長き旅路にて臨むもの   作:【風車之愚者】

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竜と少女と宝石獣 ②

 □■男の自供

 

 それで何を話せって? はあ、全部?

 言っておくけど、俺はお前たちのことをまだ完全に信用したわけじゃないからな。それに部外者へ秘密を漏らしたと知られれば俺の身が……ヒィッ!? 危ないだろ! その狼をどっかにやってくれ!

 

 えー、ゴホン。

 ま、まあ仲間ともども介抱して貰ったのは事実だからな。その恩を返すくらいはする。うん。

 ただ、何が起きたのかは今でもよく分からないんだ。だから分かる範囲でしか答えられないからな?

 

 じゃあ、まずはそうだな。俺たち<VOID>のことは当然知ってるとして……え、知らない?

 仕方ないな、一度しか言わないから良く聞けよ?

 

 我々<VOID>は世界征服を企む悪の秘密組織なのだ!

 

 ……おいなんだよその目は! かっこいいだろ! それと今のは誰にも言わないでくれよ、一応秘密だからな。

 何をしてるのか? だから世界征服だって。たぶん。

 曖昧すぎる? いやあ、実は俺、一週間前に入ったばかりのしたっぱなんだよね。

 命令される仕事は馬車の積荷を奪ったり、店の品物を盗んだり? いやいや待って! 人は殺してないって! 馬鹿じゃないの!? 人は殺したら死んじゃうんだぞ! そもそも血とか見るの怖いし、痛いのもやだし。

 

 えーと、何の話だっけ? そうそう、仕事ね。だいたいは盗み、あと最近はモンスターを捕まえて売ったりしてる。君たち知ってる? 【三重衝角亜竜(トライホーン・デミドラゴン)】ってうん百万リルもするの。初めて聞いた時はたまげたね。

 え、【カーバンクル】? そうそう、それを今から話そうと思ってたんだよ!

 なんかさあ、他のチームがしくじって、闇市に出すはずの【カーバンクル】を逃したみたいでさ。あ、ギデオン支部の中でチーム分けがされてるの。ちなみに俺は支部長の直属。すごくない? あっ、その狼はやめて!

 

 ほんの三十分前かな。支部長が【カーバンクル】を捕まえてきたんだよ。

 その時にさ、なんか冴えない感じの男も連れてきたんだよね。【カーバンクル】と一緒にいたらしくて、そいつを盗人ってことにして責任問題がなんとかかんとか。

 

 こっから先はよく分からないんだ。

 俺は一階(ここ)で見張りしながら昼寝してた。で、起きたときには仲間が全員やられてて……支部長が連れてきた冴えない男と、君たちと同じくらいの子供の二人だけが立ってた。

 今思うと、冴えない男が子供を招き入れたんじゃないかなって思うんだよね。

 

 そんで、その子供の目がさ。違うんだよ。真っ暗で、吸い込まれそうで……なんというか、この世の全てを憎んでるみたいな感じでさ。

 思わず叫んだね。そうしたら、そいつら同時にこっち向いてさ。俺が起きるまで気がついてなかったみたいなんだよ。逃げようとしたんだけど、なんかいつの間にか気絶してたってわけ。

 

 いやあ、怖かったよマジで。殺されなくてよかったー。やっぱりあれかな、婆ちゃんに言われた通りに毎日お祈りしてたからかな。

 家族? いるよ、ほらこれ写真。父ちゃんと母ちゃんと婆ちゃん。そんで弟と妹。うち実家が農家でさー。でも農家ってキツい上につまんないから飛び出してきたんだよね。

 自首しろ? 罪を償って家に帰れ? えー嫌だよ。だって家に帰っても婆ちゃんに叱られるじゃん。

 <VOID>なら好きなこと何でもできるし、楽しいし。たまに怒られたりするけど……ちょっ、待って、やめて! いやだ、食べられるぅぅ! ぎゃああああ!?

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □決闘都市ギデオン 【従魔師】サラ

 

「あの人だいじょうぶかな?」

「自業自得でしょう。これ以上気にかける義理はないわ」

 

 ルゥの甘噛みで気絶しちゃった男の人を寝かせて、建物の二階に移動したわたしたち。

 一階でやったように倒れてる人たちを介抱しながら【カーバンクル】と上に続く階段を探す。

 

「それと、ポーション使いすぎよ。起きて暴れられても面倒だから回復は最小限」

「はーい」

 

 それにしても、この階はちょっと歩きづらいな。

 空っぽの檻がたくさん積み上がっていて、向こう側が見えていてもまっすぐ進めない。小さいものから大きいものまであるから入り組んだ迷路みたいになっている。

 

「人を閉じ込めるにしては大きさがまちまちね。とすると、モンスターを捕まえておくためのものか」

「【ジュエル】があるのに?」

「その辺りはよく分からないけれど。……あなたの方が詳しいはずでしょう。【従魔師】なんだから」

「えへへ」

 

 わたしは他の従魔師さんとお話ししたことがないから、【ジュエル】の仕組みとかをいまいちよくわかっていなかったりする。

 テイムだって自分でしたことないし、そう考えるとあんまり従魔師っぽいことしてないかも。

 

「状況からして、例の二人がモンスターを逃がしたと見るべきかしらね。敵は建物の中に潜んでいるかもしれない。気を引き締めていくわよ」

「そうだね。後ろは任せて! 見張っておくから!」

 

 あとできるのは、先を歩くアリアリアちゃんから離れすぎないように気をつけること。

 もし戦闘になったらわたしは足手まといになる。腰の武器は初期装備のナイフのまま、レベルは30を超えない。それだってほとんどクエストで上げたから、自分で戦ったのは数えるくらいだ。

 

 ただ、わたしにはジェイドがいる。

 彼は【ウィンド・ドラゴン】。風を操るだけじゃなくて、空気の揺れでモンスターが襲ってくるより先に警告してくれる。これがとっても助かるんだよね。

 戦えないこと、飛べないことを気にしているけれど、それはわたしだって同じだから気にすることじゃない。自分ができることをがんばればいいとわたしは思う。

 

Rrr(なに)?』

 

 いつもありがとうの気持ちをこめてジェイドの頭をなでる。最初はどうしていいかわからないみたいだったけど、やがておずおずと、わたしがなでやすい位置に頭を動かしてくれた。

 だんだんまぶたが下がり始めて、ジェイドが大きなあくびをがまんしたそのとき。

 

『……! Rrrrr(だれかいる)!』

「先手必勝! ルゥ!」

 

 パッと目を開いたジェイドの警告と、アリアリアちゃんが飛び出したのがほぼ同時だった。

 三階への階段を駆け上がった一人と一匹。わたしも遅れて後を追う。

 ヒュンという風切り音と、何かがぶつかる音。運悪く柱が影になっちゃって、わたしからは何が起きているのか見えない。

 

「くそっ、仕留め損ねた!」

 

 アリアリアちゃんの舌打ち。そして階段から彼女じゃない誰かが転がり落ちてくる。

 尻もちをついたその人は両手を挙げて降参のポーズを取った。左手に紋章がある……つまり<マスター>だ。

 

「ちょっ、待ってくれ! こちらに戦う意思はない!」

「騙そうとしても無駄よ。『目つきの悪い子供』を手引きして、モンスターを逃がしたのはあなたでしょう? 『冴えない男』さん」

 

 言われてみるとたしかに、その男の人はお世辞にもイケてるとは言えない。特徴のない顔とか、ボサボサの髪の毛とか。服もヨレヨレでつんつるてんだ。

 この人が例の?

 

「いやいや、それは誤解だ」

 

 男の人は立ち上がると、階段の上にいるアリアリアちゃんに向けて無実を主張する。

 

「第一に、僕は【カーバンクル】と一緒に捕まって拘束されていた。第二に、あの彼――君の言う『目つきの悪い子供』のことだが――とは今日が初対面。頼み込んで縄を解いてもらいはしたけど。第三に、モンスターを逃がしたのは彼で、僕はそれを見ていただけ。助ける代わりに邪魔をするなと言われてしまってね」

「サラさん?」

 

 この呼びかけ、たぶん嘘かどうかを判断してほしいってことだよね。アリアリアちゃんは《真偽判定》のスキルを持ってない。まあわたしもだけど、代わりに【バベル】があるから覚えなくてもいいかな。

 

「この人、嘘はついてないよ」

「そう……ごめんなさい。こちらの勘違いで襲いかかってしまって」

「気にしないでいいとも。お嬢さん方を悩ませるのは紳士の振る舞いではないからね」

 

 そう言って彼は手を差し出した。もちろんわたしは手を握り返す。

 

「ときに君たちのお名前を伺っても?」

「わたしはサラっていいます! この子はジェイド!」

「アリアリアよ。こっちはルゥ」

「なるほどなるほど! ああ、僕のことは、そうだねえ……“ひよ蒟蒻”と呼んでくれるとありがたいかな。一応これでも商人の端くれだ」

 

 ひよ蒟蒻……変わった名前だ。早口で言ったら舌をかんじゃいそう。それに変な感じというか、目の前のこの人と合ってないような。

 

「あの、どうしてその名前にしたのかって聞いてもいいですか?」

「知り合いが同じハンドルネームを使ってるんだよ。印象に残るだろう? 商売柄、その方が便利でね」

 

 うーん、わたしの気のせい? それに、よく考えたらひよ蒟蒻さんに失礼だったよね。気をつけないと。

 

「話は変わるけれど、ひよ蒟蒻さん。あなたは【カーバンクル】がどこにいるのか知っているかしら」

「ああ、何かのクエスト中かな? 捕まっていたモンスターは全部三階にいるよ。ただ……」

「ただ?」

 

 ひよ蒟蒻さんは天井を見上げると、目を閉じて耳をすませるジェスチャーをした。それから一拍置いて、ニヤリといじわるそうに笑う。

 

「もう死んでるかもしれないぜ」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■ <VOID>王国ギデオン支部・三階

 

 時はわずかに遡り、ちょうどサラとアリアリアが建物内に突入した頃。

 同じ組織に属する部下から支部長と呼ばれる男は一人、近日の成果をまとめるために筆記具を走らせていた。

 

(……やはり昨日までの収支はマイナスだな)

 

 道行く商人を襲う盗賊行為。

 モンスターの密猟。

 どちらも成功を収めれば利益は大きいが、前準備としてそれなりの経費が必要となる。

 獲物の積荷や希少性によっても稼ぎは増減する。使用した消耗品や負傷したメンバーの治療費で差し引きゼロになるのはまだマシな方だ。

 最近は仕事に失敗して赤字になることも多く、方々に渡す袖の下を捻出するため、備品として購入する武器や薬品の品質を下げてどうにかやりくりしている。その結果として、仕事の成功率が低下するという悪循環に陥っている状態だった。

 

(【カーバンクル】が逃げ出したと聞いた時は流石に肝を冷やしたぞ)

 

 伝承においては富と名声を呼ぶと語られるレアモンスター。遭遇する事すら困難と言われる魔獣の中でも、さらに希少な赤毛の個体だ。レジェンダリアからの行商人を襲えたのは運が良かったとしか言えない。

 オークションにかければ五千万リル以上の値がつくことは確実。ギデオン支部が抱える負債を帳消ししてなお余りある額だ。

 支部長自らが出張り、どうにか連れ戻す事ができたから良かったものの……万が一失ってしまえば、組織としての損失は計り知れない。

 

ボス(・・)に献上することも考えたが……愛玩用ではお気に召されないだろう。ならば金銭という形で納めて、我々ギデオン支部の評価を上げた方が良い)

 

 支部長は組織が掲げる目的に興味はない。

 世界征服など馬鹿げている。七大国家の戦力を考えれば、征服戦争など現実的に不可能だ。

 ただ、非才の身である支部長が食い扶持を稼ぐため、この組織の構造が適していたというだけの話。なにせ、集まるのは力自慢か馬鹿ばかり。少し地頭が良く、計算ができれば簡単に管理職の地位にありつける。

 悪事も、公的権力に捕まりさえしなければ真っ当に働くより効率が良い。

 

(いったいいつから、こんな打算的な悪党になってしまったんだろうな)

 

 溢れた吐息を咎める者はいない

 

 

 

「どうして暗い顔をしている?」

 

 

 

 ――はずだった。

 

「……あ?」

 

 支部長が顔を上げると、まだ顔立ちに幼さを残す子供が目の前に立っていた。

 暗い色の髪と暗色系の衣服が合わさって、陰鬱な雰囲気を身に纏っている。

 

「どうして、辛気臭い顔をしてるのかを聞いてるんだよ」

 

 そして何より、この世全ての憎悪を煮詰めたかのような漆黒の双眸が、年端もいかない少年に大人を黙らせるほどの威圧感を与えていた。

 

「お前らはやりたいことを好き勝手にやってるだろう。なのにどうして、どいつもこいつも『自分は不幸です』なんて顔をしてやがる? 何がそんなに不満なんだ?」

「そ、れは」

「答えが聞きたいわけじゃない」

 

 少年が指を動かした途端、支部長の意思に反して口が閉じた。

 否、口だけではない。両手が、両足が、瞼すらも。身体の至る所すべてが金縛りにあったかのように、支部長は自分で身動き一つ取ることができなくなっていた。

 

「ムカつくんだよ、お前らみたいな連中を見ていると。自分がどれだけ恵まれているのかも知らないくせに」

 

 少年の後ろ、階下に繋がる階段から何匹ものモンスターが上ってくる。いずれも支部長と部下が捕獲、あるいは略奪した個体だ。

 だが、様子がおかしい。歩き方が不恰好で、暴れながら引き摺られているような体勢の魔獣もいる。

 

(何が起こっている? テイムされたわけではないようだが、少なくとも支配下に置いているのか? まさかこのガキ、俺をモンスターに襲わせるつもりで……だとするとマズい。あの中には何匹か亜竜級のやつがいる。動けない状態で攻撃を喰らったら……)

 

 支部長が高速で思考を巡らせる中、少年はモンスターの群れに対してこう言い放った。

 

殺し合え(・・・・)。最後の一匹だけは生かしてやる」

 

 次の瞬間、地獄が始まった。

 モンスターが互いに爪牙を振るう。

 肉が裂け、血が飛び散る。

 それでも少年に襲いかかるモンスターは一匹たりとていなかった。それはある種の生存本能。

 刃向かえば死ぬ。

 その直感を以て、獣たちは生き残りをかけた死闘を繰り広げる。

 

 一匹、また一匹と光の塵になって消えていく光景を、支部長は見ていることしかできない。

 

(くそ、くそ、クソクソクソ! せっかく集めた商品が! まさか【カーバンクル】まで……いや、こうなってしまったら損得など二の次だ。今はこの場から生き延びることが先決。幸い、モンスターは俺に注意を向けていない。猶予はある!)

 

 素早い切り替えと取捨選択をした支部長は、身体が自由を取り戻していることに遅まきながら気がつく。

 

(よし! これなら……)

 

「逃げられると思ってるのか?」

「ッ!?」

 

 いつの間に回り込んだのか、支部長の背後で少年は囁く。

 

「別にお前ら全員殺したっていいんだ。……まあ、今の俺は機嫌が良いから半殺しで済ませてやるよ」

 

 衝撃に押されて足が前に出る。

 背中を蹴られたのだ、と認識したときには既に遅い。モンスター同士の殺戮場(キリングフィールド)に投げ込まれていた。

 

(ああ、これはまずい)

 

 非才ゆえ上級職にも就いていない支部長にこの狂乱を耐え抜く術はない。

 迫る【亜竜猛虎(デミドラグタイガー)】を前にして、支部長の脳裏にかすかな可能性が過ぎる。

 

(いや……だが、これはボスから預かっているだけの…………あー、クソッ! 知ったことか! 何もせずに死ぬくらいなら!)

 

 自暴自棄になった支部長は右手……手の甲に埋め込まれた【ジュエル】を掲げる。

 

「《喚起(コォォォル)》! 【亜竜毒蜘蛛(デミドラグスパイダー)】あぁぁッ!」

 

 顕現せしは八つ足の魔蟲。

 この場において最も強大な亜竜級最上位のステータスを誇る、狡猾なる女郎蜘蛛。

 そして、この個体には通常種と異なる点が一つあった。その蜘蛛は漆黒の瘴気を帯びており、体表に紫紺の結晶体を生やしているのである。

 

「ッ!?」

「あははははは! こいつは俺の言うことも聞かない、制御不能の化物だ! みんな殺せ、殺しちまえ! あはははは!」

 

 【亜竜毒蜘蛛】は瘴気に侵された体を揺らすと、

 

『KSIIIIIIIIII!』

 

 フロア全体を己が狩場とするために、黒紫の糸を噴出して張り巡らせた。

 

 To be continued




余談というか今回の蛇足。

ひよ蒟蒻
(U・ω・U)<出番貰えてよかったね

(U・ω・U)<おめでとう

(Є・◇・)<え……あれ、俺?

(U・ω・U)<え?
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