長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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ダンジョンを探索しよう

 □<墓標迷宮> 【従魔師】サラ

 

 ギデオンから馬車に乗ってだいたい半日。

 王都に移動したわたしたちは、墓地区画の地下に広がるダンジョンに足を踏み入れようとしていた。

 

「助かりましたよ〜。私一人だと心許ないので」

 

 そう言って頭を下げるのは【魔術師】ショウカさん。

 今回の野良パーティにおけるリーダーだ。

 どうしてわたしやアリアリアちゃんじゃなく、ショウカさんがリーダーになっているかというと、理由は二つ。

 

 一つは、彼女がほかの人にも声をかけたから。

 せっかくパーティを組むならメンバーは多いほうが安心できる。それにもう一人くらいは前衛役がほしい、ということらしい。

 わたしたちはたまに野良パーティに参加することはあるけど、バランスを考えてメンバーを募集したりすることには慣れてない。だから何回かパーティをまとめた経験のあるショウカさんにお任せすることになった。

 

「よく言うよ。こっちは問答無用で連れてこられたのに」

「ハッハッハ! そうぼやくな。俺たちは共にフランクリンと戦った仲間、つまり戦友だろう!」

 

 ため息を吐いた【森祭司】のグルコースさんと、彼の背中をバシバシと叩いて笑う【魔戦士】アドラさん。

 テロ事件で一緒に行動したからよく知っている。

 そして、もう一人。

 

「セラくん、よろしくね!」

「こちらこそなのです。僕はサポートに徹するつもりですが……よろしくお願いするのですよ」

 

 大先輩であるセラ・ケセラくん。彼については、たまたま見かけたからわたしが声をかけてみたんだよね。そうしたらオッケーをもらえました!

 今回はダンジョンのガイドをしてくれるみたい。

 

 この四人にわたしとアリアリアちゃんを合わせた六人がパーティメンバーだ。

 はじめて会う人が来ると思ってたからちょっと安心。

 わたしとジェイドは戦うのが苦手だってことをみんなわかってくれているからね。

 そのぶん、やれることをがんばろう! やることはダンジョンの探索。でも、ただ攻略しにきたわけじゃない。

 

「それでは撮影(・・)を始めたいと思います! みなさま、本日はよろしくお願いします〜」

「おー!」

 

 ショウカさんの号令でみんなが動きだす。

 

 今回の目的は動画の撮影。

 配信者のショウカさんに頼まれて、<墓標迷宮>の攻略動画を作るお手伝いをすることになったのです!

 これぞショウカさんがリーダーになった理由その二だ。

 

 もともと、ショウカさんとセラくんはデンドロのプレイ映像を動画サイトにアップしているらしい。

 よくわからないけど、セラくんはダンジョンのたいむあたっく? で有名なんだそう。

 ショウカさんは自分もダンジョン攻略をしてみようと考えてパーティメンバーを探していたという。

 まさか参考にしたセラくん本人がつかまるとは思ってなかったみたいだけどね。

 

「あ、失念していたのです。お二人にはこれを」

「マントと指輪?」

「《偽装》付きの装備よね、これ」

「動画は世界中の人が目にすることになるのです。僕や彼らは承知の上ですが、アバターや<エンブリオ>を明かしたくなければ使って下さいなのです」

 

 もちろんスキルや編集で可能な限り手を尽くすつもりなのですよ、と言うセラくん。

 彼がパッと手を広げると、まっしろな煙が出てきてわたしをぐるりと囲った。肩に乗るジェイドは煙から頭を出して不思議そうにキョトンとしている。

 

「ここまでやれば問題無いでしょう。映像にしてしまえば見破られる心配も皆無なのです」

「リアルでスキルを使うやつはいないものね。お気遣いはありがたく受け取るわ」

「ねえねえ、これすごいよアリアリアちゃん! 煙なのにもふもふだよ!」

Rrrrr(ふわふわ)Rrr(むにゃ)、Zzz……』

「そこ、はしゃがない!」

 

 準備ができたところで出発進行。

 列になってモンスターに備える。前衛はアリアリアちゃんとアドラさん、中衛にショウカさんとセラくん、後衛がわたしとグルコースさんだ。

 ちなみに撮影用のカメラはセラくんとわたしがひとつずつ持つことになっている。わたしのカメラがメインらしいから、どんなことも見逃さないようにしないとだね。

 

「む、来るぞ」

 

 そんなことを考えてたら敵が現れた。

 通路の曲がり角から歩いてきたのはゾンビ。

 映画に出てくるものより数倍リアルでちょっと怖い。あれに近づきたくはないかも。ショウカさんもおんなじことを思ったみたいで「ヒッ」と悲鳴を漏らしていた。

 

「一匹か。なら支援は不要だ! フゥンヌッ!」

「そうね。速攻で片付けてやるわ」

 

 前衛の二人は平気みたいで、あっさりとゾンビを倒してしまった。頼もしい限りだね。

 どんどん先に進んで敵を倒していくから、わたしたちは二人の後についていくだけでいい。

 

「……よくないな。何やってんだ馬鹿アドラ」

「え、どうしてですか? グルコースさん」

「君は見てわからないの? あいつらが前に行くから隊列が縦に伸びてる。これだと、耐久力の低い後衛が襲われたらカバーしにくいだろ」

「なるほど、ちゃんと周りを見ないとダメなんですね! すごいです。勉強になります!」

「ま、まあね? このくらい当然だよ。本当はリーダーが気を配らないといけないんだけど」

 

 ショウカさんはカメラに向かって動画用の解説をしゃべっている最中だ。列の様子は気がついてないみたい。

 

「とにかく一旦隊列を組み直そう。前に伝えてきて」

「わかりました。さっそく……ん?」

 

 ポンと肩を叩かれて足を止める。

 わたしは後衛。グルコースさんは一歩前を歩いているから、後ろには誰もいないはずなんだけど……?

 

 ゆっくり振り返ると、そこにはガイコツが!

 

「ふぎゃあああーーーー!?」

Rrrrrrrr(わああああああ)!!』

 

 わたしは思わず叫んで尻もちをつく。驚いたジェイドが風を起こして、スケルトンを押しやった。

 

「壁をお願いするのです」

「は、うぇ!? り、了解です。クタアト!」

 

 呼び出されたスライム――ショウカさんのガードナーだろう――が転んだスケルトンにのしかかる。

 動けなくなったスケルトンに、セラくんの射撃が命中。HPがゼロになったガイコツは光になって消えた。

 

 び、びっくりしたー!?

 思わず叫んじゃったけどしょうがないよね。気がついたら後ろにいたんだよ? もしも<墓標迷宮>がお化け屋敷みたいに暗かったら腰が抜けちゃっていたに違いない。

 うう……夢に出てきそう。今日の夜、一人でトイレに行けないかも。

 

「お怪我は?」

「わたしはへーきです。ジェイドは」

『Rrr……』

「よしよし。だいじょうぶだよー」

 

 ジェイドは体を丸めて震えている。よっぽどガイコツが怖かったみたい。びっくりしたのもあるかな。

 この様子だとしばらく【ジュエル】で休ませてあげたほうがよさそうだ。

 

「ショウカ。彼女に何か言うことがあるはずなのです」

「ごめんなさい……でも今の、取れ高バッチリですよ」

「…………」

「す、すみません!? 当方パーティの危機管理がなってませんでした! 申し訳ありません!」

「よろしい。たかがダンジョン探索と甘く見てはいけないのです。そして協力して下さるスタッフをぞんざいに扱ってはならないのです。肝に銘じておくように」

 

 セラくんは先生みたいな口調で話をしめた。そして通路の先から近づいてくる足音に向き直ると、

 

「サラさんッ! 無事!?」

「悲鳴が聞こえたが何かあったのか?」

「えいっ」

「「痛ッ!?」」

 

 駆けつけたアリアリアちゃんとアドラさんに強めのデコピンをした。

 

「いいですかアリアリア。戻ってきた速さは評価に値しますが、無意味に叫んではモンスターを呼び寄せてしまうのです。シャウトで敵の注意を集めるなら必要最低限かつ効果的に、なのです。

 逆にアドラは呑気が過ぎるのです。皆が全距離に対応できると思ってはいけないのです。そもそも前衛が突出してどうするのです。神造ダンジョンはモンスターのリポップが不定期なのです。そのことは常に念頭に置かねばならないのです」

 

 とつぜん始まったお説教にアリアリアちゃんはポカンと口を開けている。アドラさんは聞き飽きたというような表情で半分くらいスルーしているようだけど。

 

「そしてグルコースとサラ。お喋りは構いませんが、自分でも警戒はするべきなのです」

「わ、わたしも?」

「当然なのです。基本を知っているのと、知らずにいるのとでは雲泥の差が生まれるのです。先達としては捨て置けないのですよ」

 

 セラくんの気迫に押されたわたしたちは一列に並ぶ。

 なんだか体育の時間を思い出す。体育の先生って怒ると怖い人が多いよね。わたしの学校だけかな。

 

「さて、特別授業のお時間なのです」

 

 その後しばらく、セラくんからダンジョン探索とパーティ戦の基礎をみっちり教わりました。

 あれ……わたし、何をしにきたんだっけ?

 

 

 ◇◆

 

 

『みなさま、ごきげんいかがでしょうか〜? 画面の向こうに住まう隣人、氷海(こみ)ショウカです。今日も<Infinite Dendrogram>をプレイしていきたいのですが……なんと、この方とのコラボでお送りしたいと思います〜』

 

『こんセラなのです。セラ・ケセラなのです』

 

『はい、みなさまご存知「ダンジョン攻略の鬼」ことセラ先輩です〜。セラ先輩は各国の神造ダンジョンのみならず、数々の遺跡をソロで探索しているのですよね』

 

『そうなのです。宝探しとタイムアタックをメインでしているのです』

 

『一押しのダンジョンとかあったりします?』

 

『カルディナは遺跡が多いのでおすすめなのですよ。あと手軽に入れる<墓標迷宮>によく潜るのです』

 

『なるほど〜。というわけで(雑進行)、私も挑戦してみようと思いやってきました<墓標迷宮>!』

 

『パフパフー、なのです』

 

『ところで私、あまり<墓標迷宮>に詳しくないのですが……セラ先輩、説明をお願いできますでしょうか?』

 

『了解なのです。よくご存知の方は聞き流すか、スキップしてほしいのですよ』

 

 

 

『<墓標迷宮>はアルター王国の首都アルテアの地下にある大迷宮なのです。神造ダンジョン……つまり、運営に作られた九つのダンジョンのひとつとされているのです。何らかの要因でダンジョン化したエリアとは異なり、①外にモンスターが流出しない、②モンスターが自動でリポップする、③フロアごとに設置されたボスモンスターと宝箱の存在、といった特徴があるのです』

 

『いわゆるゲームのダンジョンですね』

 

『他に固有の特性として、五階層ごとに趣きや徘徊するモンスターが変化するのです。一〜五層はアンデッド系、六〜十層は植物系のエレメンタルなど、十一層からは魔獣系……という感じなのです。あとは階層を下るほどにモンスターが強くなることが挙げられるのです』

 

『Wikiで調べてみたんですが、現在確認されている最深層は四十五層でした』

 

『深層はボス級のモンスターがうじゃうじゃなのですよ。<UBM>が出てくることもあるそうなのですが、僕はソロ探索だと二十五層が限界だったのでその辺りは噂でしか知らないのです』

 

『逆に言えば、浅い階層なら比較的簡単に攻略できるということですね。王都周辺……初心者の狩場と同じくらいの強さだそうです。私でもいけますねこれは!』

 

『だからと言ってダンジョンを舐めたらいけないのです。モンスター以外にもトラップや迷路といった障害はもちろんのこと、他の探索者との争いが起きる可能性は十分にあるのですよ』

 

『あ、はい……分かってます。ですが、入場制限があると聞きましたよ。危ない人は入って来れないのでは?』

 

『確かに、<墓標迷宮>には入るのに条件があるのです。①アルター王国所属であること、② 【墓標迷宮探索許可証】所持者or【聖騎士】のジョブに就いている者、となっているのです。後者はどちらかを満たしていれば良いので、【聖騎士】の人は【許可証】が不要なのです』

 

『お値段の相場は十万リル、間違えて買った【聖騎士】のみなさまはご愁傷様です』

 

『それは言わない約束なのです……とはいえ、条件としては緩いのです。例えばPKだって入場は可能なのです』

 

『そういえば王国のクランランキング、宗教団体とPKクランがありますものね。彼らも入れると……王国の治安、大丈夫でしょうか?』

 

『ちなみに、これはあまり知られていないのですが。入場制限は物理的なものなので、転移やすり抜けでも入れてしまうのですよ』

 

『えっ』

 

『できる人が少ないために対策がされていないのかもしれないのです。でも、良い子は真似してはいけないのです。先生とのお約束なのです』

 

 

 

『これで、だいたい説明はできたかなと思うのです』

 

『ありがとうございます! それでは、どんどん進んでいきましょうか〜』

 

『敵に食べられないように気をつけるのです。たまに捕食してくるやつがいるのです』

 

『いやそれ消化ぁ!』

 

 

 ◇◆

 

 

 □<墓標迷宮> 【従魔師】サラ

 

 セラくんから教わったことに気をつけて、わたしたちはダンジョンを進んでいく。

 今いるのは地下五階。かなり奥まで歩いたから、この階層のマップは半分以上が埋まっている。

 

「マップの空白具合から予測すると……ここを直進でしょうか。そろそろボスとご対面です。楽しみですね〜」

 

 カメラに向かってしゃべるショウカさんだったけど、何もないところでふと足を止めた。

 

「あれ。ここ、壁が変ですね」

「そうか? 俺には分からんな!」

「よく見て下さいよ」

 

 彼女が指をさした場所をよーく見てみる。

 たしかに、ちょっと縦に割れ目があるね。天井から床まで一直線だ。そこだけ少し色が違う。

 

「もしや隠し部屋では? お宝の匂いがしますね!」

「おおー! お宝!」

「冷静になれよ君たち。こんな浅い階層で未発見の区画があるわけないだろ?」

「無粋よグルコース。あなた、空気が読めないって言われないかしら」

「うるさい余計なお世話だよ。……セラ・ケセラなら何か知ってるんじゃないの」

 

 その指摘で、みんなの目がセラくんに集中する。

 

「ふむ。これは教えてもつまらなくない……コホン、問題はありませんね。結論から述べると、そこは発見済みの隠し部屋なのです。有名なポイントなのですよ」

 

 つまり誰かに探索されたあとってことだ。

 なあんだ、がっかり。

 

「落ち込むのはまだ早いのです。なぜ有名かというと、ボス部屋へのショートカットがあるからなのです」

 

 そう言ってセラくんは壁を奥に押しこんだ。

 ぎぃ、と音を立てて壁が回転する。

 

 隠し部屋の広さは体育館くらい。

 そして……つま先立ちで歩かないといけないほど、そこらじゅうに宝箱が積まれている。

 

「ご覧の通り。宝物庫なのです。ただ注意しなくてはいけない点が」

「「「お宝だーー!」」」

「あ、こら。待つのです」

 

 止めるセラくんを置いて、わたしたちは宝箱を開けようと手を伸ばした。

 だけど、部屋には先客がいた。

 

「……チッ、かち合ったか」

 

 見覚えのある男の子が一人。たしか、<VOID>支部でルビーを殺そうとした人だ。

 固まるわたしの前にアリアリアちゃんが出る。張りつめた空気。他の人たちは訳がわからない様子で立ち止まり、わたしたちと男の子を交互に見る。

 

「あ、あなたは」

「何だよ? 先に来たのは俺だ。優先権はこっちにある。それともPKか? どこの誰だか知らないが(・・・・・・・・・・・)、やれるものならやってみろよ」

 

 むむ、男の子の態度がなんか変だね。てっきりルビーを渡せって言われると思ったのに。

 もしかしてわたしたちのことを忘れてる?

 

(多分だけど気づいてないのね。私たち、今は別人に見えているはずだから)

(そっか! セラくんの!)

 

 装備で正体を隠して、さらに煙に包まれていたら誰だかわからないよね。

 それならだいじょうぶ、かな。

 

「……用が無いなら俺は行くぞ」

 

 男の子はひとっ飛びでわたしたちから距離を取る。ものすごいジャンプから音も立てずに着地して、入口の反対側にあるしかけ扉の前に立った。

 

「一つ、良いことを教えてやるよ。この隠し部屋にはトラップが仕掛けられている。一度に二つ以上の宝箱を開けると起動するんだ」

 

 男の子はこっちを振り向くと、ニヤリと笑う。

 

「こんな風に、な」

 

 彼が足元の宝箱を蹴り壊すと、けたたましいアラーム音が部屋中に鳴り響いた。

 山積みになった宝箱の陰から、そして箱の中から出てきたのはたくさんの【グリーディ・マミー】。

 うわわわわ!? まさか、トラップってモンスターハウスのことなの!?

 

「随分とご親切ですこと。立派なMPKじゃないの!」

「ダンジョンで偽装してる怪しい奴らが相手だぞ。背後から襲われるリスクを減らしただけだ」

 

 そう言うと、男の子は一人で脱出してしまう。

 後を追うにしても、まずは目の前のミイラ軍団を倒す必要がありそうだ。

 

「なにやらさっぱりですが、これはこれで良い取れ高になりますね〜。戦闘を始めましょうか!」

「この手の罠は一定数がポップしたら打ち止めになるのです。それまで耐え……ッ!?」

 

 指示を出す中衛二人のそばに一体、そしてわたしの近くに一体、ひときわ大きいミイラがポップする。

 いきなり現れたそのモンスターは【グリーディ・ブラッド・マミー】。まっかな包帯を巻いたミイラだ。

 アンデッドとは思えない速さで、ミイラがわたしたちに襲いかかる――

 

「させるかっての」

「アドラ・ガァァァァド!」

 

 ――直前で、アリアリアちゃんとアドラさんが攻撃を受け止めた。

 

「前衛は突出しない、だったかしら?」

「何体でも掛かってこい! この俺が相手になるぞ! ハッハッハー!」

 

 二人は大きいミイラの注意を引きながら、周りのミイラを次々と倒していく。

 そんな少しの時間で体勢を立て直したセラくんは銃を構えて一番前に飛び出した。

 

「大きいミイラはボスなのです! 一体と雑魚は僕が受け持つので、もう片方は皆さんにお願いするのですよ!」

 

 目にもとまらない速さで【グリーディ・ブラッド・マミー】の片方に近づいたセラくんは、体から吹き出す煙でボスとミイラたちを包む。

 

「――《朧霞ノ風来坊(エンエンラ)》」

 

 次の瞬間、セラくんの全身が煙になった。

 溶けるように周りの煙とごちゃまぜになって、彼の姿が見えなくなる。

 っと、いけない。ぼーっとしてないで、わたしは自分の仕事をしなくちゃ。ここでカメラを回して。

 

 セラくんの言う通りに、五人で【グリーディ・ブラッド・マミー】を倒そう!

 

「盾になって下さいね〜、クタアト」

 

 タンクとして一番前に出るのはショウカさんの<エンブリオ>、スライム型ガードナーの【臨機邪水 クタアト】だ。スライムだから物理攻撃を無効化するんだって。つまりどれだけ攻撃を受けてもノーダメージ。

 声が聞こえないのは……なんでだろうね? モンスターは聞こえるときとそうじゃないときがある。どっちのときでも意識みたいなものは感じ取れる気がするよ。

 

 さらに、足元から生えた木がボスに絡みつく。

 どんどん増える木々は周りを覆い尽くして、部屋を大森林に模様替えする。

 ボスが数本の木を引きちぎっても、すぐに切り株から二本、三本と芽が伸びて成長していく。

 この現象の中心にいるのはグルコースさん。

 彼が床に立てた長杖は【繁茂杜杖 ガオケレナ】といって、辺りを森にする力がある。しかも森の中にいるだけでHPが少しずつ回復していくのだ。

 グルコースさんは【森祭司】との組み合わせで、回復とバフ支援の両方をこなしてくれている。

 

「あと一八〇秒で僕は魔力切れだ。決めるならお早めに、というかさっさとしてくれ」

「いけるかアリアリアぁ!」

「当然。後ろ、頼んだわよ!」

 

 ガオケレナの森を、木から木へと飛び移ってボスの気を引きつけるアリアリアちゃんとアドラさん。

 二人が大技を使うタイミングを作るために、手が空いているメンバーはそれぞれ動く。

 

「――古の盟約に従い、我が声に応えよ

 我が前に立つもの、獣神悪鬼悉くが凍てる

 其は雪華の幻想、果ての氷棺、絶冷の檻

 眠らぬ不死者に極寒の眠りを――」

 

 魔法の呪文を詠唱するショウカさん。

 あれだけ長い文章を噛まずにすらすらと言えるなんて、よっぽど練習したに違いない。

 

「わたしたちも行くよ、ルビー!」

Kyukyu(まかせて)!』

 

 わたしのバベルはまだ第一形態で、新しいスキルも覚えていないけれど。

 今できる全力をここでぶつけるよ!

 

 ルビーに《魔物強化》を使ってパワーアップ。スキルで支援しても亜竜級には届かない。

 それでいいんだ。わたしたちは一人じゃない。ボスを倒し切らなくていい。

 見たところ【カーバンクル】は魔法寄りのステータスをしている。どうやらふつうは幻術や光属性に適性があるらしい。でも、ルビーはそれ以上に火属性が得意。

 

「今だよ、《リトルフレア》!」

『Kyuuuuuuu!』

 

 完成した小さな火の玉。ルビーはもっと力を入れて、その大きさを一回りも二回りも成長させる。

 勢いよく発射された火の玉はボスの包帯を焦がすだけだった。でも、たしかに一瞬ボスはひるむ。

 

「――《アブソリュート・ヘキサゴン》」

 

 雪の結晶そっくりな六角形の氷に覆われて、ボスは動かなくなった。

 ……あれ、でもなんだかミシミシ音がしてない? ボスが内側から氷を割ろうとしている。

 

「うわあ、力不足ですかね」

 

 だけど問題はないよね。だって、わたしたちは援護してボスの動きを止めた。

 あとはボスを倒せる人たちに頼むだけだ。

 

「というわけで、今がチャンスですよお二方!」

「応とも!」

「ええ、まっかせなさい!」

 

 アドラさんはワシのマスクとマントをひるがえして。

 アリアリアちゃんは黒い棍棒を掲げて。

 氷づけのボス目がけて必殺技をくり出す。

 

「《エンハンスブースト:フィジカル》、《エンハンスエンチャント:アームズ・ウィズ・ボルテックス》!」

 

 アドラさんの全身がオーラに包まれて、さらに手にした斧が雷を帯びる。

 あの斧がアドラさんの<エンブリオ>……じゃない。

 彼が装備しているワシのマスクとマント、名前は【多詣彩翼 アルタイル】。魔力でアドラさん自身や武器を強化したり、魔法を付与できる万能型の<エンブリオ>だ。

 

「あアァ……■■■■■■ッ!」

 

 アリアリアちゃんは理性を捨てて叫ぶ。

 それは【狂戦士】の《フィジカルバーサーク》。

 身体を自分では動かせなくなるけど、ステータスをものすごく引き上げるスキル。

 だけど、ボスに上から落下する(・・・・)だけならカカシでも当てられる……というのはアリアリアちゃん本人の言葉。

 わたしがあげた武器のスキルと合わせて、攻撃力はいつもの数倍以上になっているだろう。

 

「アドラァァァ……スペシャルゥ!!」

「■■■■■■ッ!」

 

 MPをぜんぶ強化に使った一撃。

 ぜんぶの重さを乗せた一嚙み。

 二人の攻撃が直撃して、【グリーディ・ブラッド・マミー】は倒れたのだった。

 

 

 ◇

 

 

「そして、我々は勝利の勢いに任せて五階層のボス【スカルレス・セブンハンド・カットラス】も倒したのでした! 第一部・完! 打ち上げしましょうかー!」

「「「いえーい!」」」

 

 疲れすぎてハイテンションなショウカさんがジョッキを掲げて乾杯する。

 それに応えるみんなもノリノリだけどふらふらだ。

 

 ミイラ軍団を倒した後、MP回復休憩を取ってすぐボスに挑戦したわたしたち。

 気持ちがたかぶった状態のまま、力技のゴリ押しでボスを倒して撮影はおわり。

 みんなの元気が空っぽになっていたから、続きはまた今度にすると決めて、ワープポイントで地上に帰還した。

 ボスのドロップで、一回だけなら地下六階層からスタートできる【エレベータージェム】も手に入ったしね。

 

 そして今は打ち上げでご飯を食べているところ。

 今日のお礼に、ショウカさんがおごってくれるそうだ。けっこう高いお店だけどだいじょうぶかな。

 

「ようし、じゃんじゃん頼みましょうか! メニューのここからここまで全部持ってきて下さ〜い」

「漢アドラ! 呑みます!」

 

 ……だいじょうぶ、だよね?

 

「まあ、慣れないうちは仕方ないのです。やはりダンジョンは長時間気を張る必要があるのですから」

「あの馬鹿二人は置いといて。僕らはドロップアイテムの分配をしようか」

 

 グルコースさんは料理のお皿を寄せて、テーブルに三つのアイテムボックスを並べた。

 

「モブのドロップは取り決め通り、2:4:4。セラ・ケセラが2で、僕ら三人とサラ・アリアリアが4ずつだ」

「問題ないのですよ」

「稼ぎとしては十分かしらね」

 

 道中の戦闘には参加しなかったセラくんは一割でいいと言ったのだけど、モンスターハウスでの活躍とガイド役の報酬を加えてドロップの二割が取り分になった。

 残りを五人で分けることになって、ショウカさんたちは「撮影の協力を頼んだ立場だから」と少なめの取り分を主張した。そんなこと言ったらわたしもあんまり役に立てなかったんだけど、お互いに譲り合ってこの割合に落ち着いたんだよね。

 

「後はボスのドロップだけど、フロアボスの方は換金して同じく2:4:4。【グリーディ・ブラッド・マミー】の【宝櫃】は……本当に要らないのか、セラ・ケセラ?」

「はいなのです。宝物庫で宝箱を開けられたはずだったのに、トラップでおじゃんになってしまいましたから。それにミイラのドロップは腐るほど持っているのです。むしろ貰ってほしいくらいなのです」

 

 ボスを倒して手に入れた【血塗木乃伊の宝櫃】は、いわゆる宝箱だ。

 中には倒したボス由来のアイテムが一個、ボスのレベルに応じたアイテムがランダムに一〜五個入っている。

 あの【グリーディ・ブラッド・マミー】は亜竜級だから、いいものが期待できそう。

 

「なら、まあ……普通に等分だな」

 

 というわけで、わたしたちは【宝櫃】を一個受け取る。

 

「アリアリアちゃん、開けてみようよ!」

「私だとハズレが出たりしないかしら。サラさんが開けていいわよ」

 

 よーし。それじゃあ、オープ……

 

「ストップなのです」

「ほえ?」

 

 二個の【宝櫃】を、セラくんがさっと手に取る。

 やっぱりほしかったのかな?

 

「僕が【秘宝狩(レリック・ハント)】という超級職に就いていることはお話ししたと思うのです」

「えっと、たしか【財宝狩(トレジャー・ハント)】から派生して、探索に特化してる……んだっけ」

「正確には宝探しと遺跡攻略に、なのです。そして超級職には奥義と呼ばれるスキルが存在するのです」

 

 セラくんは【宝櫃】にひとつのスキルを発動する。

 

「《一確千金》。これは、宝箱の中身を確定でレアアイテムにするという【秘宝狩】の奥義なのです」

 

 きれいな光が箱に流れて点滅する。

 光はゆっくりと箱に染みこんで、最後はロウソクの火みたいにふっとかき消えた。

 

「……この奥義のせいで、いつも揉め事になったのです。だから僕はソロで探索をするようになったのです」

 

 でも、とセラくんは首を振って、わたしとグルコースさんに【宝櫃】を返した。

 

「久しぶりにパーティで探索ができて楽しかったのです。これはそのお礼なのです。サラ、今日は誘ってくれてありがとうなのですよ」

「ううん、わたしのほうこそありがとうだよ!」

 

 たぶん、セラくんがいなかったらあっという間にやられちゃってたもん。

 それでも楽しいだろうけど、ここまで楽しめることはなかったと思う。

 

「そうね。私も勉強になったわ」

「右に同じだ。あの馬鹿とコラボしてくれて助かったよ。企画倒れせずに済んだ」

「誰が馬鹿ですって? 馬鹿っていう方が馬鹿なんでしょうが! え、炎上する? そうしたら火消しすれば良いんですよ〜……いやそれ消火! なんちゃって!」

「ハッハッハ! ハッハッハ!」

「よし君たち少し黙ろうか」

 

 うんうん、楽しいことはいいことだ。

 

「だから、またやろうね! みんな一緒に!」

「……! そうですね。きっと、楽しいのですよ」

 

 こうして、はじめてのダンジョン探索は大成功に終わったのでした。めでたしめでたし!




余談というか今回の蛇足。

配信者
(U・ω・U)<デンドロっていうゲームがあるなら、動画配信する人は一定数いる

(U・ω・U)<【魔王】の一人もしかり。当話の二人は彼女ほどじゃないけど

(Є・◇・)<……触手……ウッ、アタマガ


【グリーディ・ブラッド・マミー】
(U・ω・U)<今回の被害者

(U・ω・U)<一方的にやられたので何もできなかった

(U・ω・U)<その真骨頂は『ミイラ取りをミイラにする』スキル


【スカルレス・セブンハンド・カットラス】
(U・ω・U)<今回の被害者その2

(U・ω・U)<ユザパられた


セラ・ケセラ
(U・ω・U)<ジョブは戦闘向きではないけど、<エンブリオ>でそれなりに戦える

(U・ω・U)<近いのはビシュマルのスルト

(U・ω・U)<あとモクモ◯の実


【秘宝狩】
二次オリジョブ。
狩人系統派生財宝狩派生超級職。ステータスはAGIとDEXが高く、ダンジョンや遺跡の探索に長けている。《危険察知》《暗視》《罠感知》《鑑定眼》などの有用な汎用スキルがレベル10まで上がるほか、極限環境に対する適応力もある程度備わっている。

(U・ω・U)<ただ戦闘には向いてない

(U・ω・U)<奥義の《一確千金》は【宝櫃】だけじゃなくてダンジョンの宝箱やモンスターが対象でも使える

(U・ω・U)<世界が変わる前は、アイテムや素材の質を『昇華』させるってスキルだったからね

(Є・◇・)<ん、ショウ……?

(U・ω・U)<わざとじゃないよ
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