長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□■グランバロア領海・某所
『どこもかしこも海だねぇ』
グリオマンPは船上で潮風を浴びていた。
当然ながら本人ではない。<エンブリオ>で生産され、《分身人形》で自立稼働する機械人形だ。
本体は今もどこかで隠れ潜んでおり、人形に内蔵した通信機器で映像と音声を拾っている。
中でも【
グリオマンPは同型の機械人形を各地に配備していた。ときに耳目として、ときに己の分身として、安全に情報収集と商売を行うためだ。
『機体が錆びそうじゃないかヘイゼル君』
『私は平気ですが。製作者の腕が悪いのでは?』
『あはっ。言うねぇ』
傍らには【榛之魔術師】が控えていた。
ひよ蒟蒻から修理のため預かった彼女は先々期文明の機械技術を学ぶ教材として大変優秀である。
その魂胆はだいぶ昔に露見しており、オーバーホールで機密を暴こうとする彼は毛嫌いされているが。
『しかし僕に協力してくれるだなんて。どういう風の吹き回しだい?』
『利害関係が一致しただけです。動力炉を解析した件は許していないのでお忘れなきよう』
『いやいや収穫ゼロだったし。まあそれはいいや。今日はワクワク、宝探しの時間だぜ』
彼らの目的は海底遺跡の調査。
そして内部に眠る煌玉獣の確保だ。
グリオマンPは煌玉獣を蒐集している。
煌玉獣と一口に言っても分類は様々だ。
騎乗を前提とした煌玉馬や煌玉竜。
人を模して人を超えた煌玉人。
名工フラグマンの名を継いだ三代目が製作した海賊版煌玉獣こと煌玉蟲。
その派生系にして後継機の煌玉蛇。
しかし、特に彼を魅了するのは二十一の煌玉獣。
名工フラグマンが手掛けたオリジナルではなく、後継者製の海賊版でもない。いわば劣化海賊版の贋作。
地球の大アルカナと同じ名前を与えられ、超級職の奥義を再現する設計を施された、真作を超える欠陥機だ。
製作者の知恵と業と浪漫を煮詰めて研ぎ澄ました、どこか破綻したバランスと、趣味に走った仕様及び意匠がグリオマンPの琴線を震わせてやまないのである。
『調査の結果、この遺跡にはヘイゼル君と同じ二十一の煌玉獣が保管されているはずだ』
グリオマンPは古文書の写しを確認する。
彼が秘匿する遺跡の工房で発見した資料。
先々期文明語や暗号を問わず、意味を持つあらゆる言語を読み解いてしまうサラの助力を得て、一部内容の解読に成功した。
『どの姉妹機か判明しているのですか?』
『いやそこまでは。発掘までのお楽しみだねぇ』
言葉を切ったグリオマンPは端末を操作する。
バイザーにコマンドが表示され、その指示をもとに、《分身人形》が活動するのだ(人形に憑依させる精霊は、従順な個体を召喚時点で選別している)。
テニスボール大の探査機を海中に沈める。
転送される膨大な環境データに逐一目を通すグリオマンPだったが、程なくして端末を放り投げた。
通信途絶のエラーメッセージ。探査機が何者かに破壊されたことを告げていた。
『……いい知らせと悪い知らせ、どっち聞きたい?』
『では悪い知らせを』
『遺跡の一部が<UBM>化してる』
予想の範囲内で最悪に近い状況だった。
先々期文明の遺跡によくあることだが、防衛機構や兵器が<UBM>に認定されるパターンは多い。グリオマンPは幾度か発掘目標を討伐する羽目に陥った経験がある。
大抵は原型を留めない特典武具が手に入るので、機械本体が欲しい身としてはチェンジと叫びたい気分だ。
<UBM>認定を受ける機械は所有者がいない、かつ自立稼働するものに限られる。
グリオマンPの欲する機械兵器は上記の条件を満たしやすいため度々同様の事故が起こるのだ。
『内部は無事ですか』
『んー、平気でしょ。どちらかと言うと外側に蔓延ってる感じ?』
壊れる直前に探査機が撮影した写真には、海藻に彩られた遺跡と、外壁を覆う蔦のような配管。ご丁寧に【管栓無結 マッチポンプ】と銘打たれている。
『環境維持システムの暴走かな。遺跡は掌握されているだろうけど、だからこそ被害は最小限のはずだ。整備した場所を荒らす理由がない』
おそらく元は人間に適した環境を維持する遺跡の機能。空調と排水、その他の機能を詰め込んだ……あるいは<UBM>になった後で融合したか。
なお、この場合の人間とは先々期文明の人類を指す。
時代を隔てて様変わりした現代の
『……衝撃に備えてください』
最低限の義理を果たしたヘイゼルはひと足先にジェットパックで離脱する。
遅れてグリオマンPは泡立つ海面に気付いた。
そして噴き上がる
偽装にリソースを割いた【諜報兵型】は並の強度しか有していない。破損した機械人形は、最期にアイテムボックスから新しい人形と船舶を放出した。
平然と甲板に着地して乱れた侍従服を整えるヘイゼル。通信を繋ぎ直したグリオマンPは彼女に恨み言の一つも告げず、同様に水柱で吹き飛んだ者達を観賞する。
『で、いい知らせの方だけど。壁が増えたよ』
◇◆◇
□■【大海賊】ゲツゲッカ・スイモクキンキン
仕事でゲームをプレイする。
これだけ聞いた友人は、一様に羨ましいと言う。
遊んで給料が貰えるとはけしからん。しかもそのタイトルが大人気VRMMOの<Infinite Dendrogram>。
ええ、俺も皆さんと同意見ですよ。
……自由に遊べるならね。
零細ゲーム制作会社に務める俺。
社長に「デンドロみたいなゲームを作れ!」と無茶振りされ、開発チームで視察プレイをする羽目に。
釣りが趣味だという上司の意向で所属国家はグランバロアに決まり(本当はドライフがよかった)。
サブキャラのつもりでふざけた名前を設定したら、アカウントは一つしか作成できないと後から知り。
挙げ句の果てにゲームの中でも会社を立ち上げて労働に勤しむことになるという始末。
いっそ殺せ。
しかも毎回ロクな仕事が来ない。
今回だってそう。冒険船団から受けたクエストは単なる海域調査のはずなのに。
いきなり<UBM>と遭遇。からの不意打ち。
乗り込んだ帆船ごとお空に高い高い()だ。
「死んだかな? いや死ぬかも。死ぬね」
「三段活用やめな〜」
甲板にへばりついた同僚が無気力に笑う。
いいから仕事してもらえますか?
「もうやってるて。ほいバーリア」
船体をカバーする障壁と、落下を受け止める水流操作のクッション。超級職に匹敵する大規模魔法を単独で、そして同時に行使したQG-20(通称キュージー)は仕事終わりのMP回復ポーションをくぴりと一気飲みする。
「かぁ〜っ……キマるぅ〜」
絶対エナドリ感覚で呷ってるよね彼女。
パーティで唯一の魔法職だからMP確保の重要性は理解するが、あなた全然余裕あるでしょう。
ポーション代だってタダじゃないんですよ。
「MP? 今一〇万弱使ったから〜……残り
「相変わらず桁おかしいよ。これ以上
「うぇへへ……稼げるうちに稼いで、飲めるうちに飲む。これが人生の秘訣なのだよ〜」
「早逝の間違いでは?」
このワーホリめ。
上級職の魔法でそんな使わんだろ。
「それで〜どうするの。ドドドどうするの」
「逃走一択じゃないんですか。無理でしょ。俺達五人はカンスト未満。相手は<UBM>。OK?」
<UBM>の討伐……特典武具の入手は憧れるが、世の中には実力差というものがある。
グランバロアの海はマジやばいのだ。この海域は船団の巡回ルートから外れているし、放置したところで大して困らない。目撃情報だけ報告すればいいよウン。
『三〇〇か。全投入したら勝てそうだな』
「ちょ、落ち着きましょうイナダさん」
『いけるいける。大丈夫だって』
『うーわ始まった。先輩のせいですよ』
これ俺が悪いの?
『全艦戦闘配置。目標、海中の<UBM>』
『敵影観測。対象にスキル発動の予兆あり』
『各位、衝撃に備えよ。《
上司のイナダさんが必殺スキルを使用する。俺達が乗る帆船、【努令船 コロンブス】は船員のMPを徴収して船体と武装を組み上げる<エンブリオ>だ。
カンスト五人程度のMPをかき集めたところで完成品の性能はたかが知れている。ただ、うちのパーティには魔力富豪が一人いる。キュージーの使用可能MPは超級職にも引けを取らない。
超硬い装甲と無数の砲門、あと機動力。
欲張り全部乗せの海上要塞も夢じゃない。
海面に水柱が噴き上がる。
立て続けに二度、三度。大質量の水は凶器だ。強烈な勢いのそれは、もう巨大な槍みたいなもの。
キュージーが【障壁術師】の魔法で張った物理障壁が三枚まとめて貫かれる。減衰してなお相当なダメージに竜骨が軋みを上げる。耐性ちゃんと機能してますかこれ。
「駄目じゃん。装甲ガリガリ剥がされてるよ」
「うぉ〜バリア割られたぁ〜」
あっけない……いや、この場合はMP注いだ防御を破る相手の火力がおかしい。
攻撃力偏重タイプなら、守りは薄いと思いたい。
だが伸びたパイプは広がって海中に網の目を張り巡らせている。これはスキルの起点になるようで、本体の周囲は特に密集している。こちらの砲撃は届かず、接近したら連続でドカンだ。
『イナダさん配分ミスってませんか』
『文句あるならお前がやれサービ!』
『…………』
「喧嘩はやめて!?」
後輩よ。君ちょっと黙りなさい。
あと若干一名、息してない奴がいる。一番役に立つメンバーがこれだと厳しい。
最も使えない俺は元気なのにね。笑えないね。
『あ、船底抜けた』
「沈んでるぅ〜」
いつもこんな感じでやってます。
我々<デンドロ・レイバー・カンパニー>です。
名前だけでも覚えてね。あとたすけて。
◇◆◇
■???
<
かの【犯罪王】を始めとする指名手配の<超級>のみで結成された非公式の犯罪クラン。
その活動を補助するサポートメンバーが一人、海底に息を潜めていた。
その男は人間とは思えない風貌だった。
筋肉質な六本の触腕を生やした、水棲系モンスターの特徴が色濃い半人半魚である。
生まれついての亜人とは異なる。彼は【魂売】ラ・クリマの改造を受け入れた改人【セーピア・イデア】。
彼の仕事は遺跡の盗掘だ。
ラ・クリマから【器神】ラスカル・ザ・ブラックオニキスに貸し出された改人であり……一定以上の成果を挙げるまで帰還しない思考ルーチンと、日常的に海中で活動する性質から、両名に半ば存在を忘れられた個体だった。
海底遺跡に侵入した彼は、生体反応により覚醒した【マッチポンプ】に襲われ。逃走の最中、のこのこ現れたグリオマンPや<DLC>に攻撃の矛先が移った隙を見逃さず、岩礁へ身を隠した。
『……ッ』
足元から噴き上がる海流。
視覚に依存しない感知能力を前に、彼は強みのひとつを潰された形だ。
すんでのところで回避した彼を配管が囲う。
縦横前後から迸る水圧の槍衾に、軟体動物の柔軟性を発揮して体を捩った。
避けきれない攻撃は触腕を犠牲にして潜り抜ける。千切れた傷口が泡立ち、新しい触腕を再生。モンスター由来の高い再生能力で強引に突破すると。
伸びる配管に触れてスキルを使用する。
『――《戦場にて徒手に非ず》』
触腕の筋力でへし折り、絡め取った配管を彼は二刀流のように振るう。
児戯の如き即席の武器。その鋒から高圧の水流が吹き出して【マッチポンプ】の末端を破壊した。
超級職素体改人【セーピア・イデア】。
彼のメインジョブは【
奥義の《戦場にて徒手に非ず》は『接触した武器を装備状態とみなす』スキル。
たとえ相手が装備中の武器だとしても。
自分の両手の装備枠が埋まっている場合でも。
触れた瞬間に所有権を獲得して、己の武器同様に使いこなす。スキルやSTRを乗せた攻撃を可能とする。
本来は使い勝手の良いスキルではなかった。
改人となる前……ただの人間であった頃の彼は、武器を持つ腕が二本しかなかったからだ。
無数の装備を扱うスペックを有しながら、肉体的な制限により、彼は奥義を満足に活用できなかった。
だが、
六本の触腕はそれぞれ武器を保持できる。
表面の吸盤を利用すれば更に大量の装備を身につけて、鉄鞭のように力のまま振るうことすら可能だ。
彼はラ・クリマから装備補正の高い武器を複数預かっており、状況に応じて適切な武器を装備することで、魔境とされる海原のモンスターを数多く屠ってきた。
加えて、彼はもう一つの力を持っている。
手にした配管を破壊して再構築。
ただのパイプが業物の魔剣に加工される。
懐に隠し持つ小さな珠。
それは黄河帝国の国宝、封印珠。
先々代【龍帝】黄龍人外が<UBM>を封じたもの。手にするだけで封印された<UBM>由来の固有スキルを誰でも使用できる代物だ。
彼が持つのは沈没した商船から略奪した“武器化の珠”。厳重に保管されるべき代物が、何故国外で発見されるのかは定かではないが、彼の知ったことではなかった。
ただ使えるから使う。<IF>に報告する機会があれば、遺跡の産物と共に献上しただろう。しかし長らく海域を放浪する【セーピア・イデア】にその機会はない。
彼は仕事に忠実な駒だった。設定された目標値に届かないまでも、相応の成果を上げていた。
惜しむらくは……巡り合わせの悪さだろう。
――彼は心臓を貫かれた。
『……!?』
意識外の一撃。
装備の防御を闇色の弾丸がすり抜けて、接触箇所から内臓まで肉体が消滅する。
既知の属性を二種類掛け合わせたと思しき負傷に【セーピア・イデア】は動きを止めた。
水面から海底まで差し込む暗黒の閃光。
暗闇の照射という矛盾する現象に、生命の危機を感じた彼は全速力で離脱を試みる。
ちょうど降り注いだ帆船コロンブスの残骸を素材に、高密度の魔力塊を防壁に作り替えて。
水没した<DLC>のメンバーを触腕ごと囮に。
避けて、隠れて、逃げて。
『逃がすつもりはないんだよねぇ』
広域を照らす闇を浴びて……彼は絶命した。
◇◆◇
□■某所・海上
グリオマンPは大量の経験値を獲得した。
自らのレベルアップと乱入者の全滅を確認した後、そのまま船を反転して海域を離脱する。
『彼らを当て馬に<UBM>を測ったのですか』
『
あの時点で遺跡に巣食う<UBM>は未知数。
偶然にも居合わせた……本当に
周辺はグランバロア船団の航海ルートを外れた海域だ。活動する者は<マスター>か犯罪者ぐらいのもの。見知らぬ不死者や罪人が命を落とすのは自己責任の範疇だろう。ヘイゼルは
『万全を期して、情報を元に対策を練るおつもりなのは理解します。しかし』
『なんだい。遺跡が心配かい?』
『……<マスター>は三日で復活します。<UBM>の存在が周知され、人が集まるでしょう。その際に遺跡が巻き込まれる恐れがあります』
間欠泉に似た水柱……高威力の攻撃スキルを【マッチポンプ】は持っている。特典武具狙いの<マスター>と激しい戦闘を繰り広げることは想像に難くない。
戦闘の余波で遺跡が崩壊するリスクを考えると、邪魔が入らないうちに手早く仕留めておきたいという思いがヘイゼルにはあった。
『君の意見は一理ある。今回は派手にやったから、遺跡の存在は遠からず発覚するだろうし』
存在を秘匿して独占するという手段は使えない。
今回はグリオマンP自身、利益と損失を秤にかけて悩み抜いた計画であったりする。
『けど、嬉しい誤算があったよ』
分解した機械人形の腕が握った投網。
中身を確認するようグリオマンPは促した。
『こちらは?』
『戦利品』
見れば分かる、と口に出しそうになったが、ヘイゼルは堪えて引き揚げられたモノを検分する。
グリオマンPの戦利品は大きく分けて三つ。
一つ、機械式の刀剣。
配管を思わせる意匠からして【マッチポンプ】の一部を加工したと考えられるオーダーメイド。内部の機構と付与スキルは元の<UBM>に由来するであろう。機械の製造に特化した彼女達の眼からすれば……もはや【マッチポンプ】の能力は暴かれたも当然。
一つ、小さな宝珠。
<UBM>が封印されている武器化の珠。一つ目の戦利品と合わせて、二人は珠の用途と能力におおよその予測をつけており、それは正しかった。
一つ、濡れたアイテムボックス。
盗難対策が施された最高級品だ。グリオマンPは人形に内蔵した銃器で躊躇わずそれを破壊した。
中から放出されたのは棺。
内側に安置されるは人形のような少女。
否――ソレは、少女を模した作りもの。
『……リリィ』
二十一の贋作が四号機、第二世代量産型煌玉人。
ヘイゼルがよく知る姉妹機でありながら、かつての記録と異なり、動力炉と改変兵装を欠いて。
――【
Episode End
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<海(底に眠る白)百合
<DLC>
(U・ω・U)<でんどろ・れいばー・かんぱにー
(U・ω・U)<人材派遣クラン
(U・ω・U)<主に決闘の助っ人で呼ばれる
(U・ω・U)<本文に出てないメンバーの名前は
(U・ω・U)<オールナイトとサー・ビザン
Ψ(▽W▽)Ψ<恐ろしい響きドラ……
【セーピア・イデア】
(U・ω・U)<イカしてる男(故人)
(U・ω・U)<ラ・クリマが「まだラスカルに貸してるから」と
(U・ω・U)<回収を怠ったのが敗因
【略奪王】
(U・ω・U)<空位になった
暗黒光線
(U・ω・U)<Pの特典武具
(U・ω・U)<【翳光灯 トワイライト】
(U・ω・U)<闇属性固定ダメージのビーム
(U・ω・U)<生物にだけ伝播する防御無視攻撃です
( P )<機械に被害を及ぼさない
( P )<実にクリーンな兵器だよねぇ
(U・ω・U)<なおコスパが悪く
(U・ω・U)<二属性の防御無視という性質がかぶってるため無駄も多い
【マッチポンプ】
( P )<え、倒し方?
( P )<化け物には化け物をぶつける
(U・ω・U)<あ……(察し)