事前アンケートでは人気1位でした。
完全に意識が落ちる直前に、建物が揺れたのは間違いない。でも、私にはそれに反応する余裕も無くて、その時、誰かの腕が私を抱き上げたのが分かった。
この温もりを、私は知ってる気がする。でも、誰なんだろう……?
ニューゲートにしては小さいし、ナミやノジコ、ベルメールさんやゲンさんにしては大きい。でも、何だか安心する。
「ネム!……死なせねェ、そんな事になったら親父が狂っちまうよぃ、生きろネム!」
青い炎が見える。……なら、マルコ……?
「ど、して……?」
私は、何も教えてない。どうして、ここに居るの?
夢なのかな。違うなら、どうして、私、生きてるの?
普通に考えて、私が生きていられる筈のないダメージだった筈よ。なんで……助けてくれようとするの?
私は、異分子で……私は、余りもので……なのに、どうして。どうしてこの腕は、こんなにも優しいんだろう。
「妹を……家族を助けに来ないなんて選択肢が、あって溜まるかよぃっ!」
その時、またしても世界が揺れた気がした。でもどうやら気の所為ではないみたいで、マルコが私を抱えて部屋を飛び出せば二度と会えない事を覚悟していた愛しい人の姿が見える。
どうやら揺れていたのは、ニューゲートの能力だったらしい。マルコがニューゲートに程々にしてくれと言い募るのを、何処か遠い所で認識していた。
「ニューゲート……」
「ネム!意識はハッキリしてんのか?」
「なんで、いるの?私、何も教えてない」
「……だからこそ、来るのに時間が掛かったんだろうが。この馬鹿が」
そう言ってから、私の治療をマルコに命じて、ニューゲートが
ニューゲートをボーッと見ていたからか、マルコに甲板で治療するのが楽そうだなんて笑われてしまったけど。ニューゲート……なんか、怒ってる?
それから目の前でアーロンパークが崩れ落ちそうになってるのを見て、慌てて立ち上がると、マルコに怒鳴られてしまった。でも、ダメなのよ!
「だめ、中にナミが……!」
「ナミ?」
「妹なの!見た目は私と似てるから、多分見れば分かると思うけど……。兎に角、だからすぐに「それなら、さっき島に着いてすぐに会った。今は村人を避難させてる筈だぃ」」
その言葉を聞いて、良かったと思えば身体から勝手に力が抜けてそのまま意識が遠のいた。それにマルコは焦ったような声を出すけど、それならアーロンパークがどうなっても私としては困らないわ。
そうして意識が戻ると、皆の話し声というか、怒号が飛び交っているのが聞こえて来た。……なんだろう?
「まずは全員落ち着け。確かにネムを助けて貰った恩はあるだろう」
「それでも、海賊よ。いくらいい噂しか聞かない側の海賊とは言え、私は認められないわ!」
ゲンさんと、ベルメールさん……?
「そうだよ!ネムを助ける為にナミがどれだけ頑張ってたか、皆も知ってるでしょ!?それに、私はもう、妹を犠牲になんてしたくない」
「……良いんじゃない?だって珍しくネムが、自分から1緒に行きたいって言ってるんでしょ。私達の為じゃ無かったら、指1本動かすのも面倒って言うのに……ついて行きたいって」
ノジコとナミの声もするわ。どうなってる、の?
「……そこまで物臭か、ネムは」
「うん。ネムはね、私とノジコとベルメールさんが世界の中心で、それ以外は総じてどうでもいいのよ」
なんか、ナミが酷い事言ってる気がするわ。そう思った時、その会話してる人にニューゲートが混ざってる気がして、必死で眼を開けようと試みる。
ゆっくりと瞼を開こうとするけど、なかなか上手くいかない。なので声をかけてみる事にした。
「ニュー、ゲート……?」
「ん?……起きたか。俺が見えるか?」
言われて視線を向けるけど、霞んでよく見えない。どうなってるんだろう。
頭も、痛い。なんか、気持ち悪い。
「ごめん、よく、見えない……わ」
「……もう少し寝てろ。数日で安定すると、この村のドクターとマルコが声を揃えていた」
「そっか、ありがとう」
失明したら、少し面倒だから良かったわ。私の体力だと覇気を常に使うなんて出来ないから本当に困るもの。
そんな事を考えていた私に、微かに声を震わせながら言葉を向けて来るニューゲート。その声が優しくて、でも、悲しんでるのも、怒ってるの迄もが伝わってくる。
「心配ばかりかけやがって。もう少し助けに来るのが遅けりゃ、ネムは死んでたんだって自覚しろ」
「……迷惑、かけたくなかったの。ニューゲートが多くの縄張りを持ってるのは、守る為だって知ってたから」
その時多分ニューゲートが手を近付けてくれたのだとわかり、そっとその指に縋るように抱き着く。それにニューゲートは笑って、回復したらゆっくり話そうと微かに声を震わせた。
この人は、寂しがり屋だって分かってたのに、悲しませてしまった。それが申し訳無い。
私は、ニューゲートを泣かせなくないのに、こんなに泣かせてしまった。表面的には涙が無くても、ニューゲートが泣いてるのが分かってしまう。
脆い所を持ってるのは、わかってたのに。私は、そんな人だから、離れ難いと思っていたのに……。
「ニューゲート、泣かせてごめんね。ちゃんと、傍にいるから……」
「あァ、生きて傍にいろ。アホンダラァ……」
その声を聴きながら、私の意識は落ちて行った。起きたら、助けてくれた事、ちゃんとお礼言わなきゃ……。
けれども意識が戻った時には、ニューゲートはもう傍にいなくて、マルコが残ってる他は皆船で新世界へ帰ったのだと聞かされてしまった。それに呆然としていたら、マルコが困ったような顔をして私を見た。
「……別に、ネムを残して行くつもりはねェよぃ。ただな、さり気なくネムが重症なんだよぃ」
「歩ける」
「陸地を3歩な……。それ、歩けるって言わねェからなぃ?」
「ニューゲート……」
思わず名を呼ぶとマルコが微妙な顔をした。それから、深い溜息を落として、早く治して連れて行きたいから、いい子に治療受けろと言う。
ニューゲートに、会いたいよ。ちゃんと、お礼言って……話をしたかったのに……。
分かってるのよ、この諸島と私を守る為に1番大切な自分の片腕を残してくれたんだって。それでも、私はニューゲートの傍に居たい。
「ネム、確認したい事があるの」
突然聞こえて来た女神……ベルメールさんの声に反応すると、ベルメールさんは真剣な様子で問い掛けてきた。本気で海賊になるつもりなのかと、その覚悟はあるのかと。
その顔を見て、茶化す気はないけど、だからこそ困ってしまう。だって私は別に〝海賊〟になりたい訳じゃないから。
「私ね、ベルメールさんとノジコとナミが笑っててくれるなら、他には何もいらなかったの。死んでも本望だとずっと思ってたのよ」
「ネム」
「でもね、私イザ死ぬんだなって思った時……ニューゲートの顔が浮かんだの。あの人アレで結構弱くて……独り遺すなんてしたくないなって、思ったのよ。だからね、海賊になりたんじゃないの。ニューゲートの傍にいたいの」
ベルメールさんも、ノジコも、ナミも、私の存在理由で愛しい人で、皆の為なら死んでも悔いは無いわ。でもね……私は、ニューゲートを遺して死にたくないなって……そう思うの。
大人だから。男だから。
皆の船長で、父親だから。守る相手が沢山いるから。
そんな事考えて、泣く事もなかなか出来なくなってる人。本当は涙脆くて優しくて、融通の利かない頑固でドケチな人なのに。
「ネム……そんなにあの爺さんがいいの!?」
「うん。ニューゲートがいい。可愛いし、優しいし、強いのよ。ちょっとケチでがめつくて、融通きかないけど……でも、愛しいの」
髪も髭も真っ白になってるのに、悪戯っ子みたいな事平気でやるのよ。そう思って笑ったら、ベルメールさんが天を仰いだ。
あの帽子の下、アレで私と髪質近いから二人で髪の毛が丸まらなくなる方法考えて語り合った事もあるの。結構本気で、色々と案を出し合ったんだから。
「このままでも構わねェかもな」
「どうして?」
「ネムとお揃いだ」
そう言って悪戯に笑ったニューゲートが可愛くて、でもあの時はそんな事言えなかったから〝パパ〟とお揃いだなんて贅沢!と笑ったんだった。今なら、なんて言うだろう。
「……ダメだわ、本気だわこの子」
「まァ、俺らも微妙な気持ちだよぃ。親父と慕う相手の伴侶候補が明らかなる幼女なんだからねぃ。それでも、親父はネムの身体が育つまで待つと言ってるし、ネムには俺達も共に進んで欲しいと願っている。許して貰えませんか、義母さん」
マルコが真剣な様子でベルメールさんに言うと、ベルメールさんは私とマルコを見比べる。それから、こっちでも問題なのにどうしてよりにもよってとブツブツ言ってから、溜息を落とした。
それが何だか不安でベルメールさんを見つめたら、外からノジコとナミが蜜柑を抱えて帰ってきた。ノジコとナミは容姿は似てないけど、中身がそっくりだと思う。
「白髭海賊団ってネムの為に、定期的に蜜柑を箱で買ってくれるんでしょ。いい顧客じゃん。許してあげなよベルメールさん」
「ネムが私達以外であんなに懐いてるの珍しいんだから、いいと思うよ?」
先の言葉はノジコ、後のはナミ。どうやら2人はニューゲートの所に私が行く事に賛成してくれるらしい。……って、今懐いてるって言った!?
「私、猫扱い?」
「「「犬扱い」」」
「犬!?」
「猫はナミよね。ネムは犬。それも狼なのに犬のフリしてる感じ」
「うん、家族以外全て食べ物みたいな?」
「家族大好きすぎて他を蔑ろにし過ぎだけどね」
愛する家族からの言葉の暴力で落ち込んでいたら、マルコが笑った。早く元気になって、親父のところへ帰るよぃなんて笑って。
それから数ヶ月、治療後はリハビリも必要だったので時を要した。移動はマルコの背に乗せて貰っての予定らしいから、体力等が必要だったのだ。
そして、何よりも家族と別れる事に対する心の準備期間だったんだと思う。……恐らく、二度と会えない事を覚悟しなければいけないから。
新世界の海賊が故郷へ帰る事は、現実的に考えて不可能に近い。それも冒険して帰るなんてものじゃなくて、その海に住まう人と共に生きる事を目的としているのだから。
「ネム……」
「ノジコ、どうしたの?」
「ネムは、昔から変な子だったけど、私から見たら手のかかる妹で……可愛い事に違いは無いんだよ。だからさ、なんかあったら何時でも帰って来な」
「え?」
「ネムの彼氏、老人って枠だもん。10年とか、20年とかしたらさ……いなくなっちゃうでしょ」
なんて事を言うのか。最低でも百まで生かしますよ!?
そう思う反面、帰って来なと言われた事が本当に嬉しい。だからこそ、無理だと分かっている現実を受け入れる為に、喜びを隠すように怒鳴ってみせる。
「ニューゲートは二百まで生きるわよ!」
「ふぅん?ま、その後でも良いから、帰って来な。……ここは、アンタの家なんだからさ」
優しく笑うノジコに私が泣きそうになるのを耐えつつ頷いた時、ナミがその会話を聞いていたらしくケラケラと笑っているのが見えた。ベルメールさんも微妙な顔をしている。
「ネム、私も世界地図描く為に海に出るから、そうしたら海で会えるよ!でも、そうしたら帰る時1緒に帰って来ようよ。あの人大物だから、死んだら分かる。そうなったら迎えに行くから、1緒に地図描く為の旅を手伝ってね」
明るく言ってくれるナミに、涙が零れる。ただ頷く私に、ベルメールさんの呆れたような声が降ってきた。
「……うちの娘達は……全く、誰に似たんだか」
「間違いなくベルメールに似たな。そっくりじゃないか」
ゲンさんの声に驚いて視線を向けると、ベルメールさんがゲンさんに殴り掛かる所で、ああ、似てるなんて思ってしまった。この2人もさっさとくっつけばいいのに。
そうして帰る場所を残して、私は家族と1時的な別れを済ませる。いつか、また……。
そんな事を言える幸福な別れ方に、少しだけ泣きたくなる。でも、それよりも早くニューゲートに会いたくて……マルコから落ちないように必死でしがみついていた。
モビーに帰り着くと、皆から盛大に出迎えられた直後のお説教タイムで、ニューゲートに会えない。本気で泣きを入れた後、夜になってニューゲートが笑いながら姿を見せた。
「……まだまだ、ガキな所もあったみたいだな。ネム」
「ニューゲート……皆が虐める」
「よく、逃げなかったな。俺なら逃げてるぜ」
「……だって、心配かけちゃったんだもん。怒られるくらいしないとね」
私の言葉に兄達が顔を見合わせて、頬をかいた。その様子にニューゲートは確かに微笑むと、そっと手を伸ばしてくれる。
「ネム、お帰り。今夜から俺の部屋で良いな?」
「うん、ニューゲート、ただいま。それと、助けてくれてありがとう」
ニューゲートに飛び付くように抱きつけば、ニューゲートが優しく笑ってくれた。そして、悪戯っ子の様な顔で笑う。
「後数年は待ってやるから、早く成長しろよ。流石に幼妻と呼ぶにも今はただ幼過ぎるからな」
「が、んばります……!」
何をどう頑張るんだと笑う声皆の声が谺響して、私は漸く戻れた温もりの中で笑う。幸せな時間は、こうしてゆっくりと、けれども確実に刻まれ始めた。
波間を抜けて、その先へ。彼等の笑い声は響き渡る。