長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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Who is The Wolf ?

 □タカクラ邸・二階西 【高位従魔師】サラ

 

 わたしが二階に戻ると、現場を観察していた赤井ドイルさんが顔を上げた。

 

「随分と遅かったな。ドラゴンメイドの姿は見えないようだが?」

「来てもらうつもりだったんですけど、その前に大事なことを知らせなきゃと思って。実は……」

 

 わたしはそっと耳打ちをする。

 赤井ドイルさんは驚いてかっと目を開き、くわえていた煙管を落とした。

 

「……本当かね?」

「はい。あとは名探偵の出番です!」

「ふ、ふふ……よろしい。ならばこの赤井ドイルが、幼気な少女の期待に応えてみせよう」

 

 赤井ドイルさんはやる気をみなぎらせている。

 当たり前だよね。間違った推理をひっくり返して、事件の真相を明らかにする役目は名探偵にしか務まらない。

 わたしは推理をちょっと手助けするお仕事があるから、ここは赤井ドイルさんにお任せする。

 

「諸君、傾聴! 今しがた入手した情報により、私は真犯人を突き止めることに成功した!」

 

 その言葉でみんなの動きが止まった。

 <エンブリオ>に座った赤井ドイルさんは腕と足を組んで準備万端だ。

 

「真犯人? 犯人は狼のお嬢さんって話だろ」

「違うなネイサン・ハンター。それは不幸な偶然が重なった事故に過ぎない」

 

 その通り。

 正しくは不幸な偶然と決めつけによるものだ。

 だっておかしいでしょ。アリアリアちゃんはわたしについてきただけで、本当はこのゲームに参加するはずがなかったんだから。

 

「犯人はこの中にいる」

 

 わたしから順ぐりにムカダテさん、ユウコさん、ノワルさん、カフカさん、ネイサンさんを見回す。

 自分の隣に犯人がいると聞いて動揺する人はいない。みんな、前置きの段階で予想をしていたらしい。

 あるいは、今回もまた的はずれな推理が始まると思っているのだろうか。

 

 その余裕も今のうちだ。すぐに化けの皮をはがしてみせるよ。

 

「そう、犯人は――」

 

 赤井ドイルさんは一人を指差す。

 

「――狼はお前だ。ネイサン・ハンター」

 

 みんなの視線が集まる。

 ネイサンさんはまずきょとんとして、次にすっかり困ってしまうと言いたそうな半笑いを浮かべる。

 

「おいおい、何かの冗談か? 証拠も無いのに疑うってのは勘弁してくれ」

「証拠ならあるとも。サラ」

「はい! これです!」

 

 わたしはアイテムボックスから魔獣の毛を取り出す。

 てれててってて〜ん。

 

「どうだねネイサン・ハンター。これこそが、紛うことなき証拠だとも」

 

 自信満々に胸を張るわたしたち。

 対するネイサンさんはというと。

 

「何を言い出すかと思えば。だから何だって? それが俺の髪の毛にでも見えるのかよ。そもそも書斎に落ちてた毛と別物だろ」

「「えっ?」」

「本当に大丈夫かお前ら。それは赤色だろ? 書斎に落ちていた毛は焦げ茶色だ」

「本当だ! ごめんなさい。わたしの従魔の毛と間違えちゃったみたいです!」

 

 ぺこりと頭を下げてルビーの毛をしまう。

 なにを言ってるのかというのと、うっかりならしょうがないという気持ちの両方で周りの空気がゆるむ。

 あまりにてきとうな証拠で疑われたネイサンさんは怒るのを通り越してあきれているようだ。

 

「でも、どうして色が分かったんですか? ネイサンさんは直接見てないですよね。毛のことは『気がつかなかった』って言ってましたもん」

「同じタイミングで名探偵の写真を見たからな。そんなことも忘れちまったのか?」

「そうでしたね!」

 

 できるだけ明るい笑顔を見せて、

 

「――どうして『焦げ茶色』ってわかるんですか?」

「あァ……?」

 

 ――不意打ちで問題の核心を突く。

 

 わたしは赤井ドイルさんから写真を受け取って、ネイサンさんに見せた。

 

「赤井ドイルさんが撮ったスクリーンショットです。どうですか? 光の加減で黒っぽい毛に見えますよね」

「そう、だな」

「マーナガルムも黒色です。中身のルゥは白い毛ですけど、でも焦げ茶じゃない。ふつうは黒色って答えるはずですよね。この毛を見たことのある人以外は」

 

 嘘を《真偽判定》にかけるやり方が信じられないなら、明らかにおかしいところを突きつけるのが一番だ。

 たとえば話の矛盾をこうやって指摘するとか。

 事実を嘘でごまかしたり、嘘をごまかしたりはできても、正直な言葉まではごまかせない。

 

「興味深い指摘だが、単純に他の参加者から聞いた可能性は考えられないかね」

「そうねえ。メイさんが渡していたものでしょう? 私も見たわよ」

「あ、そっか」

 

 詰めが甘かった。赤井ドイルさんもユウコさんもわたしの味方じゃないの?

 

「……明言すれば疑いは晴れる。ただ一言答えればいい。ネイサン、誰から聞いた?」

「……」

 

 ネイサンさんは無言だ。答えられないのだろう。

 みんなが《真偽判定》を完全に信用できないとしても、スキルが嘘に反応することは変わらない。

 本当のことを言ったら疑いは晴れる。ここで口を閉じるのはやましいことがあると証明しているようなものだ。

 だから話題をそらそうとする。

 

「落ち着けよ。双子の嬢さんについてはまったくの濡れ衣だ。他の連中といたのに、どうやって鍵のかかった部屋で人を殺せる?」

「ふむ、それはそうだ」

 

 わたしたちは一緒に首無し死体が光の塵になる瞬間を見ている。HPがゼロになってデスペナルティになるまでの短い時間で、鍵のかかった部屋から瞬間移動ができる人はそうそういない。

 

「じゃあ、本当はデスペナになっていないとしたら?」

「何が言いたいんだお前。ログアウトができない屋敷でいなくなった。一目瞭然だろう」

「そうでもないですよ。出てきてください!」

 

 声を合図に物陰から出てくる人影。

 身を隠すスキルを解除して、わたしたちの前に進み出たのは黒い服を着た白髪(・・・・・・・・)の女の人だ。

 彼女は白い服を着た白髪のそっくりさんの隣に並ぶ。

 

「あら、ブランさんが二人」

「どうなってる? 変装……だが【大詐欺師】だった黒の嬢さんは死んでたぞ」

「よく見ているわね」「やはり見られていたわね」

「「だから、まんまと引っかかる」」

 

 

 ◇◆

 

 

 □■一時間前

 

 情報収集のために双子の部屋を訪れたサラたち。

 呼びかけても返事はなく、鍵が開いていたことから室内に入った二人は決定的な場面に遭遇した。

 

「――《死創の黒(デュラハン)》」

 

 ノワルがブランの首を刎ねた瞬間である。

 警戒する二人を前に、双子はどう対処したらよいか逡巡して、お互いが見つめ合う膠着状態に陥った。

 一人でも攻撃を仕掛けたら、すぐさま戦闘に移行していたであろう。しかしそうはならなかった。

 

「鍵を閉め忘れたわね、ノワル」

「く、首がしゃべったぁ!?」

Rrrrrrrr(わあああああ)!』

 

 転がった生首が言葉を放つというインパクトにサラが度肝を抜かれたからだ。

 

「ムカダテは驚かないのね」

「……お前たちの<エンブリオ>は調べた。頭部欠損無効の曲刀、デュラハン。そして仮死状態になるスノウホワイト。二つを組み合わせた死んだふり(・・・・・)が十八番だと」

「そう。ネタが割れているなら仕方ない」

 

 ブランは自分の首を拾い上げ、両手で抱えて座った。

 ノワルには隣に来るよう椅子の座面を叩き、向かいの席が空いていると二人に指し示す。

 

「ごめんなさい姉さん」「次から気をつけなさい」

「「それで、私達に何の用?」」

「……目的を聞きたい。何を企んでいる」

 

 一連の事件の犯人かどうか。

 今、死んだふりをした理由。

 ゲームに参加した目的。

 そして前回のゲームで盗みに入った泥棒は双子なのか。

 

 個々の質問に、双子は丁寧に答えていく。

 

「私達は」「犯人じゃない」

「盗みはしても」「殺しはしない」

「じゃあどうして死んだふりを?」

「足りないの」「時間がないの」

「……ゲームの制限時間か」

 

 ムカダテは双子の言わんとするところを察する。

 事件の傍らでゲームは進んでいる。ゲンジから定められた期限は『七度、日が沈むまで』だ。デンドロ内部で一週間、現実時間に換算して二日半ほど。

 屋敷の広さを考慮すれば十分な時間ではある。しかし、屋敷は<エンブリオ>の効果範囲内のためログアウト不可能。連続してログインする時間としては些か長い。

 

「実際は」「もっと短い」

「どういうことですか?」

「……日没までが早すぎる。違和感を抱いて、裏庭で空を見上げた。太陽は地平に沈むことはなく、徐々に光が失われていた。夜が明けてから次の夜が来るまでは一時間弱といったところだ」

「参加者は全員」「気づいていたはずよ」

「き、気がつかなかった……」

 

 おそらくは<エンブリオ>の仕業だ。

 つまり、設定されたリミットは七時間程度。

 謎を解いて広い屋敷を探索する時間としては妥当か、やや少ないといえる。

 

「事件が起これば」「他はそちらに意識が向く」

「「その間に私達は活動できる」」

「時間が足りないなら、競争相手を減らすってことですか。ちなみに仲間はブランさんとノワルさんだけ?」

「カフカがいたわ」「協力を依頼したわ」

「「あいつ、何もしないのよ」」

「せいぜいが」「嘘で事件を引っかき回すくらい」

「「終いには、もう飽きたから協力しないって」」

 

 双子がカフカを協力者に選んだのは、最も得体が知れない相手で敵に回すのは危険と感じたからだ。

 彼を引き入れることができたのは双子にとって幸運だったが、世の常として、驚異的な敵ほど味方になった途端に弱体化するもの。

 味方というより「敵対しない」だけのスタンスに双子は怒り心頭の様子だった。

 

「でもゲームクリアは二の次」「私達の目的は」

「「タカクラ家のレアアイテム」」

「特に仕入れたばかりの」「希少な品を探していた」

「潜入は難しい」「だから客に紛れる」

「ゲームの最中に」「屋敷を探すつもりだったわ」

「それって……」

 

 レアアイテムという単語にサラは思案する。

 屋敷のどこかにあるらしい煌玉獣。

 双子の言う希少な品はそれに間違いないと。

 ただ、ムカダテは別の箇所に反応した。

 

「……やはり前回の泥棒はお前たちか?」

「何のこと?」「誤解だわ」

 

 事情を説明してなお、双子は心当たりがないという。

 

「前回の参加者ならゲンジさんたちが気づいたんじゃ? 泥棒かもしれないんだし、ムカダテさんに教えてくれたと思いますよ」

「きっとそいつは私達と同じ」「先んじて情報を掴んだ盗賊ね」

「……そうか」

「それで」「どうするの」

「「私達を突き出す?」」

 

 手札が詳らかになった以上、双子は戦闘・逃走のどちらを選択しても勝ち目が薄い。

 そも、実際にはまだ何もしていないのだ。わざわざ抵抗する理由がない。

 ムカダテとしても双子を責める根拠がない。さりとてこのまま見逃して良いものかと悩んでいると、何かを思いついたサラが手を上げた。

 

「二人に手伝ってもらうのはどうですか?」

 

 双子の事情を聞いて、敵ではないと判断した。

 だから協力できるとサラは考える。

 

「このあとに物置を調べるんですよね。問題は鍵がかかってること」

「……ああ。鍵はタカクラさんが持っている」

「メイさんのマスターキーを借りましょう!」

「……しかし、どう説明する。彼女は融通が効かない」

「理由があればいいんです。どうしても鍵を開けたくて困ってたら貸してくれるはずです! たとえば……」

 

 サラは自らの思いつきを口にする。

 議論の末、サラの提案を元にムカダテと双子が細部を補強する形で一芝居を打つことに決まったのだった。

 

 

 ◇◆

 

 

 □タカクラ邸・二階西 【高位従魔師】サラ

 

「黒い服の、死体だった方がブラン・ゴーシュラムだな。そして部屋の外にいたのはノワル・ドロワラムだ」

「その通り」「私達」

「「入れ替わっていたのよ」」

 

 白い服を着たノワルさんが染めた髪を黒髪に戻す。《偽名》で変えていた名前も、赤井ドイルさんが見破ったことで元通りになる。

 

 つまりこういうことだ。

 姉で白髪に白い服のブラン・ゴーシュラムさん。

 妹の黒髪に黒い服のノワル・ドロワラムさん。

 名前と色以外はそっくりな双子。

 だから、その特徴を交換したら見た目でどっちがどっちか判断するのは難しい。

 

 まずノワルさんの【断頭弾刀 デュラハン】で死体を偽装する。首を斬っても生きたまま、ダメージを受けない必殺スキルって知らない人は絶対にだまされるよね。

 あとはタイミングを見てブランさんが【静眠檎果 スノウホワイト】の《死相の白(スノウホワイト)》でデスペナルティになったと見せかける。

 死体役のブランさんを《看破》する人はいない。エフェクトが消えたら隠れてもらう。ノワルさんがステータスごとブランさんになりすましたら、入れ替わりの完成だ。

 

「すごいな。まんまと騙された。それで? この茶番と俺にどんな関係がある」

「ないですよ」

「……何?」

 

 そう、これは推理じゃない。

 手がかりを集めるのに必要だったことを話しただけ。

 ただの時間稼ぎだ。

 

「謎解きは名探偵の仕事ですから」

 

 わたしの役目はここまで。

 あとは赤井ドイルさんにバトンタッチする。

 

「ネイサン・ハンター。私が見たところ、君のメインジョブは【血戦騎】と表示されているな」

 

 再確認するように、赤井ドイルさんは《看破》で見通した内容を口にした。

 はっきり言い切らず、その内容が正しいと思っていないかのように遠回しな表現を使っている。

 

「これは、私のスキルレベルが不十分だからだ」

「……」

 

 ネイサンさんから反応はない。

 表情を押し殺してこれ以上ヒントを与えないようにしている……でもね、もう遅いよ。考える時間はとっくに終わっているんだから。

 

「オセを使っても見破れないところを見るに、よほど高度な偽装を施しているようだ。レベル差が相当開いているのだろうね。しかし、いくら巧妙に隠したところで謎は解き明かされる運命にある。それを証明しよう」

 

 赤井ドイルさんは<エンブリオ>から立ち上がる。

 チャージ時間が必要な、偽装看破の能力を底上げする必殺スキルが今、発動する。

 

「簡単なことだ――《真実は我が手の中に(オセ)》」

 

 赤井ドイルさんの頭に王冠が浮かぶ。

 ぴょこりとヒョウの耳を揺らした赤井ドイルさんはもう一度《看破》を発動した。

 ネイサンさんの偽装がじわじわとはがれて、本当のメインジョブが明らかになる。

 

 

 ◇

 

 

 ネイサン・ハンター

 職業:【■戦■】

 レベル:1■0(合計レベル:■■0)

 

 

 ◇

 

 

 ネイサン・ハンター

 職業:【■■】

 レベル:■■■(合計レベル:■■■■)

 

 

 ◇

 

 

 ネイサン・ハンター

 職業:【狼王(キング・オブ・ウルブズ)

 レベル:324(合計レベル:824)

 

 

 ◇

 

 

「あーあー、バレちまった」

 

 ゴキリとネイサンさんは首を鳴らす。

 正体がバレたというのに余裕があるというか、逃げたり言い訳をしたりしないのは……わたしたちが敵じゃないと考えているからだ。レベルがそのまま強さを表している。

 

「……なぜこんなことを」

「知りたいか? なら、力づくで聞き出してみな」

 

 凶悪な笑みで犬歯をむき出しにしたネイサンさんは顔の下半分を隠すマスクを装備した。

 目は吊り上がり、耳は頭の上に、鼻先が突き出して顔全体がふさふさの毛でおおわれる。

 ぐぐっと上半身を前のめりに、腰を低くして四つん這いの体勢になった。

 全身の筋肉が盛り上がり、装備した服が破れて弾ける。四本の足にするどい爪。一本の尻尾が垂れ下がる。

 その姿は、大人が三人は乗れるくらいの大狼。

 

『ウォォォォォォォォォンッ!!』

 

 口輪をつけた人狼は、狙いを定めて遠吠えした。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<まだ謎解きは40%

(U・ω・U)<伏線回収しきれるだろうか……
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