長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【詩聖】サラ
わたしはゴトゴト馬車に揺られている。
最初の目的地は王国南部の森林地帯だ。
直接向かうルートの馬車はなかったので、近くの村を目指す商人さんに頼んで荷台に乗せてもらった。護衛は別にいるからゆっくりしてていいと言われている。
ただ何もしないのは申し訳ないよねってことで、見張りをしたり、近づいてくるモンスターを追い払ったり、みんなで協力するつもりだよ。それもたまにだからわりとのんびりな道中だ。
時間があるし、色々なことを試してみよう!
たとえばジョブについて。
「【詩聖】、就けちゃったね」
『
吟遊詩人系統の上級職。
わたしの六つ目のジョブで、二つ目の上級職だよ。
就職条件はこんな感じ。
①【吟遊詩人】レベル50。
②音楽に関連するスキルを一定数習得。
③演奏で大勢の人から評価をもらう。
③は拍手やおひねりの合計とか。歌が上手だとすぐ達成扱いになったりするらしい。
わたしは②以外はクリアしていたから、お手頃な戦力アップとしてちょうどよかった。吟遊詩人のスキルを覚えるために、古い物語や歴史を暗記してしゃべれるようになるのは大変だったけれど……。
これでレベルは250ちょっと。ちなみに【魔術師】と【魔石職人】はレベル上げの途中でほったらかしになっている。
サブの【高位従魔師】のスキルが使えないジョブを選んだ理由は、ソーマと相談した結果だ。
『もしものときは、これで封印ヲ』
そうやって渡された楽譜は、特別なスキルを覚えることができるアイテムだった。
【吟遊詩人】は自分で詩を作れる。
メロディと物語を組み合わせて、オリジナルのジョブスキルを登録できるんだって(知らなかった!)。
最初はいくつかの決まった効果を選ぶ形。
たとえば《練習曲A》と《課題曲B》みたいに、スキルの名前・演奏する曲を設定できて、効果は基本の『攻撃力アップ』でおんなじって感じ。
上級職になるとバフの効果を編集できるようになって、自由度が広がるそうだ。
それを楽譜に起こすとアイテムになって、読んで覚えた人はおんなじスキルを使えるようになる。
ただしジョブとスキルのレベルが必要。ので【詩聖】になって使えるようになるまで特訓した。
もらった楽譜は十枚。ぜんぶソーマが作ったんだとか。なかには聞いたことのある曲が混ざっている。
音でモンスターを呼び寄せちゃわないように、馬車に乗っている間は静かにできる練習。譜面と運指の確認だ。【萌芽の横笛】はフルートとおんなじ感じで吹けるからオッケーとして、【天穹の竪琴】も弾けるようにしておいたほうがいい。
「ふんふふふん、ふんふん〜」
『Rrr〜♪』
演奏してるイメージで口ずさむ。
ジェイドはリズムに合わせて左右に揺れる。頭と尻尾がつられて一緒に動いているね。
ぴょんと膝に乗るルビーは優雅に音楽鑑賞気分。がまんできなかったのか、外にいると言って聞かなかった。
ほかの子は【ジュエル】のなか。クロムは瞑想中? もっと強くなるための修行をしてる。ターコイズからは演奏に拍手をもらった。みんな休んでリラックスできているみたい。
「それと……」
『
「もしかしたら反応してるのかも」
腰の短剣が生きているみたいに少し震えた。
闘技場の結界に寄る時間はなさそうで、もし使うときはぶっつけ本番になるだろう。
「なあ君。同じ歌なら魔物除けを使えるか」
「《獣避けのララバイ》ですね!」
おっと。練習はいったんおしまいだね。
護衛の人のリクエストに応えて演奏開始。
ゆったりした曲調で眠気を誘う基本のスキルだ。野生のモンスターを落ち着かせて、襲われる確率を減らすことができる。強い相手には通じないから油断はダメだよ。
「助かる。この辺りのモンスターは厄介だからな」
「そうなんですか?」
「群れる魔獣が多いんだ。奴らは知能が高い。連携して商隊を襲ったという事件もあった」
「あぶないですね……」
「だから遠回りでも森の奥に入らず街道沿いを進む予定なんだろう。ま、この馬車は大丈夫だと思うが」
護衛の人は自信満々で余裕そう。なんでだろう。
「なにか理由があるんですか?」
「積荷だ。襲われたのは食料品を運んでいた馬車ばかり。その点うちのは生活用品だ」
モンスターだって腹の足しにならないだろう、と護衛の人は肩をすくめる。声には楽な仕事だという気持ちがこもっていた。
「君は森の入口付近で降りるんだったな」
「はい! 探している人がいるので!」
「こんな場所に住む奴がいるか……? まあ十分に気をつけな。<マスター>だって死ぬ事は死ぬんだ」
◇
馬車と別れたあとは歩いて目的地に。
ぼうぼうの茂みをかきわけて森の奥、南に進む。
「待ち合わせ場所、もらった座標はこのあたりだね」
今回わたしは強力な助っ人を呼んでいる。
ちょうど手が空いていて、近くにいるからとメッセージでオッケーをくれたんだ。ありがとうだよ!
『
「ちょっと早かったかな」
あの子は約束をやぶるタイプじゃない。たぶんタイミングの問題だろう。到着が早かったか、あっちがたまたまログアウトしている可能性。
年はおんなじくらいなのに生活リズムが結構ズレるんだよね。わたしはあんまり夜遅くまで遊んでいるとお母さんに怒られてしまう。だから一晩中レベル上げしたってお話を聞くと少しうらやましい。でも実際に徹夜したら眠くて昼間が大変かも。
『
「うん、なに?」
『
「本当だ! ならやっぱりここだね!」
焦げた地面に残った燃えかす。
ジェイドの言う通り。散らかってないから、火を起こしたのは最近のできごとのはず。
ここで待っていたら会えるよね。ダメならログアウトするときにメモを残せばいいだろう。
ちょうどいい丸太(焚き火に当たれる位置だ。椅子代わりに運んできたっぽい)に座ってひと休みする。
「じゃじゃーん! 休憩のおやつタイム!」
『
今日のデザートはドーナツです!
ギデオンのお店でテイクアウトしたもの。アイテムボックスに入れた食べものは賞味期限を気にしなくていいのがすばらしい。
シュガーとチョコレートがおんなじ数、みんなの分を買ってある。もちろんモンスターが食べられる食材を使っているので従魔も安心だよ!
「待っててね。今みんなを【ジュエル】から」
『ウッキ(うまそうだな)』
「ひとり二個ずつだからね……あれ」
ひい、ふう、みい、数が足りない。
ぜんぶで十個あるはずなのに。
あと横から伸びた毛むくじゃらの手はなに?
『ウキキ(うまいな)』
「ああーー!?」
いつのまにか隣にお猿さんがいた。
頭の上の表示は【
しかもドーナツをむしゃむしゃ食べてる!
「わたしたちのだよ! 返して!」
『ウキキ……ウキ(諦めな……食っちまったよ)』
『
びっくりして振り返ると、さらに三匹の【亜竜群猿】がこっそり近づいていた。
手にはドーナツの紙箱。わたしとお猿さんはじっとお互いを見つめ合うと。
『『『ウッキキー!(ずらかるぞ!)』』』
「にげたぁ!?」
やられた! 思いっきり気を抜いてた!
まさか食べものを盗られるなんて。
四匹の【亜竜群猿】はものすごいスピードで木々の奥に消えていった。くやしいけど追うのは難しそう。
「むむむ……でもでも! まだ買ってあるおやつはあるんだよ! アップルパイにシュークリーム!」
『ウキウキ(いいもん持ってるじゃねえか)』
「ふぎゃあ!?」
出した途端に木の上から謎の影が!
『ウキッキ(いただくぜ)』
尻尾をロープ代わりに、枝からぶら下がったお猿さんが手の中のおやつをかすめとる。
そのまま別の【亜竜群猿】にふわりと投げる。仲間の間でパスが回って、おやつはあっという間に手の届かない場所まで運ばれていった。
『ウキ(じゃあな人間)』
身軽な動きで木から木に飛び移るお猿さん。
最後にあっかんべーの挑発を忘れない。
もう! さすがに怒るよ!
「ジェイド!」
『
風の刃で攻撃する。スパーンと木の枝を切り落として、おしまい。【亜竜群猿】は違う枝に飛んで回避していた。わたしが追いつけないことをわかっているのか、最後尾はこっちを見下ろしてウキキと笑っている。
「……追いかけよう!」
『
「さっすがジェイド! 案内お願い!」
はじめて見た【亜竜群猿】のステータスはたぶんAGIが高くて他はそこそこ。
強さはギリギリ亜竜級ぐらい。それを知能と数の連携でカバーしているタイプだ。
「たしかに厄介だけど」
姿が見えないくらいの逃げ足で追いつけない。
それなら居場所を探してとっちめてあげる。
ジェイドは空気を読んで音と気配を探る。森のなかに隠れたって無駄なんだから!
「油断さえしなければ!」
『……
走っている最中にジェイドが翼を広げた。
高く短い警戒音。危険が迫ったときの合図だ。
わたしは肩のパートナーに従って足を止める。
いつもより張りつめた緊張感で、ジェイドはおそるおそる周囲の様子を確認した。
遅れてわたしは気づく。
『
森の入り口からどれくらい進んだだろう。
そんなに深い場所まで入ってはないと思う。
おやつを盗んだ【亜竜群猿】を探してただけ。
だから
森の木をなぎ倒して作った空き地がある。
その手前で数十匹の【亜竜群猿】が集まっている。
食べものを捧げるように持って、ひれ伏して。
ソレに対して祈っていた。
大きさは空き地を丸ごと埋め尽くすくらい。
苔が生えた皮膚はかすかに上下している。
長い鼻と成長しきった二本の牙。
開いているかわからない小さな目。
ソレは【
<UBM>と呼ばれる存在。
そして詩人ソーマのかつての仲間。
物語の世界で見た穏やかな象のモンスターと、
『――――』
「あ……」
――目が、あった。
『Zoooooooooooooooooooooooooooo』
巨象が吠える。
鳴き声は力強くて怖いのに、なぜだか、その響きにはもの悲しさが込められていて。
感じた疑問が吹き飛ぶようなことが連続で起きる。
ミシリと地面が割れる。
ぎしりと木々がつぶれる。
空間がきしむ音と合わせて、【ハイエレファントン】の足元から崩壊が広がっていく。
空き地からその周りに。
集まっていた【亜竜群猿】は慌てて逃げるけれど、投げ捨てた食べものとおんなじで、ぐしゃりと体がつぶれるか上から押さえつけられたように倒れてしまう。
「うごけない……」
『Rrr……!?』
わたしとジェイドもそれに巻き込まれる。
体が重い。まるで石になったみたい。立っていられなくて膝をついた。バタンと倒れてしまいたい。でも倒れたらもう立ち上がれない気がする。
逃げないと。【ハイエレファントン】がこっちに鼻を伸ばしている。攻撃されたらぺしゃんこだ。
象の鼻がハンマーみたいに振り下ろされて、
「嗚呼よかった。間に合いました」
割り込んだ影に跳ね返される。
重いものがぶつかる衝撃。苦しそうにうめいたのは傷口から血を流す【ハイエレファントン】のほうだった。
気がついたら目の前にいた和服の人は扇を一振り。【ハイエレファントン】の攻撃を受けても平気そうに背筋をピンと伸ばしている。
おじいさんの仮面の下、かすかな笑みをこぼして、男の人は隠しきれない喜びを声に乗せた。
「先客が居た時はどうしたものかと思いましたが。これで今日の修行はつつがなく行えます」
「あなたは……?」
「静かに。お帰りになるも、黙って見るも構いませんが、私の邪魔をするのはやめていただきたい。とはいえ、その様ではどちらにせよ厳しいでしょうが」
また変わった人が出てきた。結果的に助けてくれた形だけど、すごい上から目線で偉そうだ。あと天地の人に近い雰囲気を感じる。
「邪魔するつもりはありません! わたし、そのモンスターとお話がしたいんです!」
「はぁ。どうぞお好きに。あなたの用事には興味がありませんので。ただ一度失敗して攻撃を受けているなら、次はこの私、アタラクシア・カームの手番というのはお分かりですね?」
順番待ちは最低限の礼儀ですよ、とアタラクシアさんはあきれた様子で首を振る。
会話はそれっきり。わたしを置いて、アタラクシアさんは【ハイエレファントン】と戦い始めた。
攻撃は全部アタラクシアさんが弾いているから、今のところ安全。ただ戦闘が始まった途端に【ハイエレファントン】の重圧……体にかかる重さが比べものにならないほど大きく、強くなっている。
わたしは友だちを信じて助けを待った。
すぐにジェイドがぴくりと反応して、続いてわたしも近づいてくる足音を耳にする。
「サラさん無事!?」
『
「アリアリアちゃん! ルゥ!」
やってきた一人と一匹(それとゴリラ。なんでロボ?)は倒れたわたしたちを連れてその場を離れる。
「ありがとう! 助かったよ!」
「礼には及ばないわ。協力すると言ったでしょ」
「あ、そうだ。アタラクシアさんは」
「平気だから放っておきなさい。あのすっとんきょう、毎日ああして戦ってるのよ」
『
激しい戦闘を背中に、わたしたちは安全な場所に避難するのだった。
To be continued
余談というか今回の蛇足。
【詩聖】
(U・ω・U)<就職条件は独自設定
(U・ω・U)<元々これを超級職の名前にするつもりで
(U・ω・U)<設定開示により慌てて変更した
吟遊詩人のスキル
(U・ω・U)<原作通り、特性は遅効性範囲バフ
(U・ω・U)<基本スキルはシンプルな効果が多い
(U・ω・U)<クエスト・アイテムで解放できるものも
(Є・◇・)<魔術師系統と似ているな
(U・ω・U)<好きな曲を設定できるので
(U・ω・U)<アニメの主題歌やボカロを歌う吟遊詩人の<マスター>とかわりといます