長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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クビキリサーチ

 □タカクラ邸・一階東 【高位従魔師】サラ

 

「ここなら落ち着いて話せる」

 

 相談がある、というムカダテさんに案内されたのは一階東にある部屋だった。二階の個室より広々としている。

 わたしたちの部屋はホテルみたいだったけど、この部屋は物が散らかっていて生活感があった。モンスターの毛皮とか角が飾られているのが特徴的だ。ジェイドは剥製にびっくりして羽毛を逆立てている。

 

「ここは……」

「私の部屋。雇われの身だからさ、一室使わせてもらってるの。わざわざ客室を使う必要がないってわけ」

 

 ムカダテさんは明るい口調のままだ。他に人がいないのと、リラックスしているからだろう。

 

「さっきはごめん。よく知らないおじさんに掴まれたら怖いに決まってるじゃんね」

「わたしこそ、助けてくれたのにごめんなさい。もうだいじょうぶです! ところで相談って?」

「何から話したもんか……まずはアイスブレイクしよ」

 

 どうぞ座って、と促された。

 椅子や机は見当たらない。屋敷は西洋風でも、この部屋だけは和風っぽい。あと作業場に近い雰囲気がある。

 わたしは敷いてあった座布団に正座する。

 

「改めて、私は【鬼猟師】ムカダテ。見た目はおじさん、中身は可愛い女の子だよ」

「ちょっと気になったんですけど、性別が違うアバターってどんな感じですか? キャラクリエイトのときにオススメしないって言われたような」

「トイレとか風呂でなまら困る」

 

 な、なるほど。深く聞くのはやめとこう。

 

「お屋敷で雇われてるんですよね」

「タカクラさんは商人でしょ。用心棒がいると便利なんだって。専属の護衛と狩人を掛け持ちするの」

 

 街道には盗賊やモンスターが出るからね。一回ずつクエストを出すより、自分で強い人を雇うほうが楽かもだ。

 商売で必要な素材を集めてもらうことだってできる。

 

「だからさ、責任感じるよね。私がちゃんとしてたら事件を防げたはずじゃん」

 

 悔しげにぎゅっと拳を握るムカダテさん。

 申し訳なさそうな様子を見て、なんとなく、この人は犯人じゃないなと思った。

 

「で、絶対に犯人を捕まえてやろうと思ったの」

「……あなたもアリアリアちゃんを疑ってるんですか?」

「違う違う。あの場は流れに乗せられたけど、たぶんあの子は犯人じゃない。もし疑ってたら屋敷を探してるし、君に相談を持ちかけたりしないよ。むしろ逆、犯人探しに協力してほしい。サラなら信用できる。あの子の濡れ衣を晴らすことができるメリットもある。どう?」

 

 わたしとしては、味方が増えるのは心強い。

 断る理由はないよね。

 

「はい! 一緒にがんばりましょう!」

「ありがとう。さっそくだけど、これを見て」

 

 わたしに見えるように置かれたのは名簿。

 ゲーム参加者の名前と、簡単なプロフィールがまとめてあるリストだ。何人かはメインジョブと<エンブリオ>の情報まで載っている。

 

「すごい細かい!」

「外部の参加者は<DIN>で調べた。気がかりなことがあったから念には念を入れてね。こんなもの、使わなければそれで良かったのに」

「気がかり?」

「……ここだけの話、前回のお茶会で泥棒が入ったの。私はログインしていなかったからタカクラさんに聞いた話だけど。特に物置は酷い荒らされ方だったみたい。また同じことが起きるかもしれないからお茶会もゲームも中止しようって言ったのに、タカクラさんたちは言う事を聞いてくれなくて」

「それで情報を調べたんですね。もしかして、ゲームに参加したのは他の人を見張るため?」

「正解。マジでなまらきつかった。中庭に陣取ってーの、スキルで屋敷全部を監視してーの」

 

 腰に手を当てて体がバキバキにこったとムカダテさんはアピールする。見た目がおじさんだから、お年寄りっぽい仕草をしてもぜんぜん違和感がない。

 

「全員疑っていたけど、サラとアリアリアはシロだろうとは思った。ビルドや素行が盗みとは程遠いし善人だし」

「えへへ」

「でも残りはそうじゃない。例えば赤井ドイル。いつも謎を探しているどころか、むしろ事件を起こしかけた経歴がある。的外れな推理で関係者を激怒させたとか」

 

 赤井ドイルさんならありえそう。

 ただ、きっと推理が上手にできないだけで、人を怒らせたり逆に事件になりかけたりっていうのはわざとじゃない……と思うよ。たぶん。

 

「とりわけ気になったのは四人。まずカフカは男って書いてある。つまり性別が違う(・・・・・)

「別人、それとも変装かな」

「分からない。情報が多いのに意味不明。犯罪者って言う人もいるし、ティアンの村を助けた経歴もある。あと攻撃を受けて傷つかなかったとか、逆に回復魔法でダメージを負ったとか、毒沼を平気で歩いていたとか」

「とにかく、得体の知れない人ってことですね」

 

 証言で嘘をついていたし、情報がまるであべこべだ。

 

「二人目はネイサン・ハンター。あの人、レジェンダリアでは指名手配されている」

「え!?」

 

 ある国から指名手配を受けると、その国のセーブポイントがぜんぶ使えなくなる。

 セーブポイントは設定するとその場所からログインできる。逆に、設定したセーブポイントがぜんぶ使えない状態でデスペナルティになると“監獄”という空間に飛ばされてしまうんだとか。

 指名手配をされるなんて、よっぽど悪いことをしたのかな。そんなふうには見えなかったのに?

 

「罪状までは分からない。たぶん本人が口止め料金を払ってる。……お金積み上げてでも買っとけば良かった」

 

 隠しているところがよけいにあやしいね。

 急に犯人候補に上がってきた感じだ。

 

「最後は双子のブランとノワル。こいつらが一番怪しい。窃盗と詐欺行為で荒稼ぎしてる盗賊で、相手がティアンでも<マスター>でもお構いなし。ゲーム中も屋敷を歩き回って、他の参加者の様子を窺っていた」

「謎解きゲームで宝探しみたいなものだから、それはふつうじゃないですか?」

「物置に興味を持っていたのが気になる。盗みが成功したことに味を占めて、もう一度盗みに来たんじゃないかってこと。PKは泥棒に注意が向かないようにするためとか」

 

 なるほど。二人を殺したのはカモフラージュのためか。

 うーん、ありそうな気はする。でも……事件が起きたらお互いに見張り合うから、ブランさんとノワルさんも動きづらいんじゃないかなあ。さっぱりわからない。

 よし、考えていてもしょうがない。直接聞いてみよう!

 

 

 ◇◆

 

 

 □■???

 

 焦燥が胸を支配する。

 足りない、足りない、足りない。

 時間が足りない。知恵が足りない。手が足りない。

 無い頭で必死に考えても、打開策が浮かぶ訳はなく。

 刻限が迫る中、ただただ焦りが募っていく。

 このままでは駄目だ。自らの身を危険に晒しただけで、何の成果も得られないことになる。

 

 協力者は役に立たない。

 本当に無能な奴だ。何もしないなら、せめてこちらを手伝ってくれれば良いものを。

 こんなことをするんじゃなかった?

 ふざけるな。この千載一遇の機会を逃したらきっと後悔したに決まっている。

 それに逃げる事は不可能だ。あの狼を連れた少女だって、今も屋敷から抜け出せてはいないだろう。

 

 思えば、彼女のお陰で首の皮一枚繋がった。

 そうでなかったら今頃は。

 

 ……そうだ。素晴らしい名案がある。

 足りないのなら作ればいい。

 同じことをすればいい。

 二度あることは三度ある、とは東洋の慣用句だったか。

 起こり得る事柄として舞台は整っている。

 幸いにもピースは揃っていた。後はいかに効果的なタイミングで実行に移すかという一点のみ。

 

 とはいえ準備をする必要もある。

 迅速かつ丁寧に事を運ぼう。

 

「――《死創の黒(デュラハン)》」

 

 

 ◇◆

 

 

 □タカクラ邸・二階西 【高位従魔師】サラ

 

「鍵が必要って、いったい何があったの?」

 

 遅れてやってきたユウコさんは、マスターキーを片手に不安そうな顔をした。

 二階の西廊下にはわたしとムカダテさん、ネイサンさん、カフカさん、赤井ドイルさんが揃っていた。

 それと、

 

「あ、姉が……中にいるはずなのよ。だけどノックをしても返事がないの。扉には鍵がかかっていて」

「ノワルさんが? 安心してブランさん。大丈夫よ」

 

 白髪がぐしゃぐしゃになるくらい取り乱した彼女の背中を、ユウコさんは優しく撫でる。

 わたしはマスターキーを受け取って鍵を回した。

 ゆっくり扉を開けて中に入る。

 

「姉さん……っ!?」

 

 そこには――黒い服を着た、首無し死体が倒れていた。

 

「う、嘘! 嘘よッ! 姉さん!」

 

 わたしたちの目の前で、首無し死体は光の塵になって消えていく。

 

「そんな……どうして彼女が」

「第三の殺人か。首の切断は即死に近い致命傷だ。殺されてまだ間もないと見ていいな」

「わ、わたしメイさんを呼んできます!」

「……ああ、任せた。気をつけろ」

 

 わたしは部屋を飛び出して走る。もちろん全力疾走だ。できるだけ急がなくちゃいけない。

 正面玄関の踊り場に到着したところで、わたしは後ろからついてくる足音に気づいた。

 誰だろうと思って振り向くと、にやにや笑ったカフカさんがこちらを見つめている。

 どうしよう。ちょっとピンチかもしれない。

 

「あれ、あれあれ? 君はどこに行くのかな? メイドがいるのは二階の書斎だよ? そっちは(・・・・)一階(・・)だよね?」

「……」

「しかもマスターキーまで持って。怪しいなあ」

 

 そして目ざとい。ポケットに隠して、こっそり持ってきたつもりだったのに。

 

「カフカさんこそ、嘘はつかなくていいんですか?」

「僕は正直者だよ。嘘を吐く理由がない」

 

 これは真っ赤な嘘だ。

 裏を返せば……カフカさんは『嘘つき』で『嘘をつく理由がある』ってことを正直に答えているともいえる。

 

「でも、もう理由はない。嘘をつくのがめんどくさくなっちゃったんですよね」

「……ああ、なるほど。どこまで聞いたのかな」

「事情はさっぱりです。よかったら教えてくれますか?」

「じゃあ、君が急いでいるから簡単に」

 

 そう言ってカフカさんは本当のことを話す。

 

「僕が参加した理由は暇つぶしだよ。退屈してたからね。嘘を吐いたら皆が混乱するかなと思ったんだ。でも同じような展開が続いて飽きちゃって。だからもう、こんなゲームは早く終わればいいと思っている……いや、いた」

「今は違う?」

「そうだね。君たちが何を企んでいるのかは知らないけど、この盤面をひっくり返してくれるなら大歓迎。見守らせてもらうよ」

 

 今のでいくつかわかることがある。

 カフカさんの立場は中立だ。特別な目的があってゲームに参加してるわけじゃない。

 つまりわたしの邪魔はしないということ。

 あと、嘘の内容に深い理由はないみたい。嘘をつくこと自体に意味があったのかな。

 

「そうだ。謎は解けたかい?」

「いえ、わからないところがあって」

「えー本当に? 考えてみたら簡単だよ? それならヒントをあげる。①誰かの発言より君が直接見た現象を信じること、②一人でやれることはタカが知れている、③君が思いつくものは他の人だって思いつく、そして④これはゲームで結構フェアな勝負」

 

 ヒントを聞いて、わたしはピンとひらめいた。

 なるほどね。②と③でなんとなくわかったよ。

 

「あ、そうそう。それとね」

「まだなにかあるんですか?」

「君、面白いから気に入ったよ。特別に教えてあげる。実は僕、嘘を吐いても《真偽判定》を誤魔化せるんだ。ゲーム中は使わなかったけど」

 

 ん……?

 つまり嘘を本当のことっぽくしゃべれる?

 それともこの言葉が嘘? どこまで本当なの?

 

「ほら、急げー」

 

 うーん。気になるけどあと回し!

 

 わたしはそのまま一階に降りて、西へ。

 廊下の奥には厳重に戸締まりがされた扉があった。

 鍵をひとつひとつマスターキーで開けていく。

 

 最後の鍵をはずしたら、扉は簡単に開いた。

 物置というくらいだからホコリっぽい部屋をイメージしていたけど、室内はきれいに片付けられていた。泥棒が入ったあとにメイさんが掃除をしたんだろうか。

 

 物置にはレアアイテムがたくさん並んでいた。

 その中で、ひとつだけ《鑑定眼》で情報が見れないものがある。大人とおんなじくらい大きいプラネタリウムだ。ごうんごうんと音を立てていて、隙間からは光が漏れ出している。

 もともとあったなにか(・・・)の代わりとして、そのスペースに置かれたみたいなチグハグ感。

 

 これで情報はそろった。

 

 さあ、始めよう。

 

 ここから目指すのはどんでん返しの大逆転。

 

 文句なしのハッピーエンド。

 

 そのために、すべての謎を解き明かそう!

 

 To be continued

 


サラのノート

 

ゲームのルール

・『失われたものを探し出せ』

 →参加者の全員が正解とわかるもの

 →力づくで奪うのは×

・屋敷の中だけ、中庭はあり

 →外への出入口に鍵、破壊できない

・制限時間は『七度、日が沈むまで』

 →タイムオーバーは勝者なし

 →時間の流れがおかしい?

ログイン・ログアウトは自由

 → ログアウトできない

 →鍵つきの寝室が使える

・タカクラ夫婦は答えを知っている

 →質問できる、部屋から動かない

 

犯人の手がかり

・『Wolf』

・魔獣の毛・焦げ茶色

・第一の事件で書斎は密室だった

・第二の事件は全員その場にいた

 

参加者リスト

・わたし(サラ)

 

・アリアリア

 →疑われて逃げた

 

ゲンジ・タカクラ

 →夫婦、書斎(2F東)でデスペナルティ

 →【大商人】

 

・ユウコ・タカクラ

 →夫婦、書斎(2F東)で待機

 →屋敷の出入り不可を解除できる

 →【高位書記】(“New!”)

 

・ネイサン・ハンター

 →【血戦騎】

 →カンスト、参加者で一番レベルが高い

 →参加目的は仕事?

 →レジェンダリアで指名手配(“New!”)

 

ポラリス

 →【高位占星術師】

 →参加目的は超級職の転職条件

 →犯人の手がかりを占った

 → 書斎(2F東)でデスペナルティ

 

・赤井ドイル

 →【名探偵】、推理小説マニア

 →嘘を見破る<エンブリオ>

 →第一の事件のアリバイなし

 →参加目的は謎解き

 →事前にゲームの内容を教わっていた

 

・ブラン・ゴーシュラム

 →双子、白髪

 →【潜伏兵】(伏兵系統上級職)(“New!”)

 →言い争いをしていた?

 →盗賊・詐欺師(“New!”)

 

・ノワル・ドロワラム

 →双子、黒髪

 →【大詐欺師】(“New!”)

 →言い争いをしていた?

 →盗賊・詐欺師(“New!”)

 

・カフカ

 →嘘つき?、誰かをかばっている?

 → 第一の事件のアリバイなし

 →男?(“New!”)

 →参加目的は暇つぶし?(“New!”)

 

・ムカダテ

 →タカクラ夫婦に雇われている

 → 第一の事件のアリバイなし

 →中身(リアル)は女性

 →【鬼猟師】(“New!”)

 →参加目的は参加者の監視(“New!”)

 →参加者の情報を集めていた(“New!”)

 

・メイさん(ドラゴンメイド)

 →TYPE:ガーディアンの<エンブリオ>、ステータスは亜竜級より低い

 →屋敷のマスターキーを持っている

 →ゲンジさんの書斎の鍵を回収

 → 第一の事件のアリバイなし(襲われた)

 → 書斎(2F東)で待機




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<今回の『サラのノート』にはムカダテが集めた情報も追記されています

(U・ω・U)<それと情報の書き忘れもあり

(U・ω・U)<次回、謎が明らかに?
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