長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
(U・ω・U)<まずは前話をお読みください
□自然都市ニッサ 【高位従魔師】サラ
「ニッサにとうちゃ〜く!」
アルター王国の南西、ニッサ辺境伯領。
森と山の大自然に囲まれたこの辺りは隣国のレジェンダリアと交流が活発なのだそう。
街を見渡すと、王都やギデオンと比べて獣人や妖精といった人たちが多い。よりファンタジーな雰囲気を味わえる地域だね。空気がどことなくきれいでおいしい。
馬車を借りて、地図を片手に旅をすること数日。
途中に森で迷ったり、モンスターに襲われたりしながらも、なんとか無事に目的地までたどり着いた。
もちろんわたし一人でがんばったわけじゃない。
「アリアリアちゃんのおかげだね」
「気にしなくていいわ。疲れたけどいいレベリングになったもの」
ひさしぶりにパーティを組んだアリアリアちゃんは前よりずっと強くなっていた。フィールドのモンスター相手なら一人で倒してしまえるくらいだ。
最近は経験値ブーストアイテムがなくなるまで狩場にこもってレベル上げをしていたらしい。下級職三つに上級職一つがカンストしたとか! おんなじ時期に始めたのに、アリアリアちゃんはどんどん成長していてすごいよ。
「でも足りないわ。もっと強くなって、決闘ランカーどもに一泡吹かせてやるんだから」
「その意気だよ! ファイト!」
わたしも負けてられないな。今回は腕試しを兼ねてアリアリアちゃんが護衛になってくれたけれど、いつも頼ってばかりじゃいけない。
クラン(というよりグリオマンPさん)の依頼や手に入った情報を確認するために、これからは遠くに出かけることが増えるだろう。レベル上げは必須だね。
「それで? 街に着いたのはいいけれど、次はどうするのかしら。観光に来たわけじゃないんでしょう?」
「あ、そうだった! えっと……招待状に書いてある場所は……あっち! たぶん!」
「向こうは山しかないわよ。ほら貸しなさい」
地図と座標を確認したアリアリアちゃんは、迷いのない足取りでスタスタと歩き出した。
置いていかれないように、わたしは後をついていく。
土地が離れていると街全体の雰囲気も変わるのか、人や建物を見ていると不思議な気持ちになってくる。
見慣れない風景にドキドキとワクワクを感じるのは、いつの間にかギデオンでの生活があたりまえの日常になっていたせいかもしれない。
「用事が済んだら街を探検してみようか」
『
「ご飯を食べてー、お買い物してー。あ、見晴らしのいいところで写真も撮ろう!」
『……
楽しいことは共有しないと。
自分ばっかりになったら従魔師失格だもん。
今回はニッサに来るだけで大変だった。これから目的の調査をするんだから、終わったらみんなヘトヘトだろう。
がんばったご褒美があったっていいよね!
「ところでアリアリアちゃん」
「何かしら」
「気のせいだったらごめんね。さっきからおんなじところをぐるぐる回ってる気がするよ?」
「あら、それは言いがかりよサラさん。確かに道中の森では何回も道を間違えたけれど、この私が短期間で同じミスをすると思う?」
「ううん。疑ってごめんね」
「別にいいわ。それと私からも謝らせてちょうだい――どうやら迷ったみたい」
堂々としているから流しそうになったけど、やっぱり迷子になってたんだ!?
「大丈夫よ。マップを見る限り、同じ道は通っていない。つまり前進しているわ。この道を歩けばきっと目的地に辿り着けるはずなの」
「そうなんだ。いつぐらいに着きそう?」
「それが分からないのが問題ね。この道はどこまで続いているのかしら」
「哲学っぽいね!」
最短距離はどのルートかしら、と言いながら地図とにらめっこするアリアリアちゃん。
わたしはわたしでやれることをやろう。とりあえず道を知ってそうな人に話しかけてみようか。
「こんにちは!」
『……?』
道のすみっこに座り込んでいたその人は、わたしの声に反応してゆっくりと顔を上げた。
「すみません、道を教えてほしくて」
『やあ。きょうは、いいてんき、だね』
「え? そうですね。お日さまが気持ちいいです」
『みち、ね。きみは、まいご、かな?』
「はい。ここに行きたいんですけど、わかりますか?」
『おひさま。いいね。ぽかぽか、だ』
その人は大きな体を揺らして、鼻水を垂らしたまま、ニカーッと笑う。
『きみ、まいご。ぼくも、まいご。いっしょ、だね』
……あれれ。道は知らないっぽい。
「サラさん? 人助けは感心だけど、迷子が迷子を抱えてどうするのかしら」
「わたしもびっくりだよ。でも、この人をこのままにはできないかなって」
「どう見ても大人じゃないの、放っておきなさいな。まずは自分たちを最優先に考えなきゃ。時間通りに指定された場所へ向かう必要があるんだから」
それはそうなんだけど。
この人、しゃべり方や仕草は子どもみたいだ。今はわたしが腰に下げた【萌芽の横笛】を引っ張って遊んでいる。
『わあ。ぼく、これ、しっているよ。おとが、なるよ。きれいな、おとだ。ふいて。ねえ、ふいておくれよ』
「うーん。じゃあ一曲だけ」
「ちょっと」
「すぐに終わるから」
【横笛】を構えて、頭に浮かんだ譜面を指でなぞった。
どこかもの悲しい旋律が風に乗って響き渡る。
なんでバラードを選んだのかは自分でもわからない。ただ、この人に聞いてもらうならこれしかないと思った。
演奏が終わっても、その人は目を閉じて残響に耳を澄ませていた。ゆっくり十秒数えてから立ち上がり、ふるふると力なく首を振る。
「気に入らなかった?」
『ううん、よかった。すばらしいよ。でも、そーまじゃ、ない。ますたーも、いない。それが、とても、かなしい』
「よくわからないけど……あなたの大切な人なんだね」
『かぞくが、いたよ。ここにも、いた。だけど、いない。もう、どこかに、いってしまった』
悲しみに押しつぶされてしまいそうな声だ。
さびしい、つらい、苦しい。言葉にならない悲鳴を聞いていると、わたしも涙がこぼれそうになる。
『ひびく、おもい。つながる、こころ。それは、だれにも、たちきれない。だから、ぼくは、たびをする』
つぶやきは力と意思がこもっていた。
まるで自分をはげますような言葉だった。
『じゃあね、ばいばい。ぼくは、ふーる。【くれまちす・ふーる】。たびびと、さ』
その人は手を振り、ヨタヨタとどこかに立ち去った。
「……何だったのかしら」
『
「休憩してたんじゃないかな。ずっと歩いてきて疲れてたんだよ、きっと」
さてと。わたしたちもいかなくちゃ。
他の人に道を教えてもらおう。一人くらいは道を知っているに違いない。それでもダメならメニューのマップを見てスタートの馬車乗り場に戻ればいい。
理由はわからないけれど、運のいいことに街の人たちはわたしの周りで足を止めている。なにかを期待して待っているのかな、と考えていると、人だかりの中から女の人が進み出る。
「サラ様とお連れの方でいらっしゃいますね? ご主人様の言いつけでお迎えにあがりました」
裾の長いエプロン付きのスカートを汚さないようにしながら、きれいにお辞儀をしたのはメイドさんだった。
見惚れてしまうくらいの美人で、髪をまとめたキャップから二本の角が飛び出している。肌に鱗があるから竜人だろうか。
「それはお勤めご苦労様。にしても、よく私達の居場所が分かったわね」
「美しい音色が響いておりましたので。彼らもまた、サラ様の旋律に魅入られたのでしょう」
「そうだったんだ! えっと、ごめんなさい! 用事があるから演奏はこれでおしまいです!」
わたしの言葉を聞いた人だかりは散り散りになる。中には拍手や投げ銭をくれる人もいた。
喜んでもらえた嬉しさと、褒められてちょっと恥ずかしい気持ちが混ざって複雑だ。ほどほどで切り上げて、わたしはメイドさんの元に向かった。
「それでは屋敷までご案内致します」
◇
タカクラさん夫婦のお屋敷は、街から少し離れた場所に建つ洋館だった。
広大な敷地を囲うのはレンガ造りの塀と高い柵。年月を重ねた壁を覆うツタ、閉め切られた鎧戸、どれもレトロな外観でおもむきがある。庭園には遊具や射的場、テニスコートのようなスペースまであった。
「ご主人様は体を動かす遊戯も嗜まれます。あちらの花壇は奥方様が手ずからお育てになったものです」
「すごい広いね! 学校の校庭何個ぶんかな」
「金持ちの道楽だわ……いくら使ったのやら」
洋館は二階建てで、横に広い構造だ。上から見るとコの字型になっている。玄関はコの字の縦線部分だね。
シックな木製の扉を開けると、テレビやドラマで見るようなお決まりの内装が目の前に広がる。天井にキラキラしたシャンデリアが吊るされて、床には足が沈むくらいふかふかの絨毯。正面の階段と踊り場、そして二階まで敷かれていた。廊下には絵画、銅像、珍しい装備品といったレアアイテムが飾ってある。
「ご主人様の蒐集品です。ごく一部に過ぎませんが」
「もっとあるんですか? 見せてもらうことって……」
「私の一存ではお答えしかねます」
そう簡単にはいかないか。
目に入るところに煌玉獣は飾られていない。価値の高いコレクションは別の場所にしまってあるんだろう。
(本人を問い詰めるのが手っ取り早いんじゃない?)
(だね。でも暴力はダメだよ)
短剣状態のマーナガルムを握るアリアリアちゃんをたしなめる。メイドさんを人質に、とか考えないでね。
「ご主人様、サラ様をお連れしました」
メイドさんはノックをした後、扉を開けてわたしたちを部屋に招き入れる。
「この先が客間となります。既に皆様お揃いです」
どうやらわたしたちで最後だったみたいだ。
緊張しながら中に入ると、話し声がピタリと止んで、視線がいっせいに集中するのを感じた。
お菓子が載った長机に座っているのは全部で九人。空いている席は二つ。わたしとアリアリアちゃん、メイドさんを合わせたら十二人が今回のお茶会のメンバーらしい。
性別や年齢はバラバラ。ただ、わたしたちのほかに子どもはいない。一番奥にいるおじいさんとおばあさんがタカクラ夫婦だろう。
「ムォッホン。ようこそおいでになられた。儂がゲンジ・タカクラだ。こちらは家内の」
「ユウコ・タカクラです。ふふ、かわいらしいお客様が来てくれて嬉しいわ」
ちょっと険しい顔をしたおじいさんがゲンジさんで、優しそうなおばあさんがユウコさんだね。
「サラといいます! よろしくお願いします!」
「Mr.タカクラ、Ms.タカクラ。本日はこのような席にお招きいただきありがとうございます。彼女の護衛として参りました、アリアリアと申しますわ」
「うむ、グリオマンから話は聞いている。代理とはいえ客は客だ。是非楽しんでいってくれ」
勧められるまま、わたしは席に腰掛ける。
するとメイドさんが何もないところからティーセットを取り出して、お茶を注いでくれた。すごい、手品みたい!
仕事を終えたメイドさんが部屋のすみっこに立ったところで、ユウコさんがこう言った。
「全員が揃ったのだから、まず自己紹介をしましょう」
みんな初対面だもんね。慣れている様子だし、お茶会はいつもこうやって始まるのかも。
自己紹介を済ませたタカクラ夫婦とわたしたち以外で、一人ずつ名前を言っていくことになった。
「ネイサン・ハンターだ。好物はハンバーガーとレアステーキ。あとは妻の手料理だな」
まずはたくましい男の人。筋肉が服から盛り上がっている。笑ったときに真っ白な犬歯が目立った。
「ポラリスです。普段は西方三国を渡り歩いています」
次は中性的な顔立ちの美人。髪が長くて、ローブを着ていると魔法使いみたい。両目は眼帯を巻いて隠している。
「私の名前は赤井ドイル。ただの一般人だ」
胸を張ってふんぞりかえる青年。帽子にコート、煙管をくわえた格好はある職業を連想するね。
「ブラン・ゴーシュラムと」「ノワル・ドロワラム」
「見ての通り」「双子よ」
「「よろしく」」
白髪のブランさんと、黒髪のノワルさん。顔はそっくりで、髪と装備の色以外だと見分けられそうにない。
「はーい僕はカフカ! 自由の国のH大卒、商社勤めです! ちなみに今のは全部嘘ー!」
わざわざ立ち上がる女の人。陽気な感じだ。でもバベルのなんちゃって《真偽判定》が反応している。
「……ムカダテだ。この屋敷で雇われている」
かすれた声をしたおじさん。見た目はしわくちゃだけど、動きはなんだか若々しい。
「私もでございますか? ……かしこまりました。TYPE:ガーディアン、【愛埋母娘 ドラゴンメイド】でございます。屋敷の管理を任されております。お困りの際は何なりとお申し付けください」
最後にメイドさん。
これで全員の自己紹介が終わった。
一度にたくさんの名前を聞いたから、ごちゃ混ぜにならないようにあとで整理しておこうかな。間違えたりしたら失礼だものね。
「さて……本題に移るか。今から、ここにいる者はゲームのプレイヤーだ。勝者には儂ができる限りの望みを叶えよう」
とたんに部屋の空気がピンと張り詰める。
お互いに様子をうかがい、出し抜こうとする緊張感。
何のゲームをするのかという疑問。
そして自分が勝つという強い思い。
お茶のカップが震えているのはみんなの気迫のせい?
「前置きは十分だジェントル。それで、俺たちが競う内容は? チェスか? それともポーカー? TRPG? ボードゲーム? ダーツやビリヤードなんてのもあるな。別にスポーツや、
「落ち着け、ミスター・ハンター。純粋な力比べは儂らが楽しめんだろう。今回のゲームは――謎解きだ」
ネイサンさんはあからさまに残念そうな顔をする。よっぽど腕に自信があるんだろう。
でも安心したよ。頭を使うゲームなら、直接対決のバトルよりは勝つチャンスがある。
「ルールは簡単だ。『失われたものを探し出せ』。範囲は屋敷内。中庭はありだが、外の庭園は含めない。制限時間は七度、日が沈むまでとする。何か質問は?」
ゲンジさんの問いかけに、まず手を挙げたのは赤井ドイルさんだった。
「『失われたもの』とは何だね? 具体的な特徴は?」
「答えることはできん」
「それはいくらなんでも無理難題だろう! 手がかりもなく、存在するかも分からないものを探せだと? 仮に見つけたとして、それが正しいか判別できなかったらあなたは簡単に言い逃れできてしまう!」
「ふむ……ではヒントを与えよう。それは『この場の全員が正解と分かるもの』だ。他には?」
次に発言したのはポラリスさんだ。
「私からも一つ。制限時間についてですが、少し長過ぎはしませんか?」
「儂は妥当な設定だと考えている。ちなみに制限時間内であれば、途中のログアウト・ログインは咎めない。気兼ねなく休息を取り、ゲームを楽しんでくれ」
「では、制限時間までに誰も目標を達成できなかった場合はどうなるのです?」
「勝者は無し、ということになる。他には?」
「はいはいはーい」
ぐいと、カフカさんが身を乗り出してアピールする。
「このゲームって、おじいちゃんたちも参加するの? 答えを知ってるんだからズルくない?」
「確かに、儂とユウコは正解を知っている。故にプレイヤーではあるが積極的に参加することはない。それぞれ屋敷の一室にとどまり、制限時間直前になるまで行動しない」
「じゃあ追加で質問。『失われたもの』を見つけたとして、それを奪った場合はどうなるの?」
「言うまでもないことだけど、これはゲーム。皆が楽しく遊ぶために、乱暴は控えてちょうだいね。あまりひどいと失格になってしまうわ」
なるほど。ユウコさんの注意はありがたいね。
デンドロは他のプレイヤーを攻撃できるから、レベルの高い人が一人勝ちしないようにするルールってことだ。
「……質問は出揃ったようだな。ゲーム中、気になったことがあれば随時質問は受け付ける。ただし必ず答えるとは限らない。それと、プレイヤー一人につき一部屋、鍵のかかる寝室の使用を許可する。自由に利用してくれ。それでは――ゲーム・スタート」
ゲンジさんの宣言でみんなはいっせいに立ち上がり、客間を出ていった。
残ったのはわたしとユウコさん、そしてメイドさんの三人だけだ。
「……あら。あなたは探しに行かないの? 先を越されてしまうかもしれないわよ?」
「お菓子が食べたくて。いちおうお茶会ですから」
「まあ! そう言ってもらえると嬉しいわ。これ、私が作ったのよ。はいどうぞ。食べて食べて」
質問タイムの間、こっそり作戦会議をした。
わたしの目的は煌玉獣。だからタカクラ夫妻に聞いてみるのが一番の近道。ゲームのクリアは後回しでいい。
というわけで、わたしとアリアリアちゃんは別れて行動することにした。ルールがあるから、ゲーム中は危ないことも起きないだろう。
アリアリアちゃんは謎解きゲームに。
わたしはタカクラ夫妻とお話しする。
ゲンジさんが客間から出ていってしまったのは予想外だったけれど、今はユウコさんと二人(メイドさんを入れたら三人)で話せる機会だ。
「どうかしら? お口に合うといいのだけど」
『
「とってもおいしいです! お茶会のときは、いつも手作りしてるんですか?」
「そうなの。メイさん……ドラゴンメイドのことね。彼女がいるから家事は任せていいと分かってはいるのよ? でも、やっぱりお客様をもてなすお茶菓子くらいは妻の私が用意したいじゃない」
「そのような事を仰られないでください。私など、奥方様の足元にも及びません」
「本当に? だってあの人、最近はメイさんの料理ばかり口にするのよ。お茶会のお客様も、お菓子に目もくれずゲームばかりなんだもの。なんだか張り合いがないわ」
「そんなことないと思います! だってこのお菓子、こんなにおいしいんですよ! ゲンジさんもおいしいって思ってくれてるはずです! これも食べさせてあげたいくらい!」
「あらそう? そこまで言うなら……メイさん、悪いのだけどいくつか包んであの人に届けてくれる?」
「かしこまりました」
指示通り、メイさんは布で包んだお菓子を持って部屋を出ていった。
思ったままにお菓子のおいしさを力説しただけなのに……これはもしかしてラッキーなんじゃ?
「てっきり二人は客間で待つのかと思ってました」
「私は
「書斎ってどこにあるんですか?」
「二階の東、突き当たりの部屋よ。ここは一階だから、プレイヤーが質問しやすいように分かれたのね」
なるほど。何度も階段を昇り降りすると大変だもんね。
「そうだわ。食べながらでいいから、あなたのお話を聞かせてちょうだいな。ゲームの中でもないと、若い人と接する機会がないの」
「よろこんで! ジェイド……あ、この子の名前なんですけど……」
それからしばらく、わたしは自分がデンドロで体験したことをユウコさんに話した。ユウコさんはときどき相槌を打って、楽しそうな反応を返してくれる。
あれ? なにか忘れているような。
『
「あ!」
「サラちゃん? 急にどうしたの?」
いけない。話すのが楽しくて、目的を見失っていた。
「気になってたことがあるんですけど、廊下に飾ってあるものはゲンジさんのコレクションですよね?」
「ええ。あなたのように戦ったりはできないけど、商売をして、アイテムを集めるのもゲームの醍醐味だからって。それが何か?」
「わたし、レアアイテムに興味があるんです。よかったら飾られてないコレクションも見せてもらえませんか?」
「……そうねえ。見せてあげたい気持ちはあるのだけど、あの人に聞いてみないと何とも言えないわ」
むむむ。ちょっと突然すぎたかな。
あんまりしつこいと怪しまれてしまう。今、ユウコさんから話を聞くのはこれが限界かも。
こうなるとゲンジさんとお話しなきゃだ。
そろそろお茶会を失礼して、二階の書斎に向かおうか。
ふと顔を上げると、閉じた窓の隙間からは真っ暗な闇が差し込んでいた。
お話に集中していたから夜になったことも気がつかなかった。お日さまが沈むのはあっという間だね。これで早くも制限時間の一日が過ぎてしまったことになる。
「そういえばユウコさん。メイさん遅いですね」
「確かに、もう戻ってきてもいいはずだわ。二階に行くだけでこんなに時間がかかるものかしら」
……なんだかいやな予感がする。
「ユウコさん! 書斎に行きましょう!」
「え? ええ」
わたしたちは急いで二階に向かう。
このお屋敷は広いから、わたしが全力で走って書斎までは数分以上はかかる。
バタバタと走る足音を聞きつけて、他の参加者もなんだろうと後をついてきた。
ユウコさんの言葉通り、書斎は東の廊下の突き当たりにあった。扉には鍵がかかっていてびくともしない。
「鍵はありますか!」
「か、鍵……ええと、あの人が持っているものと、メイさんのマスターキーだけよ」
つまり開けられない……!
「あら、部屋に入れないの? ならこうすればいいじゃ、ないッ」
一瞬のためがあって、ヒュッと空気を切る音がした。
頭の上を通ったなにかが鍵ごと扉を吹き飛ばす。
力・イズ・パワーの力技。こんなためらいのない蹴りをできるのは一人しかいない。
「ナイスだよアリアリアちゃん!」
「どういたしまして。……何かあったみたいね」
異変を察したアリアリアちゃんはルゥを呼び出した。
わたしもジェイドに警戒をうながす。
書斎に入ったわたしたちは、信じられない光景を目にして固まった。
倒れた本棚、ビリビリに破れた紙。するどい刃物で斬ったような傷が壁や床一面につけられていて、無事なものはひとつとしてない。それは物に限らず。
――メイド服の女性が、血だらけで倒れていた。
「メイさん!」
大声で叫んだユウコさんは駆け寄って、血の池からメイさんを助け起す。
「奥方様……申し訳ありません」
「大丈夫なの!? いえ、喋らないで。まずは手当を」
「私のことは、いいのです……それよりも、ご主人様が……」
メイさんの指差す先。
書斎の中心。立派な机と椅子があっただろう場所。
今はもうガラクタになってしまった家具の隣に、大量のアイテムが散らばっていた。
「嘘……だよね……?」
安全だったはずの謎解きゲームは――ゲンジさんのデスペナルティで、殺人事件に変わってしまったのだった。
To be continued
サラのノート
ゲームのルール
・『失われたものを探し出せ』
→参加者の全員が正解とわかるもの
→力づくで奪うのは×
・屋敷の中だけ、中庭はあり
・制限時間は『七度、日が沈むまで』
→タイムオーバーは勝者なし
・ログイン・ログアウトは自由
→鍵つきの寝室が使える
・タカクラ夫婦は答えを知っている
→質問できる、部屋から動かない
参加者リスト
・わたし(サラ)
・アリアリア
・ゲンジ・タカクラ
→夫婦、書斎(2F東)でデスペナルティ
・ユウコ・タカクラ
→夫婦、客間(1F)で待機
・ネイサン・ハンター
→力自慢?
・ポラリス
・赤井ドイル
・ブラン・ゴーシュラム
→双子、白髪
・ノワル・ドロワラム
→双子、黒髪
・カフカ
→嘘つき?
・ムカダテ
→タカクラ夫婦に雇われている
・メイさん(ドラゴンメイド)
→TYPE:ガーディアンの<エンブリオ>
→屋敷のマスターキーを持っている
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<はい、前半は今後の伏線
(U・ω・U)<そして後半はミステリーの導入でした
Ψ(▽W▽)Ψ<作者は推理もの書けるドラ?
(U・ω・U)<おそらくメイビー無理でござる
(U・ω・U)<不備があったら修正入れるので、あたたかい目で見守ってください
(U・ω・U)<ひとつだけ読者にヒントをあげるなら
(U・ω・U)<犯人はこの中にいる