長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【高位従魔師】サラ
「何から話したものですカ」
Mr. ジョバンニの案内で近くの酒場に。
行きつけだというお店はガラガラでお客さんはわたしたちだけ。内緒話にもってこいだ。マスターは気を利かせて席を外してくれた。
「わたーしの正体はもうお分かりですヨネ」
Mr. ジョバンニはどこからか竪琴(市販品)を取り出してポロロロンと弦を爪弾く。
「謎の従魔師Mr. ジョバンニとハ、世を偲ぶ仮の姿。何を隠そう、薄膜一枚を隔てた真実、歴史の闇に消えた詩人ソーマその人なのデス!」
千年以上の大昔に活躍した伝説の詩人。
昔話に詳しいとは思っていたけれど納得だ。自分のことは、自分が一番よく知っているものね。
ただ年齢を考えるとすごいおじいちゃんになる。デンドロだって人間の寿命は変わらないはずだ。そうなると長生きの秘訣は、
「モンスターだから?」
「当たらずとも遠からずデス。わたーしは二つの身体がありマス。神話級<UBM>の【吟友詩神 ソーマ】としての本体。もう一つは人間範疇生物の【詩仙】ソーマとして活動できる分け身。何故こんな身体になったのかは……ンンン! 実際わたーしもよく分かっていないので勘弁してくだサーイ!」
仕組みは《人化の術》に近いらしい。
強いモンスター、たとえば【竜王】なんかは人間に近い姿に変身するスキルを覚えている。
おんなじ《人化の術》でも、肉体を操作して人型に変身する方法と、本体はリソースごと別空間にしまって人型の義体を動かす方法があって【ソーマ】は二番目。
本体と、ティアンとしてのアバター。それぞれが同時に存在しているから普段はアバターに本体をしまっている。理屈はともかく、やっていることは他のモンスターとあんまり変わらないのかな?
「なので人とモンスターのどちらなのかと問われレバ、わたーしはモンスターになりマス。元は人畜無害なエレメンタルだったのですガネー」
「…………」
「……どうやら”彼女”の事もご存知ですネ。エエ。わたーしは力をもらい、名前を継ぎましタ。その当たりは想像にお任せします……わたーしについてはこれくらいデ。英雄譚は華々しく雄弁に語られてますノデ!」
伝説はわざわざ補足する必要がないってことだね。わたしが知っている内容でほぼ全部。
Mr. ジョバンニのことはわかった。次は……。
「“ソーマの竜”について教えて」
<VOID>が狙う、伝説の登場
ソーマの仲間だった植物のドラゴン。
わたしが知っている情報はこれくらいだ。
「フィルは目覚めさせるって」
「やはりそうでしたカ。わたーしが襲われたのですから、封印も危ないと見るべきデス」
『
Mr. ジョバンニは目をつぶって、しばらくどこか遠いところに思いを馳せていた。
それから真剣な表情でわたしとジェイドを見る。
「私の友人は眠っている。かつての戦乱で負った傷を癒すために。不埒な輩に害される事のないよう、私は彼に封印を施し、幾年月に渡って静寂を守ってきた」
だがそれも限界のようだ、とソーマは拳を握りしめた。ザザザと偽装の制御が一瞬崩れて、その部分からとても重苦しいプレッシャーが漏れ出す。
厳しい顔のソーマは、やっぱり声が疲れていて、明らかにやつれているように見える。
「今、封印は破られかけている。恐らく<VOID>の仕業だろう。リソースの六割を回して維持しているが、もはやそれすら厳しい。やがて拮抗は崩れる」
「そしたら、どうなるんですか?」
「分からない。<VOID>が友を狙う理由はまるで検討がつかない。だが、ろくな目的ではないのは確かだ……我が友はきっと苦しむ。私はそれを許せない」
「頼む――力を貸してくれないか」
【クエスト【吟竜詩人譚・詩神の章――ソーマ 難易度:八】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
視界にメッセージウィンドウが表示された。
答えはもちろん決まっている。クエストという形じゃなくたって、わたしの考えは変わらないよ。
「任せてください!」
『
あなたの友だちを助けたいって気持ちは、ちゃんと伝わっているから。
◇
まず気になるのは封印のことだ。
ソーマが維持しているというけれど、具体的にどこを、どうやって守っているのかを知りたいよね。
そうしたら<VOID>の居場所と封印の解き方・その防ぎ方まで目標が立てられる。
「ンン! 場所は<竜木の房>デス。ギデオンを南下してレジェンダリアとの国境を越えた先にありマス。少数部族の隠れ里で簡単には辿り着けませんガ」
「もう<VOID>には見つかってます。フィルが言ってましたから」
「では襲撃されていると考えた方が良いデスネ……部族の協力は望めないでショウ」
隠れ里の住人はソーマの味方だ。つまり<VOID>にとっては敵。逃げられていたらうれしい、ただ戦力の期待はできないというのがソーマの意見だった。特別に強いティアンや<マスター>はいないそうだから。
「封印は魔力で編んだ結界デス。彼の居場所に出入りができないようにしていマス。ちなみに封印の要を持たない者は力づくで突破するしかありませン」
かなめ=鍵みたいな感じかな。
「それって」
「あなーたに預けた【天穹の竪琴】ですネ!」
「……」
『……』
「……ンンン?」
……どうしよう。
【竪琴】は奪われちゃった。
「オーララ!? なんともマズイデス! 封印すぐに解けてしまいマスヨ!?」
「ご、ごめんなさい!?」
「説明しなかったわたーしが悪イ! ……ナルホド封印が悲鳴を上げるわけデス。全てのリソースを注いで何日対抗できるか……」
大騒ぎしてばかりでいい案は浮かばない。
相手が【竪琴】を持っているのが致命的だ。封印の鍵を守るって簡単な方法が使えない。
ほかに代わりになるものがあればなあ。
「【竪琴】みたいに要になるアイテムはありますか? それか、もう一個おんなじものを作るとか」
「あれはわたーしの魔力と彼の破片を素材に使って製作していマス。素材が無いので複製品は作れませン」
やっぱりダメみたい。残念。
「本当はあったのデス。【竪琴】と同一の素材で作られた、要になり得る楽器。ですが失われてしまっタ。もはや存在すら定かでないのですヨ」
「そんな……」
「無念デス。もしもアレを、【
ソーマは悔しそうに歯ぎしりした。
話を聞く限り、両方ともソーマが作って使っていた楽器に違いない。ただ片方は失くしてしまった。大事なものだから本人はずっと探していたようだけれど。
痛いほど気持ちはわかる。だけどあんまり自分を責めないでほしい。ソーマだって適当にほっぽっていたわけじゃない。その【萌芽の横笛】を、
「萌芽の」
『
それって。もしかして、もしかすると。
「これのこと?」
「――…………ッ!?」
わたしが取り出した笛をソーマはバッと手で掴み、まじまじと観察した。
高速で手元の笛とわたしの顔を交互に見るものだから首がちぎれちゃいそうになっている。
「一体どこで」
「えっと、たしかドロップアイテムの【宝櫃】から」
「ンンン……劣化してますがこれならバ。魔力を込めたら要として使えマス」
ゆっくりとソーマの目が輝きを取り戻す。
普通に使っていた装備が、ここ一番で大事なアイテムだったなんてびっくりだ。
これはラッキーと言うしかない!
「光明差せりデス。【横笛】があるなら封印をやり直すこともできル。<VOID>の目的を阻止して、二度と蛮行を働けないよう【竪琴】を奪い返すのですヨ!」
「はい!」
そこからの動きは早かった。
作戦を立てて、具体的な行動を決める。
ベストは<VOID>を止めること。封印を解こうとするフィルを阻止して【竪琴】を取り返す。ついでに悪いことをするメンバーを捕まえられたら文句なし。
もし間に合わなくて封印が解けてしまったら、【横笛】を使ってもう一度封印をやり直す。その後の流れはベストのパターンとおんなじだ。
<VOID>を止めるときは戦闘になるだろう。
フィルは確実に立ちふさがる。超級職のオッドさんも敵に回るかもしれない。人数が揃ったしたっぱを相手にするのだってひとりだと大変だ。
こっちの戦力はわたしとソーマだけ。これじゃあさすがに心許ない。だから味方を集めたいところだ。
ただ、王国は戦争直前でバタバタしている。
ランカーはそっちに集中したいはず。クランのメンバーで近くにいるのはひよ蒟蒻さんとレッドさんかな。試しにフレンドリストを開いてみるとログアウト中。
リストを上から下までスクロールして、どんどんお願いの連絡を入れてみる。
「えっと、えっと、手伝ってくれそうな人」
『
ナイスだよジェイド!
「わたーしも伝手を当たりまショウ……と言いたいデスガ、正直余裕がありまセン。サラにメッセンジャーをお願いしますネ」
「わかりました! 伝手っていうと」
「詩人ソーマには友がいました。三、いえ二体はきっと味方になってくれるはずデス」
【クエスト【吟竜詩人譚・巨象の章――マルタンⅢ世 難易度:七】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
【クエスト【吟竜詩人譚・鳳の章――フィエーネ 難易度:七】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
立て続けにクエストが発生する。
場所と距離的に……ルートはこうかな。
準備ができたら急いで出発だよ!
To be continued
余談というか今回の蛇足。
【萌芽の横笛】
(U・ω・U)<昔、帽子屋が回収した
(U・ω・U)<だから見つからなかったのです
(Є・◇・)<回収理由は何なんだ?
(U・ω・U)<〜♪
吟竜詩人譚
(U・ω・U)<章題にしてメインクエスト
(U・ω・U)<組み合わせ式で連立する
(U・ω・U)<総数は3+1()
(Є・◇・)<難易度八って超級職がいないと厳しいレベルなんだが
(U・ω・U)<はい
(U・ω・U)<頑張ってください