長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ
デンドロでレベルを上げるなら、ふつうのモンスターをたくさん倒すのが一番効率がいいらしい。
ボスモンスターは倒すのにかかる時間のわりに経験値が少ない。そのぶんドロップが豪華になる。アイテムと経験値のどちらを取るかは人によるところ。
フィールドでの狩りより手間がかかるけど、ジョブクエストの報酬でも経験値がもらえる。
たとえば、従魔師ならテイムモンスターにお仕事をしてもらうことが多い。
荷馬車を引いてもらう、牧場で動物の監視をする、依頼人の遊び相手になる……と、内容はさまざまだ。
最近はブームなのか、モンスターの玉乗りを見たいって依頼をよく見かける。
そうそう、一回だけクエストを受けてルビーに玉乗りをしてもらったんだよね。依頼主さんは大喜び、かわいい姿が見れてわたしも満足。ルビーはお気に召さなかったみたいで二回目はイヤと言われちゃったけど。
こんなふうに、戦わず経験値を稼げるのはわたしにとってありがたいことだ。
「というわけで、今日もクエストがんばろー!」
「見たところ何もしていないようだけど?」
こじんまりとした雑貨屋のドアベルが鳴る。
扉を開けて入店したアリアリアちゃんは、ガッツポーズのわたしとジェイドを前にハテナマークを浮かべる。
「いらっしゃいませ! ご自由にごらんください!」
「……ああ、店番なのね」
「そうだよ。ジェイドは一日店長!」
『
ジェイドは『ぼくが店長です』というタスキの字が見やすいように胸を張った。
今回の依頼主はここ、<ルルリリのアトリエ>というクランのオーナーさんだ。
店番をお願いするなら、せっかくだからテイムモンスターでお客さんを集めようと考えたそう。
でも、前にきたときは小さいネズミさんが店番をしていたような……?
ちなみに、わたしはお願いして一緒にアルバイトをさせてもらっている。どうしても手持ちぶさたになるし、働いていると汎用スキルを習得できることがあるからだ。
お客さんがいっぱい来るなら人手は多いほうがいい、とオーナーさんはワガママを許してくれた。
「で、閑古鳥が鳴いていると」
『
……そうなのです。店内にはアリアリアちゃん以外のお客さんはいなかった。
「私はサラさんの姿が見えたからお邪魔しただけよ。せいぜいが冷やかしね」
「そんなー。なにか買ってよー」
「このお店、めぼしいものがないのよ。ポーションに武器防具、生産職用の素材と品揃えは市場レベルだけど……他所で売っているものばかりじゃない」
むう、ぐうの音もでない。
けして広くないお店の半分以上は商品棚やマネキンで占められていて、ちょっと圧迫感があるけれど、必要なものはだいたい揃っている。雰囲気はコンビニに近い。
逆に言うと「ここでしか買えないもの」はない。
目玉商品があったら、それを目当てに来たお客さんがついでに他のアイテムもまとめ買いしてくれそうなのに。
「あ、わたしその辺にある服のデザインは好きだよ」
「それは同感。確かにいいセンスしてるわ。でもゲームの中までおしゃれに気を使うのは嫌よ、私。性能の方が百倍大切ですもの」
アリアリアちゃんは飾られている服の性能を見て鼻を鳴らす。バリバリの戦闘職である彼女にとって、初期装備とおんなじ性能の見た目装備はいまいちみたい。
わたしは見た目も大切だと思うけどなぁ。おしゃれしたら気分とテンションが上がるよね。
「呼び込みでもしたら?」
「お店は離れないように言われてるの。オーナーさんは作業中で手が離せないみたい」
「宣伝する気はないのに人を雇うお金はあるのね。しかも繁盛しているとは思えないのに作業で忙しい……?」
「それと『二階は絶対に覗かないでね』って」
どうやら一階はお店、二階が作業スペースになっているらしい。なにがあっても絶対に覗いたらダメだよと、それはもう念入りに釘を刺された。
「気になるわね」
「アリアリアちゃんもそう思う?」
いけないとわかってはいるんだけど、あんなふうに言われたら、なにをしてるのか知りたくなっちゃうよね。
鶴の恩返しとか、お笑いの「押すなよ?」みたいに念押しされると余計に気になってしょうがない。
「よし行くわ。別に私は覗くなって言われてないもの」
「え、ズルい……じゃなくて、店番としては見過ごせないよ! それ不法侵入っていうんだからね!」
「それならこうしましょう」
アリアリアちゃんはお金の入った革袋を取り出して、ぐるぐると腕を回すと、革袋を思いっきり放り投げた。
それは階段の前でとおせんぼするわたしの頭の上を越え、二階に飛んでいってしまう。
「あら、ごめんなさい店員さん。お財布を失くしてしまったみたいだわ。一緒に探してくださる?」
「任せて!」
悪魔的なほほ笑みを浮かべるアリアリアちゃんに親指を立ててみせる。
ち、違うよ。言いつけを破るわけじゃなくて、お客さんのお願いを聞いただけだもん。これは人助け。しょうがないよね、お財布がないと大変だからね。
二階に上がる口実ができたなんて、ほんのちょびっとしか考えてないからね?
『
「うっ、だよね……」
「バレなきゃ平気よ。いけるいける」
「そうかな。そうかも?」
よーし決めた。さっと行って、さっと戻る!
バレちゃったら、そのときは謝ろう。
階段に足を乗せたらミシリと音がした。
上の階にも響きそうだ。
「ジェイド、あれをお願い」
『……
ジェイドは空気を操って、わたしたちの周りに目に見えないバリアを張った。
これは音を閉じこめて外に漏らさない防音結界、名づけて《サイレントカーム》!
わたしたちの音はバリアの内部で跳ね返すけど、外から聞こえる音はそのまま素通りするという優れものだ。
バリアはあるけど、いちおう息はひそめて。ゆっくりと慎重に階段を登る。気分はスパイかエージェントだ。
わたしは顔だけ出して二階の様子を窺う。
短い廊下に人気はない。突き当たりは荷物置き場のようで木箱が積み上がっている。扉は手前にひとつだけ。オーナーさんがいるとしたらここだろう。
すばやく移動したわたしたちは黙ってうなずき、部屋の扉に耳をつけた。
『……、……』
『…………』
聞こえる声は二人ぶん。一人はオーナーさんだ。もう一人の声は聞いたことがない。
内容までは聞こえないけど、声の大きさとトーンで仲はよさそうだとわかる。
「もどかしいわね。扉を開けてみるか」
「さすがにバレちゃうよ」
「五ミリ、いや一センチなら……よし!」
ちょっとだけ開いた隙間から部屋を覗きこむ。
部屋の真ん中に、青い髪をサイドでひとつ結びにした作業服の女の人が立っていた。オーナーのリリアンさんだ。
そしてもう一人は赤い髪のツインテールに白衣を着た女の子。なにやら石ころを手に持っている。
『ルル、準備はいい?』
『オッケー。あたしとあんた、月に一度の大盤振る舞いを始めましょう!』
ルルと呼ばれた白衣の子は両手で石ころを包んだ。
『《
そして、開かれた手の上には石の代わりに同じだけの金塊が乗っていた!
「必殺スキル……! モチーフはミダス王の黄金ね」
「なにそれ?」
「ギリシア神話に登場する、触るもの全てを黄金に変えてしまう王様の話よ」
それだとご飯を食べようとしても金になっちゃうんじゃないのかな? それにしても、アリアリアちゃんは物知りだね。
『後はお願い、リリ』
『はいはい。よっこらせ』
リリアンさんはどこからか巨大なハンマーを出して、金塊に振り下ろす。
『《
あ、これは知ってる。昔話の一寸法師だよね。
なんて思っていたら、とんでもないことが起きた。
手のひらサイズの金塊がみるみるうちに大きくなって、部屋のほとんどを埋め尽くしてしまったのです!
ドゴン、と建物を揺らす重さの金塊にわたしたちは思わず言葉を失ってしまう。あの量、リルに換えたらいくらになるんだろう……?
『ん? 扉が開いてる』
「ッ、まずいわ! 逃げ……ても間に合わないか。どこかに隠れましょう!」
「どこかって、どこに!?」
『
ジェイドが指したのは荷物置き場の木箱。
ナイス! 他に隠れられる場所もなさそうだ。
急いで空いている箱の中に入って、フタを閉める。
『おかしいな。戸締りしたはずなのに』
『きっと閉まってなかったのよ。あんた、よく鍵かけ忘れて出かけるもの』
『それはルルでしょ』
二人ぶんの足音が廊下に響く。
どうか見つかりませんように。そのまま行って……ううん、一階だとわたしがいないことがバレちゃう。お願いだから部屋に戻ってー!
祈りが届いたのか、足音はどんどん遠ざかって、扉が閉まる音がした。
「……セーフ、かしら?」
「よ、よかったあ〜」
ホッとしたわたしたちは木箱から出て、
「――そこで何してるのかな、サラちゃん?」
「「あ」」
待ち構えていたリリアンさんに捕まったのでした。
◇
「あれだけ二階は覗かないでねって言ったのに。もう二度としたらダメだよ?」
「ごめんなさい……」
「以後気をつけるわ」
正座でお説教を受けること一時間。
リリアンさんとホノルルさん(白衣の子だ)に代わるがわる怒られて猛反省している。わたしはお仕事をサボって言いつけを破った悪い子です、ぐすん。
「反省してるなら良し。この件はこれでおしまい」
「はあっ!? 何ふざけたこと言ってるのよリリ! こいつらがしでかしたこと分かってる? クランの企業秘密を知られたのよ?」
これといった目玉がないように見えた<ルルリリのアトリエ>。その真の主力商品は、わたしが製造現場を覗いてしまった金塊――【魔金】と呼ばれる鉱石だった。
ホノルルさんの<エンブリオ>、ミダースで生産した金塊はさまざまな性質を秘めているそうだ。
魔力の通りがよく、加工しやすい。他の金属と組み合わせると強度・性質が強化された合金ができる。
金箔を薬に混ぜたら、一時的に経験値のもらえる量をブーストするポーションが作れるのだとか。
もちろん、ふつうに金としても価値が高い。
魔金を使った商品はお店に置かないで、二人のどちらかが直接お客さんと取引しているそうだ。
欠点は、一度に手のひらで包めるサイズのものしか魔金に変えられないこと。そして一ヶ月のクールタイムがある必殺スキルをのぞいて、効果に時間制限があることだ。
しかし。ちょっとの量しか生産できないという問題は、リリアンさんのイッスンボウシが解決している。こっちも必殺スキル以外は時間制限つきみたいだけど。
そりゃあ、この二人ならお金には困らないよね。
「悪気があったわけではないみたいだからね。言いふらさないでいてくれたらそれで問題無いと思う。サラちゃんが帰るのを待たずに作業した私たちのミスでもあるし……それにさ、別にひた隠しにするものじゃないよ? 誰にも真似できないんだから」
「そーいう、問題じゃ、ないのよ! そんなだからあの男が食いついてくるの!」
ホノルルさんは言葉の区切りごとに首を振って、リリアンさんをツインテールでペシペシ叩いている。
「でも、グリオマンはこの子たちに借りがあるらしいよ。恩を売っておいた方が得策じゃないかな」
「そうなの? なら……まあ」
しぶしぶといった様子でホノルルさんはうなずいた。
許してくれたみたいでよかった。二人ともいい人そうだから、できれば仲よくしたいと思ってたんだ。
「あんたたちを特別に、<ルルリリのアトリエ>のお得意様にしてあげるわ!」
「欲しいものがあったら何でも言ってね。大抵のアイテムは用意できるから」
「わあ! 二人ともありがとうございます!」
そうだね……気になるものといえば。
「お店にある服、すごいかわいいですよね!」
「本当? あれ私の作品なんだ。これでも【裁縫職人】を取ってるからね。オーダーメイドだって受け付けるよ」
お値段は張るけど、とリリアンさん。
帰りに何着か買っていこうかな。装備を新しいものにしようと考えてたタイミングだからね。普段着と、戦闘用と、お出かけ用と。
「お代は報酬から引いておくね」
「そうだった! わたしクエスト中なんだった!?」
『
バタバタしてたからつい。
「私は経験値ブーストのポーションが欲しいわ。何本か包んでもらえるかしら」
「あー……ルル、在庫あったっけ」
「ないわよ。作るから少し待って」
注文を受けたホノルルさんは調合用の器具を用意した。
そういえば、アイテムを生産するところを見るのはじめてかも。
材料をすり潰して、鍋に入れて火にかける。
スキルのアシストを受けたホノルルさんの体は流れるような手際で作業を進める。
たしか自動生産は【レシピ】という作り方をまとめたアイテムが必要なんだよね。<エンブリオ>の素材を使う【レシピ】はオリジナルだろうから、何度も失敗して完成させた努力の結晶に違いない。
……それはそれとして、理科の実験みたいと感じるのは服装のせいかな? 白衣を着ている人って科学者とか錬金術師っぽさがある。
「あたしは【高位錬金術師】で【高位薬師】だからね。あながち間違ってないわ」
「あれ、わたし口に出してました?」
「見れば分かるっての。初めてのやつは皆同じ顔するし。……ほらバイト、仕事して」
わたしは完成したポーションを受け取った。
容器が割れないように気をつけながら、アリアリアちゃんに手渡す。お代を受け取って、と。
この言葉を言うときは笑顔を忘れずに。
「お買い上げありがとうございました!」
『
余談というか今回の蛇足。
ホノルル&リリアン
(U・ω・U)<タッグで覚醒するガチの錬金術師
(U・ω・U)<生産特化の<エンブリオ>や超級職じゃないので、【魔金】以外の生産品は並のクオリティ
(U・ω・U)<でも高品質のアイテムを他所から仕入れることはできる
(U・ω・U)<マネー・イズ・パワー