行く予定なのだから。
それも東の海で。そうなれば二度と会う事は有り得ない。
いつか、ナミはこの船の誰かと会う事もあるかも知れないけれど……。それはそれである。
「……いや、まだだな。詫びについて聞いてねェ」
「お金無いんですよね。なら……あ!」
「ん?」
「覇気を、使えるように鍛えて頂けませんか?多分、私の戦闘スタイルを考えると、見聞色の覇気なら訓練次第でどうにかなると思うんです」
私の言葉に白髭さんは1瞬変な物を飲み込んだような顔をして、それから破顔した。良いだろうと、そう言って。
そうして私は6歳になってすぐの頃から数年間、白髭海賊団でお世話になる事となった。海図を描く能力は無いけど、天候は知る事が出来るから多少は役立てるかなと、そんな事を思いながら時を共にしていた。
幼いから、女の子だから、そう言って可愛がってくれる〝お兄ちゃん〟達と優しくて暖かい〝お姉様〟達に囲まれながら。白髭の親父様が点滴で入れている物が、痛みを緩和する為の麻薬だと気付いて溜息を落とし、ドラム王国やクロッカスさんの事を話してみたりしたら、動きが変わった。
本当なら後に死の外科医と呼ばれる彼に診て貰いたい所だけど、彼に関する情報を私は殆ど持ち合わせていない。そんな中で医者に診て貰う金なんざねェと言う、白髭の親父様を宥め透かして何とか治療に漕ぎ着けたのは……生きて貰いたいと思ったのは、あの悲惨な戦争を回避したいと願ったからかも知れない。
白髭の親父様の指示のもとマルコさんが暇を見つけては私に稽古を付けてくれた。それに食らいつくように挑む私を皆は初めは笑いながら、ある時から心配そうにしながら、今ではまるで日常風景の1部として、静観してくれている。
私はお世話になってるからと、気圧の変化等を感じるとそれを伝えたりしながら共に居るので、それなりに良好な関係を築いていたと思う。それと、実際子供なのもあって随分甘やかされてたと知ってる。
定期的に家族に送る手紙と、本の売上。その為にも休みとして宛てがわれた日は体を休めるのもあって、執筆に勤しむような数年間を過ごした。
覇気を扱えるようになってからも、新世界でも生きられる位になれなんて無理難題を吹っかけられつつ、私は修行をつけて貰い続けて、とうとう10歳になった。新聞には今もまだ、太陽の海賊団について書かれてはいない。
何度か魚人島にも共に連れて行って貰ったし、お兄ちゃん達もお姉様達も私を可愛がってくれたけど、多分もう帰らないといけない。皆を、失わない為に……運命を変える為に。
楽しく思える時、幸福を感じる時は、恐ろしく早く過ぎ行くもの。それを痛感しつつ、私は運命を変える為にそっと己の未練を断ち切ろうと決意した。
共通に内容の一部を移動させた関係で、内容が少し短くなりました。ご了承ください。