長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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手がかり

 □決闘都市ギデオン 【高位従魔師】サラ

 

 お茶会という名のゲームの後、ニッサの観光もほどほどに、わたしはギデオンに帰ってきた。

 そのままニッサから王国南部、そしてレジェンダリアに足を伸ばすことも考えたんだけど……みんなの猛反対を受けたから、また今度にした。レジェンダリアってそんなに危ない国なの?

 グリオマンPさんやタカクラ夫婦から情報をもらうまで、一ヶ所にいたほうが便利というのもある。

 

 その間はクエストをしながら待機していたよ。

 そうそう、気がついたらエイプリルフールイベントが終わってたんだよね。話を聞くと、擬態の得意なモンスターがポップしていたらしい。モンスターの見た目と強さ、ドロップアイテムが一致しないから大変だったとリリアンさんは言っていた(戦利品のジビエはおいしかった)。

 

 そして数日後。

 ついに集まった情報がわたしのところに届いた。

 冒険者ギルドで受け取りができると聞いて、わたしは期待しながら早足で向かった。

 

「……あれ?」

 

 渡されたのは小さな木箱がひとつ。

 宛先はわたし。送り主はグリオマンPさん。

 たしか情報をまとめてくれる手はずだから、荷物が一個というのは問題ない。

 でも、さすがに小さすぎる。これじゃ手帳しか入らないサイズだよ。

 

Rrrrr(あける)?』

「そうだね。まずは中身を確かめよう」

 

 パカっとふたを持ち上げてみる。

 中には片手で持てるくらいの板が収まっていた。

 紙より薄い長方形。表面はタッチパネル。

 見た目はまるで数世代前の携帯電話のような、というよりスマートフォンそのものだ。

 それでいてぐにょぐにょと自在に曲がる。この感触は……あれだ、下敷きに近い。

 

 触っていると、黒い液晶画面が白色に変わった。

 

『ユーザー認証が完了しました』

 

 というメッセージが表示される。

 

「えっと、右腕に装着してください……? あ、手袋がついてる」

 

 画面の説明を頼りに身につける。ちゃんと【ジュエル】のところは穴があいている長い手袋に、板を固定。

 これ装備品扱いになるんだね。

 

『万能手帳【P-DX】をご利用いただき誠にありがとうございます。本製品は世界に一つのオーダーメイド。情報収集に使うもよし、メモ帳として使うもよし。貴方様の今後のご活躍をお祈りしております』

「SFだぁ」

 

 すごいハイテクそうなアイテムだ。

 なんだかこのゲームと世界観が違くない?

 

「そして使いかたがわからない!」

 

 画面にはたくさんのアイコンが表示されている。たぶんそれぞれがアプリみたいな機能なんだよね。

 まずは説明書、取り扱い説明書を読もう!

 うー、できたら紙でほしかったかも……今どきそんなのないけど……アイコンどれー!?

 

『無問題。我、支援』

「その声はターコイズ? なんでしゃべって……それより【ジュエル】で寝ているはずじゃ」

『説明。当手帳、連携。出力、双方向、以心伝心。我、当手帳、掌握、管理。全部完璧』

「えっと、【ジュエル】の中にいてもこの機械を操作できるってこと? マイクもついてるんだこれ」

『正解。我、構造を理解。叡智故』

 

 さすがターコイズ賢い!

 それとこんなすごい機械をくれるグリオマンPさんは何者? もしかして天才科学者だったり。

 

 わたしに説明するため、デフォルメされたターコイズが画面の中をぴょんぴょんと跳ね回る。

 最初に説明書と設定のやり方を教わった。わたしが操作に慣れてきたところで、ターコイズは情報が入ったフォルダのアイコンを見やすいよう真ん中に置いてくれる。

 

『該当文書、発見。表示』

 

 ずらっと並ぶ情報リストは山のよう。

 いくつかフォルダを開いてみると、文字がびっしり書いてあるものから、写真やバッテン印がついた地図まで、さまざまな情報がまとめられていた。

 ぜんぶ読むのはいくら時間があっても足りない。

 それに聞いたことのある情報も混ざっているね。

 まずはターコイズに頼んで、わたしがまだ調べていない情報を優先的に表示してもらう。

 

 調べていくと、気になる情報があった。

 その場所は<境界山脈>。アルター王国とドライフ皇国の国境に広がる山々で、天竜種の住処になっている。

 山の中にはたくさんの純竜と【竜王】が暮らしていて、一度入ったら生きて出られない秘境として有名だ。

 ここまでは聞いたことのある話。カンストの人がすぐにやられちゃったというから、もう少しレベルが上がるまで待とうと思っていたんだけど。

 

 どうやら<境界山脈>の東と西には、それぞれ強い【竜王】が住んでいて、侵入者を倒しているらしい。

 西の<雷竜山>を守っているという番人は【雷竜王 ドラグヴォルト】。

 そして、東の<風竜山>には文字通り風を操る【風竜王 ドラグウィンド】がいる。

 ジェイドとおんなじ【ウィンド・ドラゴン】のトップに君臨する竜なら、なにか知っているかもしれない。

 もしかしたら<風竜山>にお母さんが住んでいるなんてことも……?

 

「よしいこう!」

Rrrr(さら)……』

「早くお母さんに会いたいもんね! だいじょうぶ! ムリはしないから!」

 

 わたしはわしゃっとジェイドをなでる。

 せつない顔で遠くの山を眺めるこの子の姿を見たら、わたしのレベルが上がるまで待つなんていってられない。

 せっかく有力な手がかりを見つけたんだ。今動かないで、いつ行動するって話だよ。善は急げ!

 

 アリアリアちゃんについてきてもらいたいのは山々だけど、あいにく連絡がつかない。

 行き先は知らないんだよね。出かける前に聞いたんだけど「秘密よ」って教えてくれなかった。

 一人で遠出するのは危ないから、近くの街まで護衛か配達のクエストを受けようと思う。

 

「ターコイズ、<境界山脈>に近い街は?」

『勘案……発見。王国北東、カルチェラタン』

 

 わたしは冒険者ギルドにある依頼の中から、カルチェラタン行きのクエストを探す。

 するとあっさり依頼が見つかった。いくつもだ。

 どうやらカルチェラタンは最近になって激しい戦いがあったらしい。悪魔軍団が攻めてきたとか、カニとクジラのロボット兵器が大暴れしたとか。

 街の復興には物資がたくさん必要だ。それを運ぶ馬車に乗せてもらえそうだね。

 

 レッツゴー!

 

 

 ◇◇◇

 

 

 実はちょっぴり野良パーティに苦手意識がある。

 

 戦うときは特にそう。みんなの足を引っ張って、怒られることが何回かあったからだ。

 わたしは平気だけど、ジェイドが怖い思いをしたらいけない。だからいつもはフレンドとパーティを組んでいる。

 知り合いがいないときは、先にわたしと従魔ができることを伝えるようにしている。これは前までの反省を活かしたやり方だよ。

 それでパーティを組むのを断られるときもあるけど、クエストの途中でケンカするよりよっぽどいい。

 おかげで最近はできないことを任される機会が減った。わたしに合った仕事をくれる優しい人に感謝だね。

 

 その点、今回の野良パーティは安心できる。

 リーダーを名乗り出た人が的確に仕事を割り振ってくれたからだ。

 

「見張り交代だよ」

「はーい」

 

 わたしは返事をして警戒を解く。

 依頼はティアンの馬車の護衛。

 わたしに任された仕事は二つ。全員交代制の見張りと、天気の変化を観察することだ。

 この荷馬車は(ほろ)がついていないから、雨が降りそうなときは早めに雨宿りできる場所を探す必要がある。

 ジェイドは空気の変化に敏感だ。空模様を予想するのは朝飯前なのです!

 

「今日もいい天気だ」

「ですね! ぽかぽかして気持ちいいです!」

「眠気が襲ってくるな……僕は寝る。もし何かあったら起こして。モンスターに風穴をあけてあげるよ」

 

 そう言って、リーダーさんは荷台に寝そべる。

 日差しがまぶしくないようにだろう、テンガロンハットと首に巻いたスカーフで顔を隠した。

 隙だらけに見えて、腰のホルスターには一丁のピストル。いつでも抜けるように手が触れている。

 心構えからしてつわものだね。見習おう。

 

Kyukyu(退屈ね)!』

「なら【ジュエル】に戻る? まだ道は長いよ」

 

 赤い尻尾をふりふりするルビー。

 もし見張り中にモンスターが襲ってきたら援護攻撃をするために呼び出していた。

 わたしの従魔でいつでも戦えるのはこの子だけ。

 戦闘ではつい頼りすぎてしまう。

 だからちょっとしたわがままは聞いてあげたい。

 

Kyukyukyu (絵本を読んで)kyuuuu(ブラシも)!』

「用意するから待ってね」

Rrrr(ずるい)

「わかってるよ。順番こ」

 

 ルビーのブラッシング=おやつ付きくつろぎタイムだ。

 ふふふ、秘蔵のレムの実を出すしかないみたいだね。

 日本円で五〇〇円する高級果物は彼女の大好物だ。というか食べるのはぜんぶ高級なフルーツやナッツ類。

 おかげでルビーが来てからジェイドの舌が肥えていくばかりなのは密かな悩みだったりする。

 

 わたしは特注のブラシを片手に、絵本を読み聞かせる。

 

「むかしむかし……」

 

 

 ◇

 

 

 むかしむかしのそのまたむかし。

 

 ふかいもりのおくふかくに、いっぴきのりゅうがすんでおりました。

 

 りゅうはいつもひとりぼっちでした。

 

「どうしてぼくにはなかまがいないの?」

 

 りゅうはいつもないてばかりいました。

 

 そんなあるひのことです。

 

 りゅうがないていると、ひとりのしじんがやってきました。

 

「おお、かわいそうに。わたしがきみのともになろう」

 

 しじんはたてごとをつまびいて、ふしぎなせんりつをかなでます。

 

 すると、なんということでしょう!

 

 もりも、むしも、とりも、けものも。

 

 みんな、みんな、しじんのもとにあつまってくるではありませんか!

 

「どうだい? これできみはひとりではなくなるよ。さあうたおう! みんないっしょに!」

 

 そのひから、りゅうはひとりぼっちではなくなりました。

 

 そらも、かぜも、たいようも、つきも。

 

 すべてがかがやいてみえるようになりました。

 

 ですが、しじんはたびびとです。

 

 ひとところにながくはいられません。

 

 りゅうはまたひとりになることをおそれました。

 

 ですから、こういったのです。

 

「ぼくも、きみといっしょにいきたい」

 

 しじんはこたえます。

 

「もちろん。きみがうたい、ぼくがかなでる。なんてすばらしいことだろう!」

 

 それから、しじんとりゅうはたびをしました。

 

 たくさんのうつくしいものをみました。

 

 おおくのであいがありました。

 

 あるときはけもののおうに。

 

 またあるときはおおとりに。

 

 つめたいからだとやさしいこころをもつものに。

 

 りゅうはうたい、しじんはかなでます。

 

 ですが、いつしかときはながれ――

 

(よい子の童話集 第九話 『しじんそーまのものがたり』より)

 

 

 ◇

 

 

「あ……寝ちゃった」

 

 いつの間にか、ジェイドとルビーは寝息を立てていた。

 起こしたらかわいそうだからしばらくはこのままで。

 休めるうちに休んでおかないとね。

 

「おやすみ。いつもありがとう」

 

 ラッキーなことにモンスターは姿を見せず、次の見張りが回ってくるまで二匹はぐっすり眠ることができた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そして、とくにイベントもなく、わたしは無事カルチェラタンの街に到着した。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<今回は短め

(U・ω・U)<辻斬りまでが一章一節、人狼編が一章二節とすると

(U・ω・U)<ここからが一章三節

(U・ω・U)<その次は二章に入る(予定)

(U・ω・U)<もっと従魔との絡みを書いていきたい


時系列
(U・ω・U)<原作の第五章終了後あたり

(U・ω・U)<レイ君とはかち合わない

(U・ω・U)<ただあの人とは遭遇する


【P-DX】
Ψ(▽W▽)Ψ<たまごっぴでは?

(U・ω・U)<チ、チガウヨ
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