長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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少し短いけどキリがいいので投げます


Desperate ⑥

 □【征伐王】ひよ蒟蒻

 

 眼下の戦況は決して良いとは言えなかった。

 防衛に当たっていた<マスター>は二十人程度いたはずだが、七、八名にまで数を減らしている。

 対するゴブリンは視認できるだけで百余り。

 元は三百という話だったから一人十匹、合わせて敵勢力の三分の二に及ぶゴブリンが討伐された計算になる。

 

 良くはない、だが十分過ぎる戦果だ。

 何よりゴブリンを食い止めて街への被害も抑えた。

 

『あとは残りを掃討する』

 

 騎乗した煌玉獣【薊之隠者(シィスル・ハーミット)】の手綱を操り、もう片方の手で半透明の大盾を構える。

 俺からはゴブリンが見えるが、ゴブリンからは盾に遮られて俺が何をしているかは窺えないだろう。

 要するにマジックミラーだ。もちろん単なる便利機能というわけではない。

 盾越しにできる限りのゴブリンを捉える。

 標的を捕捉したら、あとはスキルを使うだけ。

 

 持ち手の引き金を握りしめた瞬間、視界内のゴブリンは氷塊に閉じ込められた。

 

 伝説級特典武具【視介氷盾 コンヘラシオン】。

 一瞥で要塞を凍りつかせた生前の<UBM>ほどの出力は見込めないものの、盾を通した視界の範囲内なら対象を問わず自在に氷結させることができる。

 氷の壁を生成したり、今のように敵を凍らせたり。

 殺傷力と耐性貫通能力は低い代わりに耐久性が優れているから、並の爆発くらいは防御可能。そして氷に閉じ込められたら脱出は絶望的だ。

 

『これで済めば楽なんだが……やっぱり普通のゴブリンとは違うみたいだな』

 

 光の柱と氷、二重の拘束から抜け出したゴブリンたちが俺を睨む。

 仮にも超級職の奥義をレジストできる耐性がゴブリンに備わっているとは考えづらい。亜竜級が制限系状態異常に特化したって易々とできることではなかろう。

 

 魔法や弓矢での対空攻撃をいなしながら原因を探す。

 すると、建物の陰に新手のゴブリンを発見した。

 どうやら隠蔽魔法で潜伏していた【メイジ】と【シャーマン】の一団が《ユニゾン・マジック》で支援魔法を重ねがけしているようだ。

 ゴブリンでも上位種が数十匹集まるとここまで強力なバフを撒いてくるのか。

 

『だけどタネが分かればどうとでも……っと』

 

 《殺気感知》に反応。

 背後からの奇襲を盾で受けて弾き返す。

 身を翻したのは【ハイ・ゴブリン・アサッシン】。

 なんと宙を駆けるスキルを有しているようで、気配遮断と空中歩行を組み合わせた素早い動きで俺の首を狙う。

 

 地上のゴブリン、特に【メイジ】らバフ要員を先に片付けたいのだが。でないと奥義使えないし。

 力押しは取りこぼしが出そうなので却下。

 

『まずはお前、次に後衛だな――《黒渦》』

 

 奥義を使うときと同様に手のひらを突き出す。

 竜の頭部を模した白銀色の手甲、その顎門が開くと【アサッシン】は重力に囚われて吸い寄せられる。

 

 それは【引斥掌握 アーステラー】のスキル。

 文字通り引力と斥力を発揮する、俺にとっては複雑な思いを抱かせる古代伝説級の特典武具だ。

 これもまた本家からダウングレードしているが、踏ん張りの効かない空中にいるゴブリン一匹を捕まえるくらいわけはない。

 

 ゴブリンの頭を鷲掴みにした俺は、【薊之隠者】を走らせて地上目がけた急降下を敢行する。

 地表すれすれで鞍から飛び降り、ゴブリンを叩きつけることで攻撃と落下の衝撃軽減をまとめて行った。

 純竜級と言えど敏捷寄りのステータスで落下ダメージは耐えられずに【アサッシン】は生き絶えて。

 

『吹き荒れろ』

 

 一斉に飛びかかってきたゴブリンを、脚部から噴出した暴風で一掃する。

 魔力を風に、風を魔力に変換する白革のブーツ、【晴嵐白靴 ビアンカ】と刻まれた伝説級特典武具により雑兵はまとめて消し飛んだ。

 

 ほぼ特典武具だけで敵は片付いただろうか。

 残っているゴブリンは【メイジ】たち、後衛を庇って前に出た【チャンピオン】と【キング】くらいだ。

 

『GYoaaaaaaaaaaaaa!』

 

 咆哮と共に仕掛けてきたのは【ゴブリン・チャンピオン】だった。

 通常の個体より遥かに大きな肉体、王と比べても二回り以上の差がある恵まれた巨躯。

 大木の丸太を連想する腕は肥大した筋肉の鎧で覆われていて、振われる拳は亜音速に至る。

 殴れば死ぬと言わんばかりの膂力任せな一撃。

 しかし足運びと重心移動の駆け引きは緻密な技術を要するもので、ただの筋力自慢では王者(チャンピオン)を冠することはできないと示していた。

 

 ゆえに、俺も相応の手札で迎え討つ。

 

 腰に携えるは一振りの剣。

 刀身が錆びた鎖で雁字搦めになった、怪しげな雰囲気を帯びる黒刀だ。

 この程度では反応しないだろうが……生憎と、手持ちの攻撃手段で一番火力が高いのはこいつだ。

 

『……神薙ムソウ流抜刀術――浅葱鵯』

 

 一瞬の交錯。

 すれ違い様に振り抜かれた刀は、分厚い筋肉と脂肪で守られた【チャンピオン】の腹を両断していた。

 これでも鎖で刃が隠れているから、斬るというよりは打って潰して千切るという表現の方が正確だったりする。

 

 残心は要らない。踏み込んだ勢いのまま、超音速機動で後衛のゴブリンの元へ。

 背の低いゴブリンに合わせて構えの位置を多少調整。

 

『神薙ムソウ流剣術――鬼椿』

 

 横薙ぎに切り払う一閃。

 付けられた名に相応しく、小鬼の首が数十、まとめて椿の花の如くポトリと落ちる。

 

 仮にも亜竜級、そして純竜級に届くかという敵を一撃で倒せた理由は二つだ。

 一つはサブに置いた東方の剣術系統が持つスキル、《剣速徹し》。下級職のためレベル五で打ち止めだが、AGIの50%の値だけ相手のENDを減算できる。

 

 もう一つは【征伐王】のスキルが関係している。

 【征伐王】のスキルは合計で三つ。

 うち奥義を除いた二つはパッシブスキルである。

 

 まずは《秩序の御旗》。

 敵を無力化すると周囲の陣地を掌握できる。

 このフレーバーテキストだけだと何のことだかよく分からないだろう。当然といえば当然で、これは他のスキルを使う下準備でしかない。

 

 重要なのは《護国の将》というスキル。

 これは《秩序の御旗》で掌握した陣地の面積に比例して全ステータスが上昇するという効果がある。

 強化の値は蓄積され、今の俺だと固定値で一万五千弱の恩恵を受けている。

 

 耐久寄りのジョブではあるが、このスキルのおかげで俺のAGIは一万八千を超え、STRとENDに至っては三万以上の数値を確保できている。

 つまりENDが9000以下の相手なら、俺は防御を無視できる。

 

『さて、後はお前だけだ』

 

 最後に一匹残った小鬼の王は、俺に刀を突きつけられてたじろいだ。

 一般に【ゴブリン・キング】が恐れられるのは配下のゴブリンを率いて強化するからだ。目の前の個体はたしかにステータスが高い、しかし一匹なら他の純竜級モンスターより強さは劣る。やつの十八番、《ゴブリンキングダム》による配下へのダメージ転嫁も意味を成さない。

 

 俺は刀を振るおうとして、

 

 

 

「――死にたくない」

『ッ!?』

 

 

 

 子どもの命乞いに思わず手が止まった。

 

 否、分かっている。

 目の前で泣いている子どもは【ゴブリン・キング】が人に姿を変えたものだと言うことくらい。

 だけど俺は……人を、人の見た目をした相手を殺すことはできなかった。

 

『GYAGYA!』

 

 その硬直を見逃さず【キング】は槍を突き出す。

 

 かろうじて身を捻るが、回避の動作は敵に逃走の猶予を与えてしまう致命的な隙だった。

 脱兎の如く逃げ出した【キング】は、しかし戦場から離脱するのではなく、まだ生き残っていた満身創痍の<マスター>たちに襲いかかった。

 

「こっちに来た!?」

「ちいっ! 動けるやつ、構えろ!」

『GYAGYAGYAAA!』

 

 攻撃に被弾しても【キング】は止まらない。

 そもそもダメージを受けていない? なぜだ、配下のゴブリンは全滅させたはずなのに。

 

「ひっ、やめろ、離せよ!」

 

 蹴散らした中から一人の<マスター>を掴んだ【キング】は、彼の首に槍の穂先を当てた。

 まるで俺に見せつけるように。一歩でも動いたらこいつを殺すぞ、と言うかのように。

 先ほどの命乞いでやつは確信したのだ。俺が人を殺さないと……そして人質が有効であると。

 

『GYAAAAAAA!』

 

 勝ち誇る【キング】の咆哮に釣られたか。

 

 建物から、通りから、ふらふらと姿を見せる大勢の人。

 並べて見ると背格好がどこか似ていて、基本の外見をコピーアンドペーストしたみたいな風貌の人々。

 今日、街を出歩いていた人々(・・・・・・・・・・)にそっくりで。

 

 それらは《人化の術》を解き、小鬼に戻ると。

 

『『『GYahaaaaaaa!!』』』

 

 勝利の歓声を上げる。嘲笑する。

 愚かな人間の敗北を嗤う。

 

 ああ、くそったれ。詰めが甘かった。

 

 人質の彼は自害するかの迷いが見える。

 足を引っ張るくらいなら、と考えたのだろう。

 だけどそれは認められない。俺の手落ちで彼が死んでいいはずないだろうが。

 俺は首を横に振って『やめろ』と伝える。返事は……『ならどうするのか』だって? 決まっている。

 

『《幻想郷》、解除(・・)

 

 瞬間、その場の全員が俺だと思っていた幻影が霧散する。

 

 人質を取られた瞬間から発動していたスキル。

 鏡片を縫い合わせた外套、逸話級の特典武具【鏡花織 カロス・エルドス】によるデコイと入れ替わった俺は。

 

 既に、敵の眼前まで接近している!

 

 手にするのは黒刀ではなく鈍色の長剣。

 万が一の危険を考えて、人質が傷つかないように、俺は自らの<エンブリオ>を振り上げる。

 

『《アドジャスト・ストライク》!』

 

 放たれるのは渾身の『加減の一撃』。

 

 下段からの斬り上げが【キング】の下顎を打ち据えて、発生した衝撃波が頭蓋を揺らす。

 脳に振動を受けて意識を失った【キング】は力なく膝から崩れ落ちた。

 

 人質は……無事。

 

「すまない、助かった!」

『こちらこそすみません。最後の最後で出し抜かれてしまって』

「いいさ。倒せたんだろう?」

『あ、いや。まだです』

 

 やつのHPは一ミリ足りとも削れてはいない。

 それどころか外傷すら存在しない。

 切れず、刺さらず、傷つけない。

 相手に情けをかける剣、役立たずの(なまくら)

 それが俺の<エンブリオ>、フルンティングだから。

 

 与えるダメージを0にする代わり、与ダメージ量に比例した衝撃波に変換する《エンハンス・ブラッド》。

 

 そして、相手のレベルに応じた衝撃波を発生させる《アドジャスト・ストライク》。

 

 二つのスキルにより、【ゴブリン・キング】は気絶しているだけで生きている。

 逆に、ダメージが入らない攻撃だからこそ通用したとも言える。

 

『だから、こいつが倒れるまで全員で攻撃し続けましょう。そうしたら配下のゴブリンも全滅するでしょうし』

 

 王がやられて呆然としているゴブリンを奥義で拘束しながら、俺は提案する。

 

 ゴブリンの群れが人の姿を模して街に潜伏している以上、殲滅するのは非常に手間がかかる。

 なら《ゴブリンキングダム》の身代わりを利用してやればいい。群れ全体のHPが尽きれば【キング】にも攻撃が通るようになる。

 

「い、意外と容赦がないんだな?」

『モンスターを気遣ってられる状況じゃないので』

 

 なぜか若干引かれつつ、【ゴブリン・キング】は残ったメンバーで袋叩きにして討伐した。

 

 その後は彼らに感謝の意と、報酬がプリコット侯爵から出るだろうということを伝えた。

 彼らの中には装備が破損した人、また貴重なアイテムを惜しみなく使ってまで戦ってくれた人もいた。その奮戦に報いるのは当然のことだろう。

 もし侯爵が報酬を払えなかったら俺が支払う、と言ったら『それはおかしいだろ』と笑いながら突っ込まれた。

 

 戦闘も終わり、一息を吐いていた俺たちだったが……俺は大事なことを忘れていた。

 

 そんな俺への天罰なのだろうか。

 

 ふと、顔を上げた俺が目にしたのは。

 

 ――プリコットの東門と西門両方から立ち昇る、非常事態を伝える狼煙だった。

 

To be continued




余談というか今回の蛇足。

(U・ω・U)<ひよ蒟蒻のビルド大開帳〜

(U・ω・U)<説明過多だけど、なるたけ読みやすくしたから許して


【晴嵐白靴】
(U・ω・U)<レイ君の【ゴゥズメイズ】+シルバーに近いけど、やってることは『MP、SPと空気の相互変換』で変換したものを溜めておくことはできない

(U・ω・U)<某英雄ゲーム風に言うと「魔力放出(風)」


【征伐王】
(U・ω・U)<《秩序の御旗》は死亡や気絶を含む「戦闘行動の不可」が条件、ちなみに奥義で一度拘束した相手を陣地内限定で探知する効果もある

(U・ω・U)<陣地の掌握率と《護国の将》の強化率は微々たるもの

(U・ω・U)<あと奥義は掌握した陣地内でしか使えない

Ψ(▽W▽)Ψ<これ、キャッスルとかの<エンブリオ>内ではどうなるドラ?

(U・ω・U)<ものによる


神薙ムソウ流
神薙は「カンナギ」、すなわち「巫」に通じる。
ムソウは「無想」にして「無相」、これ「無双」なり。
古より跳梁跋扈する荒御霊を鎮め祓い奉るは兵の巫女。
一子相伝・門外不出とされた秘奥はいつしか担い手の元を離れ、各地に離散した。

Ψ(▽W▽)Ψ<要はリアルのとんでも古武術ドラ
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