長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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詩神

 □【高位従魔師】サラ

 

 わたしはギデオンで情報を集めることにした。

 探している人はどこにいるのかわからない。連絡する方法もないから、本当に手当たり次第になる。

 

 街の情報屋さんと<DIN>にお願いしたら、少し時間がかかると言われてしまった。

 有名な事件や<マスター>の情報は普段から集めているそうなんだけど、そうでない情報……たとえばティアンについては、有名人を優先しているようで。わたしの依頼は確認が必要なんだとか。

 あと情報通のグリオマンPさんは連絡がつかなかった。ここしばらく目撃されてないらしい。とりあえずメールを送っておいた。暇なときに見てくれると思う。

 

 あと心当たりは従魔師ギルドだ。

 わたしは準備を整えて王都行きの馬車を探す。

 日帰りの護衛クエストを受けるのもありだね。冒険者ギルドに寄ってから乗合馬車の駅に行こう。

 

 とことこ歩いていると屋根を走る忍者が見えた。

 なんだか慌てているようで、街の南側を目指して一直線にジャンプ。お猿さんみたいに身軽だ。

 

「頭領さん! こんにちは!」

「む。お主か」

 

 マリーさんの紹介で、ギデオン伯爵家に雇われた天地の忍者さんたち。その頭領さんはわたしに気づいてぴたりと立ち止まる。くるりと回って地面に着地。

 前に隠密中の頭領さんを見破ってしまい、それから無視できない人だと思われているような気がする。声がおんなじだったからたまたま気づいただけだよ。

 

「丁度よい。手を貸してくれぬか」

「なにかあったんですか?」

「大したことではないのだが。道中で説明する」

 

 頭領さんはわたしをおんぶして駆け出した。

 すごい足が早い!

 

「昨今、王国と皇国の関係が悪化しているのは知っているだろう。戦争から始まり、このギデオンではフランクリンがテロを起こした。一ヶ月前の講和会議では【獣王】が暴れ、時を同じく王都を襲った【盗賊王】も皇国の手のものだった」

 

 フランクリンのテロはわたしも知っている。

 それと講和会議で皇王が罠を仕掛けて、レイさんたち<デス・ピリオド>が騙し討ちを阻止したこと。

 王都のお城は爆発して侵入者に襲われた。その場にいた第二王女様と第三王女様が無事だったのは、近衛騎士団と迅羽のおかげだろう。

 

 みんなでなかよくできたらいいのに。

 わたしは思う。お話で納得できる解決策が見つかるのが一番いい。だけど王様もそれくらいわかっているはずで、だから講和会議に参加したんだよね。それが台無しになってしまったのは悲しい。

 

「近いうちに戦争が起きる。故にトーナメントで王国に戦力を集めようとしたのだろうが……同時に、皇国が前哨戦を仕掛ける可能性は低くないとワシは睨んでいる」

「ぜんしょーせん……」

「モンスターを放流する程度は序の口だ。<マスター>の戦力調査も兼ねられる。情報は戦の要であるからな」

 

 頭領さんの声は実感がこもっている。やっぱり天地は戦争ばかりというのは本当らしい。

 

「本題に入ろう。街外れに見慣れないモンスターを使役する一団がいる。怪しい素振りを見せていてな。皇国の手のものか、お主に見極めてもらいたいのだ」

 

 ギデオンを巡回する忍者の警戒網に引っかかった集団は数人のティアン。黒ずくめの格好で、見たことのないモンスターを連れている。<マスター>と<エンブリオ>じゃないから頭領さんはフランクリン製のモンスターではないかと疑っているようだ。

 わたしはフランクリンのモンスターをよく知っていて、バベルで嘘を見抜けることから、確認にうってつけの人材なんだって。ちょっと照れるね。

 

「あれだ」

 

 現場に到着。屋根の出っ張りに身を隠す。

 頭領さんが指差した先、路地裏を見下ろした。

 

 昼間は目立つ黒ずくめのティアンが一人。

 右手に【ジュエル】をつけているから従魔師だ。従魔は外に出して連れ歩いている。

 四本足で歩くトカゲタイプの地竜種で、黒いモヤみたいなまがまがしいオーラと鱗粉、体に生えた紫色の結晶には見覚えがある。

 

「……<VOID>」

「知っているのか」

「皇国とは関係ありません。でも悪い人です」

 

 あだしのさんたちは例外だけど、黒い凶暴なモンスターを連れているメンバーはいつも悪いことをしていた。気をつけたほうがいいと思う。

 

「なんでギデオンに?」

Rrrrr(あれみて)

 

 <VOID>のしたっぱは誰かを追いかけていた。

 ドラゴンをけしかけて逃げ道を塞いで緑のブレス(たぶん毒だ)を吐いた。逃げる人は横っ飛びで転んじゃう。

 傷ついて逃げる、もじゃもじゃのおじさん。わたしが探していた人。

 

 Mr. ジョバンニが襲われている。

 

「助けなくちゃ!」

 

 すぐに《始まり》を使って戦闘準備。ジェイドの風をクッションに屋根から飛び降りる。ブレスごと相手のドラゴンを吹き飛ばして、開いた距離に割って入る。

 

「ストップ!」

「うおっ、何だお前!?」

 

 びっくりして後ずさるしたっぱ。

 飛び出した勢いとジェイドの力に警戒して、次にわたしを見てちょっとほっとしたみたい。

 

「おい、見せ物じゃないぞ。子供はあっちで遊んでろ。しっしっ」

「たしかに子どもだけど……じゃなくて。Mr. ジョバンニに何をしてるんですか?」

「……あんた知り合いか? 面倒だな……おい嬢ちゃん、悪い事は言わん。そこをどきな」

「理由を教えてくれたら考えます」

「痛い目にあうのは嫌だろう?」

 

 合図で地竜、【ポイズン・ドラゴン】が前に出る。

 純竜級の従魔かな。かなり強そうだ。

 今までの<VOID>とは比べものにならない。どうやらエリートのしたっぱらしい。

 

 にらみ合いを続けていると、複数の足音がしたっぱエリートの方から聞こえてきた。

 角を曲がって現れたのはもう一人のしたっぱと、見覚えのある六人パーティだった。たしか<バビロニア戦闘団>所属の<マスター>だったはずだ。

 パーティのリーダーさんが、したっぱエリートに話しかける。

 

「状況は?」

「追い詰めた。が、邪魔が入った」

「了解だ。後は我々が……え、君はサラ?」

 

 <バビロニア戦闘団>は武器を構えて戦闘体勢。ただ、前にお話したことがあるリーダーさんは首を傾げて、パーティの仲間に待ったをかけてくれた。

 

「これはクエストがバッティングしたかもな」

「クエスト?」

「我々は討伐クエストを受注している。依頼主はそちらのティアン……<VOID>と言ったか」

「その通りだ。理解できたら大人しく引きな。ギデオンを危険に晒す訳にはいかないだろう」

 

 リーダーさんの後に続いて、したっぱエリートが自信満々に声を上げた。

 

「討伐って……でも、モンスターなんてどこにも」

「いるだろう。()()()()()()

「……え?」

 

 振り返る。

 

 嘘だろうと信じたいのに、したっぱエリートの言葉が嘘じゃないことがわかってしまったから。

 

 わたしの後ろにいるのは一人。

 

 Mr. ジョバンニ。

 わたしとジェイドと会わせてくれた。

 わたしたちの恩人と呼べる人が。

 

 もじゃもじゃの体は、ところどころノイズが走っていて歪んでいる。ほつれたノイズの奥には光。うっすら透けた内側は人間と違う作りでできていた。

 

 頭の上に文字が浮かぶ。

 ありえない。ティアンなら。

 だけど、わたしはしっかりと見た。

 

 ――【吟友詩神 ソーマ】と。

 

「――神話級<UBM>を庇うのか?」

 

 Mr. ジョバンニはうつむいたままだ。

 否定しないってことは、だけど。

 頭がぐるぐるして何も言えない。

 

「そうか。君は知らなかったんだな」

「騙されていたな。ただ戦闘力は低いと聞いてる。<マスター>さんよ、嬢ちゃんを避けて攻撃できるか」

「可能だけどさ。流石に鬼畜が過ぎるのでは」

 

 黙ってちゃダメだ。なにか言わないと。

 Mr. ジョバンニを倒すつもりだ。

 でも、それは、だって。

 

「待って、ください」

Rrrrr(さら)……』

 

 なんでもいい。それっぽい理由を考えろ。

 お話してなんとか納得してもらう。

 このままMr. ジョバンニが倒されるのを黙って見ているなんて、わたしにはできない。

 たしかに<UBM>なのかもしれないけど! なんにも悪いことをしてないのに!

 

「Mr. ジョバンニは街を襲ったりしません」

「根拠は?」

「ないです……けど。今までMr. ジョバンニが街や人が襲って被害が出たこと、ありますか?」

「……ない、と聞いている。最近まで<DIN>すら存在を知らなかった程度に【ソーマ】は何もしていない。少なくとも知られている限りでは」

「じゃあ街のために倒す必要もないですよね」

「安全面は確かに。ただ今後も襲わないという保証はできないし、人知れず被害が出ているかもしれない。<バビロニア戦闘団>としては納得しかねる」

 

 説得材料としては弱い、とリーダーさんは指を二本立てた。

 

「次だが、見逃すメリットがない。このクエストは多額の報酬を提示されている。近頃は我々も物入りでね。討伐失敗で収入が帳消しになるのは正直キツい」

「お金なら、わたし持ってますっ!」

「仮に金銭で損失が補填できるとして。<UBM>の討伐MVPの証、特典武具はどうする? サーバーにひとつだけしかない強力なユニーク装備だ。代わりになるアイテムはそうそうない」

「それなら、もし、わたしが別の<UBM>を見つけたら倒さないでみんなに教えます」

「<UBM>と遭遇するだけでも珍しい。しかも弱っている神話級となると千載一遇の好機だ。君はそこまでの幸運に恵まれているかな」

「それは……」

「皇国との戦争も近いからね。我々は可能な限り戦力を整えておきたい。戦争を抜きにしても、一ゲーマーとしてユニークが欲しいという気持ちは抑えきれない」

 

 ぜんぜん反論できない。

 リーダーさんはいい人だ。わたしを無視して攻撃できるのに、きちんとお話して説明してくれる。

 だけど困ったことに、<バビロニア戦闘団>に納得してもらえる材料をわたしが持っていなかった。

 

 たとえばMr. ジョバンニがわたしの従魔なら、この話し合いはわたし有利に進んだだろう。

 だけど実際はそうじゃない。今からテイムする方法も使えない。<UBM>はテイムできないと、従魔師の先輩に聞いたことがある。

 

「ン……もういいですヨ。お気持ちはありがたいデスガ、あなーたが悩む必要はありませン」

「Mr. ジョバンニ! でも!」

「わたーしのミスでしタ。選択を間違えましたネ」

 

 Mr. ジョバンニはふらりと立ち上がる。

 傷が回復していない。この様子だと歩くことだってつらいはずだ。なのに、平気そうに前に出る。リーダーさんとしたっぱエリートに向き合って声を張る。

 

「人間がわたーしを狙うのは仕方ないデス。……ただし生憎と、私も殺されてやるつもりはない。最後まで抵抗するがよろしいか?」

「仮にも神話級。簡単に狩れるとは思っていない。だが、今の会話で疑問も浮かぶ」

 

 ピリピリと高まる緊張感。

 特にMr. ジョバンニから徐々にものすごいプレッシャーが放たれるなか、リーダーさんは武器を揺らして考える素振りを見せた。

 

「随分と理性的で話の通じる相手だ。依頼主から聞いた情報と少し違うようだが」

「それ! どんな説明をされたんですか!」

「力を取り戻せばギデオンを壊滅させるだろう。その前に討伐したい。という話だった」

「もし、それが嘘だとしたら?」

「少し迷うな」

「――ッ!?」

 

 したっぱエリートが息を呑む。

 流れが変わった。チャンス!

 

「クエストに嘘があったら大変ですよね。依頼主が嘘つきなら、報酬もやっぱりなしになっちゃうかも」

「な、待て! 金はしっかり……!」

「確かに。だが<UBM>討伐そのものは魅力的だ」

 

 そう。それが問題だ。わたしは特典武具とおんなじか、それ以上のメリットをあげられない。

 

「――――【詩仙(アオイドス)】」

 

 だけど意外なことに。

 Mr. ジョバンニは切り札を隠していた。

 

「……何?」

()()()()()()()()()。その就職条件を教えるのは如何ですかネ! ロストしている……というかわたーしが就いているので誰も知らないと思いますヨ」

「<UBM>がジョブに就いているのか」

「そういうスキルがあるのデス」

「なるほど。譲ってもらえると考えても?」

「命あってのなんとやラ。早い者勝ちになりマスガ、それはソレ。恨みっこなしで頼みマス!」

「よし、いいだろう。我々<バビロニア戦闘団>はクエストを破棄する。皆も異論はないな?」

 

 リーダーさんの決定に、パーティメンバーはいっせいに頷いた。みんな……!

 

「待て、話が違うぞッ! 考えなおせ!」

「悪いな。決まった事だ。それとも……あの<UBM>が死なないと、何か不都合があるのか?」

「ぐ、うぅ……覚えておけよ」

 

 したっぱエリートはぐうの音もでない。

 従魔で暴れても<マスター>相手じゃ勝ち目が薄いと考えたんだろう。部下っぽいしたっぱを連れて、したっぱエリートは逃げるように姿を消した。

 

 後に残ったメンバーは顔を見合わせる。

 リーダーさんはしてやったりとニヤリ顔だ。

 ひょっとして最初から倒す気がなかった?

 

「いいや。状況次第ではクエストを続けていたよ。怪しい依頼主だが<UBM>は本物だった」

 

 平然としながら、屋根を見上げて「あいつの追跡は忍者に任せるかな」とつぶやいている。

 隠れていた頭領さんのことだろう。悪い人の取り締まりはしっかりしてくれると思う。なので<VOID>のあれこれはいったん置いておこう。

 

「じゃあ超級職の条件があったから」

「それもある。うちのクランにも【詩聖】がいるから、あわよくば狙う。駄目なら情報をいい値段で売れる。落とし所としては及第点だろう」

 

 でもそれだけじゃない、と言葉が続いた。

 

「君がいたからだ。サラ」

「わたしが……どうして?」

「君とは何度か組んだ事がある。他のメンバーもだ。その時の経験と人柄を踏まえて、君が信頼に値する人間だと思った。ぽっと出の怪しい男よりね。だから【ソーマ】が危険でないという言葉を信じた」

「っ、ありがとうございます!!」

「気にしないでいいさ。ただ、信頼は裏切らないでくれると嬉しい。……【ソーマ】も」

「肝に銘じますヨ」

 

 <バビロニア戦闘団>はいい人ばかりだ。

 特にリーダーさんは【グローリア】事件の前からクランにいたはず。<UBM>が街を襲うことは複雑な気持ちを抱えているだろう。……言葉のはしっこからも、少しだけそれがにじみ出ているのに。

 本当に感謝してもしたりない。このお礼はいつか必ずお返しをしなくちゃだね。

 

「でもそれだけじゃないよなリーダー」

「リーダーは可愛い女子に弱いもんなあ」

「誤解を招く言い方はやめろ。それに、いたいけな少女を泣かせたらライザーさんにどやされるだろう」

「違いない。ヘルモーズで轢かれる」

 

 わいわいと騒いで、<バビロニア戦闘団>のなかよしパーティはひと足先に帰っていった。もちろんMr. ジョバンニから情報をしっかり受け取って。

 

「……さテ。聞きたい事がある、という顔ですネ」

「たーくさん。教えてください」

 

 <VOID>とフィルについて。

 【天穹の竪琴】に“ソーマの竜”。

 Mr. ジョバンニ本人のこと。

 説明してほしいことは山ほどある。

 話したくないならしかたない。だけど、色々と経験したわたしは聞く権利があると思う。

 

「場所を移しまショウ。詩を語る場にしては、ここは少し殺風景ですカラ」

 

 ある程度ダメージを回復したMr. ジョバンニは、偽装を掛け直して立ち上がった。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

リーダー
(U・ω・U)<世界派寄りの遊戯派

(U・ω・U)<ライザーの後輩に当たる


【ソーマ】
(U・ω・U)<神話級(弱体化)

(U・ω・U)<ジョブは固有スキルで保持

(U・ω・U)<ロジックは《人化の術》+眷属化


したっぱエリート
(U・ω・U)<本当にエリートです

(U・ω・U)<従魔師系統をメインにカンストしてます
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