次の更新で完結になります。
けれども、私が死ぬ事をアーロンは許さなかったようだ。間違いなく死んだと思ったのに、アーロンの全力の治療により私は1命を取り留めてしまった。
それからどれくらいの時が過ぎたのか、治療されて生き延びた私をアーロンは部屋から出そうとしない。1人の時間にリハビリを続けて、人並みの動きを出来るように回復した頃には、1年以上の時が経過していた。
見聞色の覇気を用いて、ナミが泣いているのを確認してはアーロンに掴みかかるものの、アーロンはあれ以降私に手を上げようとはしない。それどころか、部屋から1歩も出して貰えず、運動と呼べる事も基本的に許されないで、ただ……真綿で包むようにして監禁されている。
いっそ……殺してくれたらいいのに。どうして、アーロンは私を生かそうとするのか。
「どうして?」
「ん?」
「どうして、私に執着するの?私には何の才能もないわ」
「……ペットを生かすのは主人の務めだ」
「ならナミを解放して、ナミはペットじゃな……「あれは、天才だ。みすみす手放すか」」
そんな事知ってる。だからこそ、村の人達と共にナミが解放されなければ意味が無いのに。
ナミには夢があって、その夢を叶える為にはアーロンがどうしたって邪魔になる。ナミなら、1人でも海で生き抜いていける筈なのに。
私がナミの足枷になってる。そんなの、もう嫌……。
「……ネム、ナミはな、お前に手を出さない事を条件に入れている。ナミを解放したら、その分お前を犯すぞ」
アーロンの言葉に肩が揺れる。それなら、殺された方がマシなんだけど。
そう思ってアーロンを見れば、約束は守ると薄く笑った。でも、私がナミの解放を願って殺されたらナミの心はどうなるの?
……だけど、ここで私がナミの足枷でいるなんて、耐えられないよ。私は、ただ、大切な人に生きていて欲しいと願っているだけなのに。
答えの出ない問い掛けを自分に続けながら、息苦しい現実に喘ぐような気持ちになる。私は、どうしたらいいの?
「……俺は、部屋からお前を出すつもりはねェ。お前が部屋から出たら、ナミを犯す」
「なっ……!」
「それとも、姉の方が良いか?名は確か……ノジコ、だったか」
「……出ないわ。この部屋に、いる。だから皆には「お前が大人しくしているなら、ナミが契約を守っている間は愛でるだけにしてやる。欲しい物は言えば揃える。いい子にしてろ」」
アーロンは、何をしたいのだろう。ナミを使う為の足枷として、私を生かしているのは分かってるけど……ごめん、ナミ、私が……弱いから……。
「……ネムが死ねば、9億の免除が消えるから村人からの搾取を再開する。死のうなんて馬鹿な真似、するなよ」
「……そん、な……」
「お前には、9億ベリーの価値をつけてある。忘れるな」
部屋から出られない状態で、9億稼がないと私に何かあったら皆が……。部屋から出て行くアーロンを呼び止めて、紙とインクを頼めばアーロンは可笑しそうに笑った。
それから私は、脇目も振らずただひたすらに執筆と作曲を繰り返した。そのお金は全て預けてあり、9億になったらここに送金して貰う予定だ。
そんな生活が、何年続いただろうか。ニューゲートとの約束を1度も果たせないままに、私は生存だけしている。
寂しがってるかな。それとも、私の事なんてもう、忘れてしまったかな。
「ネム、お前……宝玉だったのか」
「そうよ、自分の代金を稼げば私が死んでも、村に手は出さないんでしょ」
突然の問いかけに答えたのは、気まぐれでは無い。私に価値があるとなれば、ナミへの扱いが少しは改善するかもとの打算からだ。
ナミ、巻き込んでごめんね。もう少しで、貯まるから、そうしたら開放させるから……!
「……稼げると思うのか」
「思わないわ。でも、何もしないなんて選択肢は無いの」
アーロンの言葉にそう返せば、アーロンがそっと私の腕を掴んだ。そして、苦しそうな声音で1言、細いなと呟いた。
この部屋から出る事無く、私は既に何年も過ごしている。今ではきっと、ナミより随分肌も白くなっているだろう。
前は見分けがつかないと言われていたけど、きっともう誰が見ても別人だと分かるだろう。まぁ、元々ナミの方が万倍可愛いんだけどね。
……正直、身体も弱ってるのは分かってる。筋肉だって、村娘と呼ばれる人達にさえ今はもう、敵いはしないだろうと分かってるわ。
それでも、守りたい。大切な人達に、迷惑をかけたくは無いのよ。
キッとアーロンを睨み付けると、アーロンは何故か満足気に笑い部屋を出て行く。……アーロンって睨まれて喜ぶとか、マゾなのかしら?
そして、その日は訪れた。窓から様子を見ていたら、ナミが緑色の頭の青年を助け出した所で……見覚えがあるような気がするわ。
8年ぶりに、窓越しにでもナミは私を確認した為か、その身体を震わせている。……泣くのを、耐えてるのが伝わってくるのに、私は何も出来ない。
「ナミ……もう、自由になっていいから……」
後少しで、私も貯めきるから、無理はしないで。ごめんね、足枷になって、ごめんね。
ナミ、ノジコ、ベルメールさん、私は皆を愛してる。お願い、私の事なんて忘れていいから……生きて、幸せになって。
「ネムー!」
「おい、ナミ!?」
「シャーッハッハッハッハッハッ!生かしてあると言っただろう。信じてなかったのか?ナミ」
「あれから1度も姿を見てなかったのよ。どうやって信じろって言うのよ!」
「……ネムも、お前に指1本触れるなと言って人形のように過ごしている。あれはもう、まともに歩くのも困難だろうな」
「アーロン……!」
そんな会話が、聞こえてくる。私は開かない窓を叩いて、ナミに辞めてと叫ぶけど、届かない。
外の音は入るのに、中の音は届かない部屋。そんなのはわかってるけど……でも、ナミに逃げて欲しい。
どうして、こんなに近くに居るのに、声1つ届けられないんだろう。どうして、妹1人……守る事が出来ないんだろう。
昔から願っているのは、ただひとつの事なのに。ただ、大切な人に生きていて欲しいと、その生活が平穏であればと、それだけを願っているのに……!
「ナミッ!」
窓を叩き続けても、窓に血がついても、声も、想いも届かない。ナミ……もう、私の事なんか見捨てて……!
その日は怒涛の勢いで話が進んだ。画面越しではない麦藁帽子の少年を初めて見たのもあり、私は窓から動けずにいた。
その後、私の部屋を足が突き抜けたのを見て、あ、これ崩れるんじゃ……?なんて、思ったのを最後に私は予想通りに瓦礫へと埋もれた。
覇気を纏い怪我をするのは免れたけど……瓦礫から這い出す力が、足りない。怪我とか無いから、その内どうにでもなると思うけど……。
「ルフィー!!」
あ、ナミの声が聞こえる。なら、あの名シーンかなと少し瓦礫の中で思う。
「ナミー!!お前は、俺の、仲間だァー!!」
良かった、ナミはこれで開放された。もう、大丈夫ね。
村ではなくて、相手が私になっただけで、ナミのそれは何も変わらなかった。そう考えたら、私は何の為に存在していたのかと切なくなる。
「うんっ!!」
ナミが、泣ける相手なのね。なら、もう、私はお役御免かな。
姿が似てるからなのか、ナミは少し私に依存してた。でも、何年も離れてたのもあり、きっと私への執着は薄れているだろう。
「でも、ルフィ!中にネム居なかった!?」
「……ネム?」
「髪の長い私!私の姉で、髪の長さでしか見分けつかないって言われてたの!」
窓ガラス越しに見た筈なのに、どうしてそんな説明をするんだろう。ナミの方が比べ物にならないくらい可愛いのに。
そんな事を思った時、低い声が聞こえて来た。ナミの仲間の、そうだ、海に落ちてナミに助けられた人がこんな声だった気がする。
「ナミ……言いたかねェが、あの瓦礫の中なんじゃねェのか?」
「……ネムなら、瓦礫に埋もれてても生きてるわ。ノジコ!ゲンさん、ベルメールさん!探すわよ!」
「「「おぅ!」」」
え、あれ?これ、もしかして気絶とかしてないと良くない感じ?
そう思いながら瓦礫の中で丸まっていたら、瓦礫の隙間から見える麦藁帽子と視線が絡んだ。そして、太陽を思わせる笑顔を向けられて……。
「ナミ、いたぞ!」
「え!?」
その言葉と共に瓦礫を退かした少年が、私を引きずり出す。8年ぶりに太陽の光を浴びた私は、その光の強さにぐらりと身体が傾いだ。
名を呼びながら私を抱き留めたナミが、泣きそうにその顔を歪ませる。だから咄嗟に大丈夫よと笑って、愛しい妹の頬に触れた。
何年ぶりだろうか。愛しい妹に、漸くじかに触れられた。
生きている事が伝わる。暖かなそれに、良かったと心から思って笑えばナミが泣き出した。
「ナミ?」
「ネムッ!ネムー!どうして、1人で解決しようとしたのよ!どうして!?」
「……ごめんね、ナミを巻き込んで。ナミの解放をずっと頼んでたんだけど「私はネムを助ける為に、自分から飛び込んだのよ!馬鹿、ばーかー!」」
泣きじゃくるナミの頭を撫でながら、視線を動かせば泣きながら怒ってる様子のベルメールさんとノジコが見えて、こりゃ怒られるなと思えば何だか嬉しくなってしまう。不謹慎なのは、分かってるんだけどね。
それでも、どうしたって幸せだなって思ってしまうの。ナミもノジコもベルメールさんも生きて、心も壊さずに居てくれてる。
でも、不思議だわ。普通に考えるなら、私って裏切り者の枠よね?
「……皆、どうして疑わないのよ。私がアーロンに惚れて着いてったのかも知れないでしょ?」
そう言って笑った瞬間、ナミに殴られた。叩かれたんじゃなくて、殴られた。
掌じゃ無くて、明らかに拳で。そして、ナミってそう言えば怪力だったと思い知るのは吹き飛ばされたからである。
それにより倒れた私に金髪の青年が駆け寄り、大丈夫ですかと聞いてくれるけど……あぁ、サンジ君、だっけ?
いや今はそれより、私を殴ったナミの心が心配だわ。ナミ、気にしてないかな?
「ナミ、ごめんね。……貴女の仲間を、紹介してくれる?」
「……うんっ!紹介するわ!……でも、次に変な事言ったら許さないから!ネムが、私達の為にアーロンに1人で……!それ、知らない訳ないじゃない!皆の命、1人で背負って閉じ込められてたの、皆が知ってるんだから!」
そうして私はナミに〝仲間〟を紹介して貰いながら、家族と村の人達に謝った。そして、麦藁帽子の少年に頼み事を1つ。
「ルフィ君、だったわよね。お願いがあるの。……私ね、会いたい人がいるの。だから途中迄、船に乗せてくれない?」
アーロンの隙をついて送った手紙で、サッチが殺されるのを防ぐ努力はしたけど……どうだろう。サッチは生きていてくれているのかな。
もしここで断られたら、1人でも行かなきゃ。長い事……待たせてしまった。
寂しがり屋なニューゲートは、きっと心を痛めてる。許してくれるとは思わないけど、せめて顔を見て、謝って……それからちゃんと祝いたの。
「おう!良いぞ!」
「ありがとう。改めて、暫くの間宜しくね」
「ネムも来てくれるの!?」
何処から話を聞いていたのか、笑顔で抱き着いてくれるナミを抱き留めて、その頭を撫でればナミが甘えるように擦り寄ってくれる。1緒に、ラブーンの所まで行けたら良いのだけれど。
そうして私はベルメールさんとノジコをようよう説得して、本とかそういった物を積込み、ナミと共に偉大なる航路の入口迄行く事となった。とは言え、何も出来ない位に筋力が落ちた私は、役に立てる事なんて殆ど無いから本気で荷物だったんだけどね。
甘えてくれるナミを愛でつつ、偉大なる航路の天候についての知っている知識を伝えると少年達が驚きを示すので、つい笑ってしまう。今は何も出来ないのだから、それも仕方ないとは思うけどね。
その時長い鼻の子、ウソップ君が聞いて来た。心底不思議そうに。
「ナミの姉ちゃんは、なんでそんなに色々詳しいんだ?」
「私、偉大なる航路に数年居たのよ。私の想い人も、そこにいるわ」
「……ネム、待って、想い人って!?聞いてないわよ!?」
肩を掴んで揺らしてくるナミを宥めながら、私の片想いよと言って笑った時、何故かサンジ君が崩れ落ちた。まぁ見た目はナミと似てるもんね。
そうして大騒ぎの中クロッカスさんの元に到着してみると、見覚えの有りすぎる船がそこに居た。どういう事かと息を飲む私に、船の上から声を降らせてきたのは……ずっと、会いたかった人達。
「「「「「ネムが2人居る!?」」」」」
その反応でナミとナミの仲間達は私を見て、お別れかななんて言ってくれる。でも、見限られてるだろうし、そうじゃなくても会えば直ぐに見限られると思ってたんだけどな。
それにしても、どうして私だって分かったんだろう。面影なんて、もうあんまりないと思うんだけど……。
「皆……その、約束……を、その……」
「……少し、約束に遅れた位、許してやるから、顔を上げろ。アホンダラァ!」
待ち望んだ声に顔を上げる。すると優しく笑う愛しい人がそこに居た。
それだけで、涙腺が崩壊する。涙をぬぐう余裕も無く、私はただ愛しい人の名を叫ぶように呼んだ。
「ニューゲートッ!」
「俺へのプレゼントが、勝手に泣いてんじゃねェ。……やっと帰ってきやがったな、ネム」
「ごめん、なさい。でも、後悔してないの!……あ、それよりもサッチは!?」
思い出して声を上げると、呼んだか?なんて言いながら顔を覗かせたその姿に思わず月歩で移動するとサッチに飛び付く。その頬を両手で包み、じっと覗き込めば生きているのが漸く確信出来た。
鼓動が聞こえる。体温がある。
サッチは、生きてる。良かった……。
「……良かった……」
「良くねェぞ、ネム。俺は寧ろ今、親父に殺されそうなんだけど、視線で」
「ニューゲートはサッチを殺さないわよ。可愛い息子だもの」
何を言ってるのか。サッチの無事を確認出来た私は、くるりと体の向きを変えてニューゲートに飛び付く。
それを軽々と受け止めて、ニューゲートは笑った。あの頃よりは身長差も縮んだけど……ニューゲートの巨大さに私はまだまだ小さいわねと思い、自然と溜息が落ちてしまう。
「ニューゲート、会いたかった」
「ネム、俺もだ。漸く、逢えたな」
その言葉が終わらぬ内に降ってきたのはニューゲートの唇で、驚いている間に深く重なるそれに私はそっと眼を伏せる。死を覚悟した時、思い浮かんだ愛しい人と、触れ合える幸福に静かに涙を落としながら。
「こんだけこの俺を待たせて焦らしたんだ。この先二度と離れられると思うなよ」
「でも、私弱くなったわ」
「……この俺が、惚れてる女ひとり守れねェ軟弱者だとと言いてェのか」
「でもっ!」
「よく、サッチを守ってくれたな。お前は、俺の宝を守ってくれたんだ。誇れ」
それから再び重なった唇は、暫く離れる事は無かった。もう二度と会えないかと覚悟していた温もりに、2人は溺れるように、縋るように、強く抱きしめ合う。
それを見守る人達の視線も思いも、何も気にする余裕は無い。待たせてしまった、待たされてしまった2人の時間は漸く今、動き出したのだから。
波間を抜けて辿り着いたその場所に、互いの求める最愛の人が待っていた。今はただ、互いにその温もりに溺れていたいと願うばかり。