長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
(U・ω・U)<お気に入り、感想、評価、ここすきも大変励みになります。ありがとうございます
□【高位従魔師】サラ
<Infinite Dendrogram>には<マスター>の精神を保護する機能がある。
たとえばアバターが気絶した時、意識はそのまま、真っ暗な空間に閉じ込められるんだそう。
今わたしはそれと似た場所にいる。
聞いた話と違うのは、周りの景色だ。
緑の生垣に囲まれた秘密のお庭。
クレヨンで塗ったような水色の空。
白いテーブルにお茶会のセット。
椅子には目を閉じた
【
羊皮紙のメッセージウィンドウが浮かぶ。
ノベルスさんの<エンブリオ>はスキルの条件を説明する必要があるらしい。
【初めに。お前がいるのは本の中だ。正確には現実とかけ離れた『物語を具現化した異空間』といったところだな。見ての通り肉体は睡眠状態だ。意識だけが独立して活動できる世界と考えろ】
わたしは自分に触ってみようとしたけれど、手がおばけのようにすり抜けてしまう。
「従魔と装備はどうなるんですか?」
【使える。だが、本の中で受けた傷や消費したアイテムは現実に影響を与えない。デスペナルティの心配も不要だ。スキル終了まで行動不能になるからオススメはせんが」
自分の体(意識の方)をぺたぺた触って確かめる。
アイテムボックスと【ジュエル】は動いている、装備も変わらないみたいだ。
眠っている現実の体の方が『存在しない異物』という扱いになっているんだろうか。
【現実に戻る方法は二つ。一つは現実世界で俺が持つ本を破壊すること。スキルの核となる媒体が消えればワンダーランドは崩壊する。ただ、本の中にいるお前達は現実に干渉することができん】
一つ目は外にいる人が取れる方法。
中にいるわたしは関係ない。
【二つ目は物語を終わらせること。元となった物語に沿ってスキルは進行するが、結末に辿り着いた時点で全員が解放される。つまり何もせずとも時間経過で脱出できるわけだ……なお、本の中では各々に配役が与えられる。配役によっては物語の進行を早めることが可能だ】
推理小説なら犯人が分かっているからすぐ犯人を捕まえて横着できるってことだろうか。
逆に、物語から外れる行動をしたら本の中にいる時間が長くなる。できるだけ時間を稼いでクラリッサさんを脱出させないようにするのがわたしの役割だ。
【今回は複数の本を使った。物語は混線するが、むしろ都合が良い。展開が読めない訳だからな】
「わかりました。クラリッサさんは……?」
【前方の扉をくぐれ。お前の配役が無作為に選ばれて、物語の本筋に合流する】
説明が終わると白い扉が現れた。
表面には竪琴を持った男の人が彫られている。
周りには竜と象と鳥、そして小人。
たぶんわたしの配役を表現しているんだろう。
ドアノブを引いて、向こう側に足を踏み出す。
◇
わたしは小さな町の入り口に立っていた。
足元を揺らす地鳴りに地平線の土煙。
よく目を凝らすと、たくさんのモンスターが町に向かって来ているんだとわかった。
町より大きな体のモンスターが、住んでいる人より多い数で、人間を押し潰そうと突進する。
そして、モンスターの群れを、そよ風かなにかのように眺める女の人。隣に巨大なダチョウが並ぶ。
「あなたは……?」
『君は下がっていて。危ないから』
わたしに対する言葉じゃなかった。
本当ならわたしの代わりにここにいるはずの、誰かに向けた心配。決められたセリフ。遅れて、この人は物語の登場人物だと気づいた。
女の人は竪琴の弦に指を置く。
わたしはその楽器の名前を知っていた。ソーマの街に飾られていた【天穹の竪琴】に間違いない。
じゃあこの人は詩人ソーマなんだろうか。
ソーマさんが歌を口ずさむ。聞いていると勇気があふれる力強いメロディだ。従魔のダチョウはバフを受けて、モンスターの群れに立ち向かう。
ダチョウは翼を広げて大ジャンプ。
両足の鉤爪でモンスターの頭を掴むと、空中でぐるっと旋回して地面に放り投げる。力を加減しているみたいでモンスターに傷はあるけど倒れてはいない。
ダチョウは明らかに致命傷の反撃を受けても平気そう。転んだモンスターをバリケードにして足止め、ものすごい速さで走り回って群れを蹴散らす。
『大丈夫だよ。彼らは混乱しているだけだ。チャボと私で宥めてやれば落ち着いてくれる……』
ぐらり、とソーマさんの体が倒れる。
地平線の先。モンスターの群れの奥から、一条の光が心臓を貫いたからだ。
配役で強化されたわたしの視力は光の出所をはっきりと目にしていた。モンスターの背に乗って魔法の杖を振る【大魔女】クラリッサさんの姿を。
「だいじょうぶですか!?」
駆け寄ったわたしに、ソーマさんは微笑んだ。
『……ごめん。にげて』
主人の様子がおかしいことに気づいて、戦うダチョウの動きが止まる。押し寄せるモンスター。
チャボと呼ばれた従魔は、さっきまでと変わって、どんどん傷を増やしていく。
こんなの、とても黙って見ていられない。
「《喚起》! みんなお願い!」
ジェイド、ルビー、ターコイズ、クロムを呼び出してチャボに加勢する。今のわたしは登場人物の一人だ。モンスターは強そうだけど、バベルとスキルでのバフがあれば追い払うことはできるはず。
ソーマさんが言っていたように、落ち着かせてから帰ってもらえるようにお願いしよう。それまで傷をポーションで応急処置して……。
「無駄だよ」
わたしの考えを否定する声。
魔法の光線がチャボを貫いて、光の塵に還す。
「クラリッサさん。どうしてこんなこと」
「彼女達は死ぬ。元々そういう物語だ。それを少し早めただけさ。早くここから抜け出したいからね」
クラリッサさんは羽衣のマジックアイテムを肩にかけて、ふわりと空を飛んだ。光線を放つ魔法の杖はぴたりとわたしの頭に狙いを定めている。
「ユリウスを誑かすお前も。目障りな羽虫も。不躾な墓荒らしも。紛い物の記憶も。全部、消えてしまえ」
「……まがいものじゃないです。あれは本当の」
「うるさい」
わたしの言葉を聞いてくれない。最初から話すことはないと拒絶される。ぜんぶ嘘と偽物だって決めつけてどうにかクラリッサさんは精神を保っている状態だ。
だけど、それじゃあクラリッサさん本人と【リグレット】の気持ちは救われない。
魔法陣が空に描かれる。一つ、二つ。
デンドロだとあまり見ない魔法のエフェクトだ。
円の中に小さい円が重なって、間に複雑な模様と知らない文字が並ぶ魔法の公式が三つ、四つ、五つ、六つ……二十を超えたところで数えるのはやめた。
速度に特化した光属性のビームかな。
勝手に魔法のイメージが頭に浮かぶ。
なんでだろうと考えて、魔法陣の内容をバベルが読み取っているからだと気づいた。
避けられない。魔法の中身が読めるから、わたしにできることがないとわかってしまう。
雨のような光線はあっという間にわたしと従魔を貫いてHPをゼロにするだろう。
立ち尽くしたわたしにできることはなくて、
『――……ちからが、ほしいかい?』
絞り出すような、かすかな質問に振り向いた。
◇◆◇
□■詩人ソーマの物語
民の平和を脅かす、血肉に飢えた魔物達。
獣の群れに対峙する、ソーマはか弱き詩人なり。
されど竪琴つま弾けば、響く音色、繋がる心。
しかして魔物は跪き、詩人は街の英雄となる。
後世に伝わるソーマの逸話は限られる。
二千年以上前の記録は多くが失伝した。
故に……それを知るのは博識な長命種か、希少な文献に目を通した一部の者のみ。
詩人ソーマは
当世に名を残したソーマと、それを見出した者。
吟遊詩人でありながら【■■】に至らず。
【魔王】と【■■■】の座に就いたソーマ。
これは断章。
幕開けのプレビアス。
またの
◇◇◇
□【高位従魔師】サラ
ソーマさんはわたしを見つめていた。
時間にしたら一秒か二秒くらい。
それだけで、安心したようにその人は力を抜いた。
『ありがとう……きみなら、だいじょうぶ』
わたしにはわからなかった。
『《■■神■》……《
最後に【天穹の竪琴】をわたしに渡して、ソーマさんは静かに息を引き取った。
どうしてだろう。不思議と胸が熱い。
力があふれてくる。この人のおかげなのかな。
今なら……さっきとは違う、なんでもできる。
誰かにくれた力で、わたしのものじゃないけど。
今はちょっとだけ借りるね。
「――《
メロディは覚えている。指は勝手に動いてくれた。
奏でる音は勇気の証。力と速度を引き上げる調べ。
吟遊詩人系統のスキルを【高位従魔師】で使えるのは、きっと物語の配役が関係しているんだろう。
わたしの配役は『詩人ソーマ』のはずだから。
「……」
無言でクラリッサさんが杖を振る。
明らかにわたしを見る目が変わっていた。さっきまではおじゃま虫、そして今は厄介な敵だと。
光の魔法が演奏中のわたしに降り注ぐ。走って逃げるのは難しいので、うん。
「お願いジェイド」
わたしを守るように風が吹き荒れる。
それだけじゃない。風の流れに乗って赤いオーラが循環しているのがわかる。
光線はオーラで三割カットされて、残りの七割はオーラを混ぜた風の操作で逸らすから当たらない。
竜巻の中心で風を操る小さな人影。
わたしをかばってくれるその背中に、大きなドラゴンが見えたような気がした。
「――さらは、きずつけさせない、よ」
ジェイドは人化した姿で立っていた。
どうしてこうなったのかは……わからないけど、わたしと《始まり》で感覚を共有していたから、ソーマさんが使った二つのスキルが効果を発揮したんだと思う。
たぶんあの二つはバフスキルだ。
その証拠にジェイドはパワーアップしている。
まだ《人化の術》は使えないし、風だって、二十を超える魔法を防ぐだけの強度はなかった。
「眷属に《竜王気》……王でもない竜が?」
「ふふん! ジェイドは王子様なので!」
「そういう問題じゃない」
クラリッサさんは顔をしかめている。
警戒度をぐんと高めた感じ。あとは【竜王】を連想するスキルにいやな気持ちがぬぐえないようだ。
距離を取って空中から降りてこない。
「そこ、ぼくもいくね」
ジェイドは背中から折り畳んだ翼を広げた。
天竜種の皮膜に白い羽毛が生えた、きれいな翡翠色。
羽ばたき一つで上昇気流を起こして、一直線にクラリッサさんのところへ飛翔する。
「っ……! 対竜種拘束用弩弓!」
空いた片手で振った杖の魔法陣からバリスタを召喚し、ヒヒイロカネの鎖を射出するクラリッサさん。そこかしこに張り巡らされた鎖の網がジェイドの進路を遮る。
ジェイドは隙間をすいすいとくぐり抜けて、すごい速さで止まらずに鎖を突破した。
「おそい、よ。それじゃあ、ぼくはつかまらない」
ジェイドの両手で旋風が渦を巻く。
ひとつで十分な威力のある必殺技が。
ジェイドのお父さん直伝のスキルが、二つともクラリッサさんに襲いかかる。
「――《トルネード・ラム》」
まったくおんなじ竜巻を“累ねる”ことで生まれる破壊力は二倍以上。さらにジェイドは《竜王気》を乗せて射程距離と貫通力をオリジナルより高めている。
クラリッサさんは防御を諦めたようだった。竜巻の直撃は【ブローチ】で、身代わり系のマジックアイテムで余波を耐えた。ボロボロに裂けた外套で少しでも距離を離して、地面に不時着する。
「なんなんだ一体……! クソ、前にやり合った古代伝説級の方が百倍マシだ!」
「でんせつきゅう……?」
ジェイドは不思議そうに首を傾げる。
わたしもあんまり理解していないけど、純竜級より強いモンスターのことをそう呼ぶらしいよ。
だから、あなたを伝説級と比べるは納得かもね。
今のジェイドはそのままで純竜級らしい。
わたしの《魔物強化》と《始まり》。
それに加えて、ソーマさんのスキルに《勇者行進曲》のバフが乗っているわけで。
確実に伝説級モンスターの領域に入っているだろう。
「おとうさんは?」
「えっと……【風竜王】は神話級だったかな」
「じゃあ、まだまだ、だ」
ジェイドはわたしの隣に降りてきて、ふうーとかわいらしく深呼吸した。
「あ、まだおわってないから。ね」
言葉にちょっとだけ怒りを込めて、ジェイドはクラリッサさんに敵意を向けた。
To be continued
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<記念すべき100話目ということで
(U・ω・U)<サラと従魔の最強フォームを一端だけお見せしました
(U・ω・U)<この主人公だってちゃんとデンドロするんだよぉ!
ジェイド
(U・ω・U)<はい
(Є・◇・)<はい、じゃないが
(U・ω・U)<【色欲魔王】はルークなので
(U・ω・U)<眷属化は今回限りですね
(U・ω・U)<三つの眷属器は
(U・ω・U)<【翼神】(飛行スキル特化)
(U・ω・U)<【嵐王】(風属性魔法)
(U・ω・U)<【奏楽王】(音楽系支援)
(U・ω・U)<秘匿眷属名をつけるなら
(U・ω・U)<空奏竜王アルヴィン
(U・ω・U)<古代伝説級<UBM>相当
《■■神■》
(U・ω・U)<物語を読んだクラリッサは
(U・ω・U)<スキルの内容を知っている
(U・ω・U)<けど問題ないと考えた
(Є・◇・)<何でだ?
(U・ω・U)<《色欲の終焉》等と同じだから
(U・ω・U)<配役のサラには意味がない
(U・ω・U)<だけど……〜♪