遠く……泣いている皆が見える。泣かないで、私は幸せだった。
村は無事で、皆が生きているのが見える。ナミもアーロンから解放されて、私は荼毘に付されてる様子にホッとしてしまう……。
もう、大丈夫ね。皆は生きてくれるのね、本当によかった。
そうしてそのまま当てどなく漂っている私を見つけたのは、ずっと仲良くしてくれていたクーちゃんで、動物には見えるってホントなんだと思った。そんな私にクーちゃんは嘴で着いてくるように示されて、動けるのかなと思いながら必死で後を追い掛ける。
何とかついて行けば、到着した先に居たのは、もう1つの家族。私が死んだ事を知らずに、変わらずに居てくれている。
良かった、皆はまだこっちに来ちゃダメよ。そんな事を思って私は笑う。
それからどれくらいの時が過ぎたのかな、最初に来ちゃったのはサッチで、私を見付けて怒りの表情を見せるけど、そんなのお互い様じゃない。そんな事を思っただけで伝えてしまって、ギャーギャーと喧嘩をして居たら突然遠い過去に聞いた記憶のある声が聞こえて来た。
「サッチ、待っててくれたのか?ってか、誰だよ。そのちっこいの」
「「エース……」」
「ん?俺を知ってんのか?」
「嗚呼、ネムはエースの姉貴分だよ。……まさか、黙って離れた直後に死んでたとは思わなかったけどな!この大バカ野郎!」
紹介のついでにまた罵倒されて、私はついムキになる。サッチの前だと何でか子供みたいになっちゃうのよね。
多分、本気で兄みたいに慕ってたんだと思う。随分甘やかして貰ったし、今も甘えてる。
「何よ!仕方無いじゃない!……でも、後悔は無いのよ。村も、家族も無事で……妹は海に出たわ」
「…………ネムにナミって名前の妹居るか?」
「え?」
驚いてエースに視線を向けると、やっぱりかと困ったように笑われる。その笑顔が〝兄〟で、そうか……とすんなり胸に落ちてきた。
あの戦争が、今終わろうとしてるんだと。なら……来ちゃうかな、ニューゲートも。
「ナミちゃんって子がな、ルフィ……弟の仲間に居たんだけどよ。海賊って聞くと憎悪に燃えた瞳になるんだ。……最愛の、唯一血を分けた姉妹を、無残に殺されたんだとよ」
「ネム?お前、誰に殺されたの?何で俺達を呼ばなかった?」
エースの言葉を聞いたサッチが、黒い気配を放ちながら聞いてくる。それに私が笑顔を見せると、サッチがその顔を泣きそうに歪ませた。
サッチはこれで案外過保護だ。でも、このタイプって怒らせた時厄介なのよね。
でもそっか、私が早く死んだから、サッチの事をニューゲートに伝えられなくて。なら、サッチがここに居るのは私の責任かと思えば、罪悪感に小さくなってしまう。
「……姉を連れ去り、弄び、無残に殺した海賊は、それでもそれ以降二度と村に手を出しはしなかったと、そう聞いている。十歳を過ぎたばかりの姉が、億の金を用意してて、村人と家族を守ったってよ。ネムの事だったのか」
「うん。……そんなに凄い事はして無いけど、多分それは私ね。確かに私は死んだけど、やった事に後悔は無いのよ。殺されても、皆が無事だと分かって幸せって思えてる。でもね、1つだけ心残りがあって、だから多分私はここに居るの」
「え?」
サッチが驚いたような顔をする。それに私は笑ってしまう。
だって、サッチだって何か心残りがあるからここに居るんでしょ?
きっとエースも。だから、他の皆はここに居ない。
「……ニューゲートとの約束、守れなかったから。ニューゲート、優しいから心配してくれてたでしょ?」
「……そりゃ、そうだろ。親父、必死でネムを探してたんだぜ。なのに、何も手がかりが無かったと……」
その時、突然サッチの言葉が止まり代わりにサッチとエースが頭を抱えて蹲った。何事かと思って視線をあげたら、怒りにその瞳を揺らすニューゲートがいる。
怒ってる筈なのに、泣いてるようにしか見えなくて、それなのに、もう……どうしようもなく愛しく思ってしまうの。ニューゲート……ごめんね。
「この、アホンダラァ!親より先に逝く奴があるか!その上心残り迄あるたァ、どう言う了見だ!」
「「親父!!」」
殴られたのに嬉しそうに飛びつく2人を見て、私は動けない自分を自覚する。なんと声をかければ良いのかも分からない。
私が、ニューゲートを含む皆を、この悲劇に導いた気がして。どうしてせめて、別れの時に手紙のひとつでも残さなかったんだろう。
そうしていれば、サッチとエースの死を阻めたかも知れないのに。そうしたら、ニューゲートはこんなにも悲しまなくて済んだかも知れないのに……!
その時ニューゲートが私に視線を向けた。その瞳が悲しげに、苦し気に歪められるのを見て私の思考は停止しかける。
「……ネム、その姿って事は……あの後、すぐに死んでたのか」
「ニューゲート」
「……助けに行けなくて、悪かったな。お前が色々抱えてたのは、分かってたのになァ」
「ニューゲー……ト」
ニューゲートの優しい声に、涙が溢れる。そうだ、私の心残りはニューゲートだった。
ごめんね、先に来ちゃってと嗚咽混じりに言えば2人はニューゲートからそっと離れて行く。そうしてその代わりと言わんばかりに、ニューゲートがそっと私に歩み寄ってくる。
そして、壊れ物にでも触れるかのようにそっと私に触れると、死んでんだから年齢操作出来るんじゃねェかなんて言い出す。だからそんな馬鹿ななんて言いながら、試すだけ試してみたら、ずっと見ていたナミの姿に近くなっていく。
髪の長いナミみたいな状態になって、もし生きてたらこうなってたのかと思う。年齢操作なんて、必要性感じなかったけど……ニューゲートと視線が近くなったのは嬉しいかも。
「あら、ナミとそっくりだわ」
「ネム」
声に導かれるように視線を向ければ、巨人のようだったニューゲートがその体を随分と小さくしていて……。やっと普通に抱き締められると、そう言って抱き締めてくれる。
あぁ、少し若返ってるのかと気付いたけど、どんな姿でも可愛く思える。ニューゲートとの距離が恐ろしく近くて、それがただひたすらに嬉しい。
今あるこの現実は、夢みたいなものだと分かっていて、私はそれだけで満足してしまう。ニューゲートに、また、逢えた。
「ニューゲート、ありがとう。私もうこれで思い残す事は……「何言ってんだ。俺がそうしたら成仏出来ねェ」」
言葉を遮られて、なんだろうと視線を向ければ唇が重なる。それに反応出来ずにいたら、ニューゲートが笑ったのが分かった。
その笑顔が少し悪戯小僧みたいな感じがして、ヤンチャな感じを残すその笑顔に胸が高鳴る。それだけで、想う事に年齢なんて本当に関係無いんだとわかってしまった。
「俺は、死んだからってネムを手放すつもりはねェぞ。約束しただろうが、女として見てやるってな」
「ニューゲート……愛してる。もう、離れたくない」
「誰が離すか。二度と、手放さねェから、覚悟しとけよネム」
悲しませるのは、本意じゃないから……そんな事を思っていたけど……。ねぇ私がこんなに幸せで、許されるのかな。
私の今回の人生、無駄じゃ無かったって思って良いのかな。何も出来なかった訳じゃないって、思っても許されるのかな……。
泣く私に、ニューゲートはもう少しここで息子達を見守りたいと言うから、それに頷く。するとサッチとエースも同意して、皆を見守る為に視線を向けた。
そうね、もう少し、もう少しだけ皆を見守っていたい。遺されてしまった皆を、哀しみを背負って、でも恐らくはちゃんと前を向いて歩き出すだろう皆を、もう少しだけ見守ってから、揃って旅立とう。
今度はずっと共に居られたらいいねと、そんな事を願いながら今を生きている大切な家族を私達は静かに見守っている。まだ、もう少しこっちに来てくれるなよと、ニューゲートは笑うから私もそれに小さく頷いた。
少しでも長生きして欲しい。楽しい事を沢山経験して、幸せになって欲しいわ。
「……わかってねェな」
「何が?」
「俺は確かに息子達に長生きして欲しいと思ってるが、それより……ネムとの時間を邪魔されたくねェと言ったんだ」
永く離れていたその刻を取り戻そうとするように、どちらからともなく腕を伸ばして抱き締め合えば、離れる未来は見えはしない。望んだのはただ、この温もりだけ。
貴方と共に過ごす現実と、互いの温もりだけを本当は求めていたのだと思い知らされる。二度と、誰にもこの2人を引き離す事は出来ないだろう。
そんな2人を、居心地悪そうに2人の息子が見守っていたが、それを気にする余裕もこの時の2人にはなかった。いつか全員が揃って旅立つその時まで、いつの間にか迎えに来てくれていたモビーに乗っている状態で、彼らは生きる者達を見守り続けて行くのだろう。
波間を抜けて、辿り着いたその場所で。哀しみの海に沈まぬように、互いを支え合いながら。
ここで完結となります。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
万が一にも今後リクエストがありましたら、他の人バージョンも書く為に完結マークを外して章分けをさせて頂き、掲載させて頂きます。ただ、それが叶うのはどれ程最短でも半年後なので、期待はしないで完結したのだなと思って頂けたら幸いです。
少しでもこんな可能性もあったのかと驚いたり、楽しんだりして頂けていたら本望です。それではまた、機会がありましたら何処かの作品でお会い致しましょう。
最後になりましたが、誤字脱字の報告ありがとうございます。
本当に助かっており、確認次第修正させて頂いております。