長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 四月になって、学年がひとつ上がった。

 高学年としての自覚を持ちなさいと先生は言う。あんまり実感はわかないけど。

 というのも、わたしの小学校はクラス替えがないから、卒業までお友達と一緒にいられる。だから去年と変わらないんだよね。周りにデンドロのお話をできるお友達がいないのはちょっと残念かな。

 

 今日は始業式だけで、午後は思いっきり遊べる。

 レベル上げと素材集めでしょ、みんなとクエストを受けるでしょ、お店でバイトして、あとは従魔師ギルドで勉強したり、従魔と遊んだり。

 まず何をしようかな、と考えながらログインすると、

 

「やあやあ、奇遇だねえ」

 

 誰かに声をかけられた。

 ひらひらと手を振る男の人には見覚えがある。“ひよ蒟蒻”さん……は嘘の名前なんだっけ。

 

「こんにちはグリオマンPさん!」

「んー無邪気な笑顔。僕のこと怒ってないの?」

「名前を隠してただけですし。それにホノルルさんが『あの男は意味もなく人をからかうから』って」

「アハハ! オブラートに包みすぎて台詞が原型留めてないじゃあないか!」

 

 グリオマンPさんは大げさなリアクションでのけ反る。

 この人と会うのはこれで二度目。最初の印象とおんなじでやっぱりチグハグだなあ。今も笑ってるのに楽しいとは思ってないみたい。

 

「いや失敬。今日は君にいい話を持ってきたんだ」

「いい話……?」

 

 いったいなんだろう。こういうお話って、裏があったり大変な目に遭うのが物語のお約束だよね。

 でもでも、わたしはお金持ちだから! 怪しいもうけ話にはだまされないよ。

 

「そう身構えなくていい。僕はね、君の活躍ぶりを聞いてスカウトしにきたのさ」

 

 はてな。斥候(スカウト)をする、ってどういうことだろう。

 

「ジョブの【斥候】じゃあないぜ。確かに今日は挨拶と様子見がメインではあるけれど、それはそれ。意味するところは在野からの引き入れだ」

「なるほど! モデルとかアイドルみたいな!」

「そうそう。君は無所属だろう? 僕のクランに入る気はないかな?」

 

 クランかあ。興味はあるよ。

 他のゲームでいうギルドみたいなもので、何人かを集めて結成する団体だよね。

 知っているのは生産系の<ルルリリのアトリエ>にPKクランの<K&R>、あとはバイトしたことがある<Wiki編纂部>や<ウェルキン・アライアンス>とか。

 何度か誘われたんだけど……足を引っ張っちゃうといけないから、初心者から中級者くらいに成長して、ピンとくるクランがあれば考えるつもりだった。

 

「どうしてわたしなんですか?」

「君に一目惚れしたからさ」

「…………」

「……おっといけない。今のはジョークだとも。だから大声を出すのは止めるんだ。君は可愛らしい女性ではあるけども、悲しいかな、僕のストライクゾーンからは天と地ほどかけ離れているんでねえ」

 

 冗談とわかってても、気分は良くない。

 言葉から伝わる感情も好奇心であって「好き」とは方向がぜんぜん違う。

 

「気分を害したなら謝罪しよう。だけど、君の能力に一目惚れしたってのは間違いじゃあないんだ」

「わたしはレベル低いですよ。初心者ですし」

「<マスター>の強みは千差万別の<エンブリオ>だぜ。中には君のような戦闘に直結しないタイプもある」

 

 かくいう僕もその口だ、とグリオマンPさん。

 

「実を言うと、僕は商売の傍らに遺跡の研究をしている。これがまた厄介でねえ。古代の文献を読み解くのに苦労しているわけさ」

「へー! すごいですね!」

 

 ちょっと見直した。変な人だと思ったら、頭のいい変な人だったらしい。

 だって研究者だよ。わたしよりずっと勉強ができるってことだ。やっぱり白衣とか着るのかな?

 

「君の<エンブリオ>には言語系のスキルがあるはずだ。是非その力を貸してほしい」

 

 さて、どうしよう。

 グリオマンPさんの目的はわかった。研究に真剣な気持ちが伝わってくる。困っている人がいて、わたしにできることがあるなら手伝ってあげたい。

 だけど、クランに入るかはまた別の問題だ。わたしにはやらなきゃいけないことがある。それを優先してクランに迷惑をかけちゃったら悪いもんね。

 

「うーん……」

「迷ってるねえ。じゃあメリットを提示しようか。クランに入ってくれたら、僕は君のパトロンになれる」

「パトロン?」

「君が欲しいものを用意できるってことさ。例えば……ドラゴンの情報とか」

「本当ですか!」

「商売柄いろいろな噂を耳にするからねえ。君がチビドラちゃんの母親を探していることは把握済みだとも」

 

 その言葉で、肩に乗ったジェイドが反応する。

 わたしはクエストやレベル上げと並行して情報を集めてきたけれど、これといった手がかりは見つかっていない。

 わたしよりベテランで、人と関わることが多い商人のグリオマンPさんなら、まだ知らない情報を持っている可能性は高そうだ。

 

「<DIN>と別口の情報源は各種取り揃えてるぜ。どうだい、欲しいだろ?」

Rrrrr(しりたいよ)!』

「そうだね。グリオマンPさん、わたしクランに入ります! だから知っている情報を教えてください!」

「交渉成立だ。然るべき対価を支払ってくれるなら、いくらでも支援をしようじゃないか」

 

 わたしは差し出された手をしっかりと握り返した。

 

「<仮面兵団(マスカレイド)>にようこそ。僕らは新しい風を歓迎する」

「はい! これからよろしくお願いします!」

 

 ……クラン名、なんだか穏やかじゃないね?

 

 

 ◇

 

 

「ひとまずクラン加入の手続きは終了だ。残りは僕一人で問題ないから、こちらで処理しておこう」

「うぅ……手が……」

Rrrr(だいじょうぶ)?』

 

 大衆食堂の席を借りて、何枚もある書類にひたすらサインし続けたわたしの手はプルプルと震えている。

 必要だって言うから書いたけど、こんなにたくさんの【契約書】を使う意味はあるんだろうか。もしかしてブラックなところに入っちゃった……?

 

「ごめんごめん。こうしないと後で文句を言う輩がいるんだ。好き勝手に内輪揉めされても面倒だし、先に契約で縛るのがうちの慣習なのさ」

「クランというより会社みたいな……でも、メンバー同士でケンカするんですか? よくないと思いますよ!」

「本当にそうだよねえ。やるなら一声かけてくれなきゃ。ま、基本的にお遊びかじゃれ合いの範疇だよ。たまに殺し合いになるけど

 

 わたしの先輩たちは血の気が多いらしい。

 ううん、グリオマンPさんの冗談だと信じよう。

 きっと最後の一言は空耳だよね。

 

「物騒な奴らばかりでもない。血を見るどころか人を傷つけるのだって嫌うお人好しもいる。プレイスタイルとスタンスはわりかしバラバラだから安心してくれたまえ。強いて共通点を挙げるなら……かぶりものくらいかねえ」

「だから“仮面”兵団なんですね! わたしも買ったほうがいいかな」

「別に要らないぜ? たまたま、何かしら顔を隠す装備を持っているだけだ。僕のはコレね」

 

 スチャッと取り出されたのはクリアバイザー。

 SF映画に出てきそうなデザインだ。そういえば、ゲームの中で機械っぽいアイテムを見るのは初めてかも。

 

「かっこいいです!」

「おっ、わかるぅ? どうやら君は見る目があるねえ! 在庫が余っ……たくさんあるから一つ進呈しよう」

 

 ちなみに、バイザーはサイズが合わなかったので「次までに調整しておこう」とすぐ回収された。

 

「話を戻すと、このクランに共通する目的や規則はない。国家所属じゃないからメンバーはそれぞれ自由に活動している。基本は好きにやってくれ」

「さっきと言っていることが違うような……」

「自由と無秩序は別物。最低限のルールを守ってたら、【契約書】に抵触することはないはずだしねえ」

 

 たしかにその通りだ。なんでもできるからといって、なにをしてもいいわけじゃない。

 わたしはPKや犯罪をするつもりはぜんぜんないからだいじょうぶだろう。

 

「困ったときはメンバーを頼るといい。七大国家に一人はいるから、探せば協力してくれるんじゃあないかな」

「王国にはグリオマンPさんのほかにいますか?」

「勘違いしているようだけど、僕の拠点は皇国。アルター王国の担当は別にいる。後で紹介しよう」

 

 ちょうど熱々の料理がテーブルに運ばれてきて、グリオマンPさんは口を閉じる。

 わたしが書類を書いている間に注文したみたい。どれもおいしそうだ。ちゃんと従魔用のご飯もある。

 

「ささやかだけどお祝いだ。好きなだけ食べていいよ」

「うわぁ、ありがとうございます! いただきまーす!」

 

 このお肉ジューシー! 厚めに切ってあって、噛めば噛むほど肉汁が染み出してくる。しっかりした弾力があるのに柔らかい。甘辛いソースの風味が食欲を刺激する。

 

「クランの説明はこの辺りにして、お互いの利益について詳細を詰めていこうか。まずは……」

 

 サラダはボウルにたっぷり。シャキシャキのお野菜とドレッシングをからめたらフォークが止まらない。

 あ、パンのおかわりは自由なんだ。ひとつはお肉とサラダを挟んでサンドにしちゃおうかな。

 

「食べながらで構わないから、話を聞いてほしいねえ」

「むぐっ」

Rrrr(もぐもぐ)

 

 いけない、つい食べることに集中してた。

 

「君の要求はドラゴンの情報で間違いないね」

「はい! どんな小さいことでもだいじょうぶです! あるだけください!」

「オーケー。じゃあどうぞ」

 

 渡された封筒に目を落とす。ベージュ色の紙は上品な手触りで、金色の箔押しで飾られている。

 中身はなんだろうと思って開けてみると、入っていたのは一通の手紙。しかも場所と時間しか書かれていない。

 あれ、これだけ?

 

「これは招待状。君はこの場所に向かって、秘密のお茶会に参加するんだ」

「ちょっとワクワクするかも……じゃなくて! わたしは情報をお願いしたんですよ!」

「おいおいサラちゃん。もしかして君は、何の労力もなくタダで欲しいものが手に入るとでも思っていたのかい? 僕は言ったはずだ。『対価を支払うなら支援をする』と。クラン加入は前提条件に過ぎないのさ。きちんと【契約書】は読まないとねえ!」

「お、おとなげない!?」

 

 さっきパトロンになれるって……と思ったけれど、はっきり『なる』とは言ってなかった。だまされた!

 これじゃ普通のクエストとおんなじだ。支援っていったいなんだろうね。

 

「文献の解読と引き換えでも良かったんだけど、まだ復元中でねえ。出せる依頼はこれくらいなんだ。後払いは信頼関係を築いてからじゃないとだし」

 

 むう、信用されてないのはちょっとショックだ。

 しょうがない。今はできることをしよう。ちゃんと仕事をしたら認めてもらえるはず。情報はそれからだ。

 

「それで、わたしはなにをしたらいいですか? お茶会に参加するだけ?」

「いや。とあるアイテムの所在を調査してもらいたい」

 

 首を傾げたわたしにもわかるように、グリオマンPさんは詳しい説明を始める。

 

「お茶会の主催者はタカクラ夫妻。商人として成功したご年配の<マスター>だ。僕も良いお付き合いをさせてもらっているんだけど……先日、直前になって取引の中止を申し出てこられた。やはりこれは売れない、と」

「それが探してほしいアイテムなんですね」

「その通りだ。煌玉獣――魔力を動力源にする機械で、先々期文明が遺産のひとつ。要するにすごいレアアイテムと考えてくれたらいい。市場価格だと数億はくだらない代物だぜ」

 

 数億! わたしの感覚とは桁がふたつ違う。

 ひとつでそれだけの値段になるアイテムもすごいし、数億のアイテムを買うことを当たり前みたいに話すグリオマンPさんもすごい。

 

「ご夫妻は取引に前向きだったから、どうも不自然でね。他の買い手が見つかったのかもしれない。もし売却済みなら誰に売ったのか聞き出してほしい。まだ売られていないのなら、ご夫妻の説得を頼みたい」

「わかりました! がんばってお願いしてみます!」

Rrrrrr(えいえいおー)!』

 

 はじめての経験だからちょっと緊張するね。

 だけど、刑事ドラマやミステリーに登場する探偵みたいで楽しそう。

 

「それと、ご夫妻はゲームがお好きだ。お茶会は招待客と一緒に遊ぶ口実なのさ。招待客がゲームに勝てば、ご褒美に何でも願いを叶えてくれるそうだよ。もちろんご夫妻ができることに限るけどねえ」

 

 これはたぶんグリオマンPさんの誠意だ。

 きちんとドラゴンの情報をゲットできるチャンスは与えたぞ、ってことだと思う。

 もしわたしが調査を失敗したときはレアアイテムについて質問することになるだろう。その場合でもグリオマンPさんからは報酬をもらえるもんね。

 

 よし、決まり!

 今回の目的はアイテム探しとゲームに勝つこと。

 絶対に成功して、ジェイドのお母さんの手がかりを見つけるんだから!

 

 クエスト、スタートだよ!

 

 To be continued

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