長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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各国の<マスター>観察記録 3
風神VS雷神


 □■二〇四五年四月某日

 

 天地は無法者の<マスター>が他の七大国家と比較して少ない国とされている。

 

 理由はティアンの強さにある。

 才能ある有力ティアンは合計レベル五〇〇、つまりカンストの者も多く、加えて武芸の鍛錬を怠らない。

 ティアンが<マスター>に優る点のひとつに戦闘技術があり、<エンブリオ>の特殊性を陵駕する実力者は、有力大名の領地では決して珍しいものではない。

 

 市井の町人が、その実、名うての剣士と同等の技を誇るなどざらにあり。

 舐めてかかった<マスター>があっさり返り討ちにされる光景はサービス初期に頻発した。

 

 修羅の国とて、否、群雄割拠の乱世だからこそ、自領の統治と繁栄を大名は重視する。「内憂に気を取られて他家に滅ぼされました」とかマジ笑えない話。

 諸大名は自分の領地にティアン・<マスター>実力者を招聘し、国力を蓄える。西で蜂起した勢力がいれば一族郎党を血祭りに上げ、東で血を分けた兄弟が謀反を起こしたら容赦なくこれを鎮圧するのだ。

 自分で国力を削ってる? うっせばーか。お前は寝首かかれても同じことが言えるのか。

 

 とまれ。生半可な実力で無法者は気取れない。

 並の<マスター>は端から刈り取られ、私財を奪われて更生するか、指名手配で“監獄”に出荷される。

 

 裏を返せば、生き残った<マスター>は相応の強さを有しているということになる。

 即ち、共喰いの蠱毒こそが天地という国の気風といえるのかもしれない。

 

 

 ◇◆

 

 

 山中にて、進軍する<マスター>の一団がいた。

 彼らは<亜穂浪士四七>。仮に<超級>や四大大名が相手でも、そこに義があると判断すれば迷わず「天誅」する報復請負ロールプレイ系クランである。

 

 今宵(夜ではない)も、彼らは主君(依頼主。主従関係はない)の仇を取るべく討ち入りに向かう。

 

 六人のフルパーティ七隊とみそっかすの五人パーティ、総勢四十七名の烈士をまとめるクランオーナーは鎧甲冑を装備した偉丈夫だった。

 彼のジョブは【超軍師】。超級職ではあるが、軍師系統は分類としては支援職で、間違っても刀と鎧を装備して前に出るタイプではない。筋肉は飾りである。

 しかし先陣こそは武士の誉れ。真っ先に敵の喉元に飛び込む馬鹿……勇猛果敢な馬鹿……己の身を顧みない鉄葉(ブリキ)の精神こそ、<亜穂浪士四七>のメンバーが彼をオーナーとして認める所以なのだ。

 

「オーナー! 大変です!」

 

 帰還した斥候が【超軍師】ヘブンチューの元に走る。

 

「おう、どうした丸善!」

「自分は斎藤っす。本日の仇ですが、どうやら無関係の人質を住処に捕らえている模様。これでは天誅が困難と思われます」

「なぁにぃ……?」

 

 彼は討ち入り直前の新情報に眉を顰めた。

 

 本日の主君は一般通過<マスター>だった。

 依頼は『山で狩りをしていたら広範囲殲滅攻撃に巻き込まれてデスペナルティになった。相応の報いを』という、至極ありふれた内容である。

 無関係の善良な人間を巻き込むなど、まさに悪逆非道の行いだ。天が許してもヘブンチューは許さない。

 

「確か、本日の仇は有名な奴だったなぁ?」

「“ヤマアラシ”の草青寺。過去に二度、直轄地の御山を()()()()()経歴を持つ人物です」

「そうだったな。ソーセージたぁ、美味そうな名前してるじゃねえか」

 

 当時の【征夷大将軍】が有する領地において、大規模殲滅を実行して周囲の大名を震え上がらせた<市台寺>及び<尼寺比貝>事件は記憶に新しい。

 指名手配されていないのが不思議なくらいだ。理由は単純で、その【征夷大将軍】が失脚したからに他ならない。嗚呼ショギョウ・ムッジョ。

 

「この<大山寺>一帯は奴の縄張り。周辺に人は住んでいないはずだが……」

「どうしますかオーナー。やはり一度退いて作戦を立て直すしかないでしょうか」

「落ち着け日産」

「斎藤っす!」

 

 ヘブンチューは両目を閉じて思案する。

 相手の情報、味方の戦力、周囲の地形。

 溜まっている依頼とクランの懐状況。

 

「三菱。重要な問題がある」

「いやだから斎藤っす! で、何すか?」

 

 珍しく真剣な面持ちのオーナーに、周囲のクランメンバーは空気が張り詰めたかのような錯覚を覚えた。

 

「その人質は……女か?」

「男一人です」

「総員、突撃ィィィィィィィィィィッ!!!」

 

 木立を震わす野郎どもの鬨の声。

 ヘブンチューの号令で一斉に駆け出す面々。

 斥候は思い切りの良さに理解が追いつかない。

 

「いや待てや!?」

「どうした斎藤。置いていくぞ」

「人質いるって言ってるでしょうがぁ! あんたアホか、アホなんか!?」

 

 慌てて後を追いかけた斥候のツッコミは、ヘブンチューにまるで届かない。

 

「お前は新入りだから分からないかもしれねぇ。だが、男にはやらなきゃならん時がある。それで無関係の人間が巻き込まれたとしても……俺達は悪くない。だって、天に代わってやるだけだし」

「男だから態度変えたな!? 女性だったら助ける方向で作戦考えてたよね!」

「はぁ……前任の八一はアホだが、いざ天誅となれば素晴らしい活躍をしたというのに」

「話を逸らすなぁぁぁぁぁ!!」

「ええい煩ぇ! 急がないとおやつの時間に間に合わなくなるだろ!」

 

 ヘブンチューは自らの<エンブリオ>……音響装置付きの銅鑼を取り出して、力一杯打ち鳴らす。

 

「《英雄凱旋行進曲(ナポレオン)》!」

 

 パーティを問わず、範囲内の味方全体に精神系状態異常無効とステータス強化のバフを付与する必殺スキル。

 加えて【超軍師】の『味方にかかるバフの効果を倍化する』スキルにより、彼とクランメンバー総勢四十七名は疾風となって本日の仇を討ちに参る。

 

 攻めるは本丸、林を抜けた先の庵。

 燻る煙が目印。食事の支度とは実に呑気な。

 

「はいお前らご唱和しやがれ! 天っ誅ぅ!」

「恨みはないが天誅ー!」

「今日はいいお天気ですね天誅!」

「もうこれなんでもありだなぁ!?」

 

 各々が武器を打ち、足を踏み鳴らす。

 とりあえず仇が討てればそれでいい。今日も天誅、空気が美味い。<亜穂浪士四七>は能天気な連中だった。

 やっぱ入るクラン間違えたかな、今からでも脱退できないかな……と斥候・斎藤が頭を抱えていると。

 

「……ん?」

 

 彼の頬に一滴の雫が落ちる。

 見上げると先程までの快晴がまるで嘘のように立ちこめる暗雲。まばらな雨垂れは、やがて滝のように降り注ぎ、一寸先すら見通せない豪雨に。

 

 視界の不良。ぬかるんだ泥道。

 八パーティのレイドは否応なしに速度が鈍る。

 そして雨天の影響は環境の変化に止まらず。

 

 始めに……軽装備の術師が倒れた。

 

「あー、これ……やべ」

 

 次に弓手と斥候。斎藤はデスペナルティになる瞬間、己の過ちを悟って舌打ちした。

 

 そして前衛。順繰りに死んでいく。

 最後に残ったのはヘブンチュー。後衛とはいえ超級職、かつそれなりにステータスの補正があった彼は、鎧甲冑で雨風を払って前進する。

 

「天誅、天誅、天誅」

 

 HPの減少速度は無視できない。

 だが、ヘブンチューは戦術が分からぬ。

 山盛りのバフと数頼みの力押しこそ最大の作戦。

 知将ならざる【超軍師】は、天狗の面を目視して。

 

「ムン! 無念っ」

 

 力及ばず、膝をついて切腹した。

 

 

 ◇◆

 

 

「……<AR47>の全滅を確認」

 

 山麓で一部始終を見届けた男は、お粗末な特攻に事実以上の感想を述べられなかった。

 非常にタチが悪いことで有名な報復系クラン。彼らと鉢合わせることを避けるため、男とその片割れは様子見を選択した。結果はご覧の通りである。

 ()()()()()なので協力も選択肢のひとつではあったが、男は最終的な判断を片割れに委ねた。

 

「どうするサンダー。俺だと相性悪いや」

 

 弓を背負い、遠視を切る。

 男は撤退準備を始めていた。勝てないので、戦うならそっちでやってくれという言外の抗議だ。

 

「了解した。此方が出る」

 

 弓使いの問い掛けに応じるのは剣士。

 天地ではありふれた和装。角刈りの頭髪。

 特徴のない風貌だが、唯一、佩いた刀は特別。

 数打ちの量産品とは比較し得ない業物だった。

 

「センシは帰還しろ。頭領が不在の今、刀都を長く空けるのは不安が残る」

「はいはい。それじゃお先に失礼」

 

 離脱した弓使いを見送り、剣士は支度を整える。

 装備品とアイテムの用意。スキルのクールタイムは開けている。己のコンディションは好調だ。

 

 最後に標的の情報をさらい直す。

 【超天狗(オーヴァー・カルラ)】草青寺。

 天候を操るとされる広域殲滅型の凖<超級>。

 率先してPKを働く手合いではないようだが、被害に遭ったという<マスター>は非常に多い。

 

 天地は争いが絶えない国だ。

 個人単位の決闘や辻斬りに始まり、大名は陣取り合戦に暇がない。世は乱れ大戦国時代。

 生きたくば強くなれ。殺して奪い取れ。そんな理屈がまかり通る悪鬼羅刹の巣窟。まさに地獄である。

 

 強者の(ルール)は、弱者にとって厳し過ぎる。

 しかし虐げられる者を救うには限界がある。

 いずれどこかで正義は破綻する。

 

 故に。平和と安寧を願うならば。

 悪鬼を、斬らねばならぬ。

 

「血を流すのは此方だけでいい」

 

 剣士は過去の惨劇を胸に刻んでいる。

 かつて、滞在していた領地で悲劇は起きた。

 魔力災害による大規模汚染。土壌は爛れ、河川は腐り、罪のない人々が大勢亡くなった。

 今もなお土地は汚染されて人が住める環境にない。支配する大名もいない空白地帯となっている。

 

 下手人は<超級>であることが判明している。

 指名手配を受けて、のうのうと逃げ延びた悪鬼。

 

 PKKとして名を馳せた彼の怨敵。

 だから彼は集めた。同じ名前を抱く同士を。

 二度と悲劇を繰り返さないように。

 

 彼こそは始まりの処刑人。

 音に聞こえし剣士の名は――

 

「此れより――シャロエモンを執り行う」

 

 ――“雷鳴(サンダー)”のシャロエモン。

 

 

 ◇◆

 

 

 雷鳴が轟いた/雨嵐が吹き荒ぶ。

 

 山中にて激突するは二つの影。

 

 ひとつ、山伏を思わせる装束の天狗面。

 ヤツデの団扇で風を手繰る【超天狗】草青寺。

 

 ひとつ、金雷の大具足を纏う修羅。

 背中の鼓を打ち鳴らす【鳴神(ザ・ビート)】シャロエモン。

 

 両者は互いに一歩も譲らず。

 草青寺の風雨が侵入者を撃つか。

 シャロエモンの雷刃が首を刈り取るか。

 いずれにしても勝者は一人。

 

 しかして――雷雨に紛れて迫る影。

 

「「!?」」

 

 突如として現れた新手を双方が警戒する。

 華奢な矮躯にたなびく白袖、真紅の袴。

 千早と呼ばれる巫女装束に一抹の泥水さえ跳ねさせず、少女は太刀を構えて斬り払い――霧を払う。

 

 一刀両断。斬撃は()を断ち、雷雲を割る。

 真に恐るべきは……それが純粋な技量に依ることか。

 差し込む陽光が第三者の黒髪を照らす。

 

「其方、“夜叉”か」

 

 シス・エトワール。

 ある時は戦場を駆ける大太刀の殺戮巫女。

 またある時は<UBM>を殴り飛ばした神殺し。

 鬼神の如き戦姿に、ついた通り名が“夜叉”。

 

 乱入者は殺気を振り撒いて太刀を構える。

 

 風神(草青寺)VS雷神(シャロエモン)VS夜叉(シス)

 

 三つ巴の戦いが、今、始まる。

 

 Episode End




余談というか今回の蛇足。

ヘブンチュー
(U・ω・U)<普通に強い

(U・ω・U)<【将軍】や固定値バフも対象

(U・ω・U)<諸大名に迷惑かけてるけど

(U・ω・U)<他勢力に取られると厄介過ぎて誰も手を出せない

Ψ(▽W▽)Ψ<私も欲しいわ


シャロエモン一家
(U・ω・U)<今回登場した二人は

(U・ω・U)<“雷鳴”と“千矢”

(U・ω・U)<頭領はサムライニンジャ


魔力災害
(U・ω・U)<なぜ天地で?と思った方

(U・ω・U)<100%人災です

(U・ω・U)<同じ事を本編でやろうとしてる奴がいる


草青寺
(U・ω・U)<所属は<仮面兵団>

(  P  )<天地担当のメンバーだねぇ

(U・ω・U)<拠点に友達を呼んだら

(U・ω・U)<襲撃を受けて内心涙目


シス・エトワール
(U・ω・U)<巫女っと出演

(U・ω・U)<中の人は登場済み

(U・ω・U)<乱入の理由は知り合いが拉致されたと勘違いしたから
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