長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
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□更科紗良
木曜日。お昼休みのチャイムが鳴った。
授業が終わるより早く、ざわざわと教室が騒ぎ出す。
準備を始める給食当番、今日のデザートと休みの人数を確認する子、嫌いなメニューに苦い顔をする子、仲良し同士で机をくっつけていただきますを待つ子たち。
現実の日常だ。普段通りの光景だ。
わたしは席に座ったまま、みんなを見ていた。
「一緒に食べよ」
クラスメイトの女の子がやってきた。
もう自分の分をゲットしたのか、片手にトレイ、片手でイスをガリガリと引きずっている。
わたしの机を陣取って(まだ片付けてない教科書とノートはぐいっと肘で押していた)、配膳の列に並ぶ二人に声をかける。
「青葉ー、黄羅々ー。紗良のもよろしく!」
「そう言うと思って確保済み」
「床傷つけたらまた先生に怒られるんだけど」
学年で一番足が速い
テストはいつも満点の
おしゃれで人気者な
みんなは一年生のときからの友だちだ。
休み時間はこの四人でいることが多い。放課後は教室でおしゃべりしたり、遊びに出かけたりする。
タイプも性格も全然違うねってたまにびっくりされるけれど、おかしいことじゃないと思う。
「どうしたの紗良。元気ないね」
「そうかな」
「んー、なんとなく」
朱莉ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
いつもと違うんだよなー、なんだろうなーと言いながら頭のツボをぐにぐに押している。理由は言葉にできないみたいで、すぐ煙を吹いて降参してしまった。
「分かんないから走ってくる!」
「赤ちゃん食事中」
青葉ちゃんと黄羅々ちゃんの手が伸びる。
左右から朱莉ちゃんをホールド。イスに座らせた。
いつ見ても手慣れている……。
「何か嫌なことでもあった?」
「ううん。ちょっとボーっとしてただけ」
「体調悪いなら五時間目の体育は見学しなよ。八雲先生うるさいよ。『倦怠感を侮ってはいけないのです。油断は怪我に繋がるのですよ』とか言いそうじゃん」
黄羅々ちゃんのモノマネがそっくりだったから、二人は口の中のご飯を吹き出しそうになっていた。
つられてくすりと笑ってしまう。大人なのに、わたしとおんなじくらいの背の八雲先生。優しいけれどお小言が多いというのがクラスの共通認識なんだよね。
「だいじょうぶ! ほら元気!」
「それならいいけど。疲れてる時は言ってね。連休のおでかけ、また今度にしたっていいから」
「……
「えー? ラウ◯ン行こうよラ◯ワン」
「だったら私も洋服と新作コスメ欲しいし!」
「ぜ、ぜんぶやろう! ねっ!」
だからケンカはやめて!?
「紗良はやりたいことないの?」
「わたし? うーん」
映画、買い物、レジャーでわりと満足だ。
甘いもの……はカロリーが気になる。
前に通っていた動物カフェに行くのはありかな。最近はデンドロでモフモフ欲を充電していたけど。
「…………」
……まただ。今日はちょっとおかしい。
現実でみんなと話しているのに。
心の半分は、今も
これじゃあダメだ。みんなが心配する。
「「「……」」」
冷静になろう。放課後までやれることはない。
勉強もしっかりするってお母さんとの約束なんだから、きちんとしなくちゃ。
「……ねえ紗良。前に写真見せてくれたじゃん。デンドロの、ペット? のことまた聞かせてよ」
「え?」
黄羅々ちゃんはふと思いついたように言った。
心の中でほっぺを叩いていたわたしは、いきなり話題が変わったから目を白黒させてしまう。
三人はデンドロを遊んでいない。知らないことばかり話すのはつまらないだろうから、みんなといるときは、ゲームの話はほどほどにしていた。
「攻略wikiと動画配信は追っている。ジーちゃんについて語ろう。あと悪魔って何味?」
「爺ちゃん……? よく分かんないけど、あれ、ドラゴンめっちゃカッコいいよね!」
「青葉ちゃん、朱莉ちゃん……」
だけど気にすることはなかったのかも。
三人とわたしは好きなことがバラバラで、それでも一緒にいて楽しいと思えるんだから。
よーし。お言葉に甘えて、わたしの自慢の従魔語りをするよ! 止まらないから覚悟してね!
ちなみに悪魔を食べるのは一部の人だけです。
また今度聞いておくね。
◇◆◇
□【高位従魔師】サラ
家に帰って、わたしはデンドロにログインした。
初めてのデスペナルティが明けて、少し緊張しながらギデオンのセーブポイントになんなく着地。
すうはあと深呼吸をして体を確かめる。前回の傷はすっかり治っていて、もちろん性別は女の子。
……怖い経験をしてからプレイできなくなる人がいる、という話を聞いたことがあって、自分はどうだろうと不安な気持ちだった。だけど手は震えていないし歩けている。たぶんだいじょうぶそう。
「装備は壊れちゃったのかな。代わりの服は……アイテムボックスもないんだった」
無事なのは【萌芽の横笛】と【P-DX】と。
右手につけた【ジュエル】だけ。
「《
声に出すより早く、中から飛び出す子たち。
その勢いにわたしは尻もちをついてしまった。
「みんな……」
頭をぐりぐりと押しつけるルビー。
少し離れた場所でうつむいているクロム。
機械越しに画面を点滅させるターコイズ。
そして、怪我した翼を引きずるジェイド。
わたしはデスペナルティがはじめてだから、すごく心配したんだろう。だいじょうぶだよと伝えるために、わたしは一体ずつ順番に、みんなを抱きしめる。
「ごめんね。心配かけたね」
『……
触ると温かい。この子たちは生きてる。
失われたのがみんなの命じゃなくてよかったと、心のどこかでほっとした。
『
「そんなことないよ。わたしは帰ってこれるから」
『
「――それはないよ」
首を振って否定する。
ジェイドの心配は、そう考えてしまうのは、この子にとっては当たり前だ。置いていかれた過去は一度じゃない。そう思わせてしまったのはわたしの責任だ。
だからきちんと伝えないと。
何度だって、言葉に出して。
わたしの気持ちをこれ以上ってくらいに。
繰り返し口にしてダメなんてことはないから。
「約束したもん。あなたを置いていったりしない。ひとりぼっちにはさせないよ。もちろんルビーもクロムもターコイズもそう」
弱くて頼りないご主人様でごめんね。
だけど、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。
あなたたちの不安は絶対に起こらないから。
「だから、わたしもみんなと一緒にいさせてね」
『
ジェイドを撫でて、傷ついた翼を確認する。
運がいいことに傷は浅い。ただ切り傷の周りがドス黒い色に染まっている。市販のポーションに頼るより、ちゃんとした治療を受けたほうがよさそうだ。
従魔のお医者さんか……月夜さんにお願いして診てもらうのがいいよね。今のわたしは一文なしだから、治療代の支払いは待ってもらうことになるんだけど。
◇◇◇
たまたま闘技場にいた月夜さんに、今度トルネ村にいるライオン(知り合いの従魔らしい)の遊び相手をすることを条件に治療してもらった後。
わたしは壊れた装備品の代わりを探して、四番街にある<ルルリリのアトリエ>にやってきた。
……そこで。
「サラちゃん!? どうしたのその格好!」
「とりあえずこれ着なさい。ったく、うちのバイトは男になったりボロボロになったり忙しいわね」
ものすごい心配されてしまった。
リリアンさんとホノルルさんに事情を説明して、落ち着いてもらうのは大変だったよ。
二人はわたしのことをほめてくれて、レジェンダリアに対して「やっぱりあの国はだめだ」とかなんとか、文句を言いながら怒ってくれた。
わたしをPKしたフィルの説明になると、
「は? 何そいつ。気持ち悪」
「よくない大人のことは無視していいからね。絶対に関わっちゃだめだよ」
と真剣な表情で注意した。
そうだよねと納得する気持ちがある反面、あのフィルという人の言葉がトゲみたいに心に残ったままで、わかりましたって返事することができず。少しモヤモヤした気分でお話を聞いていた。
「ごめんね。今ある在庫で丁度いい装備がなくて。とりあえずこれ、繋ぎとして持っていって」
「次のバイト代からさっぴくからね」
「……ルル〜?」
「じ、冗談よ! サービスでアイテムボックスつけといたから感謝しなさい!」
売れ残りの在庫をもらって装備する。
部位ごとにチグハグでバラバラなデザインになってしまうのは仕方ない。わたしのレベルで使える装備を探してくれたリリアンさんに感謝だ。
腰のポーチにはポーションとお金が入っていた。これはホノルルさんかな。あとでちゃんと返そう。
お礼を言ってお店を出ようとしたとき。
ドアベルが鳴って、坊主頭の人が入ってきた。
前に店番をしていたときにお話したことがある。宅配便の人、たしか名前はカクタスさんだ。
「お荷物です」
「頼んでないけど」
「サラさん宛で、ここに届けてくれと」
「わたし?」
カクタスさんから包みと手紙を受け取る。
手紙は分厚くて、包みはずっしりと重い。
差出人の名前はあだしのさんと書いてある。
「それと伝言です。ひよ蒟蒻さんから『危ない目に合わせて済まない。今度お詫びをさせてくれ』と」
「えっと、はい! わたしこそごめんなさい、ありがとうって伝えてくれますか?」
「ウス」
カクタスさんはぺこりとお辞儀して、そのまま通りをすったかたーと走っていった。
わたしは手紙を開けて読む。
びっしりと詰まった文字。内容は謝罪文と、わたしのデスペナルティ後の出来事が書いてある。
フィルがわたしをPKしたと気づいて、あだしのさんは<VOID>からの脱退と反逆を宣言したらしい。
そこにクラリッサさんが加勢して戦闘になり、相手はあっさりと引き下がった。
フィルの行方は分からない。盗まれた【天穹の竪琴】以外、わたしの持ち物は戦闘でぐちゃぐちゃになってしまったので、それもごめんなさいと書いてある。あだしのさんは悪いことしてないから謝る必要もないと思うよ。
それと包みについて?
ええと、なになに。
「『魔女の代理でこれを贈ります』って」
中身は一振りの短剣だった。
わたしが持つと剣の分類に入りそうな長さ。
紫がかる装飾に黒革の鞘とベルト。
高レベルと分かる、わたしに不釣り合いな武器。
凝縮された怨念がエフェクトになって漏れている。
試しに《鑑定眼》のモノクルを借りてみた。
◇
【オース・オブ・カース】
古の魔女に呪われた短剣。
かつては普遍的な儀礼の刃だった。
※(人間範疇生物)装備レベル制限:合計レベル二五〇以上
※(非人間範疇生物)装備ステータス制限:MP一〇〇〇〇以上
・装備補正
装備攻撃力+三〇〇〇
・装備スキル
《喚起》:
使用後、このスキルは消滅する。
《■■■》:
詳細不明。
・呪い
【譲渡不可】【装備変更不可】【強化無効】
【呪詛】【傀儡】【狂化】
◇
あ、圧が強い……!
絶対に使ってほしいという気持ちに負けて、装備した瞬間、武器枠がひとつ固定化された。
「うーん……その【OoC】、鞘から抜いたら他の呪いも発動すると思うから気をつけてね」
リリアンさんの見立てだと前半三つは武器そのものにかかる呪いらしい。他の人に売る・捨てるができない。装備を外せない。そして素材を使った強化ができない。
後半の呪い三つは武器として使ったときに持ち主にかかる状態異常。勝手に操られちゃう感じ。こっちは特別仕様の鞘で呪いの効果を抑えているんだって。
お守り代わりに腰に吊るそう。護身用としても基本的に使う機会は少ないと思う。
とにかくこれで準備はオッケーだ。
これから装備のお代を払うために、クエストとバイトでお金を稼がないといけない。
従魔のご飯や道具を揃える必要もあるよね。
「……」
『
“――宣言しよう。悲劇は必ず起こる。”
どうしてもあの言葉が頭に浮かぶ。
忘れたいのに、ずっと考えてしまう。
本当は関わらないほうがいいと思う。
だってあぶない。やっぱり怖い。
でも……フィルと<VOID>の悪巧みを知っていて、止めなかったせいで、大変なことになったら。それがジェイドたちを傷つけることに繋がったら。
わたしは自分を許せるだろうか。
『
「ジェイド?」
『
ジェイドはきゅっと胸を張る。
『
わたしの考えはお見通し。
ジェイドは、そして従魔のみんなが、メラメラと闘志を燃やす。わたしの小さな心の不安を吹き飛ばす。
やられっぱなしでいられない。次は負けない、やられたりなんか絶対にしないって気持ちが伝わってくる。
「そっか。じゃあ行こう!」
迷って弱っちゃうのはやめだ。
考えたって正解はわからない。
わたしはやれることをやるだけ。
まずは――当事者とお話してみよう。
To be continued
余談というか今回の蛇足。
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