長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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ニュー・スタイル

 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 クエスト終わりに街を歩いていたある日のこと。

 ふと用事を思いついて、わたしはアリアリアちゃんを探しに闘技場へ向かった。

 

 ぜんぶで十三個あるギデオンの闘技場はお金を払ってレンタルすることができる。

 決闘結界の機能が使えるから、模擬戦やスキルの確認をするために借りる人は多い。

 最近は決闘ランカーや<超級>が集まる模擬戦がよく開かれているそうだ。あのレイさんも参加しているとか。

 話を聞いた限りだと、アリアリアちゃんは常連さん。ここで会える確率は高いと思う。

 

 わたしが観客席に到着すると、ちょうどレイさんと決闘ランキング第四位の“黒鴉”ことジュリエットさんが戦っているところだった。

 黒い翼で空を飛ぶジュリエットさんに、レイさんは攻めあぐねているみたい。結界の内部時間低速化がなかったらわたしは目で追えない速さだからね。

 

『……Rrrr(いいなあ)

 

 自在に飛び回るジュリエットさんを眺めていると、後ろから声をかけられた。

 

「何ダ、珍しい顔だナ」

「お、サラちゃん! やっほー!」

 

 席に座っているのは迅羽ちゃん、チェルシーさん、そしてグレート・ジェノサイド・マックスさん。

 そうそうたる決闘ランカーの面々だ。何回か見学させてもらっているうちに、気がついたら参加者の全員とお友達になっていた。

 

「こんにちは! アリアリアちゃん来てませんか?」

「今日は居ないゾ。……そういや最近見ねーナ。たしか三十位(マックス)といい勝負した一戦以来カ?」

「あれは相性の問題だっての! 最後はちゃんとオレが勝っただろ!」

 

 どうやらあてがはずれたみたいだ。

 うーん、どうしようかな。アリアリアちゃんに頼めたら一番よかったんだけど。

 

「何か用があったの?」

「実は、わたしの<エンブリオ>が進化したんです」

 

 つい昨日のこと。そういえば進化しないなあ、と思っていたバベルがようやく第二形態になった。

 進化したことで全体的な性能がアップして、ひとつ新しいスキルを覚えたんだよね。

 

 あとは新しい装備のチェックと、上級職になって従魔をどれだけ強化できるか確認したいのと。

 

「アリアリアちゃんなら、いろいろ試すのに付き合ってくれるかなと思って」

「そんなことかヨ。オレでよければ手伝ってやるゼ。全員でレイをイジるのにも飽きてきたとこダ」

「本当!? ありがとう迅羽ちゃん!」

「……ちゃん付けはヤメロ」

 

 金色の義手義足を身につけた迅羽と結界に入る。

 わたしはレベル五十以上になったから、もう結界を通り抜けることはできない。自分の成長を感じるね。

 

「それで、何からやるつもりダ? とりあえずオレは突っ立ってればいいんだよナ」

「うん、お願いします!」

 

 迅羽と模擬戦したら、わたしは何を試すひまもなくやられちゃうからね。いきなりそれはノーだ。

 まずはわかりやすい新装備からいこうかな。

 

 メニューを操作して戦闘用装備を着ける。

 これが脱初心者装備、初お披露目だよ!

 

 メインはリリアンさん製の【ディサイプル】シリーズ。

 シャツにショートパンツとタイツ、シューズ。どれも動きやすさを重視した作りになっている。首元に制服みたいな小さいリボンがついているのがおしゃれだね。

 帽子は前のやつをそのままで。本当はさらにローブを羽織るんだけど、装備枠の関係で別のアイテムを選んだ。

 

 それは【血塗木乃伊の聖骸布・ネイティブ】。【グリーディ・ブラッド・マミー】のレアドロップだ。

 血が乾いたような色のボロボロなマントで見た目はいまいち。だけど状態異常の耐性を上げてくれるので使わないのはもったいない。……色を染められたりしないかな?

 

 他に【血塗木乃伊の宝櫃】から出てきたのは従属キャパシティ拡張の指輪に、MP増加のイヤリング、あと【身代わり竜鱗】。アクセサリーがほとんどだね。

 でも、それだけじゃない。

 

「手に持ってるのは笛カ。アイテム名は……【萌芽の横笛】? 初めて見るナ」

 

 木の小枝を削って作られた横笛。サイズはだいたいピッコロとおんなじぐらいだろうか。

 【宝櫃】から出てきた中でも風変わりなこの笛は、どうやらデンドロでは武器のカテゴリに入るらしい。

 たしかに固そうだけど、楽器は殴るための道具じゃないよね? 攻撃力が設定されてるのはおかしくない?

 

「まずこれを試すね。吹いたら効果が出るはず」

 

 唄口に唇をあてて息を吹きこむ。

 指運びは体が覚えてる。リズムに合わせて揺れながら、簡単な練習曲を吹き終わると……観客席からパチパチと拍手が返された。

 

「まるでプロの演奏みたいだったよ!」

「やべえ、意識がトリップしかけた」

「お前【音楽家】のジョブにでも就いてるのカ?」

「え? ううん。わたし従魔師だもん」

「……ってことは素の腕前かヨ」

 

 なにか変だったかな。ミスはしてないよね?

 

「ま、その笛の効果は分かったゼ。演奏を聴いたやつにHPの自然回復量上昇バフがかかるみたいだナ。アンデッドのオレに効くなら、大抵の相手に効果が出るだろうヨ。敵味方お構いなしってところは使い道が難しいガ」

 

 おお、的確な分析だ。

 さすがは黄河の決闘ランキング第二位。わたしがわからない点を見逃さず、しっかりまとめてくれている。

 

「ならこの笛は使えそうだね! じゃあ次は……」

 

 この調子でどんどん試してみよう!

 

 

 ◇

 

 

「……」

『……』

「……ひとまず、一通りの検証は済ませたわけダ」

 

 順調なすべりだしだったテスト。

 装備の次は<エンブリオ>と、従魔の力を試してみた。チェルシーさんやマックスさんのアドバイスを受けながら、迅羽に手加減してもらって模擬戦したりだね。

 今から全体のまとめを教えてもらうのだけど……うすうす想像ができてしまう。

 

「結論から言うゾ。――地力が足りなイ」

「ぐさっ」

 

 容赦のない言葉が刺さるっ。

 

「勘違いすんなヨ? あくまで現状はって話ダ。ポテンシャルは悪くない方だロ」

 

 迅羽は義手でわたしの肩を叩いた。

 関係ないけど、この爪で優しくものを掴めるのってすごい器用だよね。

 

「まず<エンブリオ>からナ。既存のスキルも、新スキルとやらも、制御が全くできていなイ。理由は知らないガ、たぶんそっちに回す出力が足りてないんじゃないカ」

「えっと、つまり解決するには?」

「進化を待つか、自力で制御するかダ」

 

 どっちを選ぶとしても時間がかかるってことだ。

 新しいスキルはまだうまく使えない……どころか、むしろデメリットになってしまう。

 わたし一人の問題ではすまないから、今のところ戦闘で使うことはできないだろう。

 うぅ、しょうがない。しばらくおあずけかあ。

 

「で、もう一つの新技だガ」

「実はあれ迅羽がヒントになったんだよ。……考えたのはわたしじゃないけど」

「うン。お前馬鹿だロ」

「ひどい!?」

 

 もう単なる感想だよ。

 まとめですらないよ迅羽。

 

「マァ、発想と組み合わせは良イ。実行する度胸に、従魔との信頼関係も認めるサ。確かにあれは今のお前が出せる最高火力だろうヨ」

 

 あれ、わたしほめられてる?

 

「だけどナ……蓋を開けたら、こっちも制御不能の爆弾ときタ。しかも解決しようがなイ。お前も巻き込まれる可能性が高すぎル。命がいくつあっても足りないゾ」

 

 迅羽の指摘は正しい。

 現状、わたしは新技の問題点をどうすることもできないのだ。いくら心を鍛えても生きている限りはお腹が空いてしまうのと一緒で。

 それに……わたしとしては、使わなくていいなら使わずにいたいと思う。あんまり気持ちよくはないからね。

 

「よっぽど追い詰められたとき以外はやめとくんだナ。味方がいる場所や街中でぶっ放すのは論外ダ」

「はーい。ありがとうございました!」

 

 要特訓、ということで迅羽はテストを締めくくった。

 

 

 ◇

 

 

 その後は模擬戦をそこそこで切り上げて、みんな一緒にスイーツを食べに行った。

 甘いものを食べながらおしゃべりに花を咲かせる……つまり女子会だね!(うち一人は男の人)。

 びっくりしたのはレイさんの<エンブリオ>、ネメシスさんの食べっぷり。わたしたち全員よりたくさん食べてたんじゃないかな? バイキング方式じゃなかったらレイさんのお財布がボロボロになったに違いない。

 話題は世間話や決闘関係がメインだったけど、わたしはみんなのお話を聞くのが楽しかった。

 

 レイさんとジュリエットさんからは少し前に戦ったという<UBM>のお話を。

 迅羽は黄河で敬われる【龍帝】について。

 チェルシーさんはグランバロアの海のことを。

 マックスさんは天地で起こる野良試合のあれこれ。

 

 みんな、いろいろな体験をしているようだ。とくに他の国のお話は聞いていて飽きない。いつかは七大国家を旅してみるのもいいかもしれないね。

 もちろん、王国だって行ってないところのほうが多い。わたしはまだまだやれることがたくさんある。

 いろんな場所に行って、いろんな人に会って、いろんな体験をする。そうしたらジェイドのお母さんについて手がかりを見つけることができるかもしれないし。

 

「もう少しレベルが上がったら、他の街に行ってみる?」

Rrrrr(たとえば)?』

「そうだなあ。あ、海が近いところとか。ジェイドは見たことないよね。きっと楽しいよ!」

Rrrrrrrrrrr(でも、もんすたーがたくさんいるよ)

「砂浜で遊ぶくらいはへーきへーき! ……たぶん」

 

 女子会がお開きになって、みんなと解散した後。

 わたしは王国の地図を買うため四番街のお店に。

 

 デンドロにはシステムとしてのマップとアイテムとしての地図、この両方がある。

 マップがあれば十分じゃないかな、なんてわたしは考えていたんだけど実際はそうでもないみたい。

 メインメニューのマップ機能だと地形や街の位置が表示されるのは行ったことのある場所だけだ。それ以外の部分は暗い表示になっていて、なにがあるのかわからない。

 なによりメインメニューは<マスター>の特権だ。ティアンの人は紙の地図が必要になる。

 

 だから地図を買う人は結構いるんだって。ちなみに【地図屋】という専門のジョブが書いた地図は情報が正確なぶん、お値段も高め。

 でも第五〇三版って……見た感じ、ひとつ前のと違いはなさそうだけどなあ。

 

「地図はオッケー」

 

 これで用事はぜんぶ終わり。

 あとはゆっくりして過ごすか、早めにログアウトするかで迷っていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。

 出どころは向こうにある露店。しょうゆのタレがちょっと焦げたような、食欲をそそられる香りだ。これは間違いなく焼き鳥だね。おいしそー……一本買おうかな……。

 

Kyukyu(食べ過ぎ)

「そ、そんなことないよ? 甘いものを食べたからしょっぱいものが食べたくなっただけだからね! そんなにたくさんは食べてないもん!」

 

 右手の【ジュエル】に言い返す。ルビーだってケーキ丸ごと三つは食べてたのに。

 

 魅力的な匂いに引き寄せられたのはわたしだけじゃないみたいで、焼き鳥は飛ぶように売れている(鳥だけに)。

 もちろんお客さんは焼き鳥を買ったらすぐに離れていくんだけど……でも、なぜかひとりだけ。いっこうに露店の前から動かない人がいた。

 

 その女の人は変わった格好をしていた。

 王国ではめずらしい和風の着物。ちょっと違和感があるのはなんだろうね。生地の色が派手で、忍者とごちゃまぜなデザインだからかな。

 はちみつ色の髪にかんざし、腰に刀と扇子を差して。

 そして首と手足、腰帯の上に金属のベルト……手錠? のようなものを合わせて六つ身につけている。

 

 その人は両手でお腹を押さえて、ヨダレを垂らして、じーっと焼き鳥が焼けるのを見ていた。

 商品を買わないのにずっと立っているから焼き鳥屋さんは困っている。ただ、それにも気がついていない。

 よっぽど焼き鳥が食べたいのかな? なら買ったらいいのに。

 

「……なあ、お嬢ちゃんよ。買わないならどっか行ってくれないか」

 

 とうとう焼き鳥屋さんは声をかけた。

 それでも女の人は動かない。

 

 ――グギュルルルルルルルル

 

 返事の代わりに、その人はお腹を鳴らした。

 聞いているわたしまでつられてお腹を鳴らしちゃいそうな音。無言の「お腹が空いた」という主張だ。

 

「腹を空かせてるのは分かったが、これ以上は商売の邪魔だ。いい加減にしないと人を呼ぶぞ」

 

 イライラしはじめた焼き鳥屋さんが声を上げようとした、そのとき。

 

「……ブ」

「ぶ?」

 

 ようやく女の人がしゃべった。

 小声で内容がはっきり聞こえない。焼き鳥屋さんは首を傾けて聞き返す。

 もう一度、口を開いた女の人は。

 

「ブシは食えどもつまようじでーす……」

 

 そうつぶやいて、バタリと倒れてしまうのだった。




(U・ω・U)<原作キャラ出したいけど書くのが難しい

余談というか今回の蛇足。

地図
(U・ω・U)<地形変動のたびに修正して版が三桁に

(U・ω・U)<なおこれを手がけた有志<マスター>は修正が追いつかず悲鳴をあげている

(U・ω・U)<だいたい<超級>のせい
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