長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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なんとか年内にすべりこめた……皆さま良いお年を


東方の風は血飛沫と共に ④

 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 【処刑王】シャロエモン。

 その名前に反応したのはレッドさんと八一だ。二人ともびっくりして戸惑っているみたい。

 だけど、その理由についてはまったく別のものだった。

 

「なんでじゃ……なんで処刑人集団の筆頭がここにおる!? おかしいじゃろが!」

 

 八一は顔を青くして叫ぶ。天地出身だからシャロさんを知っているんだろう。首輪を壊して逃げ出そうとしているけれど、太刀で斬りつけても無傷なくらい頑丈で、首にぴったりはまっているから抜け出すのは大変だ。

 

 ところで、処刑人集団ってどういうこと?

 

『シャロエモンはPKK(プレイヤーキラーキラー)、つまりPKを相手にするPKなのさ。正確にはシャロエモンたち(・・)と言うべきかな』

「たち?」

『簡単に説明するとね、一人の有名なPKKにあやかって複数のプレイヤーが同じ名前を付けたんだ。彼らは天地の各地を縄張りにして勢力を広げた。それがPKK集団、処刑人一家「シャロエモン」だよ』

『あいつら全員の名前がシャロエモンだからな。通り名で区別するらしーぜ。例えばあいつなら“六口”とか』

 

 なるほど。最初に通り名を強調したのはそういう理由だったわけだ。

 

「悪いPKをやっつけてくれるってことですよね。それならもう安心……あれ? だったら、わたしたちまで首輪で動けないのはなんで?」

『それが分からないから警戒してる。助っ人として申し分ないんだけど、嫌な予感しかないドラ』

 

 レッドさんの言葉でちょっと不安になる。

 お友達のシャロさんが来てくれたこと、直前までピンチだったこともあって、わたしは完全に気が抜けていた。

 でも今の状況は安全とはいえない。この首輪もはずれないし、なにが起きてもいいように気をつけないと。

 

 とりあえずバベルのスキルは解除する。それだけで、ガンガンと鳴り響く熱は嘘みたいに引いていった。

 

「クセモノがひい、ふう、みい……やや、見覚えのある顔がいるですね。これは困りました」

 

 シャロさんはわたしたちを順番に見回してから、残念そうに手のひらを合わせる。

 

「シャロは今から全員PKします。だからあなた達、その前にハイクを詠むです」

「「『は?』」」

 

 みんなの声がシンクロした。

 たぶん考えていることはおんなじだ。この状況で聞こえるはずのない単語が飛び出してきた理由。ハイクって俳句だよね、五・七・五のやつ。やられる前に作れってことかな……いやなんで!?

 あと後半部分に気を取られてしまったけれど、もしかしてわたしとレッドさんも「全員」の中に入ってるんだろうか。PKじゃないのに!

 

『いやいや、待ってくれ。私たちは被害者なんだ。襲われたから応戦しただけだよ』

「シャロは頭よくないです。悪いのどちらか分かりませーん。だからいつもこうします。そう、ケンカリョウセイバイです!」

 

 えへん、と胸を張るシャロさん。

 どっちが悪いかわからないなら両方やっつけちゃえー、ってことだろうか。

 言いたいことはわかる。この方法は悪い人を逃がしちゃう心配はない。だけど、いい人も一緒にやっつけちゃうことになるからやっぱりダメだと思う。

 それに、PKも黙ってやられるつもりはないみたい。

 

「……なら先に」

「お前を倒すまでのこと」

 

 八一を除いた二人が、首輪で動けない状態のままでもシャロさんを狙う。

 暗殺者は胸元から取り出したナイフを投げようと、剣士は構えたレイピアの先から毒液を飛ばそうと。

 戦い慣れているから判断が早い。それは相手が近づいてくるよりも先に、遠くから不意打ちするための技。まさにやられる前にやる戦い方だ。

 

 だから、勝負は始まる前に終わっていた。

 

「――ケッコウなオテマエで」

 ――首がふたつ、ころりと落ちる。

 

 首輪がぎゅっと縮んで、嫌な音を立てながら頭と体を切り離した。二人をデスペナルティにした後、輪っかは回転しながら空中を飛んで、シャロさんの手元に戻る。

 

「ナンアメダブルです。おお、かなり溜め込んでるですね。これで一文なしとはさよならです!」

 

 わたしは緊張で思わず息を止めていた。ドロップアイテムに喜ぶシャロさんとショッキングな光景のギャップにくらくらする。うん、いきなり目の前でギロチン(たとえ)したら誰だってこうなると思う。

 

 あの輪っかはシャロさんのエンブリオだろう。はめられた時点で攻撃が当たっているようなもの。かけ声ひとつで必殺の武器に早変わりする。

 壊して抜け出すのは、たぶん無理だ。強く掴まれているような力がかかっていて逃げるのも難しい。

 わたしができるのはお話しするくらい。説得してシャロさんを止めることはできるだろうか。ううん、考えてもしょうがない。

 

「質問です! どうして俳句が出てくるんですか?」

「ブシドーだからです」

「そ、その心は?」

「サムライは最期のハイクに重きを置きます。ニンジャは悪党をセイバイします。つまり、サムライ=ニンジャはセイバイする相手のハイクを聞く義務があります」

 

 PKのマナーみたいなものかな。聞いたことはないけれど、実はけっこう有名だったり、

 

『言ってる意味は分かんねーけどさ。オレでも何か違うことは分かるぜ』

『どうだろう、天地だからありえるよなぁ』

「んなわけあるかァ! あいつだけじゃ!」

 

 どうやら違うらしい。

 

「じゃあ、俳句を詠まない人は? ずっとやっつけられないんですか?」

「シャロが待つのはちょっとだけ。ハイクを詠んで死ぬか、ハイクを詠めずに死ぬかです。さっきの二人はアッパレでした。ハイクを繋げて詠むとは! 逃げずに向かって来た点も素晴らしいです」

 

 考えるふりをして時間を稼ぐことはできないってことだね。シャロさんは全員をやっつける気満々だ。まずはどうにかしてわたしの話を聞いてもらわないと。

 

「なら、わたしからいくよ」

「どうぞ。時は鐘鳴りです」

 

 隣でわたしを止めようとするレッドさんには首を振った。シャロさんが思っている通りの人なら、きっとだいじょうぶなはずだ。だけど、ちょっぴり不安もある。だからジェイドは【ジュエル】に戻っていてもらおう。

 

Rrr(サラ)……』

「また後でね」

 

 息を吸って緊張をほぐす。よーっし、いくぞ!

 

「焼き鳥を

  買ってあげたの

   忘れたの?」

 

「……!?」

 

「シャロさんは

  わたしに恩が

   あるはずだ」

 

「な……ノー! それはそれ、これはこれです!」

 

「サムライは

  受けた恩義を

   返すもの」

 

「む、ぐ」

 

「だからほら

  わたしの話を

   聞いてくれ!」

 

「…………」

 

 四連続の俳句を聞いて黙るシャロさん。

 正直、この方法は恩を着せるようであんまり気が進まなかった。わたしはお返しがほしくてご飯をおごったわけじゃないからね。

 それでも、このままレッドさんを巻き込んでデスペナルティになるのはいただけない。シャロさんがこちらの言葉に耳を傾けてくれるきっかけはあるかと考えて、思いついたのは結局これだけだった。

 

「確かにサムライは恩を忘れません。しかし、ニンジャは情にもヤマブキ色のお菓子にも流されません。サムライ=ニンジャは悪には屈しないのです」

「シャロさんの遊び方を否定するつもりはないよ。わたしたちが悪いと思ったならPKしてもいい。ただ、できれば相手のことを知ってからにしてほしいな。話してみたら仲良しになれるかもしれないでしょ?」

 

 言葉が通じるなら、どんな相手とだってお友達になれる。あり得ないと笑われるかもしれない。でもわたしはそうなればいいなと思っているよ。

 

「……お腹を空かせたシャロにご飯をくれる人は悪党でしょうか? 他者に心配され、自分も他者を守ろうとする人は悪でしょうか?」

 

 シャロさんがポツリとつぶやいたのと同時に、首輪の締めつけが緩まる。

 

「シャロは違うと思います。だから、サラが悪いPKではないと信じます。これはシャロの判断です! 決して食べ物で屈したわけではありませーん!」

 

 首輪が完全にはずれて、わたしたちは解放される。

 本当によかった。説得して聞いてもらえなかったら、もう打つ手は残ってなかったからね。

 

「ところで。なにゆえ街中で戦っていたのですか?」

「さっきも言ったけど、突然PKに襲われたわたしをレッドさんが守ってくれたんです」

「ふむ。そのクセモノはどこでしょう」

「シャロさんが捕まえてた三人組ですよ」

「……三人。ということは、彼はサラの仲間じゃないですか?」

 

 シャロさんが指差した先には、自由になった八一が立ち上がっていた。

 

『そいつは敵だ、シャロエモン!』

「もう遅いわ」

 

 レッドさんは剣を投げて妨害するけど、八一はあっさり避けてわたしに接近する。踏み込みは速すぎて目で追えない。

 

「このガキさえ斬れば、依頼は達成じゃけえの!」

 

 抜刀の瞬間、切られると思って身体が固まった。

 わたしの右手を目がけて振り下ろされた太刀は、わたしに届く前に、ガキンという音を立てて止まる。

 攻撃を防いだのは装備した覚えのない金属の腕輪。

 

「ちぃ、邪魔を……」

「絶対絶命でしたね。危ないので下がってください」

 

 わたしは腕輪が浮き上がる力でぐいっと引っ張られて、離れたところに降ろされる。

 入れ替わるようにしてシャロさんは八一と向き合った。手にした輪っかは右に二つ、左に三つ。わたしの腕から離れた最後のひとつを、シャロさんは難なくキャッチする。

 

「後はシャロにお任せです。汚名挽回しまーす!」

 

 投げられた輪っかはそれぞれ別の軌道、異なるタイミングで迫った。対する八一は飛んでくる輪をひとつひとつ太刀で弾き返す。一撃ごとに激しい音がして火花が散る。回転の勢いがあるとはいえ、ただ飛んでいるだけの輪っかを八一は防ぎきれていない。

 

「あ"あ"!? 何なんじゃこれは!」

「説明しましょう。シャロのグレイプニルは六枚一組の円月輪(チャクラム)。投げている間も、シャロが持っている時と同じ動きができます。このように!」

 

 シャロさんの合図で直角に跳ね上がった輪っかは太刀と切り結ぶ。そして刃の部分を締めつけたかと思うと、ひょいと八一から太刀を取り上げてしまった。

 

「観念してお縄につきなさい」

 

 武器を失った八一はまた輪っかに拘束される。

 今度は首輪に手枷足枷を合わせた厳重な処置だ。

 

「くそ、何の恨みがあってわしを捕まえるんじゃ! お前に手出しはしとらんじゃろうが!」

「サムライ=ニンジャは目の前の悪事を見過ごしません。友人が襲われたなら尚更です。それに恨みはありませんが理由はあります」

 

 理由ってなんだろうとちょっぴり気になっていると、シャロさんは懐から取り出したメモ書きを読み上げ始めた。

 

「元<亜穂浪士四七>メンバー、八一。あなたには横領及びクラン無断脱退の容疑がかけられているです。依頼人から伝言があります。『脱藩するなら天誅天誅!』……だそうでーす」

 

 それはおたずね者の罪状で、八一にとっては有罪判決のようなものだった。依頼人の代わりにおたずね者を見つける仕事をシャロさんは受けていたんだろう。

 モノマネが似ているかは置いておくとして、絶対に見逃さないという意思が伝言からは伝わってきた。

 

「確かに伝えました。では、ハイクを詠む気がなければシャロはあなたをPKします」

「ま、待たんか! 悪いのはカシミヤじゃ!」

「カシミヤ? 【抜刀神】のことですか?」

 

 カシミヤくんのことはわたしも聞いている。<K&R>のオーナーで、ものすごく強い剣士なんだとか。

 でも、最近はログインしてないと狼桜さんは言っていた。どうしてカシミヤくんの名前が出てくるんだろう。

 

「そうじゃ。わしはカシミヤを仕留めて天地最強の辻斬りになるはずじゃった。やのに、あいつはいつの間にか王国に渡っとった! わしは軍資金にちょいとクランの妖刀やらを借りて(・・・)、あいつを追っただけなんじゃ!」

「「『……』」」

 

 それ、カシミヤくん関係なくない?

 百パーセント悪いのは八一だよ。

 

「それでは――シャロエモンを執行するです」

 

 怖がらせるようにぎりぎりと縮む首輪。八一は慌てるけれど、全身が動かせない状態では声を上げる以外にできることがない。

 

「おいやめんか離せ! なんや雁字搦めに縛りよって、肉をこそぎ落とすつもりか骨と皮だけになるやろうが! 分かった! 借りたもんは返す! 妖刀は質に流したが今回の依頼は前払金があるからの、闘技場で増やせばすぐ元通りじゃ! だから頼む、デスペナは勘弁――」

「ナムサン」

 

 街中に響いた叫びを最後に、今回の事件は幕を下ろした。めでたしめでたし?

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■<クルエラ山岳地帯>

 

 決闘都市ギデオンの東に位置する山岳地帯。アルター王国とカルディナの国境であり、ギデオンとカルディナの都市を繋ぐ交易路でもあるこの場所は、商人を襲う山賊が出没することから『強盗の名所』と呼ばれていた。

 しかし、とあるルーキーの手により悪名高い<ゴゥズメイズ山賊団>は壊滅。さらに山岳地帯を根白にしていた他の山賊も【地神】が埋葬したことで、フランクリンの騒動後は一種の空白地帯となっていた。

 

 鬱蒼と茂る木々に紛れた廃砦や山賊の寝床だった洞窟は、いまや人の手が入らず荒れ果てており。

 はるか上空から、それらを見下ろす者がいた。

 

「すごい速いでーす! まさに韋駄天ですね!」

『へへっ、このくらい朝飯前だぜ』

 

 大気を裂いて旋回する鋼鉄の翼。

 戦闘機に似た群青の機体は『大鴉』のようで、背中に乗せた人物の賞賛に機嫌を良くしている。

 

『超音速で振り落とされないのが驚きドラ。いやマジで』

「サムライ=ニンジャですので」

 

 レッドは戦闘機内部の操縦席から、シャロエモンのドヤ顔をカメラ越しに眺める。

 

『君が協力してくれて助かるよ。PKのドロップを被害補填に充てるだけじゃなく、こうして真犯人探し(・・・・・)に付き合ってくれるなんてね』

「情けは人のためならず、ですよ。シャロにもお仕事ありますから。悪即セイバイ慈悲はないです」

 

 今回のPK騒動は何者かの意図で引き起こされたものだとレッドは睨んでいた。

 八一たちは依頼でサラを狙ったという。一度敗北を味わった彼らが(“怪人”のタネも割れた以上)次も襲ってくるとは考えづらい。ただ、背後にいる依頼人を突き止めなければ第二、第三の刺客が現れるだろう。

 

 依頼人の情報を聞き出す前にPKはデスペナになってしまったが、幸いにもシャロエモンが回収したドロップの中には依頼の契約書が含まれていた。文面には成功報酬の受け渡し場所が記されており、

 

『座標はこの辺りのはずだ。どうだいウル?』

『お、ビンゴ。見つけたぜ』

「いざ誤用改めでーす! とうっ!」

『おん? ちょっ、高度一万メートルなんだが』

 

 先に一人飛び降りたシャロエモンを追って、すぐさま大鴉も急降下する。目標は一つの廃砦。シャロエモンは装備したグレイプニルの念力操作で姿勢を整えて着地。レッドは大鴉ごと廃砦に突撃した。

 壊れた壁と瓦礫を踏み越えて、レッドは砂埃の奥に二人の敵影を目視する。

 

(ティアン一人、<マスター>一人。ティアンの方は戦力外だから無視していい)

 

「誰だ貴様らは!?」

『悪党に名乗る必要はないだろう。でもそうだな、強いていうなら……ヒーローごっこが好きな一般人さ』

 

 レッドは右手の《瞬間装着》が付与されたリストバンドを掲げる。器用にドラゴンの着ぐるみのまま、手を振り、足を上げ、回転を交えながらの決めポーズ。

 

『《変身》』

 

 直後、着ぐるみは真紅のヒーロースーツに切り替わる。

 さながら特撮のワンシーンのように、レッドの背後からは爆炎が立ち上った。

 

『ここなら存分に戦える。いくぞ――ウルスラグナ』

『応! カチコミだぜ!』

 

 呼びかけに応じて顕現するは紅の雄牛。

 廃砦の天井を割って顔を覗かせる二足歩行の牛頭魔人はゆうに十メテルを超える巨躯に鋼鉄の外装を纏う。

 胸部装甲が開いて操縦席が露わになると、レッドは一跳びで自らの相棒に乗り込んだ。

 

『大人しくすれば命までは取らない。だけど抵抗するなら容赦しないからそのつもりで』

「テングのお茶目時ですよ! ハイクを詠むです!」

 

 降伏勧告を聞いてティアンは逡巡する。

 それもそのはず。彼は、元<VOID>王国ギデオン支部長はもとより窮地に立たされていたからだ。

 上層部から任された支部の壊滅。その失態を覆すために従魔強奪を計画したものの、いくら待っても依頼達成の報告は上がらない。こうして潜伏場所が襲撃された以上、頼みの綱だった天地の辻斬りは返り討ちにあったか裏切ったと考えるのが自然だ。

 組織に所属したままだとしても責任を取らされる未来は見えている。なら、ここで投降するのが賢い選択ではないのか? 狡猾ゆえに生き延びてきた男は打算的に損得を見極めようとする。

 

 しかし。背中に突きつけられた銃口が、小賢しい思考を押し流す。

 

「うんうん、分かるよ。抜けるなら今が好機だ。でも悪いね! 立場上、僕はボスの意向に逆らえないからさ」

「ヒッ……ち、違う。俺はただ」

「怯える必要はないよ。僕は味方だ。あの怖い人たちから、ちゃんと君を守ってあげるから」

 

 支部長を庇って人影が前に出る。首元に砂塵除けのスカーフを巻いた少年だ。手遊びに拳銃を回しながら、少年はレッドとシャロエモンを交互に見た。

 

「自己紹介しようか。僕は一応<VOID>の幹部――」

「あー!」

 

 少年の名乗りはしかし、シャロエモンの大声に遮られた。

 

「あなた、見覚えあります! シャロを襲ったクセモノですね!? アイテム返してくださーい!」

「やっべ。小遣い稼ぎしたのばれてら」

 

 少年は苦笑してシャロエモンに銃口を向けた。

 放たれた銃弾は二人の間に飛び込んだレッドが受ける。礫のような散弾がウルスラグナの装甲を撫でる、しかし有効打にはなり得ない。

 ウルスラグナは猛々しい駆動音と共に突進する。剛腕の振り回しは廃砦を粉砕するが、レッドは周囲の被害を気にとめない。少年が暴牛に注意を向ければ、

 

「ニンポー、スリケン・ジツ!」

 

 ウルスラグナの後方から投擲された円月輪が少年に牙を剥く。それは獲物に噛みついたら離さない獣の顎門。

 少年は正確無比な射撃で円月輪を撃ち落とそうとするも、火薬式銃器の火力では回転の勢いを衰えさせることはできない。喰らいついた輪は手枷足枷となって少年を拘束する。

 

「ええ、マジか」

 

 それも当然の話。【処刑王】シャロエモンの<エンブリオ>、【咬合捕枷 グレイプニル】は純粋性能に多くのリソースが割り振られている。それこそ同じ第六形態のアームズを容易にへし折れるほどに。

 他に持ち合わせるスキルといえば、本人と同等のSTRによる念力操作にサイズの伸縮と地味かつ微々たるもの。シンプルだからこそ出力でこれを上回ることは難しい。

 

「今から降参する選択肢ってある?」

『知ってることを洗いざらい吐くなら考える』

「んー、どうしようかな」

「どっちでもセイバイはするですよ」

「じゃあ嫌だな。まあいいや、時間は稼げた」

『……あ! レッド、ティアンがモンスターに乗って逃げてるぞ! 追うか?』

「ハハハ。速度特化の天竜種だ。追いつけないよ」

 

 レッドは遠ざかる飛竜の後ろ姿に思考を巡らせる。

 

(《レイヴン》なら余裕で間に合う。でも手加減できないから捕まえる時に殺してしまうかもしれない。シャロエモンの輪の速度じゃ確保は無理そうだし、こいつも放置できない……仕方ないな)

 

『だからなんだい? ティアンを逃がしても、君自身は捕まってるんだぜ』

「たしかに。ここから巻き返すのはきつい」

 

 少年は愉快そうに笑い、真上に伸びた状態の拘束された手で拳銃を構え直す。

 

「それじゃ、悪の組織の幹部らしいことでもしてみよう」

 

 ――Bang!

 自由に動かせない腕、狙いをつけられない銃口のまま、少年は引き金を引く。

 明確な敵対行動にシャロエモンは拘束具の締めつけで四肢を切断し、ウルスラグナは少年を殴り潰す。

 あらぬ方向へ飛んだ弾丸は廃砦の壁と天井を跳ね回り、不規則な軌道を描いて――予備動作後の硬直状態にあったシャロエモンの頭部を撃ち抜いた。

 

『相討ち狙い……! 【ブローチ】は?』

「あれ嫌いです……シャロだけが身代わり使うアンフェアでーす……さよなら」

『おん……本当に死んだよ』

 

 情報を聞き出せず、敵は死に逃げ。どうやら偽装系アクセサリーを装備していたらしく《看破》で名前やジョブの確認もできなかった。

 残されたレッドは半壊した廃砦を眺める。仮に犯人に迫る手がかりがあったとして、原型を留めているかは期待薄といったところだ。

 

『どーするよレッド?』

『そうだねえ。とりあえずドロップ拾おう。デスペナ明けたらシャロエモンに渡せるように』

 

 それからしばらく、レッドはメイデン体に戻ったウルとアイテム拾いに精を出すのだった。

 

「そういえば“怪人”はあの三人組だったんだよな? なんか、集めた情報と違った気がしねーか」

『おん? うーん、噂に尾ヒレがついたからだと思うドラ。でも気になるなら後で調べ直してみようか』

 

 

 ◇◆

 

 

 木々に潜み、壊れた廃砦を見つめる人物が一人。

 伸びる影は小さな子どものそれ。肩に乗る毛玉から生えた兎の耳は神経質に揺れていた。

 奇怪な手袋をした拳を握りしめた彼は鋭い目つきを苛立ちで一層険しくする。

 

「……先を越された。あれじゃ何の情報も得られない」

 

 陰鬱な彼は舌打ちして大樹の幹を殴りつけた。

 レベルを上げ、高価な装備と強い従魔を奪い、短時間で強さの段階を引き上げた。

 すべてはたった一人の肉親に復讐するため。

 

「くそ、許さねえ。絶対に殺してやる」

 

 気を抜いたら溢れそうになる兄への怨みを他所に散らして、彼はその場を立ち去った。

 

 Episode End




余談というか今回の蛇足。

シャロエモン
(U・ω・U)<天地最狂のPKK集団

(U・ω・U)<構成員の共通点はだいたい問答無用で殺しにかかること

(U・ω・U)<一方的な処刑は礼を失するからと【ブローチ】を装備しない主義の人が多い

(U・ω・U)<最初からプレイヤー名を「シャロエモン」にするケースが大半だけど

(U・ω・U)<実は後から名乗る人もいる


【処刑王】
(U・ω・U)<処刑人系統超級職

(U・ω・U)<この系統は東西問わないけれどロストジョブになりかけてた

Ψ(▽W▽)Ψ<どうしてドラ?

(U・ω・U)<ティアンは国家が死刑制度を廃止してたり、わざわざ処刑人を使わなくなった

(U・ω・U)<あと死に関わるジョブなので忌み嫌われる

(U・ω・U)<まあ<マスター>には関係ないし、むしろ厨二的で喜ばれるけど

(U・ω・U)<そもそも就職条件が失伝してたり、ジョブクリスタルがなかったり

(U・ω・U)<なったとしても戦闘系ジョブなのに戦いづらいんだよ

(U・ω・U)<ジョブの特徴は『急所必殺(クリティカルヒット)時の攻撃強化』なんだけど

(U・ω・U)<ステータス傾向がSTR極振りで攻撃が当たらない、相手の攻撃を避けられず耐えられない

(U・ω・U)<しかも人型以外のモンスターや大型の敵には急所を狙いにくいという

Ψ(▽W▽)Ψ<……使いこなせそうなクマさんが一人思い浮かんだドラ


八一
(U・ω・U)<いつも挑発で何かしら相手の地雷を踏み抜いている

(U・ω・U)<相手が冷静さを失うと自分のペースにできるけど、失敗すると怒りに任せてボコボコにされる

(U・ω・U)<見方を変えれば<エンブリオ>を通して無意識に相手の本質の一端を見抜いているともいえる


レッド
(U・ω・U)<スーパーヒーロータイム!

Ψ(▽W▽)Ψ<操縦士系統は就いてるドラ


ウルスラグナ
Ψ(▽W▽)Ψ<TYPEはメイデンwithギア・レギオン

Ψ(▽W▽)Ψ<モチーフ通り、強くて最高な私の相棒だね
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