長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
大変励みになります。
□【征伐王】ひよ蒟蒻
突然起きたモンスターの爆発。
結論から言ってしまうと、全員無事だった。
「うちのバカが本当に申し訳ない! この通り! ……なので後生ですから勘弁してもらえないでしょうかというか俺たち蓄えがそんなになくてですね」
「いえ、大丈夫です。わざとじゃないのは分かるので」
「まじで? あなたが神か?」
「うむ。不幸な事故だったということでお互いに手を打とうではないか」
「それは被害者の台詞なんだよエクスこのバカ!」
パーティのリーダーらしき男が、エクスと呼ばれた女子の頭を掴んで下げさせる。
彼らは誠意の土下座をしているため、見ようによっては俺が跪かせているように見えなくもない。
謝罪とかどうでもいいから今すぐ頭を上げてほしい。
この状況、体よりも心が痛い。居た堪れない。
許す代わりにと言っては何だが、四人組一党から聞いた事の経緯は次のようなものだった。
彼らは冒険者ギルドのクエストを受けて、森に点在する使われなくなったモンスターの巣穴を確認して回っていたらしい。モンスターの分布と生態の調査に役立てるためらしいが、詳しいことは彼らも分かっていないようだ。
使われなくなった巣穴には何も残されていないことがほとんどだが、たまに生え変わった鱗や牙、モンスターが溜め込んだ素材や貴金属類などが落ちている。
彼らはそうした戦利品が目当てだった。
今回は特別巨大な巣穴を見つけ、変わったアイテムを大量に回収した。中でも彼らの目を引いたのが、見たことのない植物の種子だ。
興味を持った彼らは種子を持ち帰り、花壇に植えた。
すぐに芽が出て、みるみるうちに成長し……モンスターが土から根っこを引き抜いて立ったところで「これはまずい」と悟ったという。
そこまで強いモンスターではなかったが、グロテスクな見た目に戦意喪失した彼らはひたすら逃げ回って俺たちの前に姿を見せた、といった感じらしい。
爆発の原因はエクスが投げた爆薬。
足止めのために投げたら口の中に入ったそうだ。
幸いにも俺は手持ちに防御系の特典武具があり、彼らとリップは爆発から守り切ることができた。
俺だけは直撃を食らってしまったのだが、耐久寄りのステータスなのでこれしきで倒れはしない。
ただ一つ問題があるとするなら。
「臭いがきつい」
全身が悪臭に包まれていることだろうか。
爆風で飛び散ったウツボカズラの粘液を頭から被ってしまったのが運のつき。毒の類こそなかったものの、装備と身体に染み付いてしまった。
鼻が曲がるどころか腐り落ちそうなレベルで饐えた臭いを撒き散らす今の俺は歩く公害である。
助けた四人組が一定以上の距離を保ったまま、俺に近づこうとしないのはそのためだ。
「お疲れ様でした。ご無事で……とは言えませんけれど。お元気そうで何よりですわ」
「ん、ああ。リップも無事だな」
同じく後ろに下がっていたので、生存を確認をした後はそのままにしていたのだが。
「ときにあなたさま。わたくしの言いたいことがお分かりですか?」
瞬く間に距離を詰められた。
微笑とも嘲笑とも、歓喜とも安楽とも異なる笑み。
口角はあがってはおらず、開いた瞳孔は静かに燃えて。
「え、あー、そんなに近寄ったら臭いが移るぞ」
「慣れていますからご心配には及びませんわ。それに、そのようなことはどうでも良いのです。今はわたくしの問いかけに答えてくださいませ。わたくしが今、どのようなことを、どうして考えているのか。まさか……まるで見当もつかないとは仰いませんわよね?」
正直に分からないと答えられたらどれほど良かったか。
当然ながらそれが最悪の返答であることは確実なので、どうにか上手い返しを捻り出さないとならない。
「ば、爆発から庇ったことを怒っている?」
いや、分かってる。
普通の神経なら「ふざけているのか」で一蹴されるどころか、人の心が分からないクズ人間のレッテルを貼られる零点の答えだろう。
しかしリップならあり得るのが恐ろしいところ。
せっかく俺とまとめて爆破される機会だったのにと残念がるのが彼女の“無理心中”たる所以なのだから。
「クフ、フフフフフ……ふざけているんですの?」
「あれ!?」
なんで首を絞められそうになっているんだ。
というかまずいぞ。元から完璧から程遠かったが、今回のミスで機嫌を損ねられてしまったら。
「それも四割ほどありますけれど」
これはセーフ、でいいのか。
「ですがハズレですわ。よろしいですかあなたさま」
やっぱりアウトだった。
首を絞める代わりだろうか、リップは爪を立てて執拗に皮をつねってくる。
「デートの途中にわたくしよりも見知らぬ方を優先して、火中に進んで飛び込んでいき、挙げ句の果てに怪我をして悪臭塗れで戻ってくる。そのような殿方の振る舞いに憤るのはそんなにおかしいことでしょうか?」
「それは……その」
「蔑ろにされるわたくしの気持ち、放り出されたわたくしの気持ち、臭う殿方の隣を歩くわたくしの気持ち。どれか一つでもあなたさまは考えたことがありますか?」
「すみませんでした俺が悪かったです」
リップから出たとは思えないほどの正論に容赦なく打ちのめされた俺は頭を下げることしかできない。
時と場合による、特にこの世界は何が起こるか分からないし、人命第一という俺の信条はあるが。
リアルの価値観と照らし合わせると、やってることは駄目な男のそれだ。
……おかしい。俺がリップに常識を説かれている?
「申し開きがあるならお聞きしますわ。せめて無傷で済ませることはできたでしょうに、何故このような醜態を?」
「なぜって言われても」
確かに自分の身を守れればベターだった。
そうしたら四人組もリップも必要以上は気にやまず、悪臭に悩まされることもなかった。
もちろん手を抜いたわけじゃない。
俺は相手を舐めてかかれるほどの実力は持っていない。だから常に本気でいようと心掛けているつもりだ。
だったらどうしてと聞かれても答えは出てこない。
自分では冷静な判断をしたつもりだった。
だが、振り返ってみると俺の行動は不合理だ。
だいたいあのとき脳裏によぎったのは、
「とにかくお前を守らないとって思って」
「……!」
もしリップが死んだら、四人組のうち誰かが道連れでデスペナルティになっていただろうから。
理由を言う前にリップは俺から離れた。
口元を手で押さえ、明後日の方向を見て。
不承不承な態度を取りつつも声音はどこか弾んでいる。
「まあいいでしょう。その代わり二度目はありませんわ。よろしいですね?」
「分かった。肝に銘じておく」
気がつけば自然にそう答えていた。
いつもと比べて八割増しでまともな言動とあどけない表情をするリップに影響されたというか。
最初以降は問題を起こさず、普通に過ごしていたことも関係しているかもしれない。
この時点で俺の警戒心はだいぶ薄れていた。
リップが本気だとか、自惚れた考えは持っていないが。
一応デートなのだから、今日は真摯に付き合うのが礼儀だろうと思うくらいには絆されていたのだ。
「じゃあ仕切り直しにしよう。不慣れだけど、そこは目を瞑ってくれるとありがたい」
「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願い致しますわ」
俺は伸ばされたリップの手を取った。
◇
「なんで俺らこんなの見せられてんの?」
「万年童貞敗北者には目の毒だな」
「どどど童貞ちゃうわ! めっちゃバリバリだし。よりどりみどりだし!」
「なっ、ヘタレそうな顔をしているくせして経験豊富なのですか。やはり男は皆ケダモノ……」
「カヅキは彼女いない歴=年齢よ」
「トルテさぁん!?」
◇
四人組と別れ、俺たちは商店街に向かう。
悪臭を放ったままでは街を歩くにも支障が出るわけで、臭い消しの確保を最優先事項としたからである。
『頑固な汚れもドカンと一発。ゴブリンの腰布が純白のシーツに早変わり!』
目的の品はインパクトのあるキャッチコピーと合わせて売られていた。
プリコットは芸術家が集まるので、絵の具やペンキの汚れを落とす洗剤はどの店にも並んでいる。
高品質の染料には独特の臭いがするモンスターの糞や樹液が使われていることも多く、汚れ落としが消臭を兼ねるのだ。
「高品質の方は少し高いな」
「それでしたら普通のものでよろしいかと。よほどの汚れでない限り効果は十分ですわ」
「使ったことあるのか」
「血を落とす際に少々」
などと話しながら、綺麗まっさらな身になったところで天啓が舞い降りた。
行く当てがないのなら、この流れでショッピングはどうだろうかと。
リップの意見を伺うと「良いですわね。見ているだけでも楽しいものだそうですので」と返ってきた。
伝聞口調なのが気になるが、反対はされなかったので適当に大通りを見て回ることにする。
やはり戦闘職に就く身としては生活雑貨や調度品より、マジックアイテムと武器防具に目が行く。
自然とその方面に足を伸ばすことになったのだが、誤算が一つあった。
「おお、騎士様! 今日は買い物ですかい」
「そんなところです」
「じゃあうちに寄っていってくださいよ! 先日は娘を助けていただきましたからね、お安くしときます!」
このように方々で声をかけられるのだ。
自慢ではないが、俺はプリコットではかなり有名だ。
侯爵家に雇われる形でさまざまな問題を、特にHENTAIや非常識な<マスター>を取り押さえているからか、街の人たちとは良好な関係を築けている。
いつも通りといえばいつも通り。だが、今日は少しばかり事情が異なる。
「ささ、参りましょうか。あなたさま」
「腕を組むのはともかく、そんなに寄る必要あるか?」
周囲に見られているようで気恥ずかしい思いと、利き腕が動かせないというわずかな不安を抱えて呼ばれた方へ。
「騎士様が女性を連れておられるとは珍しい。それにまた随分と仲睦まじいご様子で。いやはや隅に置けませんな」
「あはは……」
どうやらリップの悪名はティアンにまで浸透していないようだった。
たびたび話題には上がってるはずなのだが、容姿の情報は語られていなかったのかもしれない。
「ありがとうございます。わたくしとしてはもっと果てるほどに、激しく愛していただきたいのですけれど。普段のこの方はつれないので困ってしまいます」
「だから誤解を招く言い方をするなと」
ほらみろ。武具屋の親父さん、どう返したらいいか困ってるじゃないか。
「そうだ! 騎士様に是非おすすめしたい品があるんですよ」
強引な話題転換に、親父さんが引っ張り出してきたのは一振りの刀剣。鞘から引き抜かれたのは美しい乱刃が浮かぶ業物だった。
「どうです? 天地より伝来せし東方の
「いい刀ですね。うーん、でも今使ってるのと比べると」
「いやいや! 当代【匠神】の弟子を名乗る人物が打った一振りですよ。これ以上のものがあるもんか!」
「親父さん、それ騙されてません?」
【匠神】は頑固で偏屈な職人肌の人物と噂に聞いた。
刀を売り物にする弟子を取るとは思えない。
「モンスター用は一本で間に合っているんです。なので、すみませんが今回は」
「ふむぅ……残念ですが仕方ありませんな。お連れの方は熱心にご覧になってますね、お気に召されたものがおありで?」
陳列された剣を手に取って眺めていたリップは、ゆっくりと店全体を見回して深々と頷いた。
「そうですわね。こちらにある武器はどれも素晴らしい品ですわ。斬り裂き、抉り、砕いて潰す。もしこれらを手にした方と対峙することを想像すると……ええ、ええ! わたくし、震えが止まらなくなってしまいます!」
「そうでしょうとも! うちは一級品しか扱わないんでさ!」
親父さんは喜んでいるが……リップの発言は少しばかり違う意味合いだろう。
興奮して声が大きくなってるぞ。
「ですが、防具に関してはいささか苦言を呈したいところですわ。どれも刃が通らないではありませんの」
「そりゃ、防具ってのは身を守るもんですから」
「それではいけませんわ! 道具は使い手や用途に応じて形を変えるもの。ですから、それぞれに相応しい姿というものが存在するのです」
「……そうか。決闘用の鎧は客が血を楽しむために要所のみを守る。どっかの部族じゃ胸を隠さないことが戦装束の条件となってる。そういう細かい需要に対応していくべきということですか!」
「ご理解いただけて嬉しいですわ。付け加えるなら、衣服は血が付きにくく落ちやすいものが良いかと」
騙されるな親父さん。
リップはやられやすい装備が欲しいだけだぞ。
「いや、いいことを気づかせてもらいました。さすがは騎士様のお知り合いですな。……そうだ! もしよろしければ、店の防具をいくつか試着していただけますか! 忌憚のない意見を聞かせてください!」
「お安い御用ですわ。あなたさまも感想をお願い致しますわね」
「え? あ、うん……これ何?」
親父さんの押しの強さとリップの美学(?)が合わさった結果、なぜかファッションショーが始まった。
◇
「まずはフルプレート」
「論外ですわ」
「隙間を埋めつつ可動性を残してあって実用的だと思う」
◇
「次は吸血鬼向けのドレスローブ」
「これは良いですわね。肩口と腕の露出が少し大胆ですけれど、生地と日傘で陽の光を防げるのは助かります」
「この値段は吸血鬼の需要と噛み合わないんじゃないか」
◇
「それは皇国から流れてきた軍服ですな」
「何と言いますか、わたくしの思い描いていたものとは違いますわね。ですが殿方はこのような……ええと、絶対領域がお好きなのでしたか。どうでしょう?」
「いや人によるだろ。俺は別に」
◇
「<マスター>が手がけた鎧だったはずです。性能は折り紙付き」
「……これは、その……いくらわたくしでも」
「誰だビキニアーマーなんて持ち込んだやつは!? というかリップも着るなよ!」
◇
「<マスター>製防具その十三ッ!」
「『マジカルミラクルシューティンスター! 夢見る乙女、プリティー☆ステラ!』……いえ違うのですあなたさま。わたくしの意思ではなく、体と口が勝手に」
「分かってる。間違いなくこの街にいる馬鹿が悪い。もう終わりにしましょう親父さん。こんなの呪いの装備だ」
◇
ヒートアップした親父さんをどうにか説得して、俺は変態監修プレイヤーメイド装備の試着に終止符を打った。
最後の方はリップも死んだ目をしていた。もっと早く止めるべきだったと反省している。
彼女が着替えのために引っ込んだところで、ようやく親父さんは頭が冷えたようだった。
「いや面目ない。熱が入るとなかなか抜け出せない性質でして。これだから娘に嫌われるのですなあ」
「娘さんというと、以前三銃士に襲われていた?」
「ええ。あの子は妻に似て綺麗な顔立ちをしてますから。ついつい着飾らせてやりたくなるのです。私なりの愛情表現のつもりなのですがね……娘には迷惑のようで」
たしかに行き過ぎた愛情は相手が困るかもしれない。
でも親父さんが込めた気持ちは本物だろう。
ただ伝え方が下手なだけで。
「今は無理でも、分かってもらえる日が来ますよ」
「ははは。それまでは客に相手をしてもらいましょう。今日は客足が途切れませんから退屈せずに済みます」
「そういえば普段より人が多いですね」
通りを歩いているときにも感じたことだ。
やけに道が混雑しているというか、街全体に人が溢れている印象だ。
見慣れない顔が多いから街の外から来たのは間違いないだろうが。
「何かイベントがありましたっけ」
「私はてっきり<マスター>の皆さんで催しがあるのかと思っていました」
「そんな話は聞いてないですね。また変態たちが何か企んでるのか?」
いつもなら調査するところだが、今日ばかりは不確定どころか疑念でしかない情報で動くのは難しい。
リップに付き合うと自分で決めたばかりだし、彼女から二度目はないと言われてしまっている。
念のため侯爵と、LSさんのクランメンバーが何人か街にいたはずだから伝えておこう。
LSさん本人は多忙で来れないだろうが、彼らなら秩序寄りの変態を集めて警戒にあたってくれるはず。
……ここで思いつく一定以上の戦力になる<マスター>が変態ばかりであるところがレジェンダリアのレジェンダリアたる所以だ。
「お待たせ致しました」
俺が親父さんに伝言を頼み終えるのと、リップが試着装備入りのアイテムボックスを手にして出てきたのはほとんど同時だった。
「お詫びといってはなんですが、気に入られた品があれば差し上げますよ」
親父さんの提案にリップは少し考え込む。
「あなたさまはどれが一番良かったと思いますか?」
「俺? そうだな……」
後半の装備は酷すぎて見ていられなかったが。
最初の方に選んだ衣装のいくつかは素人目に見ても優れたデザインで、リップの雰囲気に合っていた。
着たときの反応からしてリップも気に入ったのだろう。
ただ、どれか一つ選ぶとしたら。
「俺は今着てるそれが良いと思うよ」
薔薇の意匠が象られた、夜闇より暗い漆黒のゴシック&ロリータドレス。
リップが普段から身に纏っている装備を指差す。
「一番しっくりくるというか、お前の雰囲気に合ってる。見慣れてるだけかもしれないけど」
「だそうです。わたくしもこの服が気に入っていますから謹んでお断り致しますわ」
「でしたら私が無理強いはできませんなあ」
そう言って朗らかに笑う親父さんに見送られて、俺たちは店を後にした。
「あなたさま、どうか先ほどのお言葉をもう一度仰ってくださいな。『この服を着たわたくしが一番だ』と」
「言ってない言ってない」
「では『わたくしが一番だ』と」
「だから言ってない!」
To be continued
余談というか今回の蛇足。
(U・ω・U)<試験的に特殊タグを使用してみました
(U・ω・U)<今後使うかは考え中
<魔導幼女プリティー☆ステラ>
(U・ω・U)<プリコットを拠点とする変態たちにより作成された女児向けアニメーション作品
(U・ω・U)<上映会のみならず、有志が各種グッズを生産・販売している
(U・ω・U)<大きいお友だちも大満足のクオリティ
(U・ω・U)<主人公のキャラデザは侯爵家の孫娘を参考にしているともっぱらの噂