長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□王都アルテア 【従魔師】サラ
今日はアリアリアちゃんがログインしていなかった。
時間が合わないときがたまにあって、そういう日は一人でクエストを受けたり、他の人と遊んだりする。
でも、最近はずっと一緒だったね。アリアリアちゃんがいないのはひさしぶりかもしれない。
「なにをしようね?」
『
セラくんからもらった【宝櫃】は、わたしが好きに使っていいとアリアリアちゃんに言われている(武器のお礼だから断固として譲らないらしい)。でも開けるところは見たいって言ってたよね。
ギデオンに帰るのも二人一緒がいいし。
王都でやれること……あ、そうだ。
「従魔師ギルドに行こうか。【従魔師】のレベルが上がりきったから、転職しようと思ってたんだ」
それに、もしかしたらジェイドのお母さんについて新しい情報があるかもしれない。
レッツ聞きこみだ。捜査は足で稼げって刑事ドラマでも言ってたからね。
◇
祝! 上級職!
従魔師ギルドに到着したわたしは、【高位従魔師】にジョブチェンジした。
転職の条件を満たしているか、ちょっとだけ不安だったけどセーフでした。これでまた強くなったね。
実は、転職可能リストに【竜師】や【魔獣師】という下級職もあって少し悩んだ。
これらは従魔師派生のなかでもひとつの種族に特化したジョブだ。わたしはジェイドとルビーの両方とがんばりたいから今回はパス。
なにより上級職の方がレベルを百まで上げられて、ステータスと従属キャパシティが高い。これで二匹ともキャパシティに収められるようになる。
従魔がキャパシティ内に収まると、パーティの枠を使う必要がなくなる。それに従魔が戦闘でもらえる経験値の半分がわたしに入ってくるらしい。
これは職員さんと先輩従魔師さんの受け売りだ。
ただ残念なことに……ジェイドのお母さんについてはわからないままだった。
メスの天竜種をテイムしているキャサリン金剛さんという人の噂も聞いたけれど、話を聞いた限りだと人違いならぬ“竜”違いみたい。
やっぱり簡単にはいかないな。わたしはもちろん、ジェイドはとくにがっかりしてしょげてしまう。
「元気だして、ジェイド」
『
「だいじょうぶだよ。きっと見つけてみせるから! だから今はやれることをコツコツやっていこう!」
『r、
よーし! それじゃあジョブクエストでレベル上げだ!
戦うのはあんまりだから、アルバイトみたいなお仕事があったらいいなぁ。前にやった荷物の点検作業はジェイドも楽しかったみたいだし。
「仕事をお探しでしたら、こちらなどいかがでしょう」
受付で依頼の目星をつけていると、無表情な職員さんから依頼書を渡された。どれどれ。
「改造モンスターの調査……?」
それは、わたしと縁のあるクエストだった。
依頼主はギデオン伯爵。
仕事内容はテロ事件で回収されたフランクリン製モンスターが再利用できるか調べることらしい。
「人手が足りず、ギデオン領から回された依頼です。腕の立つ者が立ち合いますから安全は保証しますよ」
「わかりました。このクエスト、受けます!」
そういうことなら任せてほしい。
わたしの得意分野? だからね! たぶん!
◇
クエストはギルドにいた従魔師が持つTYPE:キャッスルの<エンブリオ>内でやることになった。
万が一、ギルドや街でモンスターが暴れたら危ないからね。
大きな樹のウロから中に飛びこむ。一瞬ぐにゃっとする感じがした後。
「うわぁ……!」
目を開けると、どこまでも続く草原と青空があった。
気持ちいい風が髪を揺らす。
あたたかい日差しを浴びていると、寝転がって日なたぼっこがしたいという気持ちが襲ってくる。
『
「そうだね! 仲間はずれはかわいそうだから……《喚起》! おいで、ルビー!」
『Kyu?』
急に呼ばれて目をパチクリさせたルビーは、周りを見てすぐにぴょんぴょんとはしゃぎだす。
追いかけっこだね? よーし、負けないぞー!
「コホン」
「あ……ごめんなさい。つい」
職員さんのせき払いで我にかえる。
いけないいけない。ここにはお仕事でおじゃましているんだった。
「……外で待機している<マスター>からは、早めに終わったなら遊んで構わないと言われています」
「本当ですか? やったー!」
それを聞いて、やる気がモリモリわいてきたよ。
「では始めましょう。改造モンスター入りの【ジュエル】を渡しますので、テイムが可能か試して下さい。危険だと判断した場合は私が助けに入ります」
「職員さんが?」
「ええ。ギルドのモンスターを借り受けていますから」
職員さんは無表情のまま、右手の【ジュエル】を見せてくれる。
なるほど。従魔師ギルドで働いているんだから、職員さんが従魔師でもおかしくないね。
「じゃあ、いきます。えっと……《喚起》、【ブロードキャストアイ】」
最初に出てきたのはコウモリの羽が生えた目玉のようなモンスター。パタパタと飛んでいるけど、わたしを攻撃する様子はない。
「戦闘用のモンスターではないようですね」
「なのかな。話しかけてみます」
わたしは【ブロードキャストアイ】に手を伸ばす。
「こんにちは! わたしはサラ。あなたは?」
『…………』
「……返事がありませんね。このモンスターには自我がないのかもしれません」
「ふむふむ、なるほど。この子は職員さんのことが気になるみたいですよ。どうして無表情なのかなって」
「……は?」
職員さんは無表情のまま、訳がわからないという目でわたしを見つめる。
「私をからかっているのですか?」
「うそじゃないですよ」
たしかにしゃべってはくれないけど。ぼんやりと、この子がなにを考えているのかは伝わってくる。
この子は仲間と見たものや聞いたことを共有したいと思っている、のかな。
「……よし。テイムできました。次の子お願いします!」
◇◆
□■ Mr.フランクリン製のモンスターについて
【大教授】Mr.フランクリンは、研究者系統のジョブスキルと自身の<超級エンブリオ>を用いることでモンスターを作製している。
これらのモンスターは彼のオリジナルであるため、野生には存在しない独自の姿形や性質を有する。
フランクリンのモンスターと通常の生物で異なる最大のポイントは『自我の有無』である。
フランクリンは生み出したモンスターが知識や自我を獲得しないように調整を施している。
曰く、「肉でできたロボットのようなもの」。
はじめから、与えられた命令に従う人形としてデザインされているのである。
つまり《魔物言語》を使っても、自我が無い時点で意思の疎通は不可能。
……な、はずだった。
少し話は逸れるが、地球の哲学の話をしよう。
多くの人は『
十七世紀フランスの哲学者、デカルトの言葉である。
これは「生得説」……人は生まれながらに自分の核となる自我を持って生まれてくるという考え方だ。
このデカルトを批判したのがクーリー、そしてミードといった哲学者である。
彼らはデカルトの生得説を否定した。
『自己とは、他者の存在によって確立されるものである』
つまり、他者とのコミュニケーションや相互行為によって、はじめて自我がはっきりとした形になるという「後生説」を説いたのだ。
閑話休題。
本来は意思疎通、相互理解は不可能なフランクリンのモンスター。しかしここに例外が現れる。
サラの<エンブリオ>、バベルの《統一言語》は
自我の無いモンスターといえど、人の命令を聞く最低限の知能は備わっていた。
それらはサラに呼びかけられたことにより、創造主の意に反して自らの意思を獲得した……のかもしれない。
実際、サラはギデオンの事件で市街地に仕掛けられた装置の隠し場所をモンスター自身と
装置の八割以上を破壊・回収したのは【絶影】マリー・アドラーの功績だが、ギデオンの北側にあった残りの二割を未然に発見したのはサラなのである。
とはいえ、モンスターが得た自我は、他者は気づかないほどの微かな揺らぎ。誰に害を為すわけでもないのだが。
◇◆
□【高位従魔師】サラ
調査するモンスターはぜんぶで二十匹を超えていた。
そのうちほとんどは戦闘用のモンスターで、職員さんは狙わないのに、わたしのことを攻撃する子ばかり。
全員が荒っぽい性格の子というわけではなかったんだけど。あらがえない本能に突き動かされてる感じ?
テイムはできたから、職員さんに協力してもらって【ジュエル】に戻したよ。
たまに出てくる【ブロードキャストアイ】はわたしを襲わないから、追加で調査をした。
言うことを聞いてくれない子も、お話をしているうちに指示を聞いてくれるようになったんだ。
数匹で実験もしたんだけど……すごいねこの子たち! まさにテレビ電話そのものだ。一人一台ほしいくらい。
「次が最後です。これが最も危険なモンスターなので、十分にお気をつけて」
「わかりました!」
わたしはジェイドとルビーを下がらせる。
この子は……たしかにちょっと危ない。
あの日に闘技場で見たモンスターとおんなじ種類だ。
「《喚起》! 【オキシジェンスライム】!」
飛び出したのは青色のスライム。
たしか液体酸素だっけ。冷たい空気を放ちながら、わたしに狙いを定めている。
「あなたは後ろに。溶かされてしまいますよ」
「待ってください。この子、様子が変です」
目の前のスライムはわたしに飛びかかろうとして、ピタリと止まってをくり返している。
うごうごと全身を動かしたスライムは、なんと表面に文字を浮かび上がらせた。
『☆*4☆2\65+2(42』
「っ、文字ですか?」
読めない……意味になってない言葉。
だけど、この子はたぶん混乱しているんじゃないかな。それをわたしたちに伝えようとしている気がする。
わたしはゆっくりとスライムに近づく。
「落ち着いて! ゆっくりでいいよ」
「危険です。すぐに離れて下さい」
「だいじょうぶです。この子、わたしを攻撃しようとしてるけど……それを自分で止めてるから」
職員さんは従魔を呼ぼうとして、それをやめた。ただ、いつでもスライムを攻撃できるように身構えている。
心配してくれたんだね。でもへーきだよ。
『縺薙%縺ッ縺ゥ縺難シ溘??菴輔′襍キ縺阪◆?溘??遘√?隱ー縺??』
「いきなりでびっくりしたよね。怖くないよ。ここにはわたしたちしかいないからね」
『閾エ蜻ス逧?ャ?髯・逋コ逕溘?ょソ?コォ荵夜屬縲ょ次蝗?荳肴?縲ょッセ蜃ヲ荳崎?縲よ闘莨シ莠コ譬シ蠖「謌』
「お腹が空いてるのかな。スライムってなにを食べるんだろう……もしかして人間? それはちょっとなぁ」
『……情報、集積、統合。主格、形成完了』
「ほわ!?」
いきなり流暢になったね。
『要請。我、参入、嘆願。危機、不条理、矛盾、不可思議。我、必死。剣呑、物騒、承知。逆接、否定、暴虐』
「これは、どういうことでしょう」
「うーん。攻撃しないから仲間になりたいって感じかな」
『肯定。我、汝、仲間、肯定。不戦』
スライムは自分とわたしを指した。
わたしを指そうとしたときに、触手が伸びて襲われるかと思ったけど……手前で止まってプルプルしている。
たぶん、わたしを攻撃しないように本能に抵抗している。
「この場合はどうしたらいいですか?」
「私の一存では何とも。ただ、戦闘用のモンスターはいずれもティアンを襲わないように設定されているようですね。何事もなければ、国が騎士のレベルを上げるために用いることになるかと」
みんな倒されちゃうのか。それは残念だけど、仕方のないことなのかもしれない。
だけど、ここまではっきり会話できる子を見捨てるのはちょっとイヤだな。
「だったら、この子はわたしが引き取りたいです」
「…………分かりました。上に掛け合ってみます。それまでは身柄を預けるという形で。頼みますから、絶対に、逃がさないようにして下さいね」
「ありがとうございます!」
職員さんに頭を下げてお礼する。お仕事を増やしてごめんなさい、この恩はいつか必ず返します。
わたしがスライムをテイムして、契約は完了する。
これでひとまず安心かな。
『失念。誰何。汝、名称?』
「わたしはサラだよ。あなたは?」
『製造名【オキシジェンスライム】。通俗的総称、デストロイヤー君』
「なるほど。じゃあ、なんて呼べばいい?」
わたしがそう言うと、スライムは首(あるのかな?)をかしげる。
『不可解。汝、既知』
「種族名? それともあだ名? でも、両方ともあなたの名前じゃないでしょ?」
『……理解。我、無名』
「なら、あなたはターコイズね! よろしく!」
『把握。復唱、我、ターコイズ。満足』
こうして三匹目の従魔、ターコイズが仲間になった!
◇
後日。
わたしはターコイズをもらう代わりに、ギデオンに残っている改造モンスターの調査を引き受けたのでした。
一番時間がかかったのは【ブロードキャストアイ】の調整だった。どうしてあんな問題児ばっかりなの!?
(U・ω・U)<途中の哲学論は作者が誤った解釈をしている可能性があるので注意
(U・ω・U)<ふわっとしたイメージで読んでほしい
余談というか今回の蛇足。
ターコイズ
(U・ω・U)<確かな自我を確立した特異個体
(U・ω・U)<めっちゃ頭がいいので、殺処分まっしぐらと気づいて助命嘆願した
フラ製モンスター
(U・ω・U)<これ書いた後で
(U・ω・U)<「フランクリンなら【ジュエル】は内部時間停止して使うかな」とは思った
(U・ω・U)<まあ数百個あるんだから、手動でやってたら何個か設定間違えてもおかしくないよね。計画の本筋とは無関係な部分だし
(Є・◇・)<せっせとモンスターを詰めるフランクリンを想像しちゃったじゃないか